キスをする合間の、頬に触れる熱い吐息にオレは弱い。
少し離れてそれからまた違う角度から唇が合わさると、頭の奥が芯から溶けてしまいそうになる。
こんな、夜も明けそうだと言う頃にコイツと、・・・マジックと、こんな濃厚なキスをする事になるとは
ほんの数分前には思いもしなかった。
遠征先から帰って来て、さっそく自分専用の広い、シーツもふかふかのベッドで思う存分寝倒してやろうと
少し浮かれ気味でカードキーで扉を開けた瞬間、コイツが出てきて壁に押し付けられる形でそのまま唇を奪われてしまった。
あまりに唐突すぎて抵抗する事もできなかったが
今はオレの方がしっかりと親父の背中に両腕を回してしがみ付いている。
久しぶりの、キスだ。
懐かしい匂いに涙腺が緩みそうになった。
繰り返し繰り返し、何度も唇を重ねる度にひどく胸が熱くなる。
こんな場所で、こんな事をして、もしかしたら誰かに見られてしまうかもしれないのに
それすらどうでも良いなんて思える程、オレはコイツに飢えていたのだろうか。
「会いたかったよ」
マジックはオレの耳元で低くそう囁いた。
あぁ、そうかい。
いつものように悪態をついてやりたかったが生憎そんな余裕もなくオレは
親父と目を合わさないように俯いて、黙っていた。
何で、
そう、
アンタは、恥ずかしげもなくこんな事をして。
言ってやりたい事は山程あるのに考えがまとまらない。
大体どうしてこんな時間に、オレの部屋にいておまけに起きてるんだよ。
そんな事は聞かないでも解かってる。
解かってるから余計に何も言えない。
言ってしまったら、オレの方が頬が熱くなりそうで絶対に口に出したくなかった。
畜生、畜生、畜生。
不意をついてあんなキスをするなんて反則じゃないのか。
この馬鹿野郎め。本当に馬鹿だよアンタは。
こんな時間まで、オレの部屋で、オレの事なんか待ってるんじゃねェよ!
オマエは忠犬ハチ公かッ
そんなコイツが情けなくて、愛しくて、マジックがもう一度
オレの唇に触れた時、オレは再度ヤツの口腔の侵入を許していた。
シンちゃん、シンタロー、と
何度も名前を呼ばれるのがたまらなくて
オレはただ、ただひたすらに親父のキスに応えた。
長くて骨ばったマジックの指が、ゆっくりとオレのスーツのボタンを丁寧に外していく。
すっかり開拓されてしまった身体は、彼の手が胸を這うだけで敏感に反応を示すが
刹那、我に返ったオレは、慌ててヤツの両腕を掴んだ。
「・・・何?」
不満そうにマジックが恨みがましい目でこちらを見る。
何、じゃねェだろ。
「場所をわきまえろよ。」
じろりと睨みを利かせて外されたボタンを元に戻しながら、マジックの腕をすり抜ける。
背中を向けた、後ろの方で
「じゃあベッドならイイの?」
と聞かれ、オレが返事をせずに部屋へ入ると親父もオレの後につづき
そのまま背中から抱きすくめられてしまった。
首の付け根に顔を押し当てられ、金髪がくすぐったくて
文句を言ってやろうと振り向いて視線を合わせたら、オレの方が我慢できなくなってしまった。
お互いの服が床に乱雑に脱ぎ散らかされる。
とてもじゃないがベッドまで待てなかった。
息継ぎとも喘ぎともつかない声がうす暗い青い光に満たされた部屋に反響する。
「可愛いよ」とか「好きだよ」とかそんな台詞はもう十分聞き飽きているのに。
それでもそう言われると身体は火照って
アンタが、アンタのその声で、オレの名を呼んで肌に手が触れるだけで感じてしまう。
父さん。
父さん、
父さん、
父さん。
オレもアンタに、ずっと逢いたかった。
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