―――――――――だってシンちゃん、パパの事好きでしょう?
何度目になるか解からない激しい親子ゲンカの後の、
ムードもへったくれもない口付けを交わした後で奴は言った。
抵抗した際にオレの歯が親父の唇の端を傷つけたようだ。少し赤くなっている。
今さらかすり傷をつけた位で気にする事もないと思うが間近で見るとやはり少しだけではあるが罪悪感が生まれた。
・・・別にオレが悪いわけじゃないのに。
向こうは絶対に『自分が悪い』とは微塵も考えていないだろうに何で、オレが、本当に悪くないオレの方が、
悪い事をしたような気分にならなきゃいけないんだよ。
ケンカの内容なんて下らな過ぎてもう忘れちまった。
そう、揉めるつったって毎回下らねぇ事ばっかで大した話じゃないんだ。
ただ親父がしつこいのとオレが短気なせいでややこしくなるのであって。
ようするに相性悪いんだオレとコイツは。
お互い若くもないのにぼろぼろになるまで続ける。アホらしい。
オレも本気で相手をしなきゃ良いのに結局ムキになっちまうし疲れるばっかりだ。
別の相手を探してくれ。
アンタだったらすぐ、次も見つかる。
そう言ったら急に無表情になって、無理やりキスだ。
どこまでも自分勝手な男だ。勝手はオレも一緒だが。
オレの気持ちなんてこいつは全然考えちゃいない。
考えてたら毎回こんな事にはなってないはずだ。
どうしてオレがお前なんかの相手をしなきゃならないんだ!と怒ったら『パパの事好きでしょう?』、だ?
親父の言葉にオレは意識が飛びかけそうになった。
何なんだこいつは。
何でこんなに自信過剰なんだ。
その自信は一体何処から生まれてくるんだ。
確かに『別の相手を探してくれ。』なんて本気で言ったわけじゃないし、
本音を言えば、オレも、どうとも思ってない奴相手にケンカなんかしない。
認めたくはないがオレはこいつが好きだ。
キスをする度に
それ以上の事をする度に
アンタと、離れる度にそれは思い知らされる。
だから『パパの事好きでしょう』は悔しいが当たっている。
当たっているがその物言いだと‘オレがマジックに惚れているから、マジックはオレに惚れている’みたいに聞こえる。
そんなの、はっきり言ってオレのプライドが許さん。と言うか逆だろどう考えても。
『別の相手を探してくれ。』ってのはオレは別にアンタじゃなくたって構わないんだぜ。と暗に言ってるのであって
もう少しオレを気遣え、でないとアンタなんか捨ててやると自分なりの脅しのつもりだったんだが一体何でこんな事に・・・
そりゃ、確かに
アンタがもし、万が一だがオレ以外の誰かを好きになったりしたらオレはどうしたら良いか解からなくなると思う。
28年間そんな事一度も無かったんだからな。
オレは
アンタが
オレの事を世界で一番好きで
そしてそれが当たり前の環境で育ってきちまったんだから。
アンタがオレを好きだって事を前提で、オレはアンタが好きなのに。
何勝手に逆にしてるんだよ。
悶々と黙りこくっていたら親父に頭を撫でられる。
微妙な所でガキ扱いすんじゃねぇよ。
いつもの仏頂面で構えていると、親父がぐぐっと顔を寄せる。
息が近い。
やめて欲しい。
解かっててやってんのか。
いっそ、素直にアンタの前で
オレはアンタの物なんだと
認めちまえば楽になれるのに。
オレをこんな性格にしたアンタを
オレは一生恨んでやる。
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