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mm
12/25







 昨日が12月24日だったから、今日は12月25日だ。
 毎年毎年、11月の終盤から繰り広げられる、浮かれ騒ぎの総マトメの日。
 
 つまりは、今日こそが。
 イエス・キリストの生まれた日であり”クリスマス”の本番なのである。

 忙しなくヒトの行き交う通りを、何と無く眺めながら。
 シンタローが、その事実に気づいたのは。
 いささか間の抜けたコトに、この待ち合わせ場所についてからであった。

 ………大体、イブだの、イブイブだの。
 どいつもこいつも、クリスマスの主旨解って騒いでンのか?
 もしかしたら。サンタの誕生日とか、勘違いしてねぇか!?

 そもそも、シンタローにとって、12月と言えば。
 愛しい愛しいたった一人の弟、コタローの誕生月であるという事実のみ。(故意に、もう一人の、十二月生まれの身内の存在は、忘れてみてるようです)

 会ったコトも無い、それも随分昔に昇天したらしいオッサンの、誕生日の前夜祭という事実は。
 その前では、ハッキリ言ってどうだっていい
(※キリスト教徒の皆さん、ホントにすみませんm(_ _)m 重度のショタコン兄さんならではの見解です、大目に見てやってください)
 
 昨夜は、そのコタローの、誕生日パーティだった。
 最も。祝われる当の本人は、まだ眠ったままであったのだが。

 『でも、みんなお祝いしたいんだし。コタローちゃんだって、お祝いして欲しいに決まってるよォvv』

 グンマならではの、お気楽極楽発言。
 でも、それは。ソレゾレの立場の複雑さ故に、誰もが、口に出し辛く。

 まさに、彼にしか言えないヒトコトで。

 ―――正直、シンタローは。
 手を合わせたくなるぐらい。コタローの実兄にして、自分の従兄弟たるグンマに、感謝した。

 そして、青の一族揃って。眠るコタローを囲んでの、大騒ぎ。

 ―――ウルサイ、と。目を覚ましてくれると、いいな………。

 それはそれは、大切そうに。
 同じ遺伝子による、同じ色の髪を………不器用な手付きで、梳いていた。
 自分の分身とも言える、もう一人の従兄弟。

 結局。一族の愛し子は、目を覚ますコトは無かったのだけれど。

 それでも、コタローを中心に。
 互いに大切に想い合ってはいても、各々の個性の強さ故に、離れてしまう心は。

 昨夜だけは、一つになった気がする。

 優しくて暖かくて、居心地のイイ空間。
 眠っている、コタローさえ。微かに微笑んでいるように、見えた。
 
 ―――多分、そのせいだ。

『シンタロー。明日………二人で、食事に行かないか?』 

 パーティの終盤。
 いい加減、酔いの回っていた自分に。
 コッソリ、囁かれた言葉に―――いつになくアッサリ、頷いてしまったのは。

「~~~~くっそぉ、寒ィ………」

 額に青筋を浮かべ、呟く。シンタローの、形良い唇から。
 真っ白な呼気が―――真っ黒な夜空へと、吸い込まれていく。

 待つコト、十数分。

 大した時間では、無いのだが………そもそも、短気なシンタローである。
 待たすのはどうでもイイ(着いたのは、定刻より五分を回っていた)が、待たされるのは大キライだ。
 
 それでもシンタローが、動こうとしないのは。
 待ち合わせの相手の、常日頃の行動の為。

 むしろ、先に待っていなかったコトが、意外であった。

 『オレは忙しいンだから、定刻通りなんかにゃ、行けねーからナ。うざってぇから、十分前行動すんじゃねぇッッ!!!』

 そう、怒鳴りつけたコトもあるくらい。
 滅多に無い、外での待ち合わせには………常に相手は、先に来ていた。

 珍しく仕事が、早く退けて―――よくよく考えると、クリスマスなのだから。誰だって、早く帰りたいに決まってる―――(それでも五分遅れで)待ち合わせ場所に来てみれば。

 因果応報、とは正にこのコト。
 今度は自分が、待たされる羽目になるなんて。

 相手の携帯に、掛けてはみたものの。
 いつもなら。自分からの電話なら、ワンコールもしない内に出るクセに―――こんなトキに限って。
 『お掛けになった電話は、現在、電波の届かない場所にいるか………』なんて。

 味も素っ気も無い、メッセージが流れる。

 ―――チッ、と舌打ちを洩らし。

 シンタローは、かじかんできた両手に、息を吹きかけ。
 暗い空を、見上げてみた。

 天気予報では、今年は暖冬だ、と断言されていたのだが。

 どうしたワケか、ここ数日。急に、冷え込み始めて。 
 だがその分、空気は澄んでいるのだろう。

 こんな街中だと言うのに………夜空には、キラキラと。
 冬の有名な星座達が、凍りつく大気の中で。
 寒そうに瞬きする様が、ハッキリと見て取れる。

 ―――三つの星が、あるだろう? アレは、オリオン。端っこ同士が、ペテルギウスとリゲルっていう1等星。ちょっと下がると、あぁ、ホラ。あれが冬の王様、シリウスだよ………綺麗だろう?

 スバルも、カストルとポルックスの双子の星も。
 それらに纏わる、心躍る伝承も。総て彼に、教えて貰った。

 ―――どの季節の、どの星座も、綺麗だけれど。
 一番大気が澄み渡る、冬の星座って。宝石箱を、ひっくり返したみたいじゃない?

 うんと、小さかった頃の自分を、厚着させて外に連れ出し。
 出来るだけ、夜空に近づけるよう、肩車してくれて。

 彼はそう、ニコニコと笑っていた。

 おかげで今でも、シンタローは。
 初めての、遠征地であっても。
 星座の位置で、大体の現在地が、把握できる。

 それを思えば、ああいうのも。
 単に覇王教育の、一環だったんだろうか、と思うと。

 物知りな彼を、心底尊敬し。
 ”宝石箱”という表現に、素直に心躍らせた自分に。

 ………微妙に複雑な気分に、なってしまうのだけれど。

 ―――ハァ、と。
 もう一度、白い息を吹きかけて。
 無意識に指先を、温めながら。

 煌く。気が遠くなりそうな程、彼方からのプレゼント。
 光の宝石箱を、眺めていると。

「ねーねー? ナニしてるのー??」

 ………きた。

 シンタローは。
 遠くは、神話の世界にまで飛ばしかけていた想いに、水を差す。
 掛けられた、無粋な呼びかけに。無意識に、額に青筋を刻んで。

「ねぇ、キミさぁ、ずっと………」
「うっせぇ、放っとけ、あっちいけ」
 ニベもなく、言い捨てた。

 母親譲りの、コノ女顔には。昔から、散々苦労させられた。
 ソレでも、二次成長期が終わり。
 日々鍛えた、このガタイを女に見間違えるヤツはいまい、と。
 
 そう、安心していられたのは、束の間だった。

 ………世の中には。
 身内以外にも、同性愛者が結構いるらしい。
 
 ナンか間違ってる!!! と―――叫んだトコロで、虚しいだけだ。

 事実、ヒトリで行動していると。
 こんな風に声を掛けてくる、命知らずが結構現れるのだ。

 それも、大概。
 ”相手の実力”など、到底読めそうにも無い。
 自信過剰でアタマの悪そうな、ヤローばかりが。

「うっわー、冷たいナー。まぁ、キミくらい美人なら、そうじゃなきゃねー」

 しかも、そういうのに限って、やたらにしつこかったりする。
 
 待ちぼうけを喰わされている、イライラも手伝って。
 シンタローは、絶対零度の殺意を込めた視線で、声を掛けてきた相手を睨み上げる。

 ナンパ野郎は、珍しくも、自分よりも背の高い相手であった。
 顔も体も、自意識過剰になるだけあって、それなりに見られるモノではある。

「ねーってば。大丈夫ー、待ち合わせの相手、事故にでもあってんのかもよォ?」 

 ―――事故ぉ? アイツならダンプカーに轢かれたって、大破すンのは、ダンプカーの方だぜ!!

 チッ、と、聞こえよがしに舌打ちを洩らし。
 彼の実力を良く知る、ガンマ団員ならば。つま先まで真っ青に凍りつく、冷凍光線を。
 モノともしていない、厚顔無恥なナンパ野郎に、うっとおしそうに背を向ける。

 眼魔砲を、使う間でも無い。
 この程度の相手であれば。拳の一発で、永久にその口を閉じさせるコトは、可能なのだが。

 クリスマス当日らしく、かなりの人間の行き交う、この場所で。

 余り目立つ行動はしたくない、と抵抗があるのは………昔の暗殺稼業の、名残だろうか。

 ―――最も。”忍耐”という美徳とは。
 一生かかっても、親友にはなれそうにはない、哀しい性格の彼である。

「オレ、イッショに捜してあげようかー?」

 馴れ馴れしくも。
 強引に腕を取られかけ―――ぷちん、と。

 シンタローの、非ッ常ぉにッッ!! 短い。
 『堪忍袋の緒』とやらが………危険な断絶音を、響かせた瞬間。

「――――――シンちゃぁ~~~~~~~~~~~~~んッッ!!!! 待たせて、ゴメンね~~~~~!!!!!」

 ~~~~~~どどどどどッッ!!!!! と。
 
 夜目にも白く。真冬の乾燥した大地に、大量の砂埃を巻き上げて。
 ”何か”が、こちらに向かい、突進してくる。

 ―――来やがった。

 一瞬、ホッと息をつき。
 
 ホッとした自分に、ちょっと腹が立って………シンタローは。
 聖なる夜の騒音公害を、精一杯しかめつらしい顔で、待ち受ける。

 一方、隣のナンパ男は。
 何事が起こっているのか、さっぱり飲み込めていない様子で。
 ぐんぐん近づいてくる”何か”を、間抜け面で見つめているだけだ。
 
 驚異的な速度で、シンタローの元にたどり着いた”何か”―――否。

 年齢を全く感じさせない、堂々たる体躯を誇る。
 鮮やかな金髪の、英国紳士は。

 息を弾ませたまま、その目の前で、力一杯両手を合わせた。

「………ッ、ごめっ、シンちゃ………おや?」

 だが。
 ひれふさんばかりの、その情けない表情が――― 一瞬にして、険しいモノとなる。

「―――キミは? ウチの息子に、何の用だい?」

「え? い、いや、その………」

 瞬きする一瞬前の、必死な表情は、幻だったのかと思うほど。
 重く冷たい、深海の双眸を向けられて。
 
 ナンパ男の背筋に―――真冬にも関わらず、冷たい汗が伝う。

「用が無いなら、行きたまえ?」

 瞳の色彩は、そのままに。
 口元にだけ、薄い微笑いを刻んで………見慣れている、シンタローの背筋にさえ。
 ひやりとしたモノが、降りてきた。

 ましてや、どれほど想像力に欠ける人間であっても。
 その視線をマトモに、受けてしまえば。

 ”生き物”である以上の、本能的な恐怖に―――心の臓を、鷲掴みにされた心地に違いない。

「あ………ぅあ………あの………し、失礼しました――――ッッ!!」

 獅子に出会ったウサギもかくや、という勢いで。
 名も知らぬナンパ野郎は、地平線の彼方へと、見事なダッシュで消えていき。

 ―――まぁ、喋れただけ。天晴れってぇ、トコかナ? 

「………アンタさ。その格好で凄んでも、迫力80%ダウン」

 自分の凄みに、まったく動じなかった相手を。
 一睨みで撃退した、マジックに対する。幾許かの、八つ当たりを込め。

 シンタローは、厳しい突っ込みを入れてみた。

 この相手が、自分との待ち合わせに遅刻するなど。
 もちろん、抜き差しならぬ事情があったのだろうナ、と。
 自惚れ抜きの予想は、していたのだが。
 
「はわっ!! シ、シンちゃん、ごめんよぉぉぉ――――!!」 

 ―――とたんに。今までの威厳は、何処へやら。

 いくらAB型が、二重人格だからって。
 ホントーに、同一人物なのか?? と疑ってしまう程の、変わり様で。
 マジックは再び、シンタローへと両手を合わせると。
 コメツキバッタのごとく、頭を上下に振り立てる。
 
 ………そんな、彼の格好なのだが。
 
 いつも、一分の隙無く着こなしている、ピンクのスーツからは。
 このクソ寒いと言うのに。
 ぽとぽと音を立て、水滴が滴っていて。
 豪奢な金髪からも、絶え間なく雫が滴り………要は、全身濡れ鼠の状態なのだ。

 こちらへ向かう途中、ナニかがあった、というのは。
 間違い無いようだが。

 いくら父親が物好きとは言え、この気温の中で。
 寒中水泳まで強行した理由は、サッパリである。

「………で? 遅れた理由を、30文字以内で簡潔に言え」

「え、あ、その、それは………」

 先刻のココまでの、人類から規格外れのダッシュといい、真冬のこの格好といい。
 結局は、通りの人間の視線を、イヤというほど集めてしまっている。

 何があったか、知らないが。
 怪我が無いのは、何よりだが―――イヤ、だから。コイツに怪我させるには、核弾頭の連射ぐらいやらなきゃ、無理な気はするが―――とりあえず、この場からはとっとと消え失せたい。

 素っ気無く背を向け、歩き出した息子の言葉に。

 慌てて追いすがりつつ、マジックは。
 へどもどと、言い訳をしかけた、のだが………。

 ―――みぁ。

 愛らしい、鳴き声と共に。
 マジックの、濡れたスーツの合せ目から。
 ”遅れた理由”が、顔を出した―――ソレは。

 小さな小さな、黒猫だった。

「………ね、ネコぉ??」

「あ――――、ええとねっッ!!」

 あまりに意外な、組合せに。
 思わず足を止め、素っ頓狂な声を上げた、愛しい愛しい息子に。

 マジックはアイター、という表情で、思い切り顔を顰め。

「イヤね、ココに来る途中、見つけたんだけど………」 

 彼の話によると。
 ココに向かう途中の、川べりに。ダンボールに入れられ、捨てられていたらしい。
 
 可哀想に思い、保護してやろうと、手を差し伸べた。
 割と動物好きの、マジックだったが。
 捨てられたコトで、少々人間不信に陥っていたのか。

 その黒い子猫は、彼を警戒し、逃げ惑った挙句。
 近場の木へと、よじ登り―――不幸な事に。
 
 立ち枯れていたらしい、その木の枝は。

 爪を立て、威嚇する小さな体を乗せたまま、バッキリ、途中から折れ。

 ―――哀れな子猫は、枝と共に。真冬の川へと、真っ逆さま。

 おかげで。雲が出れば、間違いなく雪であろうという、この寒空の下。
 救出の為、マジックは。寒中水泳を敢行する羽目に、陥った。 

「いやぁ、誰かサンに似てるなァと思って。ついウッカリ、手を出しちゃったけど。もー、ココまでソックリだとはねぇ………」

「あぁ!? ナニが誰に似てるってぇっ!?」
 ―――まさか、オレとその間抜けな猫が似てる、とか楽しいコト言うんじゃねーだろォなっ!!??

 シンタローの、凄みを利かせた睨みに。
 『そっくりじゃないか、意地を張りまくった挙句、墓穴掘るトコとか………』とかいう呟きは。
 胸の内だけに、留めてみる。

 口に出したが最後。
 せっかく取り付けたこのクリスマスデートは、眼魔砲で集結するに違いない。

「イヤイヤー、こっちの話だヨvv さ、シンちゃんドコ行く?」

「はァ!? 正気かよ、アンタ。その格好で、ネコ連れてドコ行こうってんだ!?」

「もちろん、食事に。だァーいじょうぶvv どんな格好だって、パパを断るお店なんか無いし」

 エヘン、と胸を張る。
 『常識』という美しいコトバを、辞書から抹殺しているらしい父親に。

 シンタローは、やれやれ、と。深い溜息をつく。

 まぁ、コイツと自分であれば。
 素っ裸にネクタイ一丁だって、断る店はそうはあるまい―――だからと言って。

 ―――ソレをするかどうかというのは、全くもって別問題だっつーコトを。
 いい加減学習してくれ、五十に手の届くオッサン!!!

 大体、マジックという人物の、不思議なトコロは。
 敵対する相手には、とことん冷酷なクセに………子供や動物には、こんな風に妙に優しい。

 多分、ソレが。
 息子の髪を思い出させる、黒猫でなくとも。
 白かろうと、シマシマだろうと、三毛だろうと、助けたのだろうと思う。
 
 ―――凍りつく、真冬の川に。
 『だいじょーぶだョ、子猫ちゃーんvv』とか笑いながら、ざぶざぶ分け入って。

 それは、心温まるオハナシ、と言えなくも無い―――五十路間近のオッサンがやる事か、という突っ込みは置いといて。
 
 けれど、もちろん。

 ソレっぽっちの善行が。今までの彼の所業の言い訳に、なるハズもない。
 彼と、彼の一族が。

 どれ程の争いをこの世に生み出して。
 どれ程の憎しみと、悲しみを撒き散らしてきたか。

 這いつくばって哀願し、命乞いをする相手さえ。
 笑顔を浮かべ、踏みにじった―――その、人に非ざる所業。

 薄々は感じていた。今までの父親が、為してきたコトを。
 総帥となって、初めて詳細に知り得―――改めて、戦慄した。

 目の前の。
 大切そうに、子猫を抱く男は。
 同じ手で、購い切れぬ程の、大罪を犯した人間………同時に。

 ―――あの、煌く星の名を。
 自分に教えてくれた、大きな存在。

「あーそー。で、オレはそのネコの為に、散々待たされた挙句。あんなオトコに、不愉快な思いをさせられたワケだな」

「何だって!? アノニヤケた男、まさかオマエに良からぬコトを………ッッ!!」
 ―――やっぱり、問答無用で殺しておくべきだったかッッ!?

 コレだけ、冷え込んできたというのに。
 寒がるどころか、無暗にヒートアップし始めた父親に、肩を竦め。

「こんな日に、物騒なコト言ってんじゃねぇヨ、ったく………貸せ」

 ひょい、と腕を伸ばし。
 シンタローは、マジックの濡れた懐から。
 びしょ濡れで震える、子猫をつまみ出すと。

 ―――みぃみぃ鳴く、汚れ無き生き物を。
 自分の乾いたコートの胸元に、滑り込ませる。

 ずっとマジックが、温めていたからだろう。
 思った以上に、その体は温かな体温を保っていて。
 
 ………そう。
 今日は、12月25日。

 聖なる夜の、本番なのだ。

 ―――どんな罪人だって。赦しを請うくらいは、許されるのではないか?

「ちょ、ど、ドコ行くんだい、シンタロー!!??」

 子猫を強奪すると、そのままスタスタと足早に歩き始めた、彼の後を。
 マジックは慌てて、追いかける。

「アンタは、どうでもイイけどナ。このままだとコイツ、風邪引くだろーが?」

「あ、そうだね、じゃあ………ティラミスでも呼んで、車………」

 言いながら、マジックは携帯を取り出してみたが―――もちろん。
 特に防水加工も施されていなかった、ソレは。

 冬の川の中で、見事にオシャカとなっており。

 かけても、通じなかったワケだ、と。
 納得しつつ、シンタローは。

 大通りの裏………ネオンの輝く方へと向かい、歩を進めた。

「アンタは良くてもナ、オレが恥ずかしいンだよっ! その格好で高級ホテルだのレストランだの、入れるかっっ!!」 

「………だって、シンタロー? そっちって………」

 マジックが、訝しげな声を上げるのも、最もだ。

 シンタローの向かう、その方向は………そのまま行けば。
 派手なネオンも眩しい、昨日今日と「愛を確かめ合う恋人たち」で、さぞ繁盛しているであろう。
 とってもピンクな、ホテル街となる。

「ヘンな想像してんじゃねぇッッ!! コイツ、洗って乾かしてやるだけだッッ!!」

 足を止め。まじまじコチラを見つめている、相手の視線を。
 痛い程、感じつつ。
 
 シンタローは、努めて無表情を装って。
 そのまま先に立ち、歩きつづける。

 しばし、唖然と。
 凛と背筋の伸びた、後姿を見つめていた、マジックであったが。

 不意に。
 へらっ、と顔を緩ませ。

「そっかー、そうだよネvv うんうん、今は遠くの高級ホテルより、近くのラブホだよねーvv」

 すたたたっ、と。
 愛しい息子の傍らに立ち、その手を取ろうとしたのだが。

 対する彼は、まったくもってうっとおしそうに。
 にじり寄ってくる父親に、容赦無い足蹴をくらわした。

「言っとくけどなっ、着替えたら、スグ出るンだからなッッ!!」
 ―――テメェッ、ヘンな想像すんな、ヘンな妄想回すんじゃねーぞッッ!?

「はいはーい♪ もっちろん、解ってるよ、パパにはっvv」

 ………わかってる? そうか? ほんっと~~~に、解ってンのか、コイツ!!??

 妙な真似をしやがったら、問答無用で眼魔砲くれてやるっ、と。
 決心を固めつつ―――それが。

 本当は。
 自分の方が、よく解らない。

 これから、どうしたいのか。

 ………どうする、つもりなのか。
 
 ともあれ。
 震える子猫を、しっかり腕に抱いたまま。
 
 口をへの字に結び、歩きつづけていると。

「………あ、シンタロー?」

「~~~ぁンだよッ!?」

「メリークリスマスvv 愛してるヨvv」

 恥ずかしげも無く、贈られた一言に。
 シンタローは思わず、言葉を失い。

 すると。まるで、その代わりのように。

 ―――みぁ、と。

 腕に抱いた、黒い子猫が。
 愛らしい声で、鳴いた。












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