カーン……。
遠くかすかに耳に届く鐘の音。泡沫の一夜夢を築いていた遊郭全てに、目覚めの時を告げる。
「………んっ」
重たげな瞼を二三度上下させ、シンタローは、目を覚ました。
「お早うどす」
すぐに聞こえてきた声は、ごく間近で、薄暗い視界に凝らした瞳が、人を逆さに映した。闇に溶け込む色が視界を塞ぐように揺れている。それが人の髪なのだとようやく回らぬ頭で理解したシンタローは、思い当たる人物の名を告げた。
「アラシヤマ……」
寝起きのかすれた声で、その逆さになっている男の名を呼べば、こちらの頭の方から、顔を覗きこんでいた彼は、目元のみを緩ませて、ゆっくりとおじきをするように頭を下げた。
「よく眠れましたかえ?」
囁くような声とともに落ちてきた唇が、押しつけるように額に触れ、すぐに逃げていく。
(こいつは……朝から)
許可もとらずに勝手に自分に触れてきた相手に、シンタローは、逃げるそれを制止するべく手を伸ばし、耳元に落ちていた髪を素早く捕まえた。
「アテッ」
かくんと首を揺らし停止したアラシヤマに、シンタローは、すかさずグイッと、その手に掴んだものを引っ張った。
「お前なぁ。人の寝起きを見るなって何度言ったらわかるんだ」
「あたたたたっ、ちょ、シンタローはん、そない引っ張らんでおくれやす。痛いでっせ」
容赦なく下へと引き寄せるその行為に、アラシヤマはすぐに悲鳴をあげる。
(痛いどすぅ~)
毛が抜けそうなほどの力強いそれに耐え切れず、アラシヤマは解いてもらおうと、彼の手を軽く叩いてみるが、その程度で緩ませてはくれるほど相手は甘くない。
「離してくれはりまへんか」
「やだねっ」
必死な顔で懇願されるが、それを離す気はない。
(大体俺は、最低でも過去十回は、言っていたはずだぞ。人の寝起き顔を覗きこむなと)
寝起きは、涎や目ヤニで汚れている。さらに自分は、夜見世用に紅や白粉で化粧をほどこしていたのだ。それが一晩でどれだけ見っとも無く崩れるか分かっているから、余計にそれをされたくはなかった。
それなのに、今日も目を覚まして見れば、一番に目に映ったのは、相手の顔である。
なぜ、そんなことをするのだろうか。
怒りもこみ上げるが、呆れも混じる。
こうして怒られるのが分かっているのだから、何食わぬ顔で、目覚めそうな気配を感じた時には、別方向を向いていればいいのだ。実際その通りにされても嫌なのだが、知らぬが仏という言葉もある。
なのに相手は、目覚める時を見計らうようにして、なぜか嬉しげにこちらの顔を覗きこみ、寝ぼけ眼の自分に、朝の挨拶をかけるのである。
(ったく、馬鹿が)
それしか言いようが無い。
アラシヤマの髪を右手で掴んだまま、シンタローは、寝ている体勢で緋色の長襦袢を掻き合わせた。肌に触れる朝の冷気が冷たすぎたのだ。
朝と言っても、まだ外は夜も明けてない時刻である。早春の夜明け前となれば、吐く息も白かった。
こういう時も、この仕事の辛さが身に滲みる。襲い掛かる眠気と寒気に、シンタローは、うぅと小さく唸った。
機嫌は最悪である。
それに加えて、朝っぱらから気に食わないことをされれば、さらに拍車がかかる。
もちろん寝起きが見られたくないなら、自分の方が早起きすればいいだけなのだが、それができないのだから仕方ない。
(ああ、むしゃくしゃするぜッ)
その原因の一旦を、目の前の男が担っているのも腹立たしい。
昨晩も、いつものとごく睡眠時間は少ないうえに、いまだに身体の奥に倦怠感が残っているのだ。
相手は、痛い痛いと悲鳴をあげているが当たり前だった。痛くしているのである。
朝っぱらから不快な思いをさせた報いは、存分に受けてくれなくては困る。
(こっちはてめぇに何度も突っ込まれて痛い思いをしてるんだからなッ)
仕事だとわきまえていても、理性と感情は別物というものである。
「シンタローはぁ~ん」
アラシヤマが、何度目かの情けない声をあげた。
強く引っ張られたままのそれは、すでに何本かはブチブチと嫌な音を立てて抜けてしまっている。
アラシヤマは、懇願しても離してくれはしないシンタローの顔を間近で見つめた。その透明度の高い漆黒の瞳の奥に、不機嫌な輝きを見つけてしまう。ご機嫌斜めは相当のもののようである。アラシヤマは、諦めたように溜息をつくと、やれやれと口を開いた。
「そないに、わてと離れ難いと思うてくれはるなんて………とっても嬉しいおますわ、シンタローはん」
「とっとと離れろ」
アラシヤマがそう口にしたとたん、シンタローは、ぱっとその手を離し、さらに近づいていたアラシヤマのその額に手のひらを押し付け、ぐいっと真上に押しやった。アラシヤマの首がぐにっと有り得ぬ方向に、音立てて曲がったが、気にしない。
「うわっ。なんですのん、その冷たい仕打ち。わてを離さへんやったのは、シンタローはんでっせ」
「さっきのことは忘れろ」
そう冷淡に言い切ると、目の前から、アラシヤマが消えたことで、シンタローもようやく起き上がった。手の中に絡み付いていたアラシヤマの髪の毛を無情にも払い落とし、緩んでいた胸元を改めてきちんと整えると、ふわぁと大あくびを一つした。
冷たい空気が大量に口の中に入り込む。
もう暦の上では春は訪れたはずだが、まだまだその温もりを感じる日は、幾日もない。梅の花は咲いたのだと、人の口伝えで聞いてはいたが、こうしてまだ夜も明けきらぬ朝に、春を感じるのは難しかった。
「もう時間なんだろ? さっさと帰れよ、アラシヤマ」
目覚めた耳に、いつもの鐘の音を聞いた。
外に視線を向ければ、アラシヤマが開けたのだろう、開いた窓から、薄まりつつある闇夜が見えた。まだ、朝日は東の果てに眠りについたままのようである。それでも、目覚めまでの時は幾ばくもないはずだが、今はただ、わずかばかりの星々だけが、眠たげに瞬きを繰り返していた。
それを見ていると、こちらも眠りを誘われる。
だが、その誘惑に身をまかせようにも、目の前に人が存在する以上できなかった。
耳を澄ませば、ざわざわと人の声が聞こえてくる。遊郭の朝は早い。あちらこちらで、一夜を共にした相手を追い出す準備に追われているのだ。
(俺もさっさとこいつを追いだして、もう一眠りするかな)
すでに相手は身支度を整えていた。いつものことだが、楽でいい。
寝ているのか? と疑問に思うほど、この相手は、こちらが朝方に目を覚ます頃には、すでに身づくろいをすませているのだ。こちらとしては大変有難いことであるが、その余った時間に、自分の寝起きを見てなければの話である。
とにもかくにもお別れだ。
犬猫を追い立てるように、しっしっと手を振れば、とたんに哀しげな表情を相手は浮かべた。
「名残惜しんでくれまへんの、シンタローはん」
「これが永遠の別れなら、少しは惜しんでやってもいいぜ」
別の部屋からは、同じ立場である遊女達の甘ったるい惜しむ声が聞こえてくる。けれどシンタローは、挑発的な笑みを携え、アラシヤマにそう言い放ってやった。
自分にそんなことを望むだけ無駄だ。
そんなことは、もちろん相手もわかっているはずである。だからこそアラシヤマは、その笑みを受け止めると自分の胸に手を押し当てて、切なげに瞳を揺らした。
「なら存分に惜しんでくだはれ、シンタローはん。もしかしたら、わてはこの帰り道に暴漢に襲われて命を落とすかもしれまへんし、家に戻った後に、火事があって焼け死ぬかもしれまへん。明日にはこの命、ないかもしれまへんで?」
だから、これが永遠の別れになるかもしれまへん。
そう嘯いた相手は、布団の上に座り込んだままで、怠惰に相手を追い出そうとしていたシンタローに、手を伸ばした
昨晩、布団に入る前には、きっちりと結い上げていたそれも、今は、その痕すら見つけられずに、肩にかかっている。アラシヤマは、それを一束だけ掴み、握りしめた。
シンタローは、先ほどのお返しか、と慌てた表情を見せ、身体を引きかけた。だが、アラシヤマは、その髪が引っ張られないように気をつけながら、膝を布団の上に落とすと、そこに、恭しく口付けを落とした。
敬愛を示すようなその行為に、少しばかり顔を顰めてみせるが、相手はそれを気にする様子は見せなかった。こちらに顔を向けると、いまだに掴んでいる髪を指に絡まし引き寄せ、それに再び愛しげに唇を落とす。
「わてが、こうしてあんさんに触れられるのも最後かもしれまへんで?」
そう言いながら、嬉しそうに笑う馬鹿な男を見やり、シンタローは、痛みを感じるのを承知で、奪われていた髪を引っ張り、取り戻した。
けれど髪は、抵抗なくするりと相手の指をすり抜け戻ってくる。こちらが力を込めたとたん、手に握っていたそれを解放したのだ。
(いつもそうだ)
その抵抗なさに、なぜか苛立ちを感じつつ、シンタローは、髪をばさりとかき上げた。アラシヤマの口にした、馬鹿な言葉に返事を返す。
「そうしたら―――――俺は、笑ってやるよ」
「シンタローはん?」
「二度とお前に会わなくてすんだって、笑ってやる。だから安心して永遠の別れとやらをしてくれ」
死ぬなら勝手に死んで来い。こちらは全然かまいはしない。
そっけなく言い放てば、アラシヤマは一瞬驚いたような表情を見せ、それから笑った。先ほど見せた嬉しげな笑いよりも深みのある、けれど苦味も含んだ笑い。
何を考えての笑いなのかまったくわからなかったが、シンタローは、それを見たとたん、むぅと唇を曲げていた。
「なんだよ。俺の答えが気に食わないのか?」
そう言えば、くすくすくすとなぜか今度は声に出して笑われた。
「あんさんを哀しませない様、死なない努力をしますわ」
「はあ?」
どうやったらそんな答えが導きだされるのだろうか。
理解できないと眉間に皺まで寄せてみせれば、その皺を伸ばされるように指先がつきつけられた。
「泣きそうな笑い顔ほど胸に痛いもんはありまへんしな」
「…………」
その言葉に、思わず自分の頬に手をやり、さらりとなぜてみるが、自分が今、どんな表情をしているかはわからない。
(出鱈目言ってるんじゃねぇ)
少なくても、自分はアラシヤマ相手に、そんな健気な表情など浮かべるはずがなかった。アラシヤマお得意の夢見がちな妄想だろう。それで、都合のいい解釈をしただけに違いない。
「さてと、ほなそろそろお暇させていただきまひょ。六つの鐘も鳴り始めましたし」
こちらの動揺には何も言わず、ちらりと外へと視線をやったアラシヤマは、すくっと立ち上がった。
「あっ」
シンタローも、それに釣られるように立ち上がる。
カーン…カーン……。
丁度耳に、聞きなれた音が聞こえてくる。確かに、六時を知らせる鐘の音だ。客を送り出す時間は、四時から六時まで。
鐘の音は、きっちり六回鳴って止まった。
別れの刻限である。
「見送りはいりまへん。外はまだ寒うおますし」
外套を手にしたアラシヤマが振り返る。ほんの数歩でも離れれば、薄闇に包まれたアラシヤマの身体がかすむ。見え辛い中で、アラシヤマは小さく手を振った。
「また来ますよって、ほなさいなら」
最後に、こちらよりも遊女らしく見えるはんなりとした笑顔を見せ、頭を下げ出て行った。
あっさりとした退却だった。
部屋から消えるアラシヤマをいつものように黙って見送ると、再び布団の上に腰をおろすと、シンタローは、溜息を一つついた。
「また…ねぇ」
結局また来る気じゃねぇかよ。
なんだかんだといいつつ、もう随分と長い間自分の元に通ってきている馴染み客が、帰ったことを確認すると、また重たくなってきた眼を擦った。
とにかく、これで仕事はひと段落ついた。そのとたんに強い眠気が襲ってくる。
「寝よ」
これからが遊女達にとって本当の安らぎの夜である。
シンタローは、すでに冷え切った布団の上に寝転がると、もう一度目を閉じた。
二度寝は、かなり寝入ってしまっていた。
起きてみれば太陽はすでに真上にまであがっていた。
今日は快晴らしく、開けっ放しにしていて窓から、柔らかな日差しが入り込んでくる。
別に遅すぎるという時間帯ではなかったものの、シンタローは目が覚めると、そこでゴロゴロと目覚めの気だるさを味わうこともなく、起き上がった。
部屋に手水の用意を頼み、それで顔を洗いさっぱりさせると着替えを片手に部屋を出る。
「ふわぁ」
とたんに欠伸が一つ。冷たい水で顔を洗っても、まだ眠いようだった。
大口開けつつ階段を下りていれば、下から上がってくる相手に気付き、足を止めた。
(んっ?)
キラキラと眩しげに輝く後頭部。それだけで、顔を見ずとも誰と分かった。この妓楼に、こんな綺麗な髪を持つものは一人しかいない。
そこで立ち止まっていれば、下から登ってきた相手が、こちらの気配に気付いたようで顔をあげた。先ほど見た清々しい青空と同じ色をしている瞳が向けられる。眠たげに時折閉じる瞳が、それとぶつかった。
「お早う、シンタロー」
「ああ、お早う」
朝の挨拶にはすでに遅すぎる時刻だが、それでもそう言ってきた相手に、シンタローは同じように返した。
ふわっとこみ上げる欠伸を噛み締めて、相手の通る道をあけてやろうと足を動かせば、少しばかり足場を誤らせ身体がふらついた。
そのとたん、すっと相手の眼が眇められる。やばい、と思った時にはすでに口を開かれていた。
「ちゃんと目を開けていろ、シンタロー。危険だぞ。いいか、目を開けて降りないと、階段から足を滑らせて落ちる危険性が高いのだからな」
「あーわってるって。二度言わんでいい」
即座に忠告してくる口煩い相手に、シンタローは、がしがしっとあちらこちらに跳ねている髪をかき乱しつつ、手すりにもたれかかった。これならば、滑って落ちても大丈夫だろう。もしもの時には、すぐさまにこれに捕まればいい。目を開けようと努力する気は、シンタローにはなかった。
それを見やり、相手は小さく嘆息したが、構うものかと突っぱねる。
キンタローもそれ以上口煩く注意を重ねることはしなかった。代わりに自分の様子をみて声をかける。
「これから水場へ行くのか?」
「ああ、そうだ」
それに頷いてみせた。
これから風呂だ。身綺麗にしてから、化粧をして、髪を整え、衣装を着て、昼見世に備える。
いつもの変わらぬ毎日である。
二人で話している間も、隣を何人かの遊女が挨拶をしつつ通っていた。行き場は、たぶん同じ。水場である。
今が一番風呂の込む時間帯なのだが、自分には関係なかった。性別の違う自分は、当然彼女達と同じ風呂場は使えない。自分が使うのは、この店の男衆が使用する方の風呂場だった。もっともこの時間帯に入るのは自分だけで、キンタローの特別計らいで入らせてもらっている。
それに今更文句を言うものはいなかった。
自分のここでの立場は、初めから他の遊女達とは違うもので、それは今も変わっていないのだ。
「シンタロー」
名を呼ばれる。
人が途切れるのを見計らうようにして、髪に手を伸ばされた。今朝のアラシヤマもそうだが、なぜ自分の髪に触れたがるのか分からない。こんな他のここにいる遊女達と同じ、ただ真っ黒なだけの長い髪に、魅力など何もなさそうなものを。
それでも、大切なものに触れるように、相手はそれを手にとり、感触をしばし味わうと、軽く引っ張った。それにひかれるように身体を前に傾ければ、計算されたように、階下から伸ばされた相手の唇に触れる。
「んっ」
抵抗なくそれを受け入れれば、相手の舌がするりと潜り込み、口内でくちゅりと濡れた音が響き、耳朶に触れる。互いに慣れた仕草で、自分の快楽を引き寄せるために舌を絡めあった。
「ふっ…ぁ」
しばらくし、酸素を求めるように漏れた苦しげな声に、掴まれていた髪が解かれた。同時に絡まっていた舌も離れ、唇から透明な糸が名残惜しげに二人を繋ぐ。だがそれも、すぐに途切れてしまった。
口元に零れたどちらともつかぬ唾液を袖口で拭いつつ、シンタローは、真下から見上げる相手に、苦笑を浮かべた。
「キンタロー、今更だが、こういうのってせめてこっちの身を綺麗にした後でやらねぇか?」
すでに口付けを終えて言うのもなんだが、シンタローは、アラシヤマが帰った後、そのまま寝たのである。顔は一応洗っておいたので、別にあれとの間接キスになるとか、気持ち悪いことにはなってはいないのだが、それでも、事情を知っているはずのキンタロー相手では、きまり悪さを感じてしまう。
キンタローの方も気にならないだろうか、と思って言えば、
「後だと、俺が忙しい」
気にした様子も見せずに、さらりとそう告げられた。
確かに、この店の主であるキンタローは、朝早くから忙しなく働いている。夜もかなり遅くまで起きている様子で、ご苦労なことである。ようやく二十を迎える年になったキンタローだが、すでにわずか十五で、この店の主となっていた彼は、もうこの店には無くてはならない存在だった。
「まあ、お前がいいなら、いいけどさ」
こちらは今更キスの一つや二つで文句は無い。もちろん相手がキンタローだからであることは当然のことだ。
だからといって、別に二人が恋人同士というわけでもない。
恋人同士なら、こんな仕事などしていないだろう。
キンタローは命の恩人だった。
彼に拾ってもらえてから五年。今でも感謝の気持ちは忘れてはいない。
求められても返すものがこの身ひとつしかないとすれば、捧げることに躊躇いはなかった。
(って、んなこと言えねえけどさ)
自分が、そんな気持ちを持っていることなど相手には伝えたことはない。敏いキンタローのことだから、承知しているかもしれないが、それでもこの気持ちは決して口には出さないと決めたものだった。
「旦那様、ちょっと来てください」
二階からキンタローを呼ぶ声が聞こえる。そう言えば、何か用事があって階段を登ってきたのだろう。ここで悠長に立ち止まっている場合ではないはずであった。たまたま自分と出会ったために、時間をとっただけである。
「シンタロー、じゃあな」
「ああ」
使用人の呼び声に、キンタローも即座に反応する。こちらに別れを告げると同時に忙しなく階段を登っていった。
「大変だな」
それを見送ると、ふわぁと大きな欠伸一つとともに、シンタローは、のんびりと階段を降りていった。
遠くかすかに耳に届く鐘の音。泡沫の一夜夢を築いていた遊郭全てに、目覚めの時を告げる。
「………んっ」
重たげな瞼を二三度上下させ、シンタローは、目を覚ました。
「お早うどす」
すぐに聞こえてきた声は、ごく間近で、薄暗い視界に凝らした瞳が、人を逆さに映した。闇に溶け込む色が視界を塞ぐように揺れている。それが人の髪なのだとようやく回らぬ頭で理解したシンタローは、思い当たる人物の名を告げた。
「アラシヤマ……」
寝起きのかすれた声で、その逆さになっている男の名を呼べば、こちらの頭の方から、顔を覗きこんでいた彼は、目元のみを緩ませて、ゆっくりとおじきをするように頭を下げた。
「よく眠れましたかえ?」
囁くような声とともに落ちてきた唇が、押しつけるように額に触れ、すぐに逃げていく。
(こいつは……朝から)
許可もとらずに勝手に自分に触れてきた相手に、シンタローは、逃げるそれを制止するべく手を伸ばし、耳元に落ちていた髪を素早く捕まえた。
「アテッ」
かくんと首を揺らし停止したアラシヤマに、シンタローは、すかさずグイッと、その手に掴んだものを引っ張った。
「お前なぁ。人の寝起きを見るなって何度言ったらわかるんだ」
「あたたたたっ、ちょ、シンタローはん、そない引っ張らんでおくれやす。痛いでっせ」
容赦なく下へと引き寄せるその行為に、アラシヤマはすぐに悲鳴をあげる。
(痛いどすぅ~)
毛が抜けそうなほどの力強いそれに耐え切れず、アラシヤマは解いてもらおうと、彼の手を軽く叩いてみるが、その程度で緩ませてはくれるほど相手は甘くない。
「離してくれはりまへんか」
「やだねっ」
必死な顔で懇願されるが、それを離す気はない。
(大体俺は、最低でも過去十回は、言っていたはずだぞ。人の寝起き顔を覗きこむなと)
寝起きは、涎や目ヤニで汚れている。さらに自分は、夜見世用に紅や白粉で化粧をほどこしていたのだ。それが一晩でどれだけ見っとも無く崩れるか分かっているから、余計にそれをされたくはなかった。
それなのに、今日も目を覚まして見れば、一番に目に映ったのは、相手の顔である。
なぜ、そんなことをするのだろうか。
怒りもこみ上げるが、呆れも混じる。
こうして怒られるのが分かっているのだから、何食わぬ顔で、目覚めそうな気配を感じた時には、別方向を向いていればいいのだ。実際その通りにされても嫌なのだが、知らぬが仏という言葉もある。
なのに相手は、目覚める時を見計らうようにして、なぜか嬉しげにこちらの顔を覗きこみ、寝ぼけ眼の自分に、朝の挨拶をかけるのである。
(ったく、馬鹿が)
それしか言いようが無い。
アラシヤマの髪を右手で掴んだまま、シンタローは、寝ている体勢で緋色の長襦袢を掻き合わせた。肌に触れる朝の冷気が冷たすぎたのだ。
朝と言っても、まだ外は夜も明けてない時刻である。早春の夜明け前となれば、吐く息も白かった。
こういう時も、この仕事の辛さが身に滲みる。襲い掛かる眠気と寒気に、シンタローは、うぅと小さく唸った。
機嫌は最悪である。
それに加えて、朝っぱらから気に食わないことをされれば、さらに拍車がかかる。
もちろん寝起きが見られたくないなら、自分の方が早起きすればいいだけなのだが、それができないのだから仕方ない。
(ああ、むしゃくしゃするぜッ)
その原因の一旦を、目の前の男が担っているのも腹立たしい。
昨晩も、いつものとごく睡眠時間は少ないうえに、いまだに身体の奥に倦怠感が残っているのだ。
相手は、痛い痛いと悲鳴をあげているが当たり前だった。痛くしているのである。
朝っぱらから不快な思いをさせた報いは、存分に受けてくれなくては困る。
(こっちはてめぇに何度も突っ込まれて痛い思いをしてるんだからなッ)
仕事だとわきまえていても、理性と感情は別物というものである。
「シンタローはぁ~ん」
アラシヤマが、何度目かの情けない声をあげた。
強く引っ張られたままのそれは、すでに何本かはブチブチと嫌な音を立てて抜けてしまっている。
アラシヤマは、懇願しても離してくれはしないシンタローの顔を間近で見つめた。その透明度の高い漆黒の瞳の奥に、不機嫌な輝きを見つけてしまう。ご機嫌斜めは相当のもののようである。アラシヤマは、諦めたように溜息をつくと、やれやれと口を開いた。
「そないに、わてと離れ難いと思うてくれはるなんて………とっても嬉しいおますわ、シンタローはん」
「とっとと離れろ」
アラシヤマがそう口にしたとたん、シンタローは、ぱっとその手を離し、さらに近づいていたアラシヤマのその額に手のひらを押し付け、ぐいっと真上に押しやった。アラシヤマの首がぐにっと有り得ぬ方向に、音立てて曲がったが、気にしない。
「うわっ。なんですのん、その冷たい仕打ち。わてを離さへんやったのは、シンタローはんでっせ」
「さっきのことは忘れろ」
そう冷淡に言い切ると、目の前から、アラシヤマが消えたことで、シンタローもようやく起き上がった。手の中に絡み付いていたアラシヤマの髪の毛を無情にも払い落とし、緩んでいた胸元を改めてきちんと整えると、ふわぁと大あくびを一つした。
冷たい空気が大量に口の中に入り込む。
もう暦の上では春は訪れたはずだが、まだまだその温もりを感じる日は、幾日もない。梅の花は咲いたのだと、人の口伝えで聞いてはいたが、こうしてまだ夜も明けきらぬ朝に、春を感じるのは難しかった。
「もう時間なんだろ? さっさと帰れよ、アラシヤマ」
目覚めた耳に、いつもの鐘の音を聞いた。
外に視線を向ければ、アラシヤマが開けたのだろう、開いた窓から、薄まりつつある闇夜が見えた。まだ、朝日は東の果てに眠りについたままのようである。それでも、目覚めまでの時は幾ばくもないはずだが、今はただ、わずかばかりの星々だけが、眠たげに瞬きを繰り返していた。
それを見ていると、こちらも眠りを誘われる。
だが、その誘惑に身をまかせようにも、目の前に人が存在する以上できなかった。
耳を澄ませば、ざわざわと人の声が聞こえてくる。遊郭の朝は早い。あちらこちらで、一夜を共にした相手を追い出す準備に追われているのだ。
(俺もさっさとこいつを追いだして、もう一眠りするかな)
すでに相手は身支度を整えていた。いつものことだが、楽でいい。
寝ているのか? と疑問に思うほど、この相手は、こちらが朝方に目を覚ます頃には、すでに身づくろいをすませているのだ。こちらとしては大変有難いことであるが、その余った時間に、自分の寝起きを見てなければの話である。
とにもかくにもお別れだ。
犬猫を追い立てるように、しっしっと手を振れば、とたんに哀しげな表情を相手は浮かべた。
「名残惜しんでくれまへんの、シンタローはん」
「これが永遠の別れなら、少しは惜しんでやってもいいぜ」
別の部屋からは、同じ立場である遊女達の甘ったるい惜しむ声が聞こえてくる。けれどシンタローは、挑発的な笑みを携え、アラシヤマにそう言い放ってやった。
自分にそんなことを望むだけ無駄だ。
そんなことは、もちろん相手もわかっているはずである。だからこそアラシヤマは、その笑みを受け止めると自分の胸に手を押し当てて、切なげに瞳を揺らした。
「なら存分に惜しんでくだはれ、シンタローはん。もしかしたら、わてはこの帰り道に暴漢に襲われて命を落とすかもしれまへんし、家に戻った後に、火事があって焼け死ぬかもしれまへん。明日にはこの命、ないかもしれまへんで?」
だから、これが永遠の別れになるかもしれまへん。
そう嘯いた相手は、布団の上に座り込んだままで、怠惰に相手を追い出そうとしていたシンタローに、手を伸ばした
昨晩、布団に入る前には、きっちりと結い上げていたそれも、今は、その痕すら見つけられずに、肩にかかっている。アラシヤマは、それを一束だけ掴み、握りしめた。
シンタローは、先ほどのお返しか、と慌てた表情を見せ、身体を引きかけた。だが、アラシヤマは、その髪が引っ張られないように気をつけながら、膝を布団の上に落とすと、そこに、恭しく口付けを落とした。
敬愛を示すようなその行為に、少しばかり顔を顰めてみせるが、相手はそれを気にする様子は見せなかった。こちらに顔を向けると、いまだに掴んでいる髪を指に絡まし引き寄せ、それに再び愛しげに唇を落とす。
「わてが、こうしてあんさんに触れられるのも最後かもしれまへんで?」
そう言いながら、嬉しそうに笑う馬鹿な男を見やり、シンタローは、痛みを感じるのを承知で、奪われていた髪を引っ張り、取り戻した。
けれど髪は、抵抗なくするりと相手の指をすり抜け戻ってくる。こちらが力を込めたとたん、手に握っていたそれを解放したのだ。
(いつもそうだ)
その抵抗なさに、なぜか苛立ちを感じつつ、シンタローは、髪をばさりとかき上げた。アラシヤマの口にした、馬鹿な言葉に返事を返す。
「そうしたら―――――俺は、笑ってやるよ」
「シンタローはん?」
「二度とお前に会わなくてすんだって、笑ってやる。だから安心して永遠の別れとやらをしてくれ」
死ぬなら勝手に死んで来い。こちらは全然かまいはしない。
そっけなく言い放てば、アラシヤマは一瞬驚いたような表情を見せ、それから笑った。先ほど見せた嬉しげな笑いよりも深みのある、けれど苦味も含んだ笑い。
何を考えての笑いなのかまったくわからなかったが、シンタローは、それを見たとたん、むぅと唇を曲げていた。
「なんだよ。俺の答えが気に食わないのか?」
そう言えば、くすくすくすとなぜか今度は声に出して笑われた。
「あんさんを哀しませない様、死なない努力をしますわ」
「はあ?」
どうやったらそんな答えが導きだされるのだろうか。
理解できないと眉間に皺まで寄せてみせれば、その皺を伸ばされるように指先がつきつけられた。
「泣きそうな笑い顔ほど胸に痛いもんはありまへんしな」
「…………」
その言葉に、思わず自分の頬に手をやり、さらりとなぜてみるが、自分が今、どんな表情をしているかはわからない。
(出鱈目言ってるんじゃねぇ)
少なくても、自分はアラシヤマ相手に、そんな健気な表情など浮かべるはずがなかった。アラシヤマお得意の夢見がちな妄想だろう。それで、都合のいい解釈をしただけに違いない。
「さてと、ほなそろそろお暇させていただきまひょ。六つの鐘も鳴り始めましたし」
こちらの動揺には何も言わず、ちらりと外へと視線をやったアラシヤマは、すくっと立ち上がった。
「あっ」
シンタローも、それに釣られるように立ち上がる。
カーン…カーン……。
丁度耳に、聞きなれた音が聞こえてくる。確かに、六時を知らせる鐘の音だ。客を送り出す時間は、四時から六時まで。
鐘の音は、きっちり六回鳴って止まった。
別れの刻限である。
「見送りはいりまへん。外はまだ寒うおますし」
外套を手にしたアラシヤマが振り返る。ほんの数歩でも離れれば、薄闇に包まれたアラシヤマの身体がかすむ。見え辛い中で、アラシヤマは小さく手を振った。
「また来ますよって、ほなさいなら」
最後に、こちらよりも遊女らしく見えるはんなりとした笑顔を見せ、頭を下げ出て行った。
あっさりとした退却だった。
部屋から消えるアラシヤマをいつものように黙って見送ると、再び布団の上に腰をおろすと、シンタローは、溜息を一つついた。
「また…ねぇ」
結局また来る気じゃねぇかよ。
なんだかんだといいつつ、もう随分と長い間自分の元に通ってきている馴染み客が、帰ったことを確認すると、また重たくなってきた眼を擦った。
とにかく、これで仕事はひと段落ついた。そのとたんに強い眠気が襲ってくる。
「寝よ」
これからが遊女達にとって本当の安らぎの夜である。
シンタローは、すでに冷え切った布団の上に寝転がると、もう一度目を閉じた。
二度寝は、かなり寝入ってしまっていた。
起きてみれば太陽はすでに真上にまであがっていた。
今日は快晴らしく、開けっ放しにしていて窓から、柔らかな日差しが入り込んでくる。
別に遅すぎるという時間帯ではなかったものの、シンタローは目が覚めると、そこでゴロゴロと目覚めの気だるさを味わうこともなく、起き上がった。
部屋に手水の用意を頼み、それで顔を洗いさっぱりさせると着替えを片手に部屋を出る。
「ふわぁ」
とたんに欠伸が一つ。冷たい水で顔を洗っても、まだ眠いようだった。
大口開けつつ階段を下りていれば、下から上がってくる相手に気付き、足を止めた。
(んっ?)
キラキラと眩しげに輝く後頭部。それだけで、顔を見ずとも誰と分かった。この妓楼に、こんな綺麗な髪を持つものは一人しかいない。
そこで立ち止まっていれば、下から登ってきた相手が、こちらの気配に気付いたようで顔をあげた。先ほど見た清々しい青空と同じ色をしている瞳が向けられる。眠たげに時折閉じる瞳が、それとぶつかった。
「お早う、シンタロー」
「ああ、お早う」
朝の挨拶にはすでに遅すぎる時刻だが、それでもそう言ってきた相手に、シンタローは同じように返した。
ふわっとこみ上げる欠伸を噛み締めて、相手の通る道をあけてやろうと足を動かせば、少しばかり足場を誤らせ身体がふらついた。
そのとたん、すっと相手の眼が眇められる。やばい、と思った時にはすでに口を開かれていた。
「ちゃんと目を開けていろ、シンタロー。危険だぞ。いいか、目を開けて降りないと、階段から足を滑らせて落ちる危険性が高いのだからな」
「あーわってるって。二度言わんでいい」
即座に忠告してくる口煩い相手に、シンタローは、がしがしっとあちらこちらに跳ねている髪をかき乱しつつ、手すりにもたれかかった。これならば、滑って落ちても大丈夫だろう。もしもの時には、すぐさまにこれに捕まればいい。目を開けようと努力する気は、シンタローにはなかった。
それを見やり、相手は小さく嘆息したが、構うものかと突っぱねる。
キンタローもそれ以上口煩く注意を重ねることはしなかった。代わりに自分の様子をみて声をかける。
「これから水場へ行くのか?」
「ああ、そうだ」
それに頷いてみせた。
これから風呂だ。身綺麗にしてから、化粧をして、髪を整え、衣装を着て、昼見世に備える。
いつもの変わらぬ毎日である。
二人で話している間も、隣を何人かの遊女が挨拶をしつつ通っていた。行き場は、たぶん同じ。水場である。
今が一番風呂の込む時間帯なのだが、自分には関係なかった。性別の違う自分は、当然彼女達と同じ風呂場は使えない。自分が使うのは、この店の男衆が使用する方の風呂場だった。もっともこの時間帯に入るのは自分だけで、キンタローの特別計らいで入らせてもらっている。
それに今更文句を言うものはいなかった。
自分のここでの立場は、初めから他の遊女達とは違うもので、それは今も変わっていないのだ。
「シンタロー」
名を呼ばれる。
人が途切れるのを見計らうようにして、髪に手を伸ばされた。今朝のアラシヤマもそうだが、なぜ自分の髪に触れたがるのか分からない。こんな他のここにいる遊女達と同じ、ただ真っ黒なだけの長い髪に、魅力など何もなさそうなものを。
それでも、大切なものに触れるように、相手はそれを手にとり、感触をしばし味わうと、軽く引っ張った。それにひかれるように身体を前に傾ければ、計算されたように、階下から伸ばされた相手の唇に触れる。
「んっ」
抵抗なくそれを受け入れれば、相手の舌がするりと潜り込み、口内でくちゅりと濡れた音が響き、耳朶に触れる。互いに慣れた仕草で、自分の快楽を引き寄せるために舌を絡めあった。
「ふっ…ぁ」
しばらくし、酸素を求めるように漏れた苦しげな声に、掴まれていた髪が解かれた。同時に絡まっていた舌も離れ、唇から透明な糸が名残惜しげに二人を繋ぐ。だがそれも、すぐに途切れてしまった。
口元に零れたどちらともつかぬ唾液を袖口で拭いつつ、シンタローは、真下から見上げる相手に、苦笑を浮かべた。
「キンタロー、今更だが、こういうのってせめてこっちの身を綺麗にした後でやらねぇか?」
すでに口付けを終えて言うのもなんだが、シンタローは、アラシヤマが帰った後、そのまま寝たのである。顔は一応洗っておいたので、別にあれとの間接キスになるとか、気持ち悪いことにはなってはいないのだが、それでも、事情を知っているはずのキンタロー相手では、きまり悪さを感じてしまう。
キンタローの方も気にならないだろうか、と思って言えば、
「後だと、俺が忙しい」
気にした様子も見せずに、さらりとそう告げられた。
確かに、この店の主であるキンタローは、朝早くから忙しなく働いている。夜もかなり遅くまで起きている様子で、ご苦労なことである。ようやく二十を迎える年になったキンタローだが、すでにわずか十五で、この店の主となっていた彼は、もうこの店には無くてはならない存在だった。
「まあ、お前がいいなら、いいけどさ」
こちらは今更キスの一つや二つで文句は無い。もちろん相手がキンタローだからであることは当然のことだ。
だからといって、別に二人が恋人同士というわけでもない。
恋人同士なら、こんな仕事などしていないだろう。
キンタローは命の恩人だった。
彼に拾ってもらえてから五年。今でも感謝の気持ちは忘れてはいない。
求められても返すものがこの身ひとつしかないとすれば、捧げることに躊躇いはなかった。
(って、んなこと言えねえけどさ)
自分が、そんな気持ちを持っていることなど相手には伝えたことはない。敏いキンタローのことだから、承知しているかもしれないが、それでもこの気持ちは決して口には出さないと決めたものだった。
「旦那様、ちょっと来てください」
二階からキンタローを呼ぶ声が聞こえる。そう言えば、何か用事があって階段を登ってきたのだろう。ここで悠長に立ち止まっている場合ではないはずであった。たまたま自分と出会ったために、時間をとっただけである。
「シンタロー、じゃあな」
「ああ」
使用人の呼び声に、キンタローも即座に反応する。こちらに別れを告げると同時に忙しなく階段を登っていった。
「大変だな」
それを見送ると、ふわぁと大きな欠伸一つとともに、シンタローは、のんびりと階段を降りていった。
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