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p1

「ジャン」

布のこすれる音。

何をしているのか、分かってしまう音に、耳を塞げないままの俺。

「あぁ、マジック様」

荒い息遣いで、相手の名前を呼ぶ黒髪の男。

その息遣いは、知っている。

「あああ、そんな・・・」

頬を高揚させ、潤んだ瞳は相手を誘う武器。

同じものを、俺も持っているから良く分かる。

「ふふ・・、お前は本当に可愛いね」

その色香にワザと引っかかった振りをする。

俺のときも、そうするから。

「もっと・・ああ、そこ」

背を仰け反らせながら、相手を奥へ奥へと誘うその姿はまるで娼婦そのもの。

俺も、そうだから・・・・。




俺はそれ以上見ることができず、その扉を閉じた。




朝は、イヤでも毎日訪れてしまう。

けたたましい音で起床時間を知らせる時計のスイッチを押し、その五月蝿い音を止めた。

長い髪が、体中に纏わりついてくる感触に、眉を寄せる。

夢なんて覚えてもいないが、どうも夢身が悪かったのだろう。

張り付いた髪を取ろうと、額に手をやれば大量の汗がその甲についた。

「最悪だ・・・・」

なんとなくではあるが、薄々分かっていたことが本当だったという確証を得ただけだというのに、どうしてこんなに胸が痛むんだ。

起きたくなかった。

起きて、台所にいる親父に合いたくなかった。

「シンちゃ~ん、朝だよ~」

日課となったその声に、溜息を吐いてしまう。

仕方なく朝食に向かうべく、汗を流すため浴室に向かった。








「シンちゃん!パパね頑張ったよ~」

朝食の時間、テーブルの上には、いつものように和食の朝食が用意されていた。

そして起きてきた俺に、ピンク色の声で話しかけてくる。

「うるせえ」

それに、いつもの態度で、いつもの言葉で返し、手に持っていたジャケットを椅子の背にかけると、俺は自分の席に座った。

「ひどい」

ぶつぶつといいながら、俺の前に温かい白いご飯と、味噌汁と配膳をしながら、また「ひどいよ」と呟かれた。

それを無視しながら、手を合わせ「いただきます」と一言言えば相手は上機嫌になり、ニコニコ笑顔で俺の顔を見つめてくる。

テーブルには、俺と親父だけ。

グンマたちは、いつも気を遣って俺よりも先に朝食を済ませているので、このテーブルで皆が集まって朝食をとったことはなかった。

「シンちゃんて、酷い子だね~。パパ、悲しいな」

無視を決め込みながら、箸を動かす。

「鬼~、意地悪~」

いつもの態度に小さく溜息を吐き、まだ食べかけだった食事を前に、食べる気などとうの昔に失せてしまった俺は、持っていた箸をテーブルに置き席を立つ。

「ごっそさん」

「あれ、もういいの?」

全く食べていない食事に、親父の眉間に皺がよる。

少し、眼の色が冷たくなった気がした。

「ああ」

「悲しいよ、パパが一生懸命作ったのに・・・・」

泣きまねを始めようと準備をし始めたため、俺はこのままかかわりを避けるためさっさと仕事に向かうことにした。

椅子の背にかけてあったジャケットを取り、「いってきます」と小さな声で挨拶をして部屋を出た。

背後では親父が五月蝿く「残すなんて、ひどいよう~」と泣きまねをする声が、ドアを閉めるまで聞こえた。




続く



反省
・・・・味噌汁のみたい。







仕事をしている時間が、今の俺にとって一番幸せなのかもしれない。

余計なことを、考えなくて済む。

昨晩、たまには俺のほうから誘ってやろうかと、俺らしくないことをふいに思いついた。

親父の部屋に乗り込んで驚かし、いつものすました表情を崩したまま、そのまま立ち去ってやるのも良いし、それからなし崩しにやってもいいなと、意気揚々向かった部屋。

気配も消して、音も立てずに開けたドアの向こうには、すでに親父の上に俺がいた。

いや、『俺』であって『俺』ではない、誰か。

俺を支えていた足元の、何かが、全部崩れ落ちた。

それは繊細な雨細工よりもろく、親父の存在で何とか俺を形成していたもの。

それに名前をつけるなら、『無償の愛情』。

それに対する無意識の依存。

いや、当たり前だった。

どんなに俺が、ジャンと同じ顔だからと言って、親父は俺がいる限りジャンのほうなんて、見向きもしないと安心していた。

だって、俺は血がつながっていなくても、24年間は本当の親子として生活していたんだから。

周りがあきれるぐらい、可愛がられて、愛されて育ってきたはずだ。



「総帥、本日はこれぐらいで」

秘書のティラミスが俺が判を押した書類を抱え、「今日はお仕事がかなりはかどりましたので、ご褒美ですよ」と、どちらが上司か分からないことを微笑みながら言ってきた。

「いや、もう少し・・・・」

このまま部屋に戻りたくなかった俺は、いつもなら山のように溜まっている書類を捜したのだが、それが全く見当たらない。

「総帥が全部片付けたので、我々もすることがほとんど無くなってしまったんですよ」

チョコレートロマンスが苦笑している。

「そっか」

いつも残業をさせている秘書達も、今日は珍しく定時に上がれるという期待に目を光らせている。

そんな期待に応えないのも悪い気がして、俺は定時前に上がった。

予定では、今日も残業だったから、親父も俺が今終わっているということ知らないはず。

そんなことを考えた俺の脳裏に、ふと悪魔の囁きが聞こえた。

『あれを試せ』と。

前々から考えていた、『あれ』。

裏切ることになるかもしれない行為が、怖かくてできなかった。

だが俺の土台が亡くなった今、怖いものなんて何もない。

今の心が痛むこの状況で、ただ何もせずそこにいることができなかった。




つづく



反省
暗いくらい・・・





それは、準備が必要なこと。

準備といったって、大それたものではなくとても簡単なものだ。

俺のちっぽけな『自尊心』をゴミ箱に捨て、少し大きめの手鏡とハサミを準備し、あとは白衣を着るぐらいで十分。

それを実行に移すため、総帥室から出た俺は高松のところに立ち寄り、グンマからハサミと手鏡、あとは白衣を借りた。

「前髪が邪魔だから、切るっていうのはよく分かるけど、何で白衣が必要なの?」

「お前も大人になったら、わかんだよ」

それ以上聞くなと、頭を軽く叩いてその部屋を後にする。

そのまま、一般団員用に設けられたトレーニングルーム横のシャワー室に忍び込み、誰も使用していないことを確認すると、そのまま一番奥の個室に入った。

ここまで上手くいくと、なんだか見られているのではないかという錯覚に陥ってしまう。

「考えすぎか」

自虐的な笑みが出てしまうのは、精神的にどん底まで落ちている今を考えれば仕方のないことだ。

「さて・・・」

誰かが来る前に、早く行動に移そうと手に持っていた手鏡とハサミを見つめた。

「・・・・ったく、バカらしいよな」

親父が好きだといってくれた髪。

少し伸びたときから邪魔になり、何度も切ろうと思ったが、親父が「とても、好きだから切らないで欲しい」とそんな戯言に心躍らされ、今まで伸ばしてきた。

  
  『邪魔なんだよ』

  『パパは、シンちゃんの髪が好きだよ』

  『俺が、いやなの』

  『ダメ、このまま伸ばして。ね?』


それは、結局ジャンと見分けがつくためだったんだろ?

「信じて、いたんだ・・・ずっと・・・・」

俺であるための土台でもある、この髪。

「だから、だから、俺は・・・・」

そう思いたくないから、俺は親父を試す。

「ゴメン、父さん」

そして、自分の髪を一房掴みそれに鋏の歯を当てた。

「・・・・・・さよなら、だな。自分」

鏡の中の俺は、今まで見てきた己の顔の中で、一番酷いものだった。





続く


反省




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