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「シンちゃん!大好き!!」

「うわ、こら、抱きつくな!!」

紅い液体を撒き散らしながら、親父が俺に抱きついてきた。

「酷い、昔は抱っこしてパパ~って私を誘惑していたのに!!」

「子供のお願いに、何変な期待を抱いてんだ!!」

ぷくっと、頬を膨らませた親父はそれでも俺を抱きしめた腕はそのまま。

解放する気は無いようだ。

「ほら、シンちゃん。そんなに照れないで、パパを見てよ」

「あ?んだよ・・・・」

親父のほうに嫌々ながらも視線をやると、嬉しそうに笑うその顔が視界に入ってくる。

これが、イヤなんだよ。

「ふふふ・・・・、愛してるよ」

耳元の甘い囁きが、俺を地獄に突き落とす。

その言葉は、一体誰に向けてのものなんだろうな?




なあ、あんたは知っていたか?

俺がずっと前から、気づいていたことを。

本当は、知らないままのほうが幸せだったと分かっていた。

だけど、あんたの望どおりに俺は育ってしまったんだ。

それが原因で、俺はいつもあんたを見ていた。

いつも遠くを見るその青い瞳を、俺がどれだけ見ていたのか。

あんたは、気づいたか?

俺と視線を合わせていることがあっても、その瞳は常に俺の後ろを見ていた。

『俺自身』を一切い見ようとしなかった。

あんたがどれだけ俺に『愛してる』と囁いた?

どれだけ俺に抱きついた?

あんたの望どおりに俺は育ってしまった。

それなのに、俺を通して違う誰かを見るあんたを、俺はどれだけ見ていたか。

気づかなかっただろう?

だから、俺は気がついていたんだ。

『俺』を通して、『あいつ』を見ていたんだろう?

『俺(レプリカ)』と同じ顔の『あいつ(オリジナル)』を。

その、愛のささやきも。

温かい抱擁も。

全て『あいつ(オリジナル)』に向けて言った言葉だってこと、俺はずっと前から気づいていたよ。

あんたに心奪われていた俺が、どれほど出会いが遅かったことを悔やんだのか、あんたは知らないだろう。

嘆いても、悔やんでも、この運命は変えることができない。

だから、もう諦めたよ。

今の現状のままでいいと、そう思うように勤めたことも、もう慣れたよ。

だけど、時々思うことがある。

もしもの、話。

俺があんたと出会うのが、あいつよりも早かったら。

そしたら、あんたは俺だけを見て、俺を『俺』と認め、『俺』と認識してくれたのかって。

笑えるだろう?

らしくもねえことばかり、考えて。

決して叶うことのないことだって、重々承知の上でそんな空想ばかりに時間を費やしているんだ。

空想だけが、俺の唯一つの心の拠り所になっていく、こんな日々を過ごす弱い俺の心は、まるで梅雨のようにジメジメして気持ちが悪い。

だから、早く決定打が欲しかった。

『偽りの俺』と『本当の俺』を、あんたが選ぶのか。

拭うことのできない思考は、心に湿気のようなものをいつまでも纏わり着かせてくるから。

だから、腐る前に『答え』が欲しかった。

その瞳と心が、俺だけを映してくれることを願いながら。





「どうした、シンタロー?」

キンタローが俺の顔をのぞきこみながら、そんなことを聞いてきた。

何を指しているのか分からない俺は、首を傾げて「何が?」と聞き返した。

「顔色が悪い」

そう一言言うと、上体を起こし「健康管理は仕事のうちだ」と厳しい言葉を残して去っていった。

総帥専用の椅子に深く座り込んでいた俺は、キンタローの言葉によってさえぎられてしまった思考の波を呼び覚ますべく、ゆっくりと目を閉じた。

健康管理はしっかりできてるさ。

心配するな。

毎日栄養たっぷりな食事を作っているのは、一体どこの誰だと思っている?

俺の心の波をかき乱す、親父だ。

毎日見ているだろう?

馬鹿な鼻歌歌いながら、フリフリピンクのエプロンの裾を翻して作るご飯を。

身体面での問題は、皆無だ。

問題は、精神的なもの。

心は毎日悲鳴を上げ、苦しいと俺に訴えてくる。

キンタローでも、親父でも気づくことの無い俺の心の『叫び声』。

誰も聞いてくれないその声に、俺は日々耳を塞ぐしかなかった。

その悲鳴の音量を何とか下げようと、空想に逃げ込む末期症状の俺を、誰も助けてはくれない。

自分の問題なのだから、自分で解決するしか方法が無いことは知っている。

だが、方法が無い。

いつの間にか暗い思考の渦に飲み込まれていく。

“この姿ではなければ、親父は俺を抱かなかった”

そう思うと、心が大きな悲鳴を上げ苦しかった。

そんなことはないと、何度も言い聞かせていた。

モルヒネとして、空想を心に与え絶えてきた。

だから、そろそろ答えが必要だと、何度考えても最後はそこに行き着く。

ああ、お願いだ。

もう、これだけ苦しんできたんだ。

ご褒美をねだっても、罪にはならないだろう?


  “お願いです。この姿が変わっても、見捨てないで下さい”










「シンちゃん、顔色悪いよ」

自宅に戻ると、グンマからも同じことを言われてしまった。

それに大きな溜息をつきながら、「なんとも無い」と応えてみたが、簡単に引き下がる相手でもなくあいつは元気が出る飲み物を作るといって、俺を無理やりリビングのソファーに座らせると、よく分からない鼻歌を歌いながらキッチンに消えていった。

「ったく、ここにはお節介野郎しかいないのか?」

呟いた言葉は、グンマには聞こえていないだろう。

キンタローもグンマも、俺のことを気にかけすぎだ。

まったく。

イヤじゃないけどな。

「はい、お待たせ!!グンマ特性元気の出る出る出まくりココアだよ!!」

部屋中に広がってきた独特な香りのお陰で、テーブルに出される前にグンマがキッチンで作っていたものが何なのかはすでに予想済みだが、出された液体が本当にココアなのか怪しい。

「あ、疑ってるね?大丈夫、高松が作った『1日動けませんココア』は今日は持ってきていないから」

ああ、本当に変なココア作ったんだな、あの変態ドクター。

一体誰を、動けなくしたいんだ。

そんなことを頭の隅で考えながら、俺の横のソファーに座り一緒に持ってきた自分用のマグカップを両手で持つと、グンマはニコニコしながらその中身を飲み始めた。

一緒に作って変なものを入れているのなら、もう少し作るのに時間がかかっていただろう。

香りも、大丈夫。

よし。

恐る恐る、コップに口をつけ一口飲んでみた。

「お、案外普通だな」

「あ、酷い。それ、僕が作るもの全てが変だって言っているようなものだよ!」

頬を膨らませながら怒るその姿に、笑いながらコップを傾けた。

俺が好む甘味より、かなり甘いがこれはこれで疲れた心に温もりを与えてくれる。

だけどな、グンマ。

親父と血の繋がったお前が横にいるだけで、また心が悲鳴を上げ始めるんだよ。

繋がりがあるお前が、羨ましいって。

「ふふふ、どう?美味しかった?」

「ああ、サンキュー」

口についてしまったココアを、右手の甲で拭いながら礼を言うとグンマは花が飛び散るほどの笑みで「また作るから、早くよくなってね」なんて言いやがって、ああ、本当ありがたいよ。

シンクにコップを持っていこうと立ち上がると、グンマからソファーで休めと命令された。

「まだ顔色悪いよ。お片付けは僕がしておくから」

こいつも、大人になったもんだ。

人にここまで気を使えるなんて。

「ああ、悪いな」

「何言ってんだよ、僕達家族じゃん」

俺のコップを持ってキッチンに向かったグンマに、心の中でお礼を言った。

お陰で、少し心の痛みが和らいだように感じたから。






水音が耳奥に響く。

白い洗面台には、紅い花が今まさにその命を水によって、消されようとしていた。

目の前に広がるその絶望の海に、俺はただ傍観するしかなかった。

何故、もっと早く気がつかなかったのだろう。

一月前から体に起きた変調を、俺は何故軽く見ていたのか?

グンマが俺にココアを出したあの日の翌朝、目が覚めた俺は風邪を引いたときのような体のだるさに顔をしかめながら、とうとう心の病が表に出てきたのかと思った。

病は気からとはよく言ったものだと、感心しながらその時は軽く考えていた。

手が白くなるまで、握り締めた拳は小さく震えていた。

そんな己の体を見ながら、脳裏に浮かんでくるものは親父に対しての謝罪だった。

どんなに謝ったとしても、もう許してくれない。

昔のように、悪戯した後「ごめん」と一言ですんでいたことが、今はできなくなってしまった。

だって、そうだろう?

俺は、その資格を失ってしまったのだから。

ずっと流れる水を見ていたが、そろそろ動かないといけない時間だと己に言い聞かせ、重たく感じる体を動かした。

そして、まず最初にしたことは、鏡に映っているだろう自分を見るのではなく、ポケットに入れていた携帯電話を取り出すことだった。

『・・・・・なんだい?』

長い呼び出し音の後、やっと出た相手の声はどこか冷たく感じた。

「あの、・・・・ごめん」

『何を謝っているのか、全く分からないね。私も忙しいんだよ。それだけの用事で電話をかけてきたのなら―』

「あ、あの・・・・」

『―書面で報告しなさい』

無情にも相手はそれだけを言うと、通話を一方的に終わらせた。

機械的な音が鳴り響くことに、熱くなる目頭を片手で覆いながら、予想通りの態度にやっと『答え』が出た事実に、もう悩む必要がないことに安堵ともいえる感情が生まれ始めていた。

やっと、終わった。

もう、苦しむ必要が無い。

だから、全てに終止符を打とう。

目を覆っていた手を下ろすと、もう片手に握り締めていた携帯のボタンを操作した。

短い呼び出し音の後、「どうした?」と少し不機嫌そうな声が聞こえた。

「ああ、悪い」

『そんなことはいい。今、どこにいる?もうすぐ仕事の時刻だ』

キンタローの事務的な声に、笑みを漏らしながら「もう、辞める」と呟く。

「総帥職は、そうだな。直系のグンマにでもさせようか。お前がいれば、安心だもんな。で、俺は辞職扱い。まあ、やっと自由に暮らせるってもんだよな」

先ほどの相手とは対照的に、俺の口からはまるで台本を読んでるかのように、言葉がすらすらと出てきた。

『お、おい!』

「お前さ、俺に黙っていることあるだろう?4日前に採血した結果でてんだろ?もう、俺自身永くないって知ってんだろ?」

問えば、キンタローは黙ってしまった。

その沈黙は、認めているというということだ。

「悪いな」

そう一言残し、俺は通話を切るためボタンを押した。

「・・・・・・お前は、知らないほうが幸せなのかもしれない」

知ってしまえば、目の前に広がるのはただ絶望の海だけだ。




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