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店の外は暖かい空気に包まれていた。

「・・・・悲しんでなんか・・・いない、誰も」

悲しんでいるのは俺一人だけ。

もう、帰る場所も無い。

そんな場所、全部潰されてしまっている。

唯一つながりであった総帥職だって、ジャンがいる。

俺の居場所だったあの人の隣だって、ジャンがいる。

あれの特権であった、あの人とのスキンシップだって・・・・・

全部ジャンがいる。

まるでそれは空気のように、自然とそこに留まっている。

ジャンのためだけに用意されていた、場所。

俺の場所ではない。

だから帰る場所なんて、元々無かったんだ。

最初から、無かったんだ。

あの人が望んでいたこと、だから悲しむはずが無い。

「こんなことなら・・・」

こんなことなら、いっそのことあの人が望んでいる通りに、俺が消えてしまえばいいのではないだろうか。

この胸の痛みもなくなり、楽になれる。

なら、どうやって消える?

できれば、あの人に消してもらうのが一番幸せなんじゃないかと、そんな考えが頭を過ぎった。

「それって、とても幸せだろうな・・・・」

愛する人の手で、眠ることができる。

どうやればいい?

どうしたら、その願い叶う?

あの人を、怒り狂わせれば大丈夫?

ああ、簡単ではないか。

ジャンに対しての危険物質になればいい。

あの人は、ジャンを守るためなら人を殺す。

だから、俺がその危険物質になればいい。

ポケットの中に入れていた、護身用の小型ナイフを取り出し再び店のほうに振り返えった。

あの人はまだ出てこない。

今がチャンスだ。

唯一の。

そして、その扉を開けた。

店内は先ほどと変わっていない様子で、あの人は店員と談笑している。

そして、赤い男は驚いた表情で俺のほうを見ていた。

俺は手に持っていたナイフをかまえ、「死ね!シンタロー!」とわざと大声を出しながら、赤い男の胸元めがけて走り始めた。

その後は、一瞬の出来事だった。


あの人の声が聞こえ、

  「シンタローッ!!」
      
閃光が当たりを支配し、

  「なっ!?」
      
赤い服の男が眼を大きく広げ、
      
   

俺は微笑み、
   

   
強い衝撃が体を襲った。


吹き飛ばされながら、あの人のほうに何とか視線を送り、そして・・・・


「ごめんなさい」


それだけを伝え、俺の意識はそこで途切れた。










次に意識が浮上したのは、体中からの悲鳴により無理やり意識が呼び起こされた最悪な状況の中でだった。

今、自分のおかれている状況を把握するため、視線を回りに向けると体の半分以上が瓦礫の下敷きになってしまっていた。

体のいたるところから、ちくちくとした痛みと、圧迫感のある痛みに悲鳴を上げている。

手も満足に動かすことのできないこの現状に、死んでいないことに対して残念に思う自分と、再びあの人に会うことができるかもしれない期待が入り混じり、複雑な感情が胸の中に渦巻いていた。

「気がついたか」

冷たい声が聞こえ、ゆっくりと視線を上に上げるとそこには、あの人がいた。

冷たい眼で俺を観察するあの人の後ろのほうで、周りにいる団の制服に身を包んだ男達に指示を出している赤い服の男。

絶望を感じることしかできない、その地獄のような光景に自然と笑みがこぼれた。

「残念です。とどめ、さしていただけないんですね」

何とか声に出してみると、かすれた声しか出ない。

あの衝撃で、声帯を強く打ったのかもしれない。

「死にたかったのかい?」

俺の問いに、あの人は冷たいその眼は変えないまま質問で返してきた。

「すいません、アナタの大切な人を傷つけようとして・・・」

ワザと、その問いには答えず謝罪の言葉を口に出した。

「何故、謝る。殺したかったのだろう。それとも、君は殺す目的ではなく暗殺を演じたのか?」

かすれて聞き取りにくいこの声を、あの人は聞き間違うことなく正確に聞き取ってくれる。

それが、嬉しくてどんなに体が悲鳴を上げても、この笑顔を崩すことができない。

それほどにも、嬉しいことなんだ。

「さあ?正直、俺にもわからないんです」

あの人は、俺がずっと笑顔でいることに疑問を感じているのだろう。

首をかしげ、そして眉間に皺を寄せている。

「何か理由があるはずだろう。私には、君は好青年と印象にのこっているんだがね」

ああ、なんて幸せなんだ。

目が熱くなってくる。

あの人には、今の俺が好印象だったと、記憶にとどめているという真実。

「俺は、今の俺は、貴方の記憶に残っていますか?」

あれだけ、俺を見ようとしてくれなかった、あの人が。

「ああ、私の記憶に微かだがのこっているよ」

生まれて始めて、『俺』を見てくれた。

「そっか、そっか・・・・ああ、よかった。本当に・・・・・・よかった」

嬉しくて。

嬉しすぎて。

涙が止まらなかった。

「よかったのかい?」

このまま、ここで苦痛を味わって死ぬことになるだろう。

だが、そんなことを忘れさせてくれる幸せなことが、今起きた。

「君は・・・・欲がないね」

どこか辛そうに笑いながら、あの人は少し視線をずらしてあの紅い服の男を一瞥すると、また俺のほうに視線を戻した。

「あそこで、あの紅い服を着ているのは、実はシンタローじゃないんだ」

瞳は、もう冷たい色をしていなかった。









「シンタローに似ている男が、代わりに勤めているんだ。ああ、ごめんね。まあ選別と言うことで聞いてくれないか?年寄りの、つまらない独り言だと思ってね」

悲しい瞳を携えて笑うその顔に、胸の奥が締め付けられて悲しくなってきた。

あの人は幸せではないというのに、俺一人だけが幸せを味わってしまった。

せめてものお礼に、俺はその話を聞く了承の意味を込めて頷いた。

「ありがとう。今あそこにいるのは、私がもっとも愛して続けて止まない男なんだ」

胸が痛み始めたが、その言葉を何も言わず聞き続けた。

「なぜ、シンタローの格好をしているのか?それが不思議だろう?」

訊ねられ、それに応えるべく小さく頷いた。

「シンタローはね、私が殺してしまったようなものなんだよ。あの子が生まれて、いままでずっと唯一無二なる愛しい存在だと思っていた。だが、あの子の髪の色がまだら模様になっていったとき、私の心は驚くほど冷めていった」

そこで、一旦言葉が途切れた。

「愛するための必要な条件が消えたシンタローは、正直・・・・私の行く手を阻む邪魔な存在だった。私が、若かれしころ愛した男が目の前に現れ、お互い愛し合っていたのだと知り、そして手に入れたくなる欲望が沸き立つそれを邪魔していたのが、シンタローの存在だった。あの子の存在なんて、所詮はダミーだと、私はそう思っていた」

それぐらい、もう気づいていたのに、あの人の口から直接聞いてしまうと、死ぬほど苦しくなって涙があふれ出て止まらない。

「あの子はね、そんな私でも愛してくれていたんだよ。何度も、何度も私に話しかけようと一生懸命に後を追いかけ、自分の存在価値が『髪の色』だということも知っていたんだろうね。それが消えてしまった後、私に謝罪の電話をしてきたりもした。だが、私はそれを無視し続け、避け続けた。――シンタローに、出来損ないと・・・・・オリジナルに劣るのかと、罵ってしまうだろう自分が、恐かった」

話していくうちに、段々と辛そうな表情になっていくあの人を、直視するのがつらい。

「ジャンと、違うものになっていったシンタローは、私にとって存在しなくても言い存在になるなんて、想像もつかなかったよ」

俺の話なんて、確かに死ぬほど苦しくなってしまうけど、もう過去のことだから。

「あの子は、私の前から姿を消した。キンタローに聞いたら、重い症状の病気で助かる見込みがないと聞かされ、安堵の息をついたのを覚えているよ」

過去の俺に囚われ続けている、あの人がとても可愛そうでしかたがなかった。

「ああ、これで私もあの子も解放されたってね。私は、最低な父親だったんだ」

そんなに、自分を罵らないで。

貴方は俺に、色々与えてくれた。

だから、そんな自分を嫌いにならないで。

「君がうらやましい。君のように、涙を流すことができれば、幸せなのかもしれない。だが、私は泣く事ができないんだよ」

苦しそうに、顔をゆがめるそんな姿を見るために俺はここにいるんじゃない。

少しでも苦しみから解放してもらいたくて、俺は笑って「変わりに俺が泣きます」とかすれた声で訴えた。

それに、あの人は少し笑ってくれた。

「あの子が出て行ったから、ジャンをシンタローとして置くことができた。普通にシンタローに接したとしても、怪しまれないからね」

自虐的な笑みを浮かべるその顔に、俺は自然と涙が流れ出ていた。

「本当は、あの子がいなくなってホッとした。嬉しかった。そして、楽だった。やっと、ジャンと愛し合えると・・・・だが、父親としてシンタローのことを思い出したとき、苦しかった。あの子が悩んで苦しんで、そして死が迫っていても私は親としてあの子に手を差し伸べることさえしなかった」

あの人は、そこでまた言葉を止め俺の前にしゃがみ込み、そして大きな手で俺の涙を拭ってくれた。

「・・・・・突き放すことしかできなかったんだよ、私は」

違う。

違うよ。

だって、貴方は今俺に手を差し伸べてくれた。

「・・・さて、そろそろ話は終わりにしようか・・・・。君はやはり、好青年だ。お礼に止めを刺してあげるよ」

立ち上がり、そして俺に手に平を向け構える。

「最後に、君の名前でも聞いておこう」

あの人は、どこかすっきりとした顔をしていた。

「こんな俺に、手を差し伸べてくれて・・・・ありがとうございます」

瞳は、とても温かい印象に変わっていた。

「おやおや、今から君を殺す人間にそれは無いだろう?」

さ、名前を言ってごらん。そう催促する声がとても優しかった。

俺が小さく頷くと、あの人の掌に光の球体が現れ、だんだんと大きくなっていく。

「俺の名前は・・・・・・」




      なまえ・・・・


      シンタロー?


      それは、俺に対して付けられた名前じゃない。


      じゃ、俺の本当の名前は?






「・・・・・名前なんて、ありません」

その言葉にあの人の方眉が少し動いた。

「ほう・・・・、面白いね。名前がないというのかい?」

光の玉は消え、構えていた腕も下ろされた。

俺は、何か可笑しなことを言ったのだろうか?

気を悪くさせてしまったのか?
「ということは、ご両親はいないのかな?」

その質問に、迷うことなく頷いた。

「そうかい。君はとても不思議な子だね。気が変わった。君を生かしてあげる」

唇に右手の人差し指を当てて、にっこりと笑うその顔は何かを企んでいる子供のよう。

純粋に、興味を引かれたから助けた、ただそれだけと受け取れる仕草。

「私の秘密を知ってしまったから、否応無しにガンマ団入りは決定だよ。さて、忙しくなるね・・・・、ああ、その前に君の名前だ」

先ほどの右手を顎に当て、うーんと考える素振りを見せるその姿も、どこか優雅に感じられるのは何故だろう。

「髪の毛がプラチナのようで、日の光に輝いて美しい。“シロガネ”ってのは、どうかな?」

この人のネーミングセンスのなさが、その容姿と反比例しとてもとても残念なのだが、折角『俺』に付けてくれた名前なので、ここはあえてつっこまず黙っていたほうがいいだろうな。

「・・・・・・・・・・ありがとうございます」

「いやいや、いいよ。シロガネ君。名前をつけるっていいね」

笑っているあの人の笑顔が、昔見ていたあの笑顔とダブル。

何故だろう?

この前まで見せていた笑顔より、とても生き生きしているように感じる。

もしかして、この人は名前を付けることで失ったと思っている『シンタロー』がいたポジションの、穴埋めにしようとしているのか?

それとも、ただ失ったことが悲しかったのか?

「さて、医療班に君を救出させないと・・・」

くるりと、軽やかに回れ右をし、スキップをしながらあの人はあの紅い服の男のところへ行った。

なにやら、コソコソと耳元で話し合っている。

そのうち、紅い男がまわりにいる団員に俺のほうを指差しながら、指示を出していた。

そんな姿を少し見た俺は、今まで下ろしていた視線を上に上げた。

空が青い。

結局のところ、俺は一体何者だったんだろうか?

シンタローでもなく、

あの人の子供でもなく、

あの人の恋人でもなく・・・・・


俺は代用品


青の番人の隠れ蓑。

そして、赤の番人の代用品。

小さく溜息を吐き、俺は瞼を下ろした。




     それにしても、あの人の考えてくることはさっぱり分からないな。





-第2部 完-

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