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そして、今日、基礎体力を取り戻すリハビリといった名目上の、ガンマ団案内ツアーと言うガイド1名、患者1名、医者1名という、参加メンバーを聞いただけではどこかの年寄りの観光旅行のように聞こえてしまう、変なツアーが決行された。

集合場所は、医療フロアの5階分吹き抜けロビーに設置された噴水の前。

デザインは・・・・あの大根・・・・

大根の頭から、水が飛び出す仕掛け。

とっても、不必要な物品がそこにあった。

気味の悪いオブジェ?が否応無しに視界に入ってきてしまう、この不快感を早く吹き飛ばすため、俺は早足でそのオブジェのふもとまで進んでいった。

集合場所に行くと、観光ガイドがよくきるようなピンク色のハッピを着て、その場所あの人がすでにいた。

「おはようございます」

「ああ、おはよう。よく眠れたかな?私は興奮しちゃって、眠れ無かったよ。お陰で今日が晴れるように、照る照る坊主を108個つくっちゃった」

おい、何故煩悩の数?

「108って、反対にすると801だよね。まるで都市伝説みたい108個の煩悩は反対にすると、801。この数字は実は腐女子の大好きな数だったのだ~」

黄色い旗をパタパタ振りながら、よう分からないことを熱弁するあの人をほっといて、近くにあった壁掛け時計に目をやった。

時間は、決められた集合時間5分過ぎたころ。

先ほどから気にはなっていたのだが、俺よりも先に集合場所に来ているはずの高松は、何故かいなかった。

時間厳守の人間だから、遅れてくるということはありえない。

「ドクターは?」

「腹痛で休むって言っていたよv」

即答で返されて言葉に、何も怪しさが篭もっていなかったのだが、俺はいた。

何せ、集合場所の壁に不自然なほどに大きな穴があいていたからだ。

この痕跡から見て、眼魔砲で高松が吹っ飛ばされたと予想される。

何故、吹っ飛ばす必要があったのかは、ここはあえて聞かないほうがいいだろう。

必要以上の情報提供の要求は、スパイだという容疑をよりいっそう高めてしまう判断材料になりかねない。

ましてや、聞かずとしても答えなど分かっている。

高松が、ジャンの悪口か何かあの人の癇に障ることをつい言ってしまったのだろう。

自業自得ともいえるので、同情なんてしてやらない。

「さあ、いこう!」

「え、あ・・・・はい」

何も知りませんといった風に、わざとらしいスキップをしながら、俺と手をつなぐあの人の横顔は、まるで純粋無垢の子供のように見えた。



「さて、ここは・・・」

すでに知り尽くしている団内だったが、あの人は知らないであろう俺のために丁寧に案内してくれる。  

「第3ブロック、事務仕事のフロアになるよ。特にこれといった特殊能力も無い普通の人がいるから、あまり刺激が無くてつまらないように見えて、事務処理のうでは特殊能力と言ってもいいほどの素晴らしさだよ」

自慢げに話すその言葉は、まるで自分の家族を自慢しているかのように聞こえた。

「大切な、仲間なんですね」

自然と口から出た言葉に、あの人は嬉しそうに頷いた。

「ああ、みんな家族みたいなものだよ」

そして、君もね・・・・・

優しくとても暖かみのある微笑を浮かべながら、そんなことを言いのけたあの人の顔をそのまま見ることができず、俺はつい目を逸らしてしまった。

「お、俺は・・・・」

何とか平静を取り持ち、言葉を続けようとするのに声は異様なほど震えてしまい、まるで蛙の鳴き声のような変な言葉になってしまっている。

「君も、大切な家族だよ」

頭に心地よい重みが加わった。

視線をあの人に戻すと、俯き加減だった俺の頭にあの大きな手が乗っかっていた。

つい視線を合わせてしまうと、あの人は自愛に満ちた笑みを俺に与えてくれた。

このままでは、いけない。

そんな警告音が鳴り響く中、暖かいその手の感触につい目を閉じてしまった。

「とても大切な、家族だよ」

目頭が熱くなる。

絶対このままだと、泣いてしまう。

泣いてはダメだと、何度も自分に言い聞かせても、俺が望んでいたその言葉に体は言うことを聞いてはくれなかった。

ずっと、ずっと、言って欲しかった。

「お前は、私の大切な家族だよ」


その言葉を。


その後、手をひかれながら色々な箇所の案内を受け、全体のほんの10分の1ぐらいを回ったとき、あの人が「休憩しよう」と、近くにあったリフレッシュルームにほぼ無理やりとも言えるぐらい、腕を強く引っ張り俺をそこへ連れ込んだ。

そこにはすでに、数人の団員が談笑をしており、急に入ってきた俺たちを見た途端起立をし、背筋をぴんと伸ばし敬礼をした。

それは誰にむけてしたのかは一目瞭然で、団員達の視線はあの人にしか向いていなかった。

「ああ、すまないね。座りなさい、私たちのことは気にしなくていいよ」

「イエッサー!」

軽く手を上げて座るように指示を出すと、彼らは大きな声を上げその指示に従った。

先ほどまで座っていた先に座ると、まるで俺たちがここにいないかのように先ほど途中で止まってしまった話を再開させ、談笑し始めた。

そのうちの2人ぐらいは、すこし俺に視線を向けていたが特に驚いた素振りなど一切見せず、話をしている団員のほうに視線を戻していた。

ここの団員に俺は、いったい誰に見えたのだろう。

シンタロー?

もし俺の顔をじっくり観察する暇があったら?

多分、シンタローに似ていると誰かが気がついたとしても、つけているものの印象が強いためか、なんとなく似た人がいると受け止めてもらえるだろう。

病室から出るとき高松が「何も見えないといけませんので」と、機転を利かした嘘で俺に渡してくれた、新しい眼鏡。

何せ、あの人に素直に手を引かれているシンタローなんてありえないのだから、その可能性なんてあっさりと消えてしまうに過ぎない。

では、俺は誰に見えるのか?

あの人がたまたま気まぐれで拾った男?

そのほうがしっくり来るかもしれない。

たまたま、シンタローに似ている男を間男にしたと考えるほうが無難だろう。

それならば、シンタローとしてここで働いていたとき何度も感じた痛みを、一切受けることが無くてすむのだろう。

何せ、一族の色に縛られない俺が今ここにいる。

今のこの髪の毛が、俺の色だと認められたということか。

それは、初めてのことかもしれない・・・・

ああ、俺は何を考えているんだ。

そんなことなど今更気にしても、今の俺にはあまり関係が無いことかもしれない。

あの人が、俺に名前を与え一個人として見てくれ、家族と言ってくれたこの事実が俺をここに存在させる意味になっている。

だから、悲観的になるな。

今の俺は、幸福の渦に飲み込まれかけているのではないのか?

そんなことを考えながら、俺はつい声を出さず苦笑してしまった。

「ん?何か面白いことでもあったのかい?」

「いえ・・・、人の愚かさについて少し考えていただけです」

自販機でコーヒーを選ぶため俺に背を向けていたというのに、気配で何をしているのか、どんな表情なのか読み取ってしまうとは、やはりこの人の引退は早すぎたのかもしれない。

「それは由々しき問題だね。私といるときは、私のことだけ考えなさい」

その声音は、少し厳しいものが感じられた。

圧倒的は支配力を持つその声に、俺は逆らえる術などなくただ「承知しました」と頷くだけだった。

一息ついた後、再会した案内ツアーは順調に進んでいた。

何気ない会話で、代わり映えの無い団内を歩き回る俺が飽きないように、一つ一つの場所での逸話や、面白い出来事を聞かせてくれる気配りが伺えた。

昔は、やることされることに過剰に反応し、反発してしまっていたため、こういった側面で見ることなんてできなかった。

今、他人として接してみて始めて分かった。

この人は、本当の紳士であり、そして世渡り上手なのだと

「ところで、今夜の食事は私が作ろうかと思うんだけど、何か好きな食べ物いってごらん」

たまに他愛無い会話がでるのも、緊張しているだろう俺をリラックスするためなのだろう。

「そうですね、嫌いなものは特に無いんですが・・・・好きなものは・・・・」

ここで正直にカレーだと答えたい。

だけど、そんなことをしたらばれてしまう。

だから、軍人らしい答えを探し出そうとした。

「カレーは好きかい?」

「・・・・ええ」

質問された内容に、少々戸惑いながらも違和感の無いように勤めて返事を返す。

すると、「へぇ、そうか。やっぱり、そうなんだ。皆カレーが好きだよね。今日は頑張って作るぞ」と、一人気合を入れながらあどけない笑顔でよく分からないポーズをとっていた。

その姿が面白くて、つい噴出してしまった。

「ん?何か面白いことでもあった?」

「いえ、お気に為さらずに」

本当に子供のようにあどけない笑顔で笑うこの人が、ほんの数年前までは色々な戦況下で残酷な策略により人の命を弄んでいたなんて、想像もつかない。

それは誰のお陰なのか?

コタローが帰ってきて、そしてジャンが手に入ったお陰なのだろう。

そこに、俺の存在は必要なかったはずだ。

だから、俺がいなくなったと知っている今でも、この人はこんなに明るく笑うことができる。

俺という、『荷物』が消えたお陰で。


「な~にしてんだ、このクソ親父っ!! 今日は講演会があるって言ってたくせに、なにこんなところをほっつき歩いてんだ!!」

切羽詰ったような叫ぶ声が、廊下の壁に響き渡り、すこしエコーがかかったように聞こえた。

その声は、少し前聞いたあいつの声で、俺は恐る恐る声のした方へ振り返った。

まっすぐ伸びた廊下の向こうから、真っ赤な軍服に実を包んだジャンが長い髪をなびかせながら歩いてきた。

「おや、そんなに息を切らしてどうしたの?」

あいつと目が合う寸前に、あの人が俺の前に出て肩をすくめながら、おどけた口調で返した。

「だから、何故ここにいるかって・・・・・・あ? 後ろにいる奴って・・・」

あの人の肩ごしから、わずかに見えるジャンの眉間に、皺が寄よっていた。

「この子は、新しい私の秘書のシロガネ君だよ」

ジャンから、俺を隠すかのようにして紹介する。

紹介の意味が全くない気もするんだが、そこは黙っておこう。

「顔、みえねーんですけど?」

最もな、ジャンの意見にあの人は小さく溜息を吐いた。

「分かっているくせに。私の秘書だし、見る必要も無いだろう?」

その声色はどこか、シベリアの真冬のように凍てつく冷たさを感じさせるようなものだった

「勝手に決めんな。人事権限のあるのは、俺なんだよ!」

「このことに関しては、範囲外だろう?」

ジャンの言葉に、即座にあの人が返す。

表情は全く見えないが、ジャンの表情が、少しこわばったように見受けられた。

俺が、何かまずいことでもしてしまったのだろうか?

「マジック様、私がお邪魔のようですので下がらせていただきます」

今後あの人に仕える身としては、これ以上この二人の仲を邪魔するようなことをしてはいけないだろう。

ここは、己のみを引くべきだと考えあの人に申し出たのだが、「いや、大丈夫。向こうで話してくるから、君は少しそこで待っていなさい」と返ってきてしまった。

「はい」

こんな風に言われてしまったら、俺は素直に返事をし、二人の様子を見送るしか道がない。

二人の動向を見守るかのように眺めていると、あの人がジャンに近づきなにやら耳元で話をした後、二人はそのままどこかに行ってしまった。

その小さくなっていく背中を見つめたまま、俺は命令どおりその場所で待つことにした。

一人残された廊下は、白を基調とした綺麗な色合いの壁だというのに、閑散とした今はただ寂しさをより一層強調しているかのように感じる。

唯一つ救いなのは、ここの通路には大きな窓が続いていることだ。

そこから見える外の景色を眺めながら、時間を潰すことを考え窓へ近づいた。

太陽の光が体に注がれ、暖かいそこに少し安堵の息を漏らし地上を見下ろした。

そこから丁度見えるのは、ガンマ団の訓練用グランドだ。

昔、何度もこの廊下を通ったことがあったが、その時グランドに少し目をやるぐらいでそのまま通り過ぎていた。

今、立場が変わり改めてこの景色を眺めてみると、前とは違った印象を受けることができる。

グランドでは、懸命に組み手で汗を流す者、障害物をいかに早く抜けることができるか訓練をする者、各々自分に見合った訓練方法で鍛錬するその光景は、生き生きとした輝きに満ちていた。

その時、ふと考えた。

俺は、生き生きとした輝きを持っているのだろうか?

それは俺が判断できるものではない。

他人が見て判断することだ。

そして、小さく息を吐いた。




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