「シンちゃん!パパ、シンちゃんがいて幸せだよッ!!」
俺がまだ小さい頃から、親父が呪文のように繰り返してきた言葉。
幸せ…
幸福…
俺は幸福なのか?
今、幸福なのだろうか?
たぶん…
いや、絶対違う。
それじゃあ、
幸福とは何か。
俺はそれを考えると、つい、今とはかけ離れた生活が幸福だと思い込んでしまう。
自分と同じ髪の色の父親と母親に囲まれて、平凡な家庭で暮らして、ありきたりな高校に通って、そしてどこにでもいるような女の子と恋愛をする。
それを強く望んだとしても、俺は罪に問われないだろう。
しかし、それさえも俺には高望み。
叶うことはないのだから。
そう、諦めていた。
しかし、コタローが生まれ俺の生活は望む方向へと急激に変わっていった。
「コタローは、全てを持って生まれてきた。シンタロー、私の言いたいことは分かるだろう?……今日からお前は、高松の養子になる。いいね?」
親父から言われたその一言で、その日から俺はガンマ団総帥マジックの息子から、マッドサイエンティスト・ドクター高松の養子となった。
出来損ないの俺からにしてみれば、あの変わった一族から離れることができる。
自分の容姿を気兼ねすることなく生活ができるということに、今までのモノ苦しい気分から解放され清々した気分だ。
望んでいた方向に、世界が進む。
嬉しかった。
ただ、弟のコタローをこの腕で抱けなかったのが心残りで…。
けど、あの一族にとっても、一族のものを受け継ぐ正当な後継者が生まれてきたことで、何も持たない俺が一族を出ることはいいことだろう。
一族の物など何一つ、持たずに生まれた俺はただの不要な物。
大好きな伯父さんと、一緒に修業し、苦しさに耐えて習得したこの眼魔砲はもう使わない。
俺は、もうあの一族ではないのだから。
「まじかよッ!?そん時コージがやらかしたのかァッ!?」
「本当だっちゃ!」
「おぬし、内緒じゃとゆうとったのにッ!!」
ガンマ団本部の廊下を、コージ、俺、トットリの三人で話ながら歩いていた。
あれ以来、俺の近況が変わってしまったせいなのか、以前にもまして話相手が増えた。このトットリ、コージもそのうちの一人だ。
他に、ミヤギって奴もいるが今は遠征中でここにはいない。
あと、三日くらいしたら帰ってこれそうだと昨晩メールが入ってきてたから、もう暫らくしたら仲間内で酒盛りなんかをして日頃の憂さ晴らしができる。
「ミヤギも、あと三日くらいで帰ってこれそうだって言ってたからな、帰ってきたら飲み会でもするかッ?」
「オウッ!!」
「賛成だっちゃわいやッ!!」
友の帰還を祝ったり、大騒ぎできたり、こんなに自由の利く生活は俺の人生で初めての経験だ。
人生が楽しいと感じれることは、あの一族の時には味わえなかった経験だ。
これが幸福なのだ。
「お、ドクターじゃ」
コージが、俺等の向かう方向から来る人影を指差す。それは、俺の父親になった、ドクター高松その人だった。
「ここにいたんですか、シンタローさん」
「義父さん。何か、俺に用?」
俺は高松の事を義父さんと呼び、義父さんは俺のことをシンタローさんと呼ぶ。
「施設内では、ドクターと呼んでください」
笑いながら言われた。
「yes shir!」
それに対して、おどけて返事を返すと、やれやれと言った表情の義父さん。
「まったく、あなたって人は…おもしろいですね。―私は今夜、総帥と話し合いがあるので遅くなります。夕飯は…できれば、シンタローさん、あなたの好きなカレーにしてもらえますか?冷めても美味しい奴をお願いしますよッ?」
優しい暖かい笑みで、今日の夕飯メニューを言われると、断れるわけがねぇ。
「まかしといてよ、義父さん」
まかせましたよと言って、義父さんは俺たちとすれ違って歩いて行った。
「僕、あんな風に笑うドクターの顔初めて見たっちゃッ!!」
「ワシもじゃッ!!」
「そうかぁ?」
大騒ぎするトットリとコージ。
それが、何故か嬉しかった。
多分、自分しか知らない、義父さんがいることが。
暗い部屋の中。
あの子がいなくなって、光が消えた部屋。
こんな暗い部屋には、幸せなど微塵の欠けらもない。
シンタロー、お前はそう言うんだろうね。
私もその意見に賛成だよ。
お前ただ一人がいないと、こんなにも寂しくて、心が寒くなるとは思わなかった。
「―以上が、一週間の報告です」
手元に置かれた種類に書かれてあることを、高松が延々と話していたがやっと終わった。
彼の報告が恨めしい。
この種類の添付されている写真には、私に一度も見せなかった表情を作るお前が、少し憎いよ。
「…ほう、随分と楽しんでいるようだね。高松」
「そんなことは…」
否定の言葉など無意味だよ。
「私には、お前があの子を手中にいれたことで、大層楽しんでいるように見えるが?それとも、私の買いかぶりかい?」
ああ、憎いよ。
高松の給料減給しよう。
ああ!そんなことしたら、高松に毎月渡している『シンちゃん養育費』を使われてしまうッ!!
う~ん。
あとで、呪いでもかけてやろうか?
まぁ、高松の気持ちも分からないわけではない。
無意識のうち、自然と曳かれていったのだろう。
私のようにね。
あの子は、そういう子だ。
「…そんなっ」
「…あと数年、あの子に低俗の幸せを味あわせるといい。偽りの幸福をね…」
シンタロー、本当の幸せはここにある。
「…はい」
私のこの手のなかに。
「さて、私は行くよ。あの子に、愚民と我ら一族との身分の違いを弁えさせないといけないからね」
だから、君は暫らく研究所にでもいるように。そう言い残して去ろうと思っていた。
「………」
だが、高松に注意しておかなければ。
勘違いをして、馬鹿な行動に出ないように釘をささないとね。
「ああ、高松。いい忘れていたことがあったよ」
「何か?」
「あの子は、外見こそ違うが青い秘石の一族だ。くれぐれも、買い被らないことだ」
「ッ!!」
ほら、やはりね。
情よりも、愛情が芽生えはじめていたか。
「それだけだ」
そう、誰が何といおうがシンタローは私の息子なのだから。
息子は一人でいい。
そして、シンタローの家族は私一人だ。
義父さんは、夜の11時を過ぎても帰ってこなかった。
総帥であるマジックへの定期報告なんて、精々小一時間あれば済むはず。
今日は会議が入っているとは何も言っていなかったし、もし緊急会議が入ったと言ってもマジックの独断で短時間に終わるのは目に見えている。
遅くなるとは言っていたが、まさかここまで遅くなるとは思ってもいなかった。
「遅いな…、先に寝よっかな」
俺は、濡れた髪からしたたる雫を乾いたタオルで雑に拭き取り、自室に向かった。
布団の中に入る。しばらくして眠りに就いた。
時計の針が、夜中の1時を指したとき、リビングの方から人の気配を感じ、目が覚めた。
訓練でそうたたき込まれていた俺は、起き上がり義父さんとは違うがどこか覚えのある気配に、頭の中で知り合いの顔とその気配を合わせてみるが、該当するものはいなかった。
ただ一人、思い当たる。
いや、ありえない。
軽く頭をふり自分の考えを否定する。
誰なのか考えながら、サイドテーブルの引き出しの中から掌サイズのナイフを取出す。
気配を消して、リビングに通じれるドア横の壁に張り付くように立ち構えた。
どうやら、リビングにいるのは一人のようだ。
しばらくして、その気配が消える。
出ていったのか確認しようと、ドアノブに手を掛けようとしたその時、急にドアが開いた。
反射的に、その相手の喉元にナイフをあてた。
「真夜中の客人に対して、不粋な挨拶だね」
「ッ!!」
そこに居たのは敵ではなく……。
「心身共に愛し合った私に対して、無礼だよ」
―そこに居たのは、黙ればナイスミドル、喋れば変態で、ぷぅと頬を膨らませてはいるが、自分を捨て高松の養子に出した張本人、ガンマ団総帥、…マジックだった。
変なこと言っているが、そこは無視ッ!!
前みたいに、眼魔砲ブッぱなせねえし。
つうか、こいつは相も変わらず真っ赤なブレザーを着て…だせぇ。
しかも、片手に俺の人形持ってるしよ。
大の大人が気持ち悪いぞ。
「…あっッ!!総帥、申し訳ございませんッ!!」
なんか色々考えていた俺は、なんとか正気に戻れた。
直ぐ様ナイフを下ろし頭を下げた。
そういえば、こんな無礼をこの男にはたらけば、謝ったとしても無事では済まない。
ああ、俺、死ぬのかな?
「シンちゃん、パパとセックスしようか?」
死んだほうがましだあぁッ!!
「そ・う・す・いッ!!何か御用ですか?御覧のと・お・り、お・と・う・さ・ん、…ドクター高松は現在不在です」
愛想のよい笑顔で、あいつの問い掛けに無視してやった。
「もう、はぐらかして。それぐらい、しっているよ」
やっぱ、あんたの陰謀かッ!!
ちなみに、義父さんの養子になってから、こいつに会う度に俺は敬語を使っている。
強要されたわけではないが、こいつの息子じゃ無くなったんだと自分に言い聞かせるため、こいつとの間を実感できるように喜んで使っている。
「今日はね、確認のためにきたんだ。…今、シンちゃんは私の息子ではないんだよ」
何を言い出すかと思えば、それかよ。
「承知しております」
業務的な答え方になってしまうが、まぁ相手は上司だしいいか。
うざいけど。
「…不本意だけどね、今は高松の息子なんだよねぇ~。あ、それだったらセックスしても親子じゃないから、いいよねッ!?」
「その通り、俺は高松の息子ですッ!!因みに、男同士は非生産的ですから、お断わりしますッ!!」
馬鹿みてぇ。
「血は繋がっているから?けど、私のここはお前の中じゃないといけないんだよッ!!」
「おめでとうございますッ!!よかったですね、総帥!勝手に秘書とやって逝っちゃってくださいッ!!」
愛想笑い、5割り増し。
「ああ、もう、シンちゃんがセクシーだから、用事を忘れるところだったよッ!!」
俺のせいにするなッ!!
つうか、股間をおったてて近寄ってくるなッ!!
「私は、今のお前を後継者とは認めん」
お、まとも!
けど、まだ立ってる。
後継者云々?
そんなこと、知ってるよ。
「喜んで、肝に命じております」
昔から、俺はあんたの子ではなかったと思ってるから、安心しろ。
「くすん、シンちゃんの意地悪。私の総帥としての用事はそれだけだ…」
そういって、あいつは去っていった。
ガッツポーズを心の中で決める俺。
その時、風がふわりとマジックからカレーの匂いがした。
「え?」
その匂いは市販のカレーではなく、団員用食堂で出されるカレーでもない。
紛れもない、俺の作ったカレーの匂いがマジックからしたのだ。
何故?
マジックが出ていくのを確認し、キッチンの方に向かった。
しかし、そこには予想していた洗ったばかりの皿やスプーン等はなかった。
やっぱ、俺の気のせい……ああ、カレーの鍋がない!
捜し回っても、どこにもない。
盗られた。
カレー泥棒ッ!!
…そういえば、マジックの言葉のニュアンスが気になる。
“今”
もしかして…
まさか…
時がくれば戻ると?
体が歓喜で震えだす。
「父さん…」
本当は、あんたをこんなにも、ブン殴って、眼魔砲をブッぱなしてやりたいんだ。
俺は震える自分の体を抱き締め……られた。
「シンちゃん~、もう、意地っ張りなんだから。パパとしたいんだったら、正直に言ってよ!」
「ギャーッ!!あんた、出ていった筈じゃッ!!??」
ずるずる俺の部屋に引きずられて行くッ!!
やばいぞッ!!
このままでは、確実に掘られるッ!!
「…放せぇッ!!いやだぁッ!!」
ジタバタ暴れても、逃げれないッ!!
そうこうしている内に、ベッドの上に押し倒された。
しかも、物凄い速さで裸にされちゃうし。
親父も、やる気満々で裸になってるし。
ああ、やばいよッ!!
「シンタロー…お前を抱きたい」
「……挿入したら、ブッ殺す」
睨んでみたりしてみる、弱い俺。
「………挿入しないと、パパ、イケないよッ!!」
ああ、耳元で不吉なことを喋るなッ!!
逃げ出したい。
「今は生理中だから、やめろ」
うわぁ、だからって俺としたことがばればれな嘘をついてんなぁ。
切羽つまっているから、しかたないか。
親父はなんか、指折りで数を数え始めてるし。
まさか…
「じゃ、後十日ぐらいしたらしてもいい?パパ、シンちゃんの子供の顔みたい…」
「マジで受け取るなぁッ!!この、クソ親父ッ!!」
「ええッ!!何でッ!?パパ、シンちゃんとパパの子供作りたいんだよッ!!シンちゃんは、どうなの?イヤなの?」
って、どこ触っているんだッ!!
「…ぁッ!!」
やべ。そこ、弱いのに…。
「いい?」
乳首とケツの二点同時攻めは、反則だろッ!!
「あ…イ‥イぃ、ひゃあぁんッ、父…さん、そこイイの…」
あ、やばい。
何も、考えれねえ。
「挿入しても、いい?」
耳元の声が気持ちイイ。
「うん、イッパイほし…いの…ちょ、だい…」
「あげるよ。さぁ、力を抜いて…」
ああ、眩しい。
もう、朝?
やだ、まだ朝日はいらない。
「あっ…だめぇっも、おな…か‥イ‥パイあ…、あぁんッ!!」
「シンタロー、あとちょっとだけ…ね?」
そう言って、あんたが俺を放したことねえじゃんか。
「ほら、シンちゃん、パパを見て…いくよ…」
俺もあんたを放す気はないのかもしれない。
「っああぁッ!!」
「くっ」
何か、このぼやけた思考の時、あんたのそんな声を聞くとすっごくうれしくて、ああ、自分があんたをそんな風にさせたんだって、涙出るくらい嬉しい。
「あっ…」
あんたがそれを、俺の中から抜いた時も淋しいが嬉しいんだ。
だけど、あんたは俺を捨てたんだよね。
「シンちゃん、そろそろパパとお風呂に入ろうか?」
体がシンちゃんのでがびがびだよと、あんたは笑って俺に手を差し伸べて、優しくしすぎる。
「…っぅ」
さっきとは違う涙が溢れてきて、あんたを驚かしてしまうって知っていけど、だけど止まらないんだ。
結局、あんたは俺を捨てたんだ。
「シンちゃん、大丈夫?痛かった?」
あっちこっち触るあんたの手を、軽く自分の手で制止して俺は顔を上げた。
「総帥、満足していただけましたか?」
俺は、一般隊員だから。
総帥に対して、今までのような態度とれないだろ。
「シンちゃん…」
「…っぅ…」
ああ、もう、何だよ。
何でこんなに、涙が出るんだよ。
「ごめんね、ごめんね、シンちゃん。お願いだから、泣かないでおくれ」
優しく抱き締めんなよ。
あんたが何をしたいのか、さっぱり解んねえよ。
「二人でいるときは、パパと呼んでよ。私だってお前と離れるのは、すごく辛いんだよ」
もう少し我慢してねって、あんたはその大きな手で俺の頭を優しく撫でる。
「わかった…」
「シンちゃん」
「だから、カレー返せ」
「……」
何とも言えない沈黙が辺りを漂い始めた。
「ははは、イヤだなぁ!ダメだよ、あれはもう私のだから返さないよッ!!」
ウインクして誤魔化すなッ!!
「やっぱり、あんたが犯人かッ!!」
「パパ、知らないも~ん!」
それよりもお風呂と、暴れる俺を抱き上げて、備え付けのお風呂にむかい始めた。
「ちょっと待てよッ!!あんたと入ったら…」
「私と入ったら?」
にこやかに笑うなッ!!
「挿入ってくるだろッ!!」
「当たり前だよ!」
ああ!
やっぱりッ!!
最低ッ!!
って、あれ?
こいつ、俺は一般隊員だから総帥命令でも使って、好きなようなできるっていうのに、さっきから職権を利用しようとはしない。
あんたにとっては、俺はまだあんたの息子なんだよな?
そう思ってもいいんだよな?
「シンちゃん、どうしたの?そんなに、パパに甘えちゃって…」
少しぐらい、あんたに腕を回して甘えても…
「父さん…」
罪にはならない?
「……って、何、おっ立ててんだよッ!!」
「だって、シンちゃん、すっごく素直で可愛いんだもんッ!!」
こいつに少しぐらい、甘えようとした俺がバカだったッ!!
「いっぺん、死んでこいッ!!眼魔砲ッ!!」
ドカンッ!!
「あ…。やべ。使わないようにしてたのになぁ」
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俺がまだ小さい頃から、親父が呪文のように繰り返してきた言葉。
幸せ…
幸福…
俺は幸福なのか?
今、幸福なのだろうか?
たぶん…
いや、絶対違う。
それじゃあ、
幸福とは何か。
俺はそれを考えると、つい、今とはかけ離れた生活が幸福だと思い込んでしまう。
自分と同じ髪の色の父親と母親に囲まれて、平凡な家庭で暮らして、ありきたりな高校に通って、そしてどこにでもいるような女の子と恋愛をする。
それを強く望んだとしても、俺は罪に問われないだろう。
しかし、それさえも俺には高望み。
叶うことはないのだから。
そう、諦めていた。
しかし、コタローが生まれ俺の生活は望む方向へと急激に変わっていった。
「コタローは、全てを持って生まれてきた。シンタロー、私の言いたいことは分かるだろう?……今日からお前は、高松の養子になる。いいね?」
親父から言われたその一言で、その日から俺はガンマ団総帥マジックの息子から、マッドサイエンティスト・ドクター高松の養子となった。
出来損ないの俺からにしてみれば、あの変わった一族から離れることができる。
自分の容姿を気兼ねすることなく生活ができるということに、今までのモノ苦しい気分から解放され清々した気分だ。
望んでいた方向に、世界が進む。
嬉しかった。
ただ、弟のコタローをこの腕で抱けなかったのが心残りで…。
けど、あの一族にとっても、一族のものを受け継ぐ正当な後継者が生まれてきたことで、何も持たない俺が一族を出ることはいいことだろう。
一族の物など何一つ、持たずに生まれた俺はただの不要な物。
大好きな伯父さんと、一緒に修業し、苦しさに耐えて習得したこの眼魔砲はもう使わない。
俺は、もうあの一族ではないのだから。
「まじかよッ!?そん時コージがやらかしたのかァッ!?」
「本当だっちゃ!」
「おぬし、内緒じゃとゆうとったのにッ!!」
ガンマ団本部の廊下を、コージ、俺、トットリの三人で話ながら歩いていた。
あれ以来、俺の近況が変わってしまったせいなのか、以前にもまして話相手が増えた。このトットリ、コージもそのうちの一人だ。
他に、ミヤギって奴もいるが今は遠征中でここにはいない。
あと、三日くらいしたら帰ってこれそうだと昨晩メールが入ってきてたから、もう暫らくしたら仲間内で酒盛りなんかをして日頃の憂さ晴らしができる。
「ミヤギも、あと三日くらいで帰ってこれそうだって言ってたからな、帰ってきたら飲み会でもするかッ?」
「オウッ!!」
「賛成だっちゃわいやッ!!」
友の帰還を祝ったり、大騒ぎできたり、こんなに自由の利く生活は俺の人生で初めての経験だ。
人生が楽しいと感じれることは、あの一族の時には味わえなかった経験だ。
これが幸福なのだ。
「お、ドクターじゃ」
コージが、俺等の向かう方向から来る人影を指差す。それは、俺の父親になった、ドクター高松その人だった。
「ここにいたんですか、シンタローさん」
「義父さん。何か、俺に用?」
俺は高松の事を義父さんと呼び、義父さんは俺のことをシンタローさんと呼ぶ。
「施設内では、ドクターと呼んでください」
笑いながら言われた。
「yes shir!」
それに対して、おどけて返事を返すと、やれやれと言った表情の義父さん。
「まったく、あなたって人は…おもしろいですね。―私は今夜、総帥と話し合いがあるので遅くなります。夕飯は…できれば、シンタローさん、あなたの好きなカレーにしてもらえますか?冷めても美味しい奴をお願いしますよッ?」
優しい暖かい笑みで、今日の夕飯メニューを言われると、断れるわけがねぇ。
「まかしといてよ、義父さん」
まかせましたよと言って、義父さんは俺たちとすれ違って歩いて行った。
「僕、あんな風に笑うドクターの顔初めて見たっちゃッ!!」
「ワシもじゃッ!!」
「そうかぁ?」
大騒ぎするトットリとコージ。
それが、何故か嬉しかった。
多分、自分しか知らない、義父さんがいることが。
暗い部屋の中。
あの子がいなくなって、光が消えた部屋。
こんな暗い部屋には、幸せなど微塵の欠けらもない。
シンタロー、お前はそう言うんだろうね。
私もその意見に賛成だよ。
お前ただ一人がいないと、こんなにも寂しくて、心が寒くなるとは思わなかった。
「―以上が、一週間の報告です」
手元に置かれた種類に書かれてあることを、高松が延々と話していたがやっと終わった。
彼の報告が恨めしい。
この種類の添付されている写真には、私に一度も見せなかった表情を作るお前が、少し憎いよ。
「…ほう、随分と楽しんでいるようだね。高松」
「そんなことは…」
否定の言葉など無意味だよ。
「私には、お前があの子を手中にいれたことで、大層楽しんでいるように見えるが?それとも、私の買いかぶりかい?」
ああ、憎いよ。
高松の給料減給しよう。
ああ!そんなことしたら、高松に毎月渡している『シンちゃん養育費』を使われてしまうッ!!
う~ん。
あとで、呪いでもかけてやろうか?
まぁ、高松の気持ちも分からないわけではない。
無意識のうち、自然と曳かれていったのだろう。
私のようにね。
あの子は、そういう子だ。
「…そんなっ」
「…あと数年、あの子に低俗の幸せを味あわせるといい。偽りの幸福をね…」
シンタロー、本当の幸せはここにある。
「…はい」
私のこの手のなかに。
「さて、私は行くよ。あの子に、愚民と我ら一族との身分の違いを弁えさせないといけないからね」
だから、君は暫らく研究所にでもいるように。そう言い残して去ろうと思っていた。
「………」
だが、高松に注意しておかなければ。
勘違いをして、馬鹿な行動に出ないように釘をささないとね。
「ああ、高松。いい忘れていたことがあったよ」
「何か?」
「あの子は、外見こそ違うが青い秘石の一族だ。くれぐれも、買い被らないことだ」
「ッ!!」
ほら、やはりね。
情よりも、愛情が芽生えはじめていたか。
「それだけだ」
そう、誰が何といおうがシンタローは私の息子なのだから。
息子は一人でいい。
そして、シンタローの家族は私一人だ。
義父さんは、夜の11時を過ぎても帰ってこなかった。
総帥であるマジックへの定期報告なんて、精々小一時間あれば済むはず。
今日は会議が入っているとは何も言っていなかったし、もし緊急会議が入ったと言ってもマジックの独断で短時間に終わるのは目に見えている。
遅くなるとは言っていたが、まさかここまで遅くなるとは思ってもいなかった。
「遅いな…、先に寝よっかな」
俺は、濡れた髪からしたたる雫を乾いたタオルで雑に拭き取り、自室に向かった。
布団の中に入る。しばらくして眠りに就いた。
時計の針が、夜中の1時を指したとき、リビングの方から人の気配を感じ、目が覚めた。
訓練でそうたたき込まれていた俺は、起き上がり義父さんとは違うがどこか覚えのある気配に、頭の中で知り合いの顔とその気配を合わせてみるが、該当するものはいなかった。
ただ一人、思い当たる。
いや、ありえない。
軽く頭をふり自分の考えを否定する。
誰なのか考えながら、サイドテーブルの引き出しの中から掌サイズのナイフを取出す。
気配を消して、リビングに通じれるドア横の壁に張り付くように立ち構えた。
どうやら、リビングにいるのは一人のようだ。
しばらくして、その気配が消える。
出ていったのか確認しようと、ドアノブに手を掛けようとしたその時、急にドアが開いた。
反射的に、その相手の喉元にナイフをあてた。
「真夜中の客人に対して、不粋な挨拶だね」
「ッ!!」
そこに居たのは敵ではなく……。
「心身共に愛し合った私に対して、無礼だよ」
―そこに居たのは、黙ればナイスミドル、喋れば変態で、ぷぅと頬を膨らませてはいるが、自分を捨て高松の養子に出した張本人、ガンマ団総帥、…マジックだった。
変なこと言っているが、そこは無視ッ!!
前みたいに、眼魔砲ブッぱなせねえし。
つうか、こいつは相も変わらず真っ赤なブレザーを着て…だせぇ。
しかも、片手に俺の人形持ってるしよ。
大の大人が気持ち悪いぞ。
「…あっッ!!総帥、申し訳ございませんッ!!」
なんか色々考えていた俺は、なんとか正気に戻れた。
直ぐ様ナイフを下ろし頭を下げた。
そういえば、こんな無礼をこの男にはたらけば、謝ったとしても無事では済まない。
ああ、俺、死ぬのかな?
「シンちゃん、パパとセックスしようか?」
死んだほうがましだあぁッ!!
「そ・う・す・いッ!!何か御用ですか?御覧のと・お・り、お・と・う・さ・ん、…ドクター高松は現在不在です」
愛想のよい笑顔で、あいつの問い掛けに無視してやった。
「もう、はぐらかして。それぐらい、しっているよ」
やっぱ、あんたの陰謀かッ!!
ちなみに、義父さんの養子になってから、こいつに会う度に俺は敬語を使っている。
強要されたわけではないが、こいつの息子じゃ無くなったんだと自分に言い聞かせるため、こいつとの間を実感できるように喜んで使っている。
「今日はね、確認のためにきたんだ。…今、シンちゃんは私の息子ではないんだよ」
何を言い出すかと思えば、それかよ。
「承知しております」
業務的な答え方になってしまうが、まぁ相手は上司だしいいか。
うざいけど。
「…不本意だけどね、今は高松の息子なんだよねぇ~。あ、それだったらセックスしても親子じゃないから、いいよねッ!?」
「その通り、俺は高松の息子ですッ!!因みに、男同士は非生産的ですから、お断わりしますッ!!」
馬鹿みてぇ。
「血は繋がっているから?けど、私のここはお前の中じゃないといけないんだよッ!!」
「おめでとうございますッ!!よかったですね、総帥!勝手に秘書とやって逝っちゃってくださいッ!!」
愛想笑い、5割り増し。
「ああ、もう、シンちゃんがセクシーだから、用事を忘れるところだったよッ!!」
俺のせいにするなッ!!
つうか、股間をおったてて近寄ってくるなッ!!
「私は、今のお前を後継者とは認めん」
お、まとも!
けど、まだ立ってる。
後継者云々?
そんなこと、知ってるよ。
「喜んで、肝に命じております」
昔から、俺はあんたの子ではなかったと思ってるから、安心しろ。
「くすん、シンちゃんの意地悪。私の総帥としての用事はそれだけだ…」
そういって、あいつは去っていった。
ガッツポーズを心の中で決める俺。
その時、風がふわりとマジックからカレーの匂いがした。
「え?」
その匂いは市販のカレーではなく、団員用食堂で出されるカレーでもない。
紛れもない、俺の作ったカレーの匂いがマジックからしたのだ。
何故?
マジックが出ていくのを確認し、キッチンの方に向かった。
しかし、そこには予想していた洗ったばかりの皿やスプーン等はなかった。
やっぱ、俺の気のせい……ああ、カレーの鍋がない!
捜し回っても、どこにもない。
盗られた。
カレー泥棒ッ!!
…そういえば、マジックの言葉のニュアンスが気になる。
“今”
もしかして…
まさか…
時がくれば戻ると?
体が歓喜で震えだす。
「父さん…」
本当は、あんたをこんなにも、ブン殴って、眼魔砲をブッぱなしてやりたいんだ。
俺は震える自分の体を抱き締め……られた。
「シンちゃん~、もう、意地っ張りなんだから。パパとしたいんだったら、正直に言ってよ!」
「ギャーッ!!あんた、出ていった筈じゃッ!!??」
ずるずる俺の部屋に引きずられて行くッ!!
やばいぞッ!!
このままでは、確実に掘られるッ!!
「…放せぇッ!!いやだぁッ!!」
ジタバタ暴れても、逃げれないッ!!
そうこうしている内に、ベッドの上に押し倒された。
しかも、物凄い速さで裸にされちゃうし。
親父も、やる気満々で裸になってるし。
ああ、やばいよッ!!
「シンタロー…お前を抱きたい」
「……挿入したら、ブッ殺す」
睨んでみたりしてみる、弱い俺。
「………挿入しないと、パパ、イケないよッ!!」
ああ、耳元で不吉なことを喋るなッ!!
逃げ出したい。
「今は生理中だから、やめろ」
うわぁ、だからって俺としたことがばればれな嘘をついてんなぁ。
切羽つまっているから、しかたないか。
親父はなんか、指折りで数を数え始めてるし。
まさか…
「じゃ、後十日ぐらいしたらしてもいい?パパ、シンちゃんの子供の顔みたい…」
「マジで受け取るなぁッ!!この、クソ親父ッ!!」
「ええッ!!何でッ!?パパ、シンちゃんとパパの子供作りたいんだよッ!!シンちゃんは、どうなの?イヤなの?」
って、どこ触っているんだッ!!
「…ぁッ!!」
やべ。そこ、弱いのに…。
「いい?」
乳首とケツの二点同時攻めは、反則だろッ!!
「あ…イ‥イぃ、ひゃあぁんッ、父…さん、そこイイの…」
あ、やばい。
何も、考えれねえ。
「挿入しても、いい?」
耳元の声が気持ちイイ。
「うん、イッパイほし…いの…ちょ、だい…」
「あげるよ。さぁ、力を抜いて…」
ああ、眩しい。
もう、朝?
やだ、まだ朝日はいらない。
「あっ…だめぇっも、おな…か‥イ‥パイあ…、あぁんッ!!」
「シンタロー、あとちょっとだけ…ね?」
そう言って、あんたが俺を放したことねえじゃんか。
「ほら、シンちゃん、パパを見て…いくよ…」
俺もあんたを放す気はないのかもしれない。
「っああぁッ!!」
「くっ」
何か、このぼやけた思考の時、あんたのそんな声を聞くとすっごくうれしくて、ああ、自分があんたをそんな風にさせたんだって、涙出るくらい嬉しい。
「あっ…」
あんたがそれを、俺の中から抜いた時も淋しいが嬉しいんだ。
だけど、あんたは俺を捨てたんだよね。
「シンちゃん、そろそろパパとお風呂に入ろうか?」
体がシンちゃんのでがびがびだよと、あんたは笑って俺に手を差し伸べて、優しくしすぎる。
「…っぅ」
さっきとは違う涙が溢れてきて、あんたを驚かしてしまうって知っていけど、だけど止まらないんだ。
結局、あんたは俺を捨てたんだ。
「シンちゃん、大丈夫?痛かった?」
あっちこっち触るあんたの手を、軽く自分の手で制止して俺は顔を上げた。
「総帥、満足していただけましたか?」
俺は、一般隊員だから。
総帥に対して、今までのような態度とれないだろ。
「シンちゃん…」
「…っぅ…」
ああ、もう、何だよ。
何でこんなに、涙が出るんだよ。
「ごめんね、ごめんね、シンちゃん。お願いだから、泣かないでおくれ」
優しく抱き締めんなよ。
あんたが何をしたいのか、さっぱり解んねえよ。
「二人でいるときは、パパと呼んでよ。私だってお前と離れるのは、すごく辛いんだよ」
もう少し我慢してねって、あんたはその大きな手で俺の頭を優しく撫でる。
「わかった…」
「シンちゃん」
「だから、カレー返せ」
「……」
何とも言えない沈黙が辺りを漂い始めた。
「ははは、イヤだなぁ!ダメだよ、あれはもう私のだから返さないよッ!!」
ウインクして誤魔化すなッ!!
「やっぱり、あんたが犯人かッ!!」
「パパ、知らないも~ん!」
それよりもお風呂と、暴れる俺を抱き上げて、備え付けのお風呂にむかい始めた。
「ちょっと待てよッ!!あんたと入ったら…」
「私と入ったら?」
にこやかに笑うなッ!!
「挿入ってくるだろッ!!」
「当たり前だよ!」
ああ!
やっぱりッ!!
最低ッ!!
って、あれ?
こいつ、俺は一般隊員だから総帥命令でも使って、好きなようなできるっていうのに、さっきから職権を利用しようとはしない。
あんたにとっては、俺はまだあんたの息子なんだよな?
そう思ってもいいんだよな?
「シンちゃん、どうしたの?そんなに、パパに甘えちゃって…」
少しぐらい、あんたに腕を回して甘えても…
「父さん…」
罪にはならない?
「……って、何、おっ立ててんだよッ!!」
「だって、シンちゃん、すっごく素直で可愛いんだもんッ!!」
こいつに少しぐらい、甘えようとした俺がバカだったッ!!
「いっぺん、死んでこいッ!!眼魔砲ッ!!」
ドカンッ!!
「あ…。やべ。使わないようにしてたのになぁ」