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あのふざけたガンマ団内ツアーから一ヵ月後、俺は不快さを感じる熱気の渦に包み込まれていた。

「シロガネ君、ポスター販売のほう、お願い!」

「はい、チョコロマ先輩!!」

ピンク色の色んなものが、あたり一面に飾られている広い会場内で、俺はピンク色のハッピを着た格好でチョコレートロマンスの指示通りに、ポスター販売コーナーに走った。

会場には、むんむんとした熱気に包まれ、辺りからは男達のドブ色の声が上がるそこは、まさに地獄そのものだ。

アニキ集団の波に飲まれながらも、なんとか目的地に到着した俺は、身体面より精神面で拾うが蓄積されていくこの会場を、見回した。

・・・・・気持ち悪い。

アニキ集団の皆は、俺が準備するであろう物が気になるのか、熱い視線を送ってくる。

「早く、出さないと・・・」

大きな溜息をつきながら、すでに運ばれていたダンボールの山の中から一つを選び、丁寧に箱を開けていく。

そして、一番上に用意されていた見本用ポスターを数枚取り出し、テーブルの周りに貼り付けていく。

今回は、新作と売れ筋ポスター合わせて25種類。

25枚張り出すのも根気の要る作業だが、これを今から売りさばいていかなければならない。

「まだかーっ!!」

「早く、マジック先生のポスターが~」

アニキ達の雄叫びに心の中で舌打ちをしながら、別の箱から25種類のポスターの筒を10本ずつ出し、長テーブルの上に見本と合うように並べていった。

「おお!」

「新作だ!」

「マジック様!」

「もえ~~」

俺が張り出した新作ポスターをすばやくチェックし始めたアニキ集団に、営業スマイルで笑いかけながらてきぱきと作業をこなしていく。

しかし、あの人のどこに萌えるんだ?

わからねえ?

「ああ、俺、もう・・・だめ」

本日10人目の失神者が出てしまうこのイベントは、開催の準備に当たり地元消防署に救急車の会場での待機申請を出さなければならないといわれたときはつい笑ってしまったが、まさかあれが冗談ではないだなんてこの世の中おかしすぎる。

イベントスタッフとして借り出されるのは、今回で10回目だからポスター張り出しも慣れたもの。

だが、今日ほどの大きなイベントは初めてで、いつもはサイン会程度だった。

ティラミスは、会場内での警備を担当しているため、今このフロアにはいない。

ただ、遠くでCD・書籍コーナーを担当しているチョコレートロマンスは、俺が抜けたのが痛手だったのか、かなりてんやわんやの状態で眼があらぬ方向に行こうとしていた。

「きゃ、マジック先生」

「はやく!」

「ああ~、マジック先生!」

「早く、貴方を手に取りたい!!」

むさ苦しい空気がどっと圧力をかけ始める中、俺は準備を完了させ両手を強く打ち合わせた。

「大変お待たせしました!マジック先生新作ポスター!! 1000本中1本は直筆サイン入り!! 1本なんと5000円!!」

俺の声に、周りに集まりだしていたアニキ集団は大きな歓声を上げた。

同じポスターを、1箱分の50本買う人も中にはいるために、ダンボール全てを明け仕事のしやすいように準備をすることができないこの販売はかなり面倒だ。

それでも頑張って、俺は売りまくる。

「1本でいい?本当に?保管用は必要ない?」

そんな商売文句で売り上げを伸ばしていった俺は、何故か営業成績が秘書課でNO.1だった。

あの人にも褒められたから、まあいいけど。

生まれて始めて、自分にあった居場所を見つけられた気がした。


イベントの売り子・・・俺には、それが似合っているんだ。

そう思わなければ、この熱気もやり過ごすことなんてできない。

「シロガネ君、頑張っているね」

急に後ろから声が聞こえ、ばっと振り返ると後ろに積み上げていた段ボール箱の中からあの人が出てきた。

よく入りましたね?

いつからそこに?

それよりも、ダンボールの中身は?

まさか、空っぽ?

色々聞きたいことはあるけれど、正直この会場で今一番現れてはいけない人が目の前に出てきたことに、驚きで声も出なかった。

「おや、相変わらず君は冷静だね。何も言葉を発さない。シンちゃんなんか、いつ入った、いつからそこにいた、ダンボールの中身はなんて、ぎゃーぎゃー騒ぐのにね」

ウィンクをしながら、俺の頭をぽんぽんとあの大きな手のひらで、軽く叩かれた。

そして、体の向きを少し変えると、あの人の登場によりこれでもかと集まってきたアニキ集団に向け、軽く手を降り始めた。

「やあ、皆さんこんにちは」

周りは、アニキ集団の雄たけびで鼓膜が破れそうなほどの騒音だ。

平然と笑うあの人の姿を少し見た後、遠くにいるチョコレートロマンスを見れば、突然のあの人の頂上により回りに誰もいなくなった隙を狙ってか、ペットボトルのお茶を一気飲みしていた。

「全く、君は私にあまり興味がないようだね」

耳元でぼそりと言われた言葉身、内心驚きながらも振り返るとそこには少しいじけたような表情のあの人が、俺をあの青い瞳で見つめていた。

「い、いえ・・・」

小さく否定はしてみたものの、あの人は胡散草g手に俺を見ると、何かを思案するように顎に手を当て少し俯き加減になり、俺から視線を外した。

そんな姿も絵になるせいか、周りにいたアニキ達は一斉にカメラを構えシャッターを押しては、暑苦しいうめき声を上げている。

「あんなに、私に笑ってくれていたのに。今は、無表情だ。つまらないね、私以外の前で笑顔でいることが許せない」

視線を俺のほうに戻し、すっごく怒っていると綺麗な眉を寄せ合い表情に出されても、俺にはどうすることができない。

「驚いたかをも見てみたい。そうだね、君を驚かせるには・・・う~ん」

再び考え事をしていると、行動で示されても何と返していいのかさっぱり分からない俺は、それを無視してアニキ集団に対して「会場内での撮影は禁止しています!」と大声で注意を始めた。

「ほう、私よりもそのむさくるしい男達のほうがいいのかい?」

横から低音ボイスが聞こえ、俺は本気であの人を怒らしたことに気がついた。

一気に会場内の気温がマイナス5度ほど下がったように感じられるほど、背筋に何か冷たいものが走っていく。

近くにあった窓ガラスにはひびが入り、天井に設置されていた蛍光灯は3本ほど割れた。

冷たい空気があたりを包み始める中、俺はゆっくりとあの人を見た。

「君は・・・・」

前髪が表情を隠しているが、長年あの人の傍にいたためか、それがどれほどの怒りなのかは身にしみて分かっているつもりだ。

レッドラインオーバーしてしまっている。

前髪の間から青い煌きは、絶対秘石眼だ。

「きゃ~、総帥時代の低音ボイス!! 」

近くにいたアニキ集団の一人がそう雄たけびを上げたのを切っ掛けに、いままで静まり返っていた会場内が耳が痛くなるほどの雄たけびで包まれた。

小さく口を動かしながら、あの人が何かを言っているのにその雄たけびで全く聞こえない。

「なんですか?聞こえません!もうすぐ開演の時間ですので、早く控え室に・・・・」

俺がその雄たけびの渦の中件名に声を上げ、時計を指差しながら開演時間が迫っていることを伝えようとしているのに、この騒音の中全く届いている気配はなかった。


「だまれっ!」

鶴の一声といっていいのだろうか。

俺は、正直、めちゃくちゃ驚いた。

いや、驚愕と言ってもいいほどだ。

あの人が、アニキ集団に黙れと、怒りの表情をあらわにして大声で一喝した。

会場内は、しんと静まり返り、聞こえるのはあの人の動くたびに僅かに聞こえる布のこすれあう音。

「・・・・・開演時間ぐらい、把握している」

驚いた。

あの騒音の中、俺の声を聞き取っていたことに驚いた。

低く響く声で言われたが、それでも読唇術と言っていいのだろうか、それに驚いてしまった。

いや、むしろ感心したといったほうが正解かもしれない。

だから、あの瓦礫の中で俺の言った言葉が分かったのかと、少し嬉しくなった。

だが、そんな考えもあの人の眼を見た瞬間綺麗に頭の中から消えてしまった。

先ほどより、冷たさを増したその瞳。

「それよりも、君は・・・・」

ついと、あの人の右手が俺の頬に触れる。

冷たい指先に、体中の熱が奪われるような錯覚に陥ってしまい、無意識に体がぶるっと震えた。

「私を、何だと思っている」

ゆっくりとその顔が近づくなか、囁かれた言葉に体が硬直して指一本動かすことができなかった。

本当に、絶体絶命なほど怒らしてしまった。

「君は私の物だというのに・・・・」

体中に感じる圧迫感に、足を一歩後ろに出そうとしたが、いつの間にか頬に触れていた右手が後頭部に回されており、後ろに逃げないように拘束されていた。

「マ、マジック様っ!!」

何とか声を出すことができたが、それも効果なんて全く期待できるものではなかった。

アニキ集団のいる前で、あの人は俺の耳に口付けを落とし、耳たぶを舐め、唇で咥えては軽く引っ張ったりと、まるであれを彷彿させる行為に、自然と俺の息が上がり始める。

「あ・・・ああっ」

腰の力が抜け、己の体を支えることができず、あの人にすがりつくように腕を伸ばせば、逞しい両腕で力強く抱きしめられた。

そして、耳が開放された後、あの唇は俺の唇と重なり合った。

「んん・・・」

鼻にかかったような声が漏れてしまうが、それを止めることが出来るのは俺ではなく、あの人だけ。

少し開いた隙間に、舌がこじ開けるように侵入してくる。

それに抵抗することなく、少しずつ開いていけばその長い舌は俺の口の中で好き勝手に動き始めた。

俺の舌に絡みついたり、歯茎の裏を触れるか触れないぐらいの力でなぞっていく。

「んあ・・・・んん」

頭がぼうっとしてきてしまい、あの人の背に自分の腕を回しながら、あの人の舌に己の舌を絡ませていく。

どれぐらい時間がたったのだろう、会場内に開演5分前のアナウンスが流れたとき、俺はあの人の唇から解放された。

「お前は、私の言うことだけ聞いていなさい」

唇を親指でなぞられるそれに、声が漏れ出てしまう。

「そう、そうやってお前はただ私だけを見ていなさい。私だけを感じる、私だけの所有物だ」




その逞しい腕の中に抱き込まれたまま、俺はその胸に頬を当てながら眼を閉じた。

回りの音が聞き取れる余裕を何とか自分の中かで作りだし、そしてゆっくりと眼を開けた。

「わかってます。俺は、あんたに拾われたんだから・・・・」

あの人の胸に両手を当て、何とか隙間を作り俺の頭上にあるあの顔を見るため、顔を上げた。

「だけど、だけど・・・・」

何故だか分からないが、目頭が熱くなっていく。

あの人に、大勢の前で口付けをされたことでもなく。

あの人に、鋭い眼差しで睨まれたことでもなく。

あの人に、抱きしめられていることでもなく。

あの人に、何度も『物』扱いされたことに対して、目頭が熱くなった。

「何故、涙を浮かべる?」

あの人が首をかしげながら、俺の頬を撫でてくる。

その手を払いのけ、驚いた表情のあの人の胸に手をあて、ぐいっと力を込めて押し、さっきよりも体を離れさせることに成功した。

「シロガ・・・」

「だけど、だけど・・・・・・・俺は、あんたのオモチャじゃねぇっ!!」


パシィン!!


<マジック様、至急舞台上手までお越しください>

館内放送であの人を呼び出すアナウンスが流れても、あの人とそしてアニキ集団も移動する気配などなかった。

皆固まったまま。

俺は、視線を床に向けていた。

「頭を冷やしなさい」

あの人の声が冷たかった。

「はい・・・」

なんとか返事を返した俺に満足したのか、あの人は先ほどとはまとっていた空気を全く違うものに変え、アニキ集団に明るい声で話しかけ始めた。

「さあ、待たせたね。みんな、会場に入ろう!」

その声に、アニキ達は乾季の雄たけびを上げ、大きな足音を立て会場の入り口に向かい始めた。

そして、俺の傍からあの人の気配が消えた。

段々と遠くなっていく気配に、俺は顔を上げることができないままでいた。

そして、あの人が会場内に入ったことを待ち望んでいた、一部のアニキ集団に俺は殴られる羽目になった。

「てめぇ、マジック様を愚弄しやがって」

「オモチャでもいいじゃねぇかっ!どうせ、使い捨ての娼夫なんだろっ!!」

「ああ、腹立たしい!! こいつが、あの人とキスしたなんてっ!!」

浴びる罵声は、あの人のファンにとっては正論なんだろう。

確かに、2月ほど前の俺なら『物』扱いでさえ喜んでいた。

たった、1月と少しの間でこんなに貧欲になっているとは思わなかった。

頭を冷やせとは、そのことなんだろう。

調子に乗っている俺に対してのお叱りって、ことなんだ。

「ははは・・・、俺って、サイテー」

自嘲的な笑い声を出した俺に、アニキ達は満足したのか、手に持っていた紙コップの飲み物とか、噛んでいたガムとか、唾とか俺に投げ飛ばした後、会場内に入っていった。

売り子をしていたチョコレートロマンスはすでに会場の中に入ったのか、ロビーに残されたのは俺だけ。

自然と涙があふれてくる。

貪欲すぎた自分への罰がやっときたということだ。

「サイテー・・・・だな」

ゆっくり立ち上がり、頭に乗っかったままのコップを落とし、髪についていたガムは近くにあったハサミで髪ごと切り落とした。

「だけど、幸せだったんだ」

俺だけをあの人は見てくれたから。

幸せだったんだ。

1月と少しの間、昔以上に幸せだった。

もう後戻りはできない。

やり直すことなんてできない。

だから、俺はハッピを脱いで近くの机の上に畳んで置いた。

「また、あそこに戻るか・・・・」

生きる意味を失ったときに、過ごしたあの場所に戻ることを決心した。

そして、防音扉から漏れるアニキ達の雄たけびを背に、俺は会場を後にするために歩き出した。




会場から少し離れた路地裏に入れば、そこはゴミと悪臭の塊。

路地の片隅には、ボロ雑巾のような布に包まった人が座っている。

そして、よどんだ瞳で俺を見上げた後、また視線をどこともいえない空中に漂わせ始めた。

その道をまっすぐ進んでいこうと足を一歩踏み出した。

少しずつ進むにつれ、悪臭と危険な匂いが濃くなっていく。

ここは表の人間が決して立ち入らない場所。

そんな所なんて、世界のどこにでもある。

一年前の俺も過ごした場所も、ここと同じところだ。

「おや、君は」

背後からどこかで聞き覚えのある声が聞こえ、操られるように振り返ると、そこにいたのは俺よりも頭半分ほど背の高い白髪の男性。

「あんたは・・・」

真っ黒なブランド物のスーツに黒いロングコートを肩に掛け、真っ白なマフラーを後ろ首から前に流すようにかけているその井出達は、誰がどういおうともマフィアのボスそのもの。

顔の皺からいって、齢50ほど。

その渋みのある男を、俺は知っている。

まさか、こんなところで会うとは思ってもいなかった。

「こんな所で出会うなんて、何たる奇跡。何たる奇遇。運命の女神も悪戯好きだということか。どうだ、私の元に戻る気はないかね?」

路地の入り口に立っていた男は、ゆっくりと歩み始め折れに近づいてくる。

この男にだけは、あまり近づきたくなかった。

逃げようかと、後ろに視線をやればいつの間にか黒ずくめの男達が俺に銃を向けていた。

動けば、撃つということか。

動くことができない俺に、その男は段々と近づいてくる。

そして肩に手をかけられ、そしてそのまま動くことのできない俺を引き寄せた。

頬がその男の胸に当たるように抱き込まれ、俺は懐かしい香水の香りに、身体の中心が熱くなるのを感じた。

「お前が出て行ってからも、香水は変えなかったよ。この香りだけで、お前は盛るからね」

頬に熱が集まる。

真っ赤になっていく顔を隠すように俯かせると、その男は俺の首筋に唇を落としてきた。

「っあぁ・・・っ!!」

人気のない道とはいえ、いつ誰が来るか分からない場所で甲高い喘ぎ声を出してしまったことに、さらに顔に熱が集まっていく。

「ほう、相変わらずいい声だな」

卑猥な笑みを浮かべているであろうその顔を、俺は見たくなかった。

「安心しろ、道は部下に塞がせた」

ただの路地裏の一本道。

その男が立っていた入り口にはすでに二人の黒いスーツを身に纏った男達がいる。

それが、こいつの部下だってのは分かる。

「私の元から出て行ったお仕置きだ。今からここでお前を抱くよ」

汚れた壁に体を押し付けられ、頬がむき出しの粗悪なつくりのコンクリート壁にあたり痛かった。

「さ、久しぶりに楽しもうか?」

「っ! イヤだ・・・・」

震え始めた体に渇をいれ、抵抗するため手を動かそうと試みるも、何故か俺の手は全く言うことを聞いてくれない。

「やめろ・・・」

男の手が、俺のシャツのボタンに伸びてくるそれさえも、拒みたい俺の意思とはまったく関係なく、身体は動いてはくれなかった。

拒みたいのに、拒もうとする命令を拒否する身体。

このまま抱かれるなんて、いやだ。

「そんなに、嫌がるな。今頃、他の男がなんだ。マジックに二度も捨てられたくせに」

その言葉に、目の前が真っ黒になった。


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