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M1

  

 


 


自分だけが不幸だなんて思わない。


世の中は、そりゃあ不公平に出来ているけど公平なことだっていくらもある。


どん底にいてもふとした拍子に笑えるし、いつかはみんな、死んでしまうし。


そうやって考えれば自分のような境遇にいる子供はほかにも沢山いる、こんなことなんでもないと思いこめた。思い込んで、堪えられた。


別に、こんなこと、なんでもない。


特別変わったことじゃない。


生きていくために手を染めることは、善悪様々あるうちのひとつだ。


なんでもない。


なんでもない。


なんでも、ない。


 


 


なんでもないよ、こんなこと。


そう思っても、泣けてくるのは自分が弱いからだ。短絡思考のバカだからだ。


バカならバカらしく考えなければいい。考えなければ苦しくない。


誰だってやってる。珍しいことじゃない。


生きているんだから。


 


生きて、いくんだから。


 


 


 


 


 


      きのう、みた、ゆめ


 


 


 


 


シンタローはざわつく周囲に視線を巡らせながら、ぼんやりとこれからのことを考えた。


ギャラは一本単位でもらえるから、今日だけで一年の学資は十分得られる。行きたい学校はあったけれど、私立を受験したいと言い出せる立場に自分はなかったし、なによりそれを求めればこんなもののギャラ程度で済むはずもない。


尤も公立に入学したところで、教材費や通学費用、その他必要な経費を考えるとこれを最後に出来るはずもないことは分かり切っている。


余分な小遣いなどというものは未だ嘗てもらった試しがないので、収入を得てもそれで遊ぶつもりはなかったがそれでも高校生にもなれば付き合いも増えるかも知れない。


余計な心配か。


自嘲して、口元が歪む。


どうせ授業が終われば急いで帰宅しなければならない。口うるさいあの叔母が、自分に余裕のある暮らしをさせるはずがないのだ。広い家ではないがすることは山ほどある。家事は嫌いではないが、パートに出ている叔母が帰宅するまでに片付けておかなければならない仕事は日々あったし、大学受験を控えた従姉妹の為に静かに、速やかに立ち働かなければならない。


彼女はお世辞にも出来がいいとは言えず、自覚している所為か神経質になってもいる。人前で努力する姿を見せないシンタローは成績も優秀と呼ばれる部類にあったため、それが余計なストレスを与えているのも事実であり、だからこそ本人からも、叔母からも当たりがきつくなる要因を増長させていた。


シンタローの両親は、彼の七つの誕生日に事故死している。


父のハンドル操作の誤りで歩道に乗り上げ、通行人を巻き込むという最悪の事態を招いてしまった。あの日は大雨が降っていて、朝、父を最寄り駅まで送る母は早くも梅雨入りだろうかと笑っていた。


往路は父が自ら運転し、復路は母が運転をする。二年前に購入した新居は駅から少し離れていたためそれが日課となっていた。


少し早めだけど、一緒に行く?


母に言われたとき、なぜ頷かなかったのだろう。同乗していれば今頃は自分も、安らかな眠りについていたはずだ。なんの苦労も知らず、幼い子供のまま、幸せに。


唇を噛み、それから小さく首を振る。考えたって仕方ない。そんなことはこれまで幾度も思い返し、その度自分の弱さに、無力さに嫌気が差していただけのことだ。解決はしない。


この春進級し、シンタローは中学三年生になった。


あと一月で十五になる。来年は高校受験を控えていた。


亡くなった両親の保険金は被害遺族に支払われほぼ尽きてしまい、満額に近いローンの残った自宅も早々に手放すこととなった。幼すぎるシンタローにはすべてを眺めていることしか出来ず、気付いたときには叔父の家に引き取られていた。


叔父は優柔不断なところがあり、役所からの勧めで引き受けてしまったらしいが余裕のある生活をしていた訳ではない。当然のように叔母は反発し、だから優しくされた記憶は嘗て一度もなく常に冷たい視線を浴びせられる毎日だった。


高校へは行きたいかと尋ねてきた叔父を、だから責める気にもなれなれず曖昧に答えておいた。


一人娘を大学にやるため叔母はパートを始めていたし、リストラで職を変えたばかりの叔父も焦っているのは目に見えて分かる。公立ですら通えないとなればいまの世の中で上を目指すことは諦めなければならないだろう。シンタローは努力は得意だが奇抜なセンスを持っている訳ではない。夢にかけるなどという危ない端を渡る余裕は自分にはないのだ。


どうしよう。


考えたところでたかが知れている。僅か十五歳で出来ることなど限られているし、それでは無理だというのは初めから分かり切ったことだ。


ではどうしたらいい?あの家を出るには金銭以上に難しい法的な問題もあった。どうして俺は子供なんだろう。思わず本気でそう思ったが、思考の虚しさにすぐやめた。とにかくまずは金だと、それさえあればあとのことはそこから考えればいいと決め、手っ取り早く収入を得る方法を探ることにし繁華街をうろついた。


自分が女であれば、高額収入に直結する仕事が選べるのに。


電話ボックスや電柱に貼り付けられた、派手な彩色の小さな広告を眺め溜息を吐く。年齢的に無理ではあっても、幸いシンタローは年の割に背が高く、少なくとも高校生には十分見えていただろう。いまだってそれを頼りにバイト探しをしているのだ。


履歴書には適当なことを書いてもばれない職を選ばなければならないという点からしても、どうせ真っ当な商売には就けないに違いない。だから、どうせならどんな仕事だって構わない。まとまった金額が一度で支払われるようなそんな率のいいもの。…考えれば考えるほど、まともな仕事からはかけ離れていった。


手伝いをしなければならないので、仕事探しに割ける時間も限られている。今日ももうタイムリミットが近い。電話ボックスに貼られた出張ホストの広告を恨めしく眺め、今日幾度目かの溜息を吐き出したところで、背後に立っている男に気が付いた。


 


 「お金、欲しいの?」


 


きちんとスーツを着込んだサラリーマン風の男に眉を寄せる。


 「最近この辺うろついていたよね?仕事探し?」


 「…はあ」


 「いいのあった?」


 「いえ」


 「まだ若いよね?幾つ?」


 「……十、八」


 「あー、それくらいかなーと思ってたんだ」


そう、十八。


呟いて、男はシンタローの頭の先から爪先までを眺め頷いた。


 「きみさえよければ、結構おいしい話があるけど、どう?」


 「危ないこと?」


 「そうでもないよ。まあ、想像通りの仕事ってとこかなぁ」


笑った顔は、いやらしくは見えなかった。


尤もそう見えたところでどうでもよかったけれど。


 「いくらくれるの?」


 「あはは、そんなスレたタイプに見えないけどね、きみ」


手招かれ、すぐ近くにあった喫茶店に行こうと言われ首を振った。今日はもう時間がないと説明すると、彼は取り出した名刺の携帯番号を示しながら言った。


 「危なくはないけど、まあ人に言えることでもないからね。その気があるなら電話しておいで」


頷いて受け取る。気持ちの中ではもう決めていた。


初めからそれしかないかと思っていたから、躊躇うこともしなかった。


手を振る男は、本当にごく普通のサラリーマンにしか見えない。それも警戒心を緩めさせる作戦なんだろうけれど、仮にありがちな人物であったとしても構わない。声をかけてきたということは、自分にそれだけの価値があるということだろう。もし彼がだめでも、今後はその方向でいけばいい。どうにでもなれ、と投げやりな気持ちで名刺をポケットに押し込んだ。


 


その夜のうちに電話をすると、彼は喜んで待ち合わせ場所を指定してきた。いきなり仕事になっても大丈夫かと聞かれたので、迷わず了承しておいた。躊躇えば、二度と出来ないような気がしたから。


こんなことなんでもない。


目を盗んで使った電話を、細心の注意を払い元に戻すと肩で大きく息を吐く。


なんでもない。特別なことじゃない。どうでもいい。


ありったけの言葉を並べ立て、自己弁護と投げやりさを強調する。自分自身に。惨めに。


生きているんだから、生きなきゃ。


ただそれだけを思う。


 


生きて、いかなきゃならないんだから。


 


それだけのこと。


 


 


 


 


指定されたのは前日誘われた喫茶店で、彼は先に来て待っていた。


てっきり彼と、と思い込んでいたシンタローに告げられたのは、“芸術作品”への出演要請だった。世の中にはそんなものもあったけれど、それこそシンタローには未知の世界であり、聞かされるまでは思っても見ないことだった。


最近では需要が増え、嗜好は別でも金になるならと承諾する者が多いと言い彼は愛想よく笑った。撮影時間も今回のタイプなら二時間程度だし、ギャラは一本固定の支給でこれくらい、と指を二本つきだした。


続けるなら程度によってそれ以上のものもあるし、契約すれば販売数によって歩合が上乗せされることもある。見る人が限られる分、女の子より安全だよ、と締めくくられ、目を見開いたままそれでも幾度か頷いた。


体を売る、という意味は深く考えないようにしていたけれど、これだって近いものがある。けれど行きずりの男相手にそんな商売をするのは安定しないしリスクも高い。その点こういう業界ならばそれなりに保証されてもいるだろうし、組織的なものに加わってしまえばその中にいる限り危険性は少ないのかも知れない。


甘く見れば酷い目に遭うだろう。けれど一度や二度ならなんとかなる。欲しいのは当面の学資といずれあの家を出るための資金だ。高校生になれば出来る仕事の枠は一気に増える。そうなったら地道に、ちゃんとしたバイトを探せばいい。夢を見ない自分だからこそ、現実のために重ねる努力は苦にもならない。


沢山は、出来ない。


今回だけのつもりで、一度だけなら、やってもいい。


そう言うと彼は満足げに頷き、きみは運がいいから、心配しなくていいよと笑った。この状況で心配しない方がおかしいだろうが、震える手はテーブルの下に隠し黙って俯いた。彼がどこかに電話をしている間中、その震えが全身に広がらないよう必死に堪えて身を固くしていた。


愚かだと思う。でも後悔はしない。している隙はない。


一口も飲まないまま温くなってしまったコーヒーを睨み付けていると、このあとすぐに時間が取れるかと確認され頷いた。


今朝、叔母には友人の両親が外泊するので、一人になってしまうから泊まりに来て欲しいと頼まれたと嘘を吐き了承を得ている。勿論嫌味を言われたが、周囲には哀れな甥を引き取った心優しい人物を装っている彼女には断りようのない嘘だった。


今日は、日貸しのマンションの一室で別の撮影してるんだけど、ちょうどいいからきみのもいっちゃうからね。


軽い口調で、本当になんでもないことのような顔で言われ、頷く。間が空くよりはいい。気付いてしまえば動けなくなる。流された方が楽に済む。


喫茶店の前から乗ったタクシーの中でも、ずっとほかのことを考えていた。担任の癖や机の傷、授業中に聞こえる飛行機の翼が空気を切り裂く音。吹奏楽部の、賑やかな、けれどくぐもって響く楽器の音。ごく普通の暮らし。ごく普通の毎日。ごく当たり前の、子供の、自分。


本当は、普通ではなかった。


幸せではなかった。


これからも。


でも。


 


 「着いたよ」


 


幸せにはなれない。


 


 「…はい」


 


 


 


それでも。



 
 

 


      きのう、みた、ゆめ


 


 


 


 


撮影と言ってもテレビドラマとは違うから、大きなカメラがある訳じゃないしスタッフも少ないんだよ。そう言われていた通り室内は照明機材と、カメラや音響機器らしきものを操作する四人の男がいるだけで静かなものだった。


前の撮影が終わったばかりで、少しだけ装飾を変えるからこっちで待っていてくれと指示された部屋のドアを開けると、そこにはシングルより少しだけ幅のあるベッドがあった。寝室を使わないというのも不思議な気がしたが、こうしてベッドを前にすると自分がしようとしていることを無言で突き付けられた気分になり震えが蘇る。


来てしまった以上、逃げることは出来ない。


この部屋のドアを開け、入った瞬間に言われた言葉。


 “暴れないでね。怪我、したくないでしょう”


よくあることだという。同意の上で始めても、途中で怖くなり逃げ出そうとする。相手が慣れているから大抵宥め賺して撮影は続行されるが、あまり長引けば仕方なしに路線を変更することになるという。


つまりは、無理矢理だろうが撮影を続ける方が優先されるというのだ。


恐ろしくて、涙が出そうになったけれどどうにか堪えた。承知で来たのだ、そんなことにはならない。投げ出すくらいなら引き受けなければよかったのだし、頼み込まれたことじゃない。自分で決めたのだ。


ベッドに腰掛け、ぼんやりと自分の手を見る。もう震えてはいない。感情が麻痺したのかも知れなかったが、それは却って都合がよかった。


どうせなら思考停止も起きないかな。気付いたら終わってないかな。雑多なことが浮かんできたが、どれも現実逃避に至るにはほど遠く、隣室の物音は絶えずシンタローの耳に届いていた。


 「死ぬ訳じゃないし…」


 「だれが?」


 「―――っ、」


自分の体が飛び跳ねたのが分かった。


突如かかった声は予期せぬもので、あまりの驚きにシンタローはそのままベッドから落ちて尻餅を付いた。


 「あれ、ごめんね。驚かせたかな?」


手が伸ばされる。


無骨で、大きな手。白い。


 「大丈夫?」


言いながら、固まっているシンタローの手を取り引き上げた。元通りベッドに座らせるとその手は離れていったけれど、温かな感触はなぜか消えずに残っていた。


 「きみかな?ここで待ってるって聞いたんだけど」


 「え、あ、あの、」


 「名乗らなくていいよ。嘘の名前でいいからね」


意味が分からず首を傾げる。


見上げる男は、本当に見上げると言うのがしっくりくる長身を、けれどシンタローに併せて屈め優しく笑っていた。一目見て欧米人だと分かる容貌だったが日本語の発音は随分と流暢だった。


金髪が綺麗だった。そして蒼い双眸は更に美しかった。自分の黒い瞳に対し感慨など持った試しはないが、彼のような瞳を見ると“綺麗”とはこういうものなのだと実感出来た。


がっしりとした体格で、凡そ一般人とは思えない。グレーのスーツを着ていたが、胸板や腕周りの筋肉の発達した様が見えるようで、この腕に捕らわれたら逃げ出すことなど不可能だと言うことを知らしめている。


彼が、相手なのだろうか。


脚本などないし、リードされるままに動けばいいからと言われていたが、いざ対面するとさすがに恐怖心が沸き上がり忘れていた震えが蘇る。


怖い。


こわい。


自分はなにをしているのだろう。


どうしてこんなこと、選んでしまったのだろう。


逃げたい。


帰りたい。


かえりたい。


かえりたい!


 「…初めてなんだよね?」


言いながら隣に腰掛ける。沈み込むベッドに更に恐怖心を煽られ、けれど固まった手足は動きそうにもなく、恐慌状態はひどくなるばかりだった。


 「とてもこんなことに興味を持つタイプには見えないんだけどなぁ」


軽い口調で言いながら、小さな子供にするように、首を傾け覗き込んでくる。


 「怖い…よね?」


素直に頷く。


 「お金、ほしいの?」


頷く。


 「なにか欲しいものがあるの?」


首を振る。欲しいのはものじゃなく、金自体だ。


 「遊びに行きたいところがあるとか」


今度も否定。行きたいのは学校であって、その先の未来だ。


 「なんだか…私が意地悪しているみたいな気分だよ」


そう言って笑うと、彼は立ち上がり部屋を出ていった。呆れられたのか、このあとの打合せでもするのか。あんまり怯えるから中止にしようと言ってくれるかも知れない、いや、そんなことは有り得ない。


怖がりすぎて、もしかしたらそこを追求されるようなことにはならないだろうか。そういう趣味嗜好があることをシンタローも知っている。現に逃げようとすれば無理矢理続行されると聞かされたあとなのだ。自分で自分の首を絞めたかも知れない。どうしよう。


手足を縮め、目は逃げ場所を探し彷徨う。震える体が大袈裟なほど揺れて、極度の緊張に吐き気すらしてきた。


ドアが開くと、その気配に再度飛び跳ねる。情けないと思いながら止めることなど出来なかった。


 「水、持ってきたよ。飲みなさい」


手渡そうとしてくれるコップを、けれど握ることさえ出来なかった。冷え切った指がかじかんだようで、喉からは嗚咽も漏れ始める。


自分はこんなに弱かったのか。もっと強かではなかったのか。


学校では成績もよく、スポーツもそつなくこなし友人にも恵まれていた。尤もそれは弱い自分を見せたくないが為の強がりでもあり、思えば心を開いて誰かにぶつかることなど出来ない性分は既に染み付き久しかった。


見かねたのか、彼はシンタローの手を取ると自分の手を添えながらコップを持たせてくれた。口元で傾けられ、どうにか一口、飲み込む。


 「ゆっくりね」


低い声は穏やかで、急かしているようにも、脅しているようにも聞こえなかった。それが却って自らの情けなさを知らしめるようで眦に涙が浮かぶ。


コップ一杯の水を飲み干すのにかなりの時間がかかった。噎せなかったのは穏やかな声と、いつの間にか回され、優しく背中をさすってくれた掌の所為だろう。


 「…ありがとう」


 「どういたしまして」


空になったコップをサイドテーブルに置き、それからも暫くの間、なにも言わず背をさすってくれる。こんな時なのにそれはひどく優しくて、目を閉じているとまるで記憶の中の父に甘やかされた子供時代に戻っているかのような錯覚を起こさせた。


 「落ち着いた?」


 「…はい」


声を聞けば、それが父ではないことが分かる。現実が蘇る。自分がどこにいて、なにを選んで、これからどうなるのか。


閉じた目を開くのはかなりの勇気が必要だったが、それでもシンタローは一度だけ深呼吸をすると目を開けた。


逃げていては進めない。


自分は決めてしまったのだ。生きるために。


こんなの、なんでもない。


 「…なんでもない」


 「うん?」


呟きを拾われ、居心地悪く身じろぐ。それを感じ、彼は自分の手がシンタローを不快にしていると思ったのか、温かなそれは離れていってしまった。


 「すいませんでした。もう大丈夫です」


 「無理、しなくていいんだよ」


 「平気です。俺、金がいるんです」


顔を上げ、隣の男を見る。真っ直ぐに見詰められるのは目的があるからで、それが疚しいことだと責められようと自分に必要なことであれば後悔はなかった。


誰になにを言われようと、こうするしかなければそれを選ぶ。自らの責任はすべて引き受ける覚悟は出来た。


 「名前はシンタローです。どうしても金がいるから、なんでもするって決めました。だから平気です」


 「そう。でもきみ、嘘を吐いてないかな?」


 「…うそ?」


嘘など沢山吐いている。決意はしても根付いた恐怖心が未だ疼いているのは確かだし、ほかにも幾つかの嘘を重ねここにいるのだ。なにを言われるのだろう。せっかく覚悟を決めたのに、ここまで来て断念させられる訳にはいかない。


 「俺が、どんな嘘を吐いてるっていうんですか」


 「んー、まず、まだ怖いでしょ」


 「はい」


 「素直だね。まあそれは初めてなら当然だろうからいいけど」


楽しげに笑うと、蒼い瞳も一緒に煌めく。綺麗なそれはけれど真摯で、確かに嘘を見抜く力がありそうだった。


 「きみ、シンタローくん。いま、いくつ?」


やっぱり。


 「十八です」


 「こういう仕事は大人にならないと出来ないんだよ。知ってた?」


 「はい」


 「それに、十八以上でも学生はだめなんだよ」


 「…それは、」


 「もう一度聞くね。いま、いくつ?」


たったいままで優しそうだった目が細められ、煌めく蒼が強調される。それは瞬く間に冷たさを湛え、まるでシンタローを凍り付かせるような突き放した色合いへと変わっていった。


 「十、八…です」


それでも繰り返した。繰り返すしかなかった。目を逸らさずに。


 「…そう」


氷の色をした瞳が瞼に隠される。小さな溜息が彼の唇から漏れた。


 「日本人が幼く見えるのは確かだけど、…まあいい」


言って、立ち上がる。


 「そろそろ始まるんじゃないかな。呼ばれたらおいで」


 「はい」


彼が出ていくと全身から力が抜け、思わずベッドに倒れ込んだ。


なんとか切り抜けたが彼は確信しているのだろう。ほかのスタッフに言わないでくれればいいが、耳打ちされれば厄介なのではないだろうか。


 「あの分なら、言わねぇ…よな」


言われたら困る。でも、言って欲しいような。複雑な気持ちで唇を噛む。


 「あー、やめやめ。自分で決めたんだ、自分で!もうどうしようもないのっ、逃げらんねぇの!なるようになる、どうにでもなれってんだ!」


来るなら来い!


ヤケと言われればそれまでだけれど、口に出さずにいられなかった。それに元来の負けず嫌いも作用し始めてきたらしく、だめだと言われれば絶対に引けなくなる。その性格が災いすることも多々あるが、逃げ道を探す隙を自分自身に与える訳に行かないのでいまはこれでいいと思う。


死ぬ訳じゃないし。


もう一度呟き、目を閉じた。例えばこれで、弱みを握られもっと過酷な注文を付けられたとしてやっぱりそれで死ぬ訳ではない。働きに見合う報酬が得られればそれでいいのだ。その先のことはその時になって考えよう。


 「…よし」


拳を握り、とん、と自分の胸を叩く。


 


隣室の物音が、大きくなった。



 
 

 


      きのう、みた、ゆめ


 


 


 


 


 「おいで」


 


ドアが開いて、蒼い目の男が顔を覗かせた。


ベッドに横になったままだったシンタローは、僅かに肩を跳ねさせたが顔は冷静さを装いゆっくりと身を起こした。


笑って、手招いている。


賢しい小動物のような、油断のない目で彼を見詰めながら立ち上がる。帰れと言われないか、そればかりが気になったけれどドアまで、彼の向かいに辿り着くまで言葉を発することはなかった。


安堵と、それ以上の落胆と。


本当は逃げ出したい、まだその気持ちが強く働いている。悔しいけれど簡単に割り切れるはずもなく、唇を噛んだまま彼を見上げた。


 「きみは頭がいいね」


 「…そんなことないです」


 「謙遜は必要ない。愚か者には出来ない目だよ」


 「頭がよければ、いま、ここにいることはないと思います」


遙かに見上げる蒼い双眸が優しく微笑んだ。先ほどの冷たさが潜むと、煌めく蒼は吸い込まれそうなほど澄み切った煌めきで自分を見下ろしている。彼がどう言った人物なのか知らないが、きっと無慈悲ではないだろう。


楽観なのは分かっている。見る者を凍えさせる視線だった。けれどいま、微笑んでシンタローを見下ろす彼は何故かひどく静かで、怯えて竦む体すら溶かすかのようだった。まるで正反対の思いだけれど、確かにそう感じたのだ。


この人は、きっと。


きっと、自分のことを。


その先の言葉は続かなかった。自分でもなにを言おうと思ったのか分からない。それでも信頼出来るような気がしたから、視線は逸らさず見詰め返す。いまの自分に出来ることはそれくらいしかなかった。


ドアの前から体をずらし、シンタローに道を譲る。深呼吸をしてから踏み出した足は、そのまま、寝室をあとにした。


 


 「ああ、ごめんねお待たせ」


 「いえ」


 「えーっとね、待たせついでに悪いんだけど、今日の撮影中止になっちゃった」


 「…え、」


 「ゴメンね、相手役が来られなくなっちゃって。また近いうちに予定組むから、今日のところは帰ってもらえる?」


 「でも、」


 「交通費と、待ってもらった分でこれ。少ないけど取っておいて」


 「でも俺、」


 「こっちから連絡出来ないんだよね?じゃあ…明後日、電話くれる?昼過ぎならいつでもいいよ」


始終にこやかに話ながら、けれど強引に白い封筒を押しつけると、ここまでシンタローを連れてきた男は慌ただしく片付けをしているスタッフの方へと戻ってしまった。


 「取り敢えず臨時収入だね」


ぽん、と肩に手を置かれる。


 「あなたが…なにか、言ったんですか」


 「言ってないよ」


 「だって、相手役ってあなたでしょ」


 「えー、私、アダルト男優に見える?」


それは喜んでいいのか怒ればいいのか。


くすくすと笑っているから、勢いを付けて振り向き、睨む。


 「俺は…どうしても、自分で稼がなきゃならないんだ!」


 「だから私はなにもしてないったら」


 「自分でっ、俺に出来ることならなんだって、っ、」


悔しくて。情けなくて。


 「せっかく、決めたのに…情けなくたって惨めだって、我慢するって、諦めたって、」


決めたのに。


 「まだまだ自分を諦めていいような年じゃないと思うけどなぁ」


苦笑する様が憎らしい。年上だと思って、自分の方が有利だと思って、その余裕。


腹が立ったシンタローは、とっくに自分に対する興味を失っている男たちに一瞥をくれ、未だに笑っている蒼い瞳の男にももう一睨み与えると足音荒くその部屋を出た。


恥ずかしさがこみ上げる。


最低のことをしようとした。それを仕事にしている人々からすればその評価は納得出来ないかも知れないが、シンタローにとっては日の光りの下にあるべきではない行為を人前で、しかも金銭で売り渡してまでも成し遂げると決めたことだ。なにもかも捨て去ることに等しいほどの重みを持ったことだった。


出鼻をくじかれたことで逆上している自覚はある。けれどなけなしの勇気を奮って望んだことなのにあっさり保護にされれば腹も立つ。繰り返すがシンタローは負けず嫌いなのだ。どんなことでも自分の意志を曲げるのはいやだった。負けるのは、もっといやだった。


それなのに。


外に出て、建物を振り返る。


夕暮れが近く、僅かにオレンジがかった日差しが外観を染めていて、それが少し悲しかった。情けない気持ちが寂しさに変わる。


結局、自分には現状を打開する力もないのか。与えられた環境に、どれほど辛くともしがみついていなければならないのか。やりたいことも出来ず進みたい道も選べず、目を閉じ耳を塞がれた状態に甘んじて、これまで通り竦めた首で憧れる世界を眺めていなければならないのか。羨んで。ただ羨んで。


見えるのは、自らの爪先。俯いているから。


そんな毎日を繰り返す、またあの場所に、戻るのか。


 「…くそっ」


建物から視線を外し歩き出す。行く宛はなかったけれど、ここに立ち止まっている訳にも行かない。


友人の家に泊まると言ってしまった手前、帰宅することも出来なかった。それにこんな気分ではどこにも行きたくはない。誰とも会いたくない。惨めすぎて、消えてしまえたら一番いい。消えてしまえたら。


滲む涙を慌てて拭う。なにもしないで泣くなどプライドが許さない。踏みにじられたばかりのそれでも、生きている以上持ち続けなければならないから、だから顔を上げせめて真っ直ぐ歩いていく。どこに向かっているのかは、自分でも分からなかったけれどそれでも真っ直ぐ、真っ直ぐに。


 


 「足、早いね」


背後からかけられた声に一瞬止まりそうになったが、彼のものだと気付いたから意地でも歩みは止めなかった。アスファルトの道をひたすら進む。


 「どこに行くの?家に帰る?」


 「あんたに関係ないだろ」


 「だって、私のこと怒ってるでしょ」


 「当たり前だ」


 「じゃあちょっと話をしない?」


 「話すことなんてない」


 「私にはあるよ。誤解は解いておきたいから」


 「誤解?」


 「怒ってるんでしょ?」


 「別に」


 「いま怒ってるって言ったじゃない」


 「どうでもいいだろう」


 「そうはいかないよ、濡れ衣は晴らさせてもらわないと私も嫌だしね」


なにをゴチャゴチャと。言い返してやりたかったが、どうにもこの男は口数が多い。しかも自分のペースに相手を巻き込む様な空気がある。


歩調は緩めず歩き続けるが、なにぶん彼とはコンパスが違いすぎる。そのうちシンタローの息が上がってきて、しかもいま自分がどこにいるのかも分からなくなり仕方なく足を止め振り返った。


 「何処まで着いてくるつもりだよ」


 「どこまでだろう。あ、そこの喫茶店に入らないかい?」


言ったときには既にそちらに向かって歩き出している。腕は、しっかりと掴まれていた。


 


 


 「あんたみたいに図々しくて強引なやつは初めてだ」


 「私も、きみみたいに強情で可愛い子には初めて逢ったよ」


かわいい?


向かいに座り、嬉しそうに微笑む男はメニューを開きシンタローに勧めながら、自分は既にコーヒーを注文している。長居するつもりはないのでウェイトレスに“ふたつ”と告げるとメニューをテーブル脇のスタンドに戻し窓の外に視線をやった。


仕事を終え、帰宅するサラリーマンの姿が目に付く。我が家へと向かう者がいれば、同僚と飲みに行く者もいるだろう。ごく平凡でありふれた景色。いつかは自分も溶け込む日常。そこに至る道のりは、きっと彼等よりずっと困難なのだろうけれど、本当はそれすら難しい望みだから。


十年後の自分など想像も付かないけれど、ひとつだけ分かっているのはいまより少し、自由になっているだろうということ。あの家を出て、どうにか暮らしているだろうということ。恩を返せと言われ続け、きっとその責務から抜け出せるのはもっと後になるのだろうけれど、それでもいまよりはいい。


いまよりは。


 「いくらもらったの?」


言われて思い出す。ポケットにねじ込んだ封筒は皺が寄っていたが、雑に伸ばしてから中を覗くと一万円札が一枚、入っていた。


 「お金を稼ぐというのは、楽なことじゃないよね」


 「…あんたに言われたくない」


 「うーん、あんた、という呼び名は好きじゃないな」


 「名前も知らないのに呼べるかよ」


 「あれ、名乗ってなかった?」


嘘の名前を名乗れと言った本人がなにを言うのか。


封筒を、本当は捻り潰し捨ててしまいたいそれをけれどそっとポケットに戻す。これは自分にとってはとんでもない大金だ。どんな理由があろうと無駄には出来ない。


 「麻袋のあさ、鬼ヶ島の鬼、水色の水に風と共に去りぬの、去る」


 「………は?」


 「私の名前」


 「随分長い名前でらっしゃるんですね」


 「じゅげむじゃあるまいし」


自分で言って自分で笑っている。流暢な日本語の、蒼い目を持つ男は、なにが楽しいのか本当に嬉しそうに目を細め笑っていた。


ウェイトレスがコーヒーを運んで来ると、嫌味のないさりげなさで礼を言いそれからまたひとしきり笑った。


 「あさき、すいきょ、と読むんだよ」


 「素晴らしい偽名ですね」


こちらは思い切りの嫌味を籠めて言い返す。誘ったのは彼だから、このコーヒー代は絶対に払わせてやろう。そう思いながらカップを手に取り、まだ熱い琥珀の液体をそっと一口だけ啜る。


 「偽名?どうしてそう思うの?」


 「あんたの家に鏡はないのか?」


 「あるよ。身だしなみは大切だからね」


 「それで本気で分からないならいっそすげぇよ」


 「きみ、意外と口が悪いね」


今度も嬉しそうに笑う。白いカップを取り上げる指が繊細に見えた。自分よりずっと逞しいそれが、なぜか優美に見えるのも気のせいではない。


彼の所為で大金が入るあてが消えてしまった。明後日には連絡をしてこいと言われたけれど、果たして自分にもう一度連絡をする勇気があるかと言われれば、正直それは分からない。あれほどの決意を無駄にされたのだ、悲しいけれどかなり挫けた。


 「もうなんでもいいから、誰でもいいから俺のこと買わないかな…」


 「物騒なこと言ってる」


思わず漏れた呟きを拾われ、居心地悪く肩を竦める。本気が半分、嘘が半分。金になるなら本当になんでもするつもりだけれど、世の中は自分が思っているほど甘くはない。それは分かっている。今日、分かった部分も大きい。


 「金がいるんだよ。どうしても」


 「なにに使うの?」


 「なんであんたに教えなきゃいけないんだよ」


 「なんでだろう」


バカにしているのか、本気で考え込んだ男に溜息を吐く。彼は、見かけは紳士だが中身は相当にいかれている。あんな世界にいるのだから仕方ないのかも知れないが、とにかく深入りするのはやめた方がいいだろう。急いでコーヒーを飲み干すと咳払いをし、彼を見た。


 「あんた、さっき俺の年のことしつこく聞いてきたけど」


 「うん」


 「その話、さっきの連中にしたのか」


 「してないよ。どうして?」


 「…別に」


 「私が話していなければ、また連絡して仕事を回してもらおうって?」


 「…関係ないだろ」


 「確かに関係ないけど…十八なんて、嘘だよね」


 「嘘じゃない」


 「嘘だよ。東洋人は私たちから見れば更に童顔に見えるけど、それを除いてもきみの顔はもっと幼いからね。十四か…もっと下か。十三?まさか十二なんてこと、」


 「そんなガキじゃねえよ!」


 「あ、近いね。十一?」


 「下がっていってるじゃねえか!十五だ!―――、あ」


 「やっぱり。その辺りだと思ったよ。中学生だね」


にっこり微笑まれ、浮かしかけた腰が情けなく落ちる。自分が単純なのは知っていたけれど、これほど大きな墓穴を掘ったのは初めてだった。


 「…言いつけるのか」


 「なにを?」


 「俺が本当は十五だって。そしたら仕事、出来なくなる」


 「言わないでくれというなら言わないよ。でも、言ったところで彼等なら聞かなかったことにしてきみを使うだろうけど」


 「え、だって…十八以上じゃないとだめなんだろ?」


 「ああいう業界は違法行為を恐れていては成り立たない部分があるからね。薄々気付いていたって、ばれるまでは“知りませんでした”で通すよ」


 「そんな、」


 「そういうところだよ。きみが考えているような甘いものじゃない」


 「甘くないのくらい分かってる」


 「分かってる?本当?じゃあ今日、きみがさせられるはずだったことがどんなことか本当に分かってるの?」


 「それは、その、…アダルト、ビデオの…」


 「一般的には脚本なんて殆どないけど、今日の撮影には結構しっかりしたシナリオが作られていたんだよ。初めてで、なにも知らなくて、本当は女の子が好きなごく普通の男の子を、薬や道具を使って犯して言いなりにさせて…外にも連れ出す予定があったし、相手は一人じゃなかった」


目が点になる。


 「………うそ…」


 「嘘じゃないよ」


相手役が言っているのだから確かなのだろう。働かない想像力を、それでも少し巡らせ考えてみる。自分がされるはずだったこと。あれも、これも。


 「そ、んな…」


服を脱いで、体を触られて、セックスに近い行為をされる。そう聞いていた。だからきっと最後まで奪われるのだろうという覚悟はしていたけれど、そんなことはまったく聞いていなかった。聞かされなかった。


 「慣れてる子を使うと聞いていたのに初めて見る顔だったし、どう贔屓目に見ても子供だった。確かにシナリオ通りなら初体験じゃないと臨場感は出ないけど、あれだけハードな内容ならベテランじゃないと無理だね。女の子なら本気で再起不能になる」


ペラペラとよく回る口が、かなり残酷なことをなんでもないように語っている。自分の身に起きるはずだったそれを思い、今更ながら震えが蘇ってきた。


 「私が言ったのは年齢のことではなく、まったくの素人のきみを使うことに対する反対さ。作りたいのは娯楽であって、見る側も演技だという余裕と、それをきちんと楽しめる作品だ。この手のビデオではありがちだけど、作り物を如何に本物らしく見せるか、それが出来なければただのアダルトビデオだし、それなら私は手を貸さない」


蒼い瞳が煌めく。冷たくはないけれど鋭いそれに、射竦められたように動けなくなる。


 「子供は子供らしく、自分に出来ることをしなさい。大金を手に入れたい理由はなに?どうしてそんなにお金が欲しいの?」


 「が、…う、」


 「うん?」


 「がっ、こ、う…」


 「学校?」


震えが止まらなくて、唇も、指先も言うことを聞かない。


向かいにいた彼が立ち上がり、隣に腰掛けてきた。そっと回された腕が静かに肩を抱き寄せる。優しく、宥めるようにさする指はやっぱり繊細で見かけとは全然違う。


 「大丈夫。もう大丈夫だから。落ち着いて」


深みのある柔らかな声。


 「落ち着いて。シンタロー」


落ち着いて。


 


 


記憶に残る父の声は、もう随分薄れている。


その笑顔がどんなものだったかも、思い出すまでに時間がかかった。


こんなだったかも知れない。


こんな風に暖かく、自分を包んでくれる人だったかも知れない。


優しく。


しずかに。


 


 


 「大丈夫だから…ね」


 


 


目の前が滲むのは、どうして?


 


 


 


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