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「待たせて……悪かったな……」
 どこか歯切れ悪く零れる言葉。
 そんな言葉一つで相手が許してくれるとは思っていない。待たせすぎだと、自分でも感じているのだ。連絡もほとんどいれずに、時間だけが無慈悲にも大量に流れ去っていた。その間、相手がどんな思いで過ごしていたかなど、どんな気持ちで自分を待っていたかなど、分からない。
 それでも……。
「すまなかった」
 謝りたいほどの気持ちは生まれる。
 頭を下げることなど大嫌いな自分だが、意識せず、僅かだったが頭が下へと落ちた。
 だが、それは無意味に近かった。
 相手は、自分に背中を向けたままだったからだ。
 ずっと、自分が彼に会った時から、その状況は変わらない。無言のまま、全てを拒絶するように。
 そのまま、自分から離れ去ってしまうこともありえるような状態で、らしくなく焦っていた。 
 けれど、無理やりこちらへ振り向かせることも出来なかった。腕を伸ばして肩を掴み、こちらへと向かせることは、可能だけれど、ここで、また嫌われてしまったら……と思うだけで、自分には似つかわしくないのだが、可愛らしくも尻込みしているのである。

「シンタロー……」

 名を呼んでみる。
 随分と久しぶりに、愛しい人の名を口にする。それでもその名を忘れたことなど、一度たりともなかった。いや、思い出さない時はなかった。ただ、そこにいない彼の名を呼ぶには切なすぎて、口をつぐんだままだった。
 それゆえに、一度名を呼んでしまえば、愛しさが増す。
 何よりも、ずっと触れたいと思っていた相手が、すぐ傍にいるのだ―――こちらに背中を向けているけれど。
 それでも背中だけでも、変わらぬ姿に、自分でも呆れるぐらいに、ほっとする。
 けれど、その背中に、髪に、顔に、唇に、早く 触れたかった。
 何よりも、欲しい言葉があった。

「待たせて本当に悪かったな、シンタロー」

 この身体が自由になって、すぐさま向かったのは、彼の元で。嘘偽りなく、寄り道も、酒も飲まずに、彼のところへと戻ってきたのだ。
 でも、遅くなったのは事実で――だからこそ、いくらでも謝ることはできるけれど、そろそろそれも辛くなってきた。
 ようやく、ここへ戻って来れたのだ。
 その証が欲しかった。
 それは、ただひとつの言葉で得られるもの。
 それを引き出す言葉を口に出して、得られるかどうかはわからないけれど――それで得られねば、かなりのダメージを受けそうだが――覚悟を決めて、その言葉を告げた。

「―――ただいま」


(俺はここに帰ってきたから、お前の元に帰ってきたから、どうか言って欲しい。俺を迎えてくれる、あの言葉を―――誰よりも愛しているお前に………)
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