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 夏は暑いものと決まっているけれど。
 暑すぎるのは困りもの。
 涼しさ得るのは水浴び…怪談…冷たい食べ物?
 いえいえやっぱりここは当然ッ!――クーラーでしょう!!
 


「あっちぃ」
 地の底を這うような声を出しながら、シンタローは、バタバタと手にもっているものを盛大に仰いでいた。
 だが、汗だらけの顔に生ぬるい風を送ったところで、焼け石に水程度しかならない。茹だる暑さにむかつき、しかめっ面にされていた顔は、さらに凶悪さを増していた。
「ちッくしょう!……誰だよ、こんな暑苦しい服を総帥服にした馬鹿はッ」
 ついには着ている服まで八つ当たりである。
 見た目も暑い真っ赤なそれは、襟ぐりが大きく開いているとはいえ、当然長袖のために、その腕にびっしりと汗を噴出させている。腕まくりはすでにされているが、それでも布で覆われている部分は、どうしようもない。
「うがあぁぁあ!!!」
 手にもっていたうちわをこれでもか、というほど上下動かすが、生ぬるい風は僅かな涼を与えてくれるだけだ。その上、疲れて手を止めれば、反動とばかりにどっと汗が噴出してくる。堂々巡りで暑さは変わらない。
「あ~~~エアコンまだ直んないのかよぉ」
 こもる熱でうろんになりがちの視線を、朝から沈黙したままの機械に向ける。けれど、ぼやいたところでそれが動く気配はなかった。空調設備は全て停止したままなのだ。それも自家発電を稼動中の研究棟以外、ガンマ団本部のほとんどがである。
 夏も真っ盛りというのに、これは痛手だった。
 ちなみに停止の原因は、例によって例のごとく、あの馬鹿博士である。
「ここには、扇風機もないのか!」
 誰もいない部屋で、ひとり怒鳴るものの、そんなものがあれば、すでにお目見えしているはずである。
 冷暖房完備な本部内では、そんなものを使われたことはなく、よって、扇風機などもちろん存在してはいなかった。
 あるのは昨年ガンマ団盆祭り大会で配布された団扇だけである。現在それは、団員に無料配布中だ。しかし、すでに文明の利器の恩恵に浸り続けていたために、この程度の涼で満足できるものなど誰もいない。むしろ、僅かしかえられぬ涼に、苛立ちが募るばかりだ。
 逃れられない暑さに、仕事が進むわけがなく、机の上に突っ伏して茹だっていれば、目の前の扉が開いた。むあっとした空気が部屋になだれ込む。
「シンタローはん、入りますえ」
「ど~ぞ」
 すでにやる気ありません、といわんばかりの声に促され、部屋へ足を踏み入れたのは、アラシヤマだった。
 書類らしきものを片手にもったアラシヤマに、シンタローは視線を向け、一瞥する。そのとたん眉をひそめた。
「お前、暑くねぇのか?」
「はあ、あつうおますな」
 こちらの疑問に当たり前のように返事を返してきたアラシヤマだが、シンタローの目から見れば、全然そうには見えなかった。
「嘘だろ?」
「なして疑うんどす?」
「だって…なぁ」
 相手は、きっちりと襟元までボタンを留めた隊服を着込み、さらに鬱陶しげな前髪が右目を覆っている。それでダラダラと汗をかいていればわかるのだが、見たところ、額の方が少しばかり汗ばんでいるか? と思うぐらいだ。
 すでにぐったりするほどの大量の汗を流しているシンタローにとっては信じられない姿だった。
「………お前、不感症か?」
 思わず零れた言葉に、けれど敏感にアラシヤマは反応した。ぴくんとアラシヤマの眉が跳ね上がる。
「何言うとりますのん。わてがそうじゃないことは、あんさんがよーっくしっておりますやろ?」
 にーっこり微笑んで見せる相手に、シンタローは瞬時にサッと顔を引きつらせた。
(墓穴を掘ったか?)
 その作り物めいたにこやかな笑みを向けられたとたんに、汗が引き、変わりにたらりと冷や汗が背中を落ちていく。
 どうやら、自分はヤバイ発言をしたようである。
「シンタローはん♪」 
 なにやらはずむ声が聞こえたと思えば、アラシヤマは机を挟んで、自分のすぐ前に移動していた。瞬きほどの動揺の合間に、詰め寄られてしまっていたのだ。相手は、こちらにひたりと視線を定めたまま、机の上に腰をのせてくる。さらに縮まる距離にとっさに引いた顎を、相手の指先が触れた。あの暑苦しい特異体質のくせに、ひんやりと冷たい指に、思わず逃げることを忘れていれば、汗ばんだ顎の裏をくすぐるように撫でられた。
「随分と汗をかいとりますなぁ。シャワーでも浴びたらどうどす?」
 間近に迫っていた顔にある愉悦を含んだ瞳が、ゆっくりと細められる。そのまま顔が傾いて、耳元へと唇が寄せられた。
「わてもお供いたしますえ」
「ッ!」
 耳の奥へと息を吹きかけるように告げられた言葉に、ビクリと身体が反応する。だが、それに流されるわけにはいかなかった。
 さらに自分を絡めようと伸ばされる腕を避けるために、座っていた椅子のまま後方に退き、距離をあける。
「え、遠慮いたします」
 そのまま腕を伸ばし手を広げると、キッパリとお断りの言葉を告げた。
 汗でベタベタになった身体に、シャワーは魅力的だが、目の前の相手と一緒に入るなどという無謀なことはできない。そんなことをすれば、あの密室とも言える中で何をされるかわかったもんじゃない―――否、分かりきってしまって怖い。
「そうどすか? わてもあんさんとならもっと汗をかいてもええと思うとりますんやで?」
「却下いたします。―――つーか、これ以上暑くなったら、俺が死ぬ。絶対イヤだからな」
 ただでさえ、暑さで頭が朦朧としているというのに、これ以上運動をして熱があがってしまえば、ぶっ倒れるそうである。赤くなったり青くなったりと目まぐるしく顔の色を変えながらも、必死の拒絶をする相手に、アラシヤマは、物分りよく頷いてみせた。
「わかりましたわ」
「わかってくれたか!」
 素直に引いてくれた相手につい喜びの笑みを浮かべてしまう。が、引いて押すのが恋の駆け引きというもので、そう簡単に相手が引き下がるはずもなかった。
「その代わり―――今晩、あんさんの部屋に行きますよって、部屋をしっかり冷やしておいておくれやす」
 告げられた言葉は、すでに実行予定と言わんばかりのもので、さらにさらに、それを告げた相手の視線は、獲物を逃さぬ獣のそれ。
「えっ…と」
 それはもう確定ですか?
 と、尋ねたいが、どうせ返事は『是』で間違いないだろう。
(嘘だろ…)
 後悔してももう遅い。今晩の予定は決められた。
 思い切って今の約束をすっぽかしてもいいのだが、その後の報復が怖い。経験済みのために分かってしまう。逃れることは絶対不可能。
「そうそう。これは、さっきグンマはんから頼まれた現段階での空調に関する状況説明と修理終了時間の目安どすえ。夕刻には終わるようどすから、宜しゅう頼みますわ」
 やはり暑さを感じていないだろう、と思うほど涼やかな表情でそう告げると、相手はそのまま去っていく。
 一人取り残されたシンタローは、当然の呟きを口にした。
「…………何を宜しくしろと?」

 

 ――――――いっそ風邪ひくほどの部屋を冷やしておくべきか?











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