荒れ果てた野に花が咲く。
小さな小さな一輪の花。
それは、たった一つのわずかな変化で。
けれど、奇跡の証でもあって……。
「変わったのォ」
「誰がどすか?」
唐突な声に振り返れば、そこには同僚のコージの姿があった。
久しぶりのガンマ団本部への帰還。ここから遠い任地での仕事が終わると同時に、こちらへと戻ってきた。
それもこれも早くあの人に会いたいがためで、呼び止めるようなその声に、うざいという気持ちは正直したのだけれど、結局は、その場に立ち止まってしまった。
相手の声音が、しみじみとしたものだったからだ。
「おぬしに決まっておるじゃろ?」
「わて?」
顔面に指先をつきつけられ、その先に視線をとどめつつ、首を傾げてみせた。
「わてが、どっか変わりましたかえ?」
そう言われても思いあたることはない。
自分は自分だ。ずっと昔から、それは変わってはいない―――はずである。
「気づいておらんのか」
「はぁ」
よく分からない。
相手は確信を持って言ってくれるが、こちらとしては心当たりはない。
だから、同意も出来ずに曖昧な表情を浮かべていれば、大きな肩を揺らし、コージは溜息をついた。
「まあ、えーがな」
「なんですのん?」
話はそれまでというのだろうか。
わざわざ足を止めてあげたというのに、わけのわからぬことを言われ、納得できぬままに、話を終了されては、こっちも落ち着かない。
どうしようかとしばし逡巡していたアラシヤマだが、次の瞬間、意識はコージから飛んでいた。
「アラシヤマ? 帰ってきてたのか」
「シンタローはん!」
声がかかる前に、感じた気配に、全身で振り返る。
そこには、会いたくて会いたくてしかたがなかった人がそこにいて、こちらに向かってきてくれるシンタローに顔を綻ばせながらも、アラシヤマはコージを置いて、その元に駆け寄った。
ああ、気付いていないのだ、あいつは。
どれほど自分が変わったのか。
それが分からぬほど、自然な変化で。
けれどそれは傍目からみれば確実なもの。
「ちゃんと食事とってますのん?」
「なんだよ、行き成り」
「顔色悪いどすえ」
会って嬉しい感情と久しぶりに見た相手の健康状態の悪さに不安さを混じらせ、声を尖らせるアラシヤマ。
そんなことを耳にするようになったのは、最近だ。
「一体いつから、人を気遣うようになったか、わかっちょんのかのぉ」
仕官学校時代からの付き合いだが、少なくても、あの島へ行くまで、彼は、ある意味孤高の人間だった。誰も信じず、誰も見ず、誰も認めず。ただ、己のみを存在させるだけに必死になっていた。
なのに今では―――――。
「自分よりも大切な奴を見つけたからじゃろうな」
大切な命を捧げてもかまぬほどに愛する存在が生まれてから、彼は変わっていった。
それは少しだけの変化で、たぶん、アラシヤマを昔から良く知っているものにしか分からないだろう。ミヤギ、トットリあたりは、気付いていたが、たぶんそのくらいしか気付かない。
他のものに対する態度は、あまり代わり映えはしていないせいだ。
それでも―――。
眼差しが違う。
浮かべる笑みが全然違う。
もちろんそれはかすかなもので。
けれど、顕著に現れる時がある。
それは、彼の前に立った時。
誰よりも何よりも大切な存在だと認めた者へのみ、特別に見せる、それ。
「シンタローはん」
「なんだ?」
ふわりと笑ったアラシヤマが、彼の耳元へ何か囁いている。
「っ! ば、馬鹿! んなところで」
とたんに真っ赤な顔をして、慌てた様子でこちらを伺うシンタローに、コージはひらひらと手を振って、退散した。
いつまでもここにいれば、完璧な邪魔者である。
人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやらだ。
どちらも大切な友人で。
だから、ほんの少しの変化で、幸せを生み出した彼らを見守るのが今の自分のやるべきことで。
お幸せにと心から思い、願う。
―――――じゃけんぞ、人前でイチャイチャしくさるのは、ええ加減にせぇよ?
小さな小さな一輪の花。
それは、たった一つのわずかな変化で。
けれど、奇跡の証でもあって……。
「変わったのォ」
「誰がどすか?」
唐突な声に振り返れば、そこには同僚のコージの姿があった。
久しぶりのガンマ団本部への帰還。ここから遠い任地での仕事が終わると同時に、こちらへと戻ってきた。
それもこれも早くあの人に会いたいがためで、呼び止めるようなその声に、うざいという気持ちは正直したのだけれど、結局は、その場に立ち止まってしまった。
相手の声音が、しみじみとしたものだったからだ。
「おぬしに決まっておるじゃろ?」
「わて?」
顔面に指先をつきつけられ、その先に視線をとどめつつ、首を傾げてみせた。
「わてが、どっか変わりましたかえ?」
そう言われても思いあたることはない。
自分は自分だ。ずっと昔から、それは変わってはいない―――はずである。
「気づいておらんのか」
「はぁ」
よく分からない。
相手は確信を持って言ってくれるが、こちらとしては心当たりはない。
だから、同意も出来ずに曖昧な表情を浮かべていれば、大きな肩を揺らし、コージは溜息をついた。
「まあ、えーがな」
「なんですのん?」
話はそれまでというのだろうか。
わざわざ足を止めてあげたというのに、わけのわからぬことを言われ、納得できぬままに、話を終了されては、こっちも落ち着かない。
どうしようかとしばし逡巡していたアラシヤマだが、次の瞬間、意識はコージから飛んでいた。
「アラシヤマ? 帰ってきてたのか」
「シンタローはん!」
声がかかる前に、感じた気配に、全身で振り返る。
そこには、会いたくて会いたくてしかたがなかった人がそこにいて、こちらに向かってきてくれるシンタローに顔を綻ばせながらも、アラシヤマはコージを置いて、その元に駆け寄った。
ああ、気付いていないのだ、あいつは。
どれほど自分が変わったのか。
それが分からぬほど、自然な変化で。
けれどそれは傍目からみれば確実なもの。
「ちゃんと食事とってますのん?」
「なんだよ、行き成り」
「顔色悪いどすえ」
会って嬉しい感情と久しぶりに見た相手の健康状態の悪さに不安さを混じらせ、声を尖らせるアラシヤマ。
そんなことを耳にするようになったのは、最近だ。
「一体いつから、人を気遣うようになったか、わかっちょんのかのぉ」
仕官学校時代からの付き合いだが、少なくても、あの島へ行くまで、彼は、ある意味孤高の人間だった。誰も信じず、誰も見ず、誰も認めず。ただ、己のみを存在させるだけに必死になっていた。
なのに今では―――――。
「自分よりも大切な奴を見つけたからじゃろうな」
大切な命を捧げてもかまぬほどに愛する存在が生まれてから、彼は変わっていった。
それは少しだけの変化で、たぶん、アラシヤマを昔から良く知っているものにしか分からないだろう。ミヤギ、トットリあたりは、気付いていたが、たぶんそのくらいしか気付かない。
他のものに対する態度は、あまり代わり映えはしていないせいだ。
それでも―――。
眼差しが違う。
浮かべる笑みが全然違う。
もちろんそれはかすかなもので。
けれど、顕著に現れる時がある。
それは、彼の前に立った時。
誰よりも何よりも大切な存在だと認めた者へのみ、特別に見せる、それ。
「シンタローはん」
「なんだ?」
ふわりと笑ったアラシヤマが、彼の耳元へ何か囁いている。
「っ! ば、馬鹿! んなところで」
とたんに真っ赤な顔をして、慌てた様子でこちらを伺うシンタローに、コージはひらひらと手を振って、退散した。
いつまでもここにいれば、完璧な邪魔者である。
人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやらだ。
どちらも大切な友人で。
だから、ほんの少しの変化で、幸せを生み出した彼らを見守るのが今の自分のやるべきことで。
お幸せにと心から思い、願う。
―――――じゃけんぞ、人前でイチャイチャしくさるのは、ええ加減にせぇよ?
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