パブリックタイム―――この時間帯は、自分のものであっても自分のものではない。
確かにその通りだが、明確にそれを言われると苛立ちがこみ上げる。だからといって、お前らのものでもないのだと、大声で怒鳴りたくなる衝動を抑えなければいけないからだ。
早く時間が経てばいい。
これは自分のものだと主張できる時間へと変わるまで。
「こいつにサインが終われば、今日は終わりだ」
「んっ。了解」
最後の一枚となった紙切れをシンタローの方に差し出せば、相手は、見ずに書ける様になってしまったサインを書面に走らせつつ、顔を上げ受け取った。
「えっと…」
ざっと目を通し、その中に書かれている重点的な内容のみを頭に叩き込むと、前と同じように、サラサラとサインをし、総帥印をその横に捺した。
「ほいっ」
投げらるサイン済みの書類を空中で受け取ると、手元にもっていた書類と合わせる。
これで一応仕事は一区切りついた。
堪った処理済みの書類は、それぞれの部署に渡さなければいけないが、それは後から来るティラミスとチョコレートロマンスの仕事である。
「終了っ!」
再びポンと放り投げだされたそれを受け取るキンタローの隣で、業務を終了させたシンタローは、思い切り両腕を伸ばして伸びをした。
キンタローの手には、本日は用済みとなった総帥印がある。たった5センチ四方のそれだが、これ一つで、世界の半分ほどはひっくり返せるしろものである。だが、扱いは軽いものだ。平気で空中に放り出されるのである。もっともそれをやるのは、それを持つことを許されている本人のみである。
他のものは、そんなことは絶対にしないし、これは、その後丁寧に汚れをふき取られ、明日の朝まで厳重に警備されている所定の位置へとそれを収められるのである。
「あー疲れた」
「今日も良く頑張ったな。ご苦労様」
「ああ、そっちもな」
背もたれに思い切り背中を預けて、再び両手を伸ばし、それから首を後ろに反らす。
その行動はいつものことで、だから書類をまとめてデスクに置いたついでに、身体を少しばかりずらして、相手の真上から唇を落とした。
「んっ」
ここから先は、プライベートタイム。
それが合図であるかのようなお決まりのキス。
だから、長引くことはなかった。無理な姿勢ということもあるし、すぐに離れる。
触れるだけのそれだが、仕事中は、一切のそういう類の触れあいは無しだから、それだけでもかなり脳に刺激を与えるぐらいの刺激はある。
それでなくても、仕事中は、様々な相手がシンタローに触れているのである。直接的なものは、少ないが、キンタローからすれば、視線で触れるのも苛立ちの対象になっている。
けれど、それを止める権利はキンタローにはない。
総帥という肩書きを背負っている最中のシンタローは、パブリックな存在なのである。
誰のものであっても、誰のものでもない存在。
だが、ここから先は違う。
パブリックからプライベートに変われば、彼は自分だけのものになってくれる。
それは、表情からわかる。投げつける視線から違う。
総帥の服は脱ぎ捨てて、『シンタロー』という存在が自分のものになる。
「どうする?」
「そうだな」
そう相手が尋ねるのも結構定番で、それはその後の予定を示す。
ちりりと漆黒の瞳が悪戯めいた光を照らす。
何を思いついたのかと思えば、
「食事にするか? フロにするか? それとも俺にしちゃう?」
計算的に違いないか、小首を傾げて、上目遣いで見上げてくる相手。
さすがに今日一日中のデスクワークは疲れたようで、普段よりは少しばかり甘えを強くしてくる。
けれど、そんなことをするのは自分にだけで、だからこそ、こちらは真剣に先ほどの言葉を検討する。
「そうだな―――」
どれも捨てがたいというものである。
疲れたのはお互い様。
それを癒すのは、やっぱり甘いモノだろう。今日はたくさん欲しい気分だし、どうすればより多くの甘いモノを得られるか考えてしまう。
「全ていっぺんに得られたらいいんだがな」
「欲張りだぜ、そりゃあ」
残念ながら俺の身体は一つだけだと、ぼやく相手に、
「ならば――――」
これはどうだろうか、と腰を曲げて、相手の耳元でそっと告げれば、相手ははじけるように笑って、伸び上がるようにして、こちらの首に腕を回した。
「OK!」
――――――自分のものをどれだけ求めても欲張りじゃないだろ?
確かにその通りだが、明確にそれを言われると苛立ちがこみ上げる。だからといって、お前らのものでもないのだと、大声で怒鳴りたくなる衝動を抑えなければいけないからだ。
早く時間が経てばいい。
これは自分のものだと主張できる時間へと変わるまで。
「こいつにサインが終われば、今日は終わりだ」
「んっ。了解」
最後の一枚となった紙切れをシンタローの方に差し出せば、相手は、見ずに書ける様になってしまったサインを書面に走らせつつ、顔を上げ受け取った。
「えっと…」
ざっと目を通し、その中に書かれている重点的な内容のみを頭に叩き込むと、前と同じように、サラサラとサインをし、総帥印をその横に捺した。
「ほいっ」
投げらるサイン済みの書類を空中で受け取ると、手元にもっていた書類と合わせる。
これで一応仕事は一区切りついた。
堪った処理済みの書類は、それぞれの部署に渡さなければいけないが、それは後から来るティラミスとチョコレートロマンスの仕事である。
「終了っ!」
再びポンと放り投げだされたそれを受け取るキンタローの隣で、業務を終了させたシンタローは、思い切り両腕を伸ばして伸びをした。
キンタローの手には、本日は用済みとなった総帥印がある。たった5センチ四方のそれだが、これ一つで、世界の半分ほどはひっくり返せるしろものである。だが、扱いは軽いものだ。平気で空中に放り出されるのである。もっともそれをやるのは、それを持つことを許されている本人のみである。
他のものは、そんなことは絶対にしないし、これは、その後丁寧に汚れをふき取られ、明日の朝まで厳重に警備されている所定の位置へとそれを収められるのである。
「あー疲れた」
「今日も良く頑張ったな。ご苦労様」
「ああ、そっちもな」
背もたれに思い切り背中を預けて、再び両手を伸ばし、それから首を後ろに反らす。
その行動はいつものことで、だから書類をまとめてデスクに置いたついでに、身体を少しばかりずらして、相手の真上から唇を落とした。
「んっ」
ここから先は、プライベートタイム。
それが合図であるかのようなお決まりのキス。
だから、長引くことはなかった。無理な姿勢ということもあるし、すぐに離れる。
触れるだけのそれだが、仕事中は、一切のそういう類の触れあいは無しだから、それだけでもかなり脳に刺激を与えるぐらいの刺激はある。
それでなくても、仕事中は、様々な相手がシンタローに触れているのである。直接的なものは、少ないが、キンタローからすれば、視線で触れるのも苛立ちの対象になっている。
けれど、それを止める権利はキンタローにはない。
総帥という肩書きを背負っている最中のシンタローは、パブリックな存在なのである。
誰のものであっても、誰のものでもない存在。
だが、ここから先は違う。
パブリックからプライベートに変われば、彼は自分だけのものになってくれる。
それは、表情からわかる。投げつける視線から違う。
総帥の服は脱ぎ捨てて、『シンタロー』という存在が自分のものになる。
「どうする?」
「そうだな」
そう相手が尋ねるのも結構定番で、それはその後の予定を示す。
ちりりと漆黒の瞳が悪戯めいた光を照らす。
何を思いついたのかと思えば、
「食事にするか? フロにするか? それとも俺にしちゃう?」
計算的に違いないか、小首を傾げて、上目遣いで見上げてくる相手。
さすがに今日一日中のデスクワークは疲れたようで、普段よりは少しばかり甘えを強くしてくる。
けれど、そんなことをするのは自分にだけで、だからこそ、こちらは真剣に先ほどの言葉を検討する。
「そうだな―――」
どれも捨てがたいというものである。
疲れたのはお互い様。
それを癒すのは、やっぱり甘いモノだろう。今日はたくさん欲しい気分だし、どうすればより多くの甘いモノを得られるか考えてしまう。
「全ていっぺんに得られたらいいんだがな」
「欲張りだぜ、そりゃあ」
残念ながら俺の身体は一つだけだと、ぼやく相手に、
「ならば――――」
これはどうだろうか、と腰を曲げて、相手の耳元でそっと告げれば、相手ははじけるように笑って、伸び上がるようにして、こちらの首に腕を回した。
「OK!」
――――――自分のものをどれだけ求めても欲張りじゃないだろ?
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