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ss



「お誕生日おめでとう……コタロー」
 祈りを込めて、そう呟く。
(おめでとう――生まれてきてくれてありがとう)
 自分の大切な存在となるために生まれてきてくれた弟に、シンタローは感謝の気持ちを込めて、言葉を送る。
 けれど、その言葉に笑顔で返してはもらえなかった。ただ、穏やかな顔で眠りにつく顔だけが、シンタローに向けられる。
 パプワ島で力を使い果たし、深い眠りについてから3年。まだコタローは眠りから覚める気配がなかった。
 ベッドの上で、昏々と眠り続ける弟に、それでもシンタローは柔らかな視線を向ける。
「もう9歳になったんだな」
 感慨深げに言葉を漏らすと、総帥服のままの腕を伸ばし、ふっくらとした頬に手を添えた。確かな温もりが指先に伝わる。弟に触れるのは久しぶりだった。仕事が忙しくて、こうして会いに来ることさえもできない。
 今日も、弟の誕生日であり、クリスマスイブだというのに、日付が変わるギリギリまで仕事をしていた。誕生日であるその日に、お祝いの言葉を言えたのは、必死で仕事をこなした結果だ。
 それゆえに、目元には疲れが滲んで入り、顔色も悪い。この部屋へ行く前に、先ほどまで自分の補佐として傍らにいたキンタローにも、そう指摘された。弟へお祝いの言葉を届けた後は、すぐに寝ろと指示されている。
 自分もそうするつもりだった。
 それでも、すぐには立ち去れない。
「ごめんな、今年はケーキも作れなかった」
 食べてもらえないとはわかっているけれど、毎年コタローのためにケーキを作って、一日飾っておく。もったいないから次の日になれば、自分で食ってしまうのだけれど、それでも毎年かかさないことだった。けれど、さすがに今年は、時間がとれなかったのである。
「だから、これで勘弁してくれ」
 そう言って、コタローの枕元に置いたのはヌイグルミだった。こつこつと、時間をみては作り上げてきたそれは、先程ようやく完成したものである。首にリボンを巻きつけ、プレゼント仕様にしたそれは、けれど、弟の横に違和感なく存在していた。
「やっぱりお前には、このヌイグルミだよな」
 ぽん、とコタローの横へ寝かしてあげたヌイグルミの頭をシンタローは叩いた。
 それは、コタローがずっと幼い頃から一緒に過ごしていたヌイグルミに瓜二つのものだった。けれど、以前のヌイグルミは、もう随分とボロボロになっていた。パプワ島での戦闘の被害をそのヌイグルミも受けていたのである。繕うにも限界のそれを、新しく作り直してあげようと思ったのは、随分と前のこと。けれど、時間がなく、合間を見て作っていれば、かなりの時間がたってしまっていた。
 気に入ってくれるかわからない。
 いつ目覚めるかわからないけれど、もうこのぐらいの年齢になれば、ヌイグルミなど必要ないだろう。それでも、あえてシンタローは、このヌイグルミを今年のプレゼントに決めた。
「これからもコタローの傍にいてくれ」
 ずっと一緒にいてくれたヌイグルミの代わりであるから、願うように呟き、それを、コタローと同じ上掛けにいれた。添い寝するようなその姿に口元が綻ぶ。
 そうしてヌイグルミと一緒に寝ていると、弟の愛らしさがさらに増したようである。
「やっぱ、可愛いなぁ」
 ポタッ…。
 そう呟けば、条件反射のように滴り落ちる液体。
「あッ………ああ?」
 真下へと落下する液体は、真っ白なものに赤い染みとなって広がる。だが。
「セーフか?」
「セーフだ」
 横から聞こえてきたその言葉に、シンタローは、腕を広げて、『セーフ』のジェスチャーをして答えた。
「ナイス、フォローだキンタロー! あやうくコタローの顔を汚すところだったぜ」
「まったくだ」
 シンタローの鼻から落ちた鼻血は、コタローの顔に触れる寸前で、差し出され真っ白なティッシュに吸い込まれていった。それを差し出したのは、いつのまにか部屋に入ってきていたキンタローである。絶妙なタイミングのそれに、シンタローは、バシッとキンタローの背中を叩いてあげた。
「さすがだな。このタイミングでティッシュが出せるのはお前ぐらいなもんだ」
 それは、言われて嬉しいのかどうかこれまた微妙なところだろうが、どうやらキンタローは、その言葉に満足したようだった。
「当然だ。お前の行動パターンはすでに把握済みだからな。いいか、俺はお前のことならなんでも分かっているんだぞ」
「はーい、ハイハイ。二度重ねはティッシュだけでよーし! お前はせんでいい。とりあえず、サンキュウな」
 相変わらず、二度押し好きの従兄弟の言葉をさらりと流し、シンタローはうっかり自分の鼻血で汚しそうになったコタローを顧みた。
 可愛い弟の顔を血まみれにはしたくない。ティッシュを鼻につめた間抜けな顔で、シンタローは、弟の頭を撫でた。
「メリークリスマス」
 日付は、すでに25日へと変わっている。
「メリークリスマス」
 その横で、キンタローも言葉を紡ぐ。
「来年は、一緒に誕生日とクリスマスを祝おうな」
 毎年同じ言葉を紡ぐのだけれど、毎年願う言葉である。
 『来年は一緒に笑ってお祝いできるように』
 もう子供ではないけれど、純粋な願いとしてサンタに祈り、クリスマスの日を迎える。
 聞き届けて欲しいと、本当に願うことである。
「しかし、シンタロー。サンタはいつ来るんだ。まだ、俺は見てないぞ」
「ああ? そりゃそうだろう。サンタは眠っているいい子のところに来るんだからな」
 真剣な顔でそう不思議そうに呟くまだまだ経験の浅い従兄弟に向かって、シンタローは、真摯にそう答えてあげた。サンタはいないのだとは、言ってあげない。信じる信じないは本人が選択することで、自分はありえるかもしれない可能性を口にしてあげる。
 『サンタは、眠っている子供のところにクリスマスプレゼントを届けるのだ』と。
 それならば、コタローのところには来てくれるかもしれない。ずっと眠って待っているのだから。
「それは大変だ。早く寝ないといけないではないか」
「そうだな。寝るか」
 果たしてキンタローの元にサンタクロースが来るのかどうか知らないが、それは目覚めてからのお楽しみである。
 すでにキンタローへのプレゼントは用意済だ。眠ってから渡す方が効果的のようである。
(信じるものは、幸せになれるって言うしな)
 信じて救われることは少ないかもしれないけれど、信じていれば、幸せは必ず訪れてくれるから。
(お前が、いつか目覚めてくれると、お兄ちゃんは信じているよ)
 だから今は、まだ………。
「お休み、コタロー。メリークリスマス」
 夢の中にまでサンタがやってきてくれるように願いつつ、シンタローは部屋を後にした。

 

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