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「七夕のような恋はごめんだな」
 不意にキンタローがそう言った。
 当然のごとく、今日は7月7日で、だからといって特別に休みがああるわけでもなく、本日も総帥任務に追われていたシンタローだが、ぽつりともらされたその言葉に意味深長なものを感じ、作業の手を止めて振り返ってしまった。
 そこにいたのは、もくもくとファイル整理をしている従兄弟の姿で、どういう経路から、そんな言葉がもらされる結果になったのか、まったくもって判断がつきにくいほどに、真面目な顔をして淡々と仕事をこなしている最中である。それでも、そのまま放置するには、当事者ともいうべき自分にとっては大問題で―――つまりは、現在お互い恋愛中のつもりだし―――その真意を伺うべき言葉を、シンタローは発した。
「なんで、七夕のような恋はごめんなんだ?」
 『七夕の』という枕言葉がひどく気にかかる。
 その声に、キンタローは、ファイルへ向けていた視線が持ち上げ、こちらを向いた。すでにその眉間にはシワが寄せられており、不審な表情を浮かべている。
 一体なぜそんな顔をするのかさっぱり分からない。
「お前は、そんな恋がいいというのか?」
 そう不思議そうに尋ねられれば、
「ロマンチックだろ。あと、あいつらは何年たってもラブラブだし。別に悪いことじゃねぇだろ」
 当然のような台詞を返してやる。
 一年に一度の逢瀬をいとおしむ恋人達。
 確かに、一年に一度しか会えないことは辛いかもしれないけれど、だからこそ、そこに深い絆と愛情があると思える。
 毎年その日に夜空をみあげ、その一日の逢瀬を見守り微笑む恋人達がどれほどいるか。そうして、七夕の短冊に、あの二人のようにずっと愛し合っていられますように、などと願いをかけるのである。
「ずっと相手を愛してるのは、いいことじゃねぇかよ」
「そうだな」
「そうだろ?」
「だが、俺は嫌だ」
 自分の意見に頷いてくれたにもかかわらず、キンタローは、その後きっぱりと否定してくれる。
「もしかして、一年に一度しか会えないのが不満だって言うのか?」
 それは確かに不服であろう。
 愛している人とは、毎日会いたいし、何よりもいつも傍にいて欲しい。それが、たった365日の中の一日でしかないというのは、切なく歯痒いものだろう。
 そういう意味では、七夕のような恋は嫌なものなのかもしれない。
 けれど、キンタローはその言葉に、横へと首を振った。
「別にそう言うわけではない」
「えっ?」
 違うのか?
 てっきり相手も縦に頷いてくれると思っていたのだが、予想がはずれてしまった。
 それなら、どんな理由があるというのだろうか。
 怪訝に思うシンタローに、キンタローは、軽く唇を尖らせ、不平を口にした。
「そうじゃない。俺は、一日会うだけで満足するような恋は、ごめんだと言うのだ」
 その思わぬ言葉に、自分の眼がパチクリと見開かれるのがわかる。
 そういう意味か。
 ようやく彼の言いたいことがわかったけれど、それは意外な言葉でもあった。
 確かに、彼らの恋はそう言うふうにとれないこともない。けれど――。
「別に、あいつらはそれで満足しているわけじゃねぇだろ? だから、一日の逢瀬を待ち望んでいるんだし」
 会いたくても会えない事情が二人にはある。
 だが、キンタローは、それで納得してはいないようだった。
「好きなら、ずっと傍にいればいい」
「だから無理だって。天の川があるし」
「泳げばいい」
「神様が許さないし」
「神様なんていらない」
「ガキのワガママみたいだな」
「ガキのような恋で結構だ。俺は、そんなものが大人の恋愛というなら、ごめんだな」
 キッパリと言い切る相手は、確かにあんな川も渡りきり、神の制止の声さえも無視しそうである。
「俺は、絶対に愛する人に、一年で一日しか会えないような状況を作りはしない」
 それは確かにそうだろう。
 それほど愛し合っている恋人同士なら、そんな困難も乗り越えて当たり前なのかもしれない。
 織姫も、彦星にそんなことをされたら、きっともっと彼のことを愛してしまうに違いない。
 なぜなら、自分がそうだから。
 ただの想像だけだけれど、たぶん…きっと…絶対に、キンタローがそうまでして自分の元へと会いに来てくれたら、二度と離れないことをその場で誓うに違いない。
「それなら、俺もそんな恋はごめんだな」
 一年に一度だけ―――そんなことは我慢できないのだから。相手が来ないのならば、こちらが来る気概で。きっと離れたその瞬間から追い求める。

 それが、たぶん―――俺たちの恋。
 



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