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sgs



「シンちゃん。今年は何をプレゼントしてもらうの?」
 今日は、クリスマスイブ。眠れば、その後にサンタのおじさんがそっとプレゼントを置きにやってきてくれる、素敵な夜の日だ。
 身内と親しい側近らで行われるクリスマスパーティー内で、こそっとそう耳打ちしたのは、マジックが手作りしたサンタ風の可愛らしい服に着込んだグンマだった。手首にあるふわふわの白いファーが、シンタローの耳をくすぐる。シンタローの服装も、グンマと似たものだった。けれど、ところどころ――襟やボタンの位置など――微妙に形が違うのは、父親のこだわりだろう。どちらも愛らしさをさそうその洋服は、マジックが、いそいそと今日この日のために作ってものだった。
「……僕は、別にいらない」
「え? どうして」
 プレゼントをいらな子供なんていないはずである。けれど、シンタローは、なんとなく不貞腐れたような表情で、そう言い放った。
「もう貰ってたの?」
 その言葉に、きょとんとさせて、グンマは尋ねた。
 ガンマ団総帥の息子の溺愛ぶりは世界各国伝わっている。そのために、心証をよくしておこうという狙いミエミエで、シンタローへクリスマスプレゼントと称して様々な品物が毎年贈られてくるのである。大概の子供が喜ぶ品ばかりで、シンタローの欲しいものがその中に入っていてもおかしくなかった。
「それじゃあ、サンタさんに、何もお願いしなかったの?」
「グンマには関係ないだろ」
「シンちゃん…?」
 ぷいっと横を向いてしまったシンタローに、グンマは、とたんにしょぼんとした表情を浮かべた。従兄弟と喧嘩することはしょっちゅうだから気にしないでいられるけれど、冷たい態度をとられると、哀しくなってしまう。しかも、今日の態度は少しおかしかった。
(シンちゃん、どうしたんだろう……)
 パーティは、すでに始まって随分と経っている。呼び寄せたオーケストラからは軽快なクリスマスソングの生演奏が聞こえてくる。大人達は楽しそうに、ご馳走と酒を手に、会話をしているけれど、子供はシンタローとグンマだけだった。
 自然に寄り添うように、二人でいたけれど、パーティが始まる前から、シンタローはあまり元気がなかった。
「あのね。内緒だけど、僕は、ちゃんとお願いしたよ。今度新しいロボット作るから特殊な合金素材をくださいって」
「ふ~ん、よかったな」
 サンタへのお願いをこっそり教えてあげたのに、返って来たのは気のない返事。
「シンちゃんは?」
「教えねぇよ」
 やっぱりそっけない言葉を吐くと、近くにあったテーブルから七面鳥のモモの肉を切り分けてもらい、それを口に頬張り始めた。なんとなく自棄食いに見える姿である。 
(やっぱり伯父様がいないせいかな?)
 シンタローの機嫌があまりよくないのは、今日のクリスマスパーティには、父親であるマジックがいないせいなのかもしれない。
 昨日からの遠征で、まだ戻って来ていなかった。予定では、明後日の朝に帰ってくるらしい。かなりの激戦区で、わざわざ総帥が出向くほどだから、かなり危険が伴うだろうということを高松が話していた。たぶん、シンタローもそれを知っている。
 普段は、パパなんていなくても大丈夫だよ、と強がってみせるけれど、本当は誰よりもパパが大好きで、一緒にいて欲しいと思っているのは間違いないのだ。
(シンちゃんったら、僕にまで意地っ張りにならなくてもいいのに)
 素直に寂しいといってくれてら、こっちも慰めてあげられるのに、何もないって突っぱねられるから、こちらも何にも言葉をかけてあげられない。そんなものは、必要ないというかもしれないえれど、やっぱり言葉はあった方がいいのだ。
 そんなシンタローは、むっつりした表情のまま、オレンジジュースと大きなケーキを交互に頬張っていた。
「どうしたんだい、シンタロー。楽しくないのかい?」
「サービス叔父さん! もう来ないかと思ったよ」
「遅れてすまない。メリークリスマス、シンタロー」
 そんなシンタローに声をかけたのは、常日頃がら美貌の叔父様として、シンタローが慕っているサービス叔父様であった。何をしていたのか、今頃になって登場したその叔父に、とたんに、シンタローの顔に笑顔が戻ってくる。でも、それが空元気からでる笑いだということは、従兄弟だからグンマにも分かっていた。
「兄さんはすぐに戻ってくるよ。だから、シンタローは何も気にすることなく楽しみなさい」
「うん。僕は全然心配してないよ。だって、パパは強いもん! それに明後日にはちゃんと帰ってくるっていってたもんね」
「ああ、そうだね」
 ぽんぽんと強がるシンタローに頭を叩くようにして撫ぜるサービス。その表情には愛しむものが見えて、グンマは頬を少しだけ膨らませた。
 だって、自分にはしてもらえない。あんな風に―――頭を叩いただけで、ホッとしたような顔をシンタローに。あれだけで、安心させることができるならば、いくらでもしてあげるのに。
 それは、仕方ないことだけど、やっぱり悔しい。
「どうしました、グンマ様」
「高松」
 振り返ればそこには高松の姿があった。今日ばかりは白衣ではなく、ちゃんとスーツを着込んでいる。青の一族主催のパーティなのだから、おかしな格好は出来ないのだ。
「なんでもないよ」
 これは高松には関係ないこと。でも、ちゃんと分かっているようだった。心得ているようになずかれ、そうして言われた。
「マジック総帥ならば、明日の朝には帰って来るようですよ」
「ほんと?」
「ええ。秘書官達にはすでに伝えられてましたから」
「そっか。よかった」
 それなら、シンちゃんもきっと大喜びするはずだ。
(やっぱりシンちゃんは、笑顔でいてくれた方がいいもんね)
 今日のような、落ち込んだ顔は見たくない。
 ほっと一安心したら、ふわっと欠伸が出てきた。
「ああ、もうお休みのお時間ですね。シンタロー様も眠そうですし、寝室へお連れいたしましょう」
「うん…今日は、シンちゃんと寝る」
 こんな夜にひとりぼっちは寂しすぎるから。
 本当は寂しい気持ちや心配する気持ちが溢れてきてしまうだろうから、ひとりにはさせられない。
「ええ、分かりました。準備してまいります」
 そう言って、先に部屋を出て行った高松に、グンマは、シンタローの姿を探した。後はシンタローと一緒に寝室へ行くだけである。
 見つけると、欠伸をしたとたんどっとあふれ出てきた眠気、目を擦りつつ抵抗しながら、グンマは、シンタローの傍へと近づいた。すでにシンタローも眠そうで、サービス叔父の隣に座っていたけれど、時折がくっと身体が倒れかけていた。
 それでもまだ起きているのは、きっとひとりで寝室に行きたくないため。だから、グンマはシンタローに向かって手を差し伸べた。
「シンちゃん、一緒に寝てよ」
「………グンマがそう言うなら、寝てあげてもいいよ」
 意地っ張りらしく、そんな風に言う従兄弟に、グンマは、睡魔に捕らわれたとろりとした表情で頷いた。
「うん。一緒に寝てね」
 しっかりと握り締められた手と一緒に、寝室まで付き合ってくれたサービスへ、お休みなさいの挨拶をすると、二人そろってベッドの上へと横へなり、夢の国へと旅立った。



 どれくらい眠ったのだろう。
 不意にグンマは目覚めた。けれど、視界に映るのは漆黒の世界。まだ夜は明けてないようだった。横には、シンタローが寝ている――そのはずだったのに、シンタローの姿はない。慌てて起き上がると、ドアの付近に怪しい人影を見つけた。その腕に、小さな子供を抱きかかえている。
「誰?」
 グンマが声をかけると、その人影は振り返った。
「おや、グンちゃん。起きたのかい?」
「マジック伯父さま」
 その声は、叔父のマジックの声に間違いなかった。その伯父の腕に抱かれているのは、シンタローである。
「シンちゃんを連れて行くの?」
「ごめんね。私は、今サンタクロースだからね。この子の願いを叶えてあげなければいけないんだよ」
 サンタクロース。
 そう言えば、いつ帰ってきたのかわからないけれど、今のマジックの姿は、絵本でよく見るサンタクロースの服装にそっくりだった。振り返れば、グンマが寝ていた枕の上にも、プレゼントらしい箱があった。きっとこの伯父が持ってきてくれたのだろう。わざわざサンタの格好をして。
「シンちゃんの願い?」
「そう。昨日の夜書いたんだろうね。サンタに当てた手紙には、『パパと一緒にクリスマスをしたい』って書いてあったんだよ」
 そう言えば、昨日の夜寝る前に、何かを書いていた。覗き込もうとしたら、思い切り怒られた上に、しっかりと殴られたのである。
 結局何を書いていたのかわからなかったけれど、シンタローはサンタへお手紙を書いていたのだ。クリスマスの日に欲しい願いを。
 そうして、このサンタクロースは、その願いを叶えてにきたのである。
「お休み、グンちゃん。メリークリスマス」
 そう言うとサンタはシンタローをつれていく。明日の朝、サンタを信じて願いを告げた子供の喜ぶ顔を見るために。
 けれど、ひとりベッドへ戻ったグンマは、その顔に喜びはなかった。
 ひとりっきりになったそこは、とても冷たく感じて、グンマは、ギュッと毛布を握り締めた。枕元にあるプレゼントに目が行く。中味はきっと自分がサンタに願ったもの。
 でも、嬉しさは感じられない。
(こんなことなら、僕のお願いごと『シンちゃんが欲しい』って書けばよかった)
 大好きな従兄弟が、サンタに連れ攫われるとわかっていたら、願い事だって変わっていただろう。
 でも、そう思っても本当には願えない。
 だって、それは自分だけの願いで、大好きなシンちゃんの願いではないのだから。
(僕もいつかシンちゃんのサンタになれるかな)
 大切な人の願いを叶えてあげられるような、そんなサンタに、いつかはなられるだろうか。
 あんな風に大人になれればきっと…。
 グンマは、ジワリと滲んできた涙を一生懸命拭うと、毛布にしっかりと丸まって目を閉じた。
 早く大人になれますようにと願って。
 

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