貴方のために。
貴方を想って。
そんな言葉を重ねて見せるけれど、本当のことは知っている。
それはたんなる自分の我が侭。
でも、それのどこが悪い?
「ハーレムッ!」
それを見たとたん、シンタローはずかずかと相手に近寄り、今しがた口に咥えたばかりのそれを取り上げた。
「なにしやがるっ」
とたんに、どっかりとソファーに背をあずけるようにそこに座っていた男だが、その行動に動いた。
即座に抗議の声をあげ、浮き上がらせた腰に、だが、シンタローはそれを押さえつけるように、上から見下ろし、ギッと相手を睨みつけた。腰は手に、顔だけを相手に詰め寄らせた状態で口を開く。
「何しやがるじゃねぇよ。俺は、タバコをやめろって何度も言ってるだろうが」
奪い取ったそれを火がついているにもかかわらず、器用に握りつぶしたシンタローは、腰に当てていた右手を前に突き出し、人差し指を一本まっすぐに上に伸ばすと、メッと幼い子をしかるように振ってやった。
(まったく、一体何度言えばわかるんだよ。身体に悪いから、タバコはやめてくれって言ってやってるのに)
別に自分のためにしているわけではない。これは、相手の―――ハーレムを思っての行動なのだ。
しかし、だからといって、素直に納得してくれる相手でもない。
「やめねぇって言ってるだろうが、俺は」
握りつぶされてしまっては、取り戻してもしょうがないと思ったのか、またポケットからタバコを取り出す。さらに、こりずに咥えようとした相手に、シンタローは、すかさず手をのばした。
ガシッ。
だが、タバコまでにはそれは届いてなかった。
「……離しやがれ、おっさん」
「やだね、ガキ」
シンタローの伸ばした手は、ハーレムの手に捕まれ、進行を止められていた。
タバコは、依然としてハーレムの口の中。火はつけられていないが、放っておけば、先ほどと同じことをするのは確実である。
やめようと手を伸ばす。だが、それ以上は進めない。
力の拮抗。
いや、それよりも相手の方が上か。
(くっそ~、おっさんのくせに力だけはつえーからな)
「どうした、総帥。こんくらいの力しか出せねぇのか、なっさえねぇな」
「馬鹿力めぇ~」
握られた手は、動きを完全に封じ込められている。
押してもだめなら引いてみろ、と思い実行してみるが、それを察したのか、今度は逆の力を加えられた。すなわち、押すのではなく、逆に引っ張っているのだ。
「うがぁ~~~~~!」
「甘ぇよ」
してやったりとばかりに口の端を持ち上げられる。
抵抗しても無意味にさせられるのが、心底悔しくてたまらない。しかも、そんなことをしていれば、背後から、ハーレムの部下達の声が聞こえてきた。
「何やっているんですか、あの二人は」
「ああ、いつものじゃれあいでしょ」
「……………仲がいい」
マーカ、ロッド、Gの声である。
(これで、仲がいいわけあるかっ!)
そう突っ込みたいのだが、目の前のことで文字通り手一杯である。
そのせいか、後ろの会話は止まらない。
「隊長のタバコをやめさせるなんて、無理なことでしょうに」
「でも、やめてくれた方が、シンタロー様にしたら嬉しいだろぜ」
「なぜだ?」
「愚問だぜ、マーカー。タバコをすわねぇ人間なら、ニコチン味のキスなんかされても美味くねぇからだろ」
チッチッチッと、舌打ちする音とともに、当然といわんばかりの声がこちらまで届いた。
ギクッ。
そのロッドの言葉に、思わず反応してしまえば、その手の先に繋がっている相手が、ニヤッと意地悪げな笑みを浮かべてみせた。
気付かれたのだ。
(くっそぉ~、絶対に気付かれたくなかったのに)
だからこそ、強気で相手に向かっていったのである。それなのに、先ほどの一瞬の動揺でパァだ。
「なるほどねぇ。それで、俺にタバコをやめさせたいわけか」
可愛いじゃねぇか。
ニタニタとしか形容ができない笑いを口元に浮かべる相手に、こちらはといえば、顔をあわせ辛くて、視線をそらすしかない。
「………わかったんならやめろよ」
たぶん、顔は真っ赤になっているだろ。
ロッドの言葉は図星だ。
けれどそんなこと、自分の口から言えるわけがなくて、健康のため、と言い張って、タバコをやめるように言っていたのである。しかし、こうなってしまっては、もうその言い訳も通用しないだろ。
(どうせ、俺の我が侭だよ)
それでも、キスするならばたっぷり味わいたいと思うのは、当然のことで、それなのに滑り込んでくる苦味に邪魔されるのは、ムカつくだろ?
だから、やめて欲しいと願っているのだけれど、相手は自分の我が侭を受け止めるだけの度量はあるだろうか。
「そうだな…。やめてもいいが、けど、口寂しいんだよな、タバコをやめると」
「それなら、ガムでも噛んでいればいいだろうが」
今度はガムの味で文句をつけそうな気もするけれど、とりあえず一番の目的はタバコをやめさせるということなのだから、妥協案を出してみる。しかし、相手は渋い顔をするだけだった。
「まあ、それでもいいがな」
顎をさらりと手で撫ぜてから、ぺっと口の端に噛んでいたままだった未使用のタバコを吐き捨てた。それから意味ありげな視線をこちらに送る。
「………あんだよ」
その視線がなにやら嫌な予感を与える。警戒してみるが、どこまで警戒すればいいかを図りそこねていれば、あっさりと捕まっていた。
いまだに捕まれた手を引かれ、あっさりと相手の胸の中に自ら飛び込む形となる。
「それよりは、タバコや代わりに、お前の舌でも口に入れておけば問題解決だろ」
「んなわけあるかぁ~~~~~~~~!」
そう叫ぶ声は、あっさりとふさがれて、有言実行されるはめになるのだった。
「ハーレム隊長が、タバコをやめると思うか?」
「シンタロー様が、いっつも口塞いでやってれば、やめると思うぜ、俺は」
「………無理だな」
「そうだな。無理な話だ」
「つーかさ、気付いてないでしょ? あん人は。隊長がタバコ吸いまくるのって、シンタロー様を襲うのを控えるためだって」
結局、その後も変わらぬ状況が続いたのは、言うまでもなかった。
―――――――どうせ聞き届けられないなら、我が侭言ってもいいだろ?
貴方を想って。
そんな言葉を重ねて見せるけれど、本当のことは知っている。
それはたんなる自分の我が侭。
でも、それのどこが悪い?
「ハーレムッ!」
それを見たとたん、シンタローはずかずかと相手に近寄り、今しがた口に咥えたばかりのそれを取り上げた。
「なにしやがるっ」
とたんに、どっかりとソファーに背をあずけるようにそこに座っていた男だが、その行動に動いた。
即座に抗議の声をあげ、浮き上がらせた腰に、だが、シンタローはそれを押さえつけるように、上から見下ろし、ギッと相手を睨みつけた。腰は手に、顔だけを相手に詰め寄らせた状態で口を開く。
「何しやがるじゃねぇよ。俺は、タバコをやめろって何度も言ってるだろうが」
奪い取ったそれを火がついているにもかかわらず、器用に握りつぶしたシンタローは、腰に当てていた右手を前に突き出し、人差し指を一本まっすぐに上に伸ばすと、メッと幼い子をしかるように振ってやった。
(まったく、一体何度言えばわかるんだよ。身体に悪いから、タバコはやめてくれって言ってやってるのに)
別に自分のためにしているわけではない。これは、相手の―――ハーレムを思っての行動なのだ。
しかし、だからといって、素直に納得してくれる相手でもない。
「やめねぇって言ってるだろうが、俺は」
握りつぶされてしまっては、取り戻してもしょうがないと思ったのか、またポケットからタバコを取り出す。さらに、こりずに咥えようとした相手に、シンタローは、すかさず手をのばした。
ガシッ。
だが、タバコまでにはそれは届いてなかった。
「……離しやがれ、おっさん」
「やだね、ガキ」
シンタローの伸ばした手は、ハーレムの手に捕まれ、進行を止められていた。
タバコは、依然としてハーレムの口の中。火はつけられていないが、放っておけば、先ほどと同じことをするのは確実である。
やめようと手を伸ばす。だが、それ以上は進めない。
力の拮抗。
いや、それよりも相手の方が上か。
(くっそ~、おっさんのくせに力だけはつえーからな)
「どうした、総帥。こんくらいの力しか出せねぇのか、なっさえねぇな」
「馬鹿力めぇ~」
握られた手は、動きを完全に封じ込められている。
押してもだめなら引いてみろ、と思い実行してみるが、それを察したのか、今度は逆の力を加えられた。すなわち、押すのではなく、逆に引っ張っているのだ。
「うがぁ~~~~~!」
「甘ぇよ」
してやったりとばかりに口の端を持ち上げられる。
抵抗しても無意味にさせられるのが、心底悔しくてたまらない。しかも、そんなことをしていれば、背後から、ハーレムの部下達の声が聞こえてきた。
「何やっているんですか、あの二人は」
「ああ、いつものじゃれあいでしょ」
「……………仲がいい」
マーカ、ロッド、Gの声である。
(これで、仲がいいわけあるかっ!)
そう突っ込みたいのだが、目の前のことで文字通り手一杯である。
そのせいか、後ろの会話は止まらない。
「隊長のタバコをやめさせるなんて、無理なことでしょうに」
「でも、やめてくれた方が、シンタロー様にしたら嬉しいだろぜ」
「なぜだ?」
「愚問だぜ、マーカー。タバコをすわねぇ人間なら、ニコチン味のキスなんかされても美味くねぇからだろ」
チッチッチッと、舌打ちする音とともに、当然といわんばかりの声がこちらまで届いた。
ギクッ。
そのロッドの言葉に、思わず反応してしまえば、その手の先に繋がっている相手が、ニヤッと意地悪げな笑みを浮かべてみせた。
気付かれたのだ。
(くっそぉ~、絶対に気付かれたくなかったのに)
だからこそ、強気で相手に向かっていったのである。それなのに、先ほどの一瞬の動揺でパァだ。
「なるほどねぇ。それで、俺にタバコをやめさせたいわけか」
可愛いじゃねぇか。
ニタニタとしか形容ができない笑いを口元に浮かべる相手に、こちらはといえば、顔をあわせ辛くて、視線をそらすしかない。
「………わかったんならやめろよ」
たぶん、顔は真っ赤になっているだろ。
ロッドの言葉は図星だ。
けれどそんなこと、自分の口から言えるわけがなくて、健康のため、と言い張って、タバコをやめるように言っていたのである。しかし、こうなってしまっては、もうその言い訳も通用しないだろ。
(どうせ、俺の我が侭だよ)
それでも、キスするならばたっぷり味わいたいと思うのは、当然のことで、それなのに滑り込んでくる苦味に邪魔されるのは、ムカつくだろ?
だから、やめて欲しいと願っているのだけれど、相手は自分の我が侭を受け止めるだけの度量はあるだろうか。
「そうだな…。やめてもいいが、けど、口寂しいんだよな、タバコをやめると」
「それなら、ガムでも噛んでいればいいだろうが」
今度はガムの味で文句をつけそうな気もするけれど、とりあえず一番の目的はタバコをやめさせるということなのだから、妥協案を出してみる。しかし、相手は渋い顔をするだけだった。
「まあ、それでもいいがな」
顎をさらりと手で撫ぜてから、ぺっと口の端に噛んでいたままだった未使用のタバコを吐き捨てた。それから意味ありげな視線をこちらに送る。
「………あんだよ」
その視線がなにやら嫌な予感を与える。警戒してみるが、どこまで警戒すればいいかを図りそこねていれば、あっさりと捕まっていた。
いまだに捕まれた手を引かれ、あっさりと相手の胸の中に自ら飛び込む形となる。
「それよりは、タバコや代わりに、お前の舌でも口に入れておけば問題解決だろ」
「んなわけあるかぁ~~~~~~~~!」
そう叫ぶ声は、あっさりとふさがれて、有言実行されるはめになるのだった。
「ハーレム隊長が、タバコをやめると思うか?」
「シンタロー様が、いっつも口塞いでやってれば、やめると思うぜ、俺は」
「………無理だな」
「そうだな。無理な話だ」
「つーかさ、気付いてないでしょ? あん人は。隊長がタバコ吸いまくるのって、シンタロー様を襲うのを控えるためだって」
結局、その後も変わらぬ状況が続いたのは、言うまでもなかった。
―――――――どうせ聞き届けられないなら、我が侭言ってもいいだろ?
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