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(お題「不意に」のハーレム側。叔父甥です。女性向けです。ひっそりと裏風味です。苦手な方はご遠慮ください)




長い黒髪が、シーツの上に散っている。

ごそごそと身を起こして、男はナイトテーブルの上の煙草を掴んだ。ライターの火をつけようとすると、ガスかオイルが不足しているのか、シュッと言う音が虚しく響くだけで、中々点火しない。やっとついた火に煙草の先を近づけて、軽く息を吸い込むと炎は煙草に燃え移り、数回の点滅の後、少々癖の強い香りが室内に充満した。
暗い部屋の中で蛍のような頼りない光が、男の手の先で揺れている。おぼつかない光源により、一切の装飾をそぎ落としたような殺風景な寝室がわずかに浮かび上がった。生活感がまるでないその内装は、寝る暇も惜しんで働いている部屋の主の日常を物語っているようで、男はベッドの隣にいる甥に視線をやった。
先ほどからやけに静かだと思っていたら、甥は男の方を向いたまま瞼を閉じていた。耳を澄ますと微かな寝息も聞こえてくる。どうやら眠っているようだ。
男は予想外のものでも見てしまったかのように大きく瞬きを繰り返すと、煙草の穂先を甥の顔の方に向けた。煙草の明かりで垣間見た甥の寝顔は、男に苛立ちと少量の優越感を同時に与え、心の中に巣食った得体の知れない感情を増幅させた。
横にいるのに気を許して眠らないで欲しいと思ってる癖に、安心したように眠る甥を起こさないよう慎重に身動きしてしまう自らの矛盾に、男は自嘲気味に唇を歪ませた。
甥の象徴のような長い黒い髪が汗で頬に張り付いている。男は煙草を持っていない左手を何の気なしに伸ばし、髪を梳いて背中に流した。
甥が髪を伸ばし始めたのはいつからだったのだろうか。髪から手を放して、男は過去の記憶を辿る。
幼少期は短かった。あの島で久しぶりにまともに向き合ったときはすでに長かった。仕官学校に入ってからは極力顔を合わさないようにしていたので定かではないが、恐らくその辺り、たぶん二十歳前後に伸ばし始めたのだろう。
異端の色をした髪を伸ばす心境を推し量り、推し量ってしまった自分に腹を立てる。同情しながら疎んでいた黒髪を、男はもう一度後ろに梳いた。
乱暴に梳いたせいか、むき出しの肩に髪がかかって、汗のせいで張り付いている。力なく放り出された甥の腕の内側に、内出血のような赤紫色をした痕を目にして、気まずそうに視線を外した。甥に対する執着心が、その小さな痕に終結されているようで苛々する。
それでも外からは決してばれない位置に残す辺りが、理性を保っている証拠かもしれない。この状況で何の理性だ、と男は自らの考えを鼻で嗤い、自虐を込めて再度甥の黒髪に触れた。
何度も髪を梳かれて覚醒したのか、甥の身じろぎを察知して、男はとっさに灰皿に煙草を投げ込んで、うつぶせに寝転がり顔をクッションに埋めて隠した。
隠れなければならないようなことをしていないのに、寝顔を見ながら髪をなでる行為が、その背景にある感情がなんであれ、男にとっては酷く自分らしくないことのように思えたせいだ。
甥はしばらくぼうっとしていたようだったが、煙を上げる煙草を見ると身を乗り出してそれをもみ消した。その後も特に何をするでもなく、ベッドの上に座っている。時折感じる視線が気まずくて、男は寝たふりをし通すことに決めた。


遠くで水音が聞こえてくる。
甥がバスルームでシャワーを浴びている音を耳にしながら、男は再度煙草に手を伸ばした。ライターの火をつけると、今回は一度で上手く発火した。煙草に火を移すことなく、男はじっと炎によって明るくなった手元に見入っていた。
ライターを持つ左手に、黒い髪が一本絡み付いている。
男はその髪を払うこともせず、忌々しそうに舌打ちをしてから、漸く煙草に火を移した。
甥の黒髪も、汗ばんだ肌も、背中に立てられた爪の感触も、こうして一人で煙草を吸っていると幻のように思えた。
甥の部屋に染み付いた、愛煙している煙草の匂いに気付くたびに、どうしても狼狽する。組織の中で喧嘩を繰り返してばかりの日常に、この関係が地続きで存在しているものとはとても思えない。
それなのに中指と薬指にかけて蛇のように絡む黒髪は、ともすれば本人よりもその存在を知らしめて、これは間違いなく現実だと男に付きつけてくる。
自嘲と自己嫌悪に悩まされると分かっているのに、酒を飲むと言う口実で、甥の部屋を訪れることを辞めない自分は何なのか。
男が幾度となく自らに問いかけた質問に、とっくに答えは出ていると頭は告げている。そして、似たような考えをする甥も、恐らく答えに気が付いているだろう。けれどそれを認めるわけにはいかなかった。
誤魔化し続けて、嘘を付き、虚構によって成立している関係こそが相応しい。
「馬鹿じゃねえの」
考え込んで結論付けた解答に対して、吐き捨てるようにそう言い放つと、男は煙草を灰皿に投げ込んで、ベッドの中から這い出した。乱雑に散らばった衣服を身に付けて、寝室を後にする。
扉を閉める前に振りかえった視線の先で、消されぬままに残された煙草の煙が揺れていた。


(2006.6.29)

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