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まず目に入ったのは、その手に握られた濃い青色のボトルだった。
隊服ではない地味なハーレムの格好で、それだけがその鮮やかな色のせいか浮いていた。もうすでに酔っているのか、千鳥足でハーレムは総帥室へ入って来た。ハーレムの動きにつられて揺れる青のボトルからハーレムに目をやれば、「よぉ」と表情で言う。何度目か分からないため息を吐き、諦めたようにシンタローは座っていた総帥用の椅子から対面の来客用の椅子へと場所を移す。そこはハーレムと、シンタローの指定席でもあった。

来た理由など聞かなくても分かっていた。それはもう何度も、ハーレムがその理由でシンタローの所にやって来ていたからだ。ただの「酒盛り」。無類の酒好きのハーレムにとっては、それがどうも毎日行うべき行為として定まっているみたいだった。
付き合わされるこっちの身にもなってみろ。シンタローがそう言いたくなるほど、ハーレムはほぼ毎日こうやってシンタローの所へ押し掛けて来ていた。
別に何か楽しい話をしあいながらなんて訳でもなく、グラスに酒をついで、呑んでなくなればまたついで、そしてそれがボトルが空になるまで続けられるだけ。その間にすこしハーレムの自慢話が付いてくるくらいだ。
「で、今日はどうしたんだよ」
半分ほど酒がつがれたグラスを持ってシンタローは言う。どんな自慢話だ?と笑いながら問えばハーレムは満面の笑みで喋り始める。



ハーレムの笑い声がふと、止む。シンタローがグラスからハーレムへ視線をやれば、まっすぐな目が見つめ返していた。
「シンタロー」
静かに名を呼ばれ、思わず視線をそらす。少しずつゆっくりと、変わり始めていた空気を、シンタローは感じていた。ハーレムという男が、「叔父」から一人の男になる。
シンタローは立ち上がっていた。
けれどそれよりも早く、ハーレムの腕がシンタローの腕を、逃がすまいとばかりに握りしめていた。その勢いのまま、シンタローはハーレムの腕の中へと収まる。酒の匂いしかしないはずの、その向こう側からただよう獣の匂いに、目がくらむ。
引き寄せられた勢いで触れた太腿は、火傷しそうなほどの熱さだった。酒の力だけでは無かった。
「ハーレム・・・!」
精一杯の、抵抗だった。普段呼ばれぬ名前を呼ばれたことに一瞬ひるんだのか、腕の力がふっと抜ける。その隙にシンタローは逃げ出し、ソファにつまずきながらもハーレムから離れる。
「なに、っしてんだよ・・・!」
荒いだ息を整えながらシンタローは叫ぶ。打って変わってハーレムは、鼻で笑い、両手を両肩の辺りまで上げ、さあな、とジェスチャーをしてみせる。
「とぼけんな・・・!」
体中をめぐる酒が、シンタローの体の自由を利かなくさせる。熱湯に浸かったみたいに、体中がぼんやりしていた。
「・・・・・・」
「?」
ハーレムの口が動くのが見えた。しかしかすかな声はシンタローの所までは届かなかった。ハーレムは立ち上がり、シンタローとの距離をつめる。後ずさりが出来たのは、壁までだった。冷たい壁を背に、逆光で表情の分からぬハーレムに、シンタローは恐怖に似た感情を覚える。
「・・・っ!」
一瞬のことだった。ハーレムの右手はシンタローの首をつかんだ。けれどそれは優しく、まるで赤ちゃんにでも触れるみたいだった。シンタローが唾を飲む、その喉仏の動きがハーレムの腕を伝う。
「して欲しいんじゃないのか?」
耳元で、ハーレムが囁く。ぶつかった視線で「何を」とシンタローが問えば、ハーレムはにやりと笑う。首に添えられていたハーレムの手が動き、その親指がシンタローの唇をなぞる。伸びた爪が、乾いた唇を引っ掻く。小さく走った痛みに顔をしかめれば、滲んだ血を絡めとりながらハーレムはシンタローに口づける。

ただ、その行為だけを与えようとするキス。
なにも、感じなかった。
ハーレムの肩越し、目の端に映った群青が、いつまでも頭に残っていた。


無意識の欲望
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