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この男から気遣いの言葉を聞くとは思わなかった。そう思いながらシンタローはわずかに体をもたげる。
「大丈夫か」
ハーレムは指にシンタローの髪を絡め遊ぶように動かす。するりとこぼれる黒髪を追いかければ、汗ばんだ肌にたどり着く。
「・・・誰のせいだ」
ぼやくように言い放ち今度こそシンタローは体を起こす。肩をなぞる指が邪魔だった。覗き込むハーレムから視線を外せば、くつくつと楽しげな笑い声が聞こえる。
「素直じゃねーな」
「・・・・・・黙れ」
ハーレムが反対を向く気配に振り返れば、おそらく戦場で負ったのだろう傷だらけの背中がうつる。
シケモクに火を付けるハーレム。カチ、とライターの音を合図にしたようにシンタローはハーレムの背に触れる。その感覚にハーレムは振り向きもせずそっぽを向いて煙草をくゆらせる。滑り落ちた手は背中の下部を左右に走る傷へ。
「・・・珍しいか?」
笑うハーレムに、痛々しい傷をシンタローは眉もひそめず見つめる。
そうして次の瞬間、シンタローはその傷に唇を重ねた。
「・・・気でも狂ったか」
振り返るハーレムにシンタローはぺろりと舌を出してみせる。赤い舌がまるで蛇のように動くのを見てハーレムは、誘われているのだと気づいた。
「・・・けっ」
半ばぶつかるように唇を重ねる。

名前の分からない感情を二人は、その手に持て余していた。
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