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苦い。シンタローは真っ先にそう思った。
煙草のせいだ、と次に思った。
毎日体に染み込ませるように呑んでいる煙草の匂いが、きっと唇にも舌にも残って離れないでいるのだ。
ハーレムの舌が唇を割りシンタローの口を侵し始める。
手順など何も考えていない、感情のままの乱暴なキス。
それでもシンタローは、足りないと思う。
少しでも優しさの残ったキスなどいらないと批難するようにシンタローはハーレムの剥き出しの背に爪を立てる。がり、と、音はそれほど大きくないはずなのに二人の間にそれは響いた。
まるで二人にしか聞こえていなかったみたいに。
ゆっくりとハーレムの舌の動きが止み、唇が離れる。
にやりと笑うその顔に、シンタローの反抗など鋼の肉体に阻まれて何の意味も無かったのだと気づかされる。
ハーレムの体越しに見えた自分の手のその爪には叔父の血がにじんで自分で思っていた以上の強さを感じる羽目になる。
「残念」
耳元でそう囁かれ、声はぼんやりしているはずなのに音だけがやけにシンタローに響いた。
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