忍者ブログ
* admin *
[20]  [19]  [18]  [17]  [16]  [15]  [14]  [13]  [12]  [11]  [10
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

klk
「シンタローは、死が怖いと思ったことはないのか?」
唐突に、キンタローは尋ねた。それはたまった執務を片付けている最中のことで、普通ならば聞かなかった振りでもしている所だが、今回は人物が人物だった。聞かない振りも無視もすることも心苦しくて、シンタローは書類に向けていた視線をキンタローへと向けた。
「死?」
たった一言だが、それは重い。言葉にした瞬間、どこか息苦しくなったような気がして、シンタローは思わず咳払いをする。
「そうだ。怖くはないか?」
うしろを向いていたキンタローは振り返り、まっすぐにシンタローを見つめる。生まれて、あの島から帰って来てすぐの頃「話す時は、相手の目を見て」ということを習ったらしいキンタローの、それは癖だった。負けじと見つめ返し、視線に視線を重ねる。
「怖くはないな」
それは紛れもない本心だった。士官学校時代も、そのあともずっと、第一に教え込まれたことは、死への恐怖などではなく、それがいかに側にあるかということだった。それは自ら、もしくは誰かの手によって日常化し、まるで最初からそこにあったみたいに存在している。
「本当か?」
言葉と、視線でキンタローは念押しする。シンタローは微笑み、走らせていたペンを休ませる。組んでいた脚も解く。
「ま、職業柄な」
まるで独り言のようにシンタローは誰にともなく言い、執務を再開する。

「・・・俺も、怖くはない」
忘れたころにその言葉は降って来て、シンタローはゆっくりとキンタローを見遣る。
「ま、そうだろうな」
再三、キンタローは「俺はもう死んだ男だから」と言っている。あの島で死を覚悟し、そして死ななかった男の本心に違いない。
「・・・ただ、」
そこで一旦ためらいがちに言葉を区切り、キンタローは天井を仰いだ。なにかを突き止めるようにその視線は真っ直ぐを射抜いていた。言葉が続いたのは、もうすこし後になってから。
「・・・お前や、グンマや、皆と最後の別れだと思うと、それが悲しい」
その声はもしかしたら気づかなかったほどに少しだけ震えていて、シンタローは思わず立ち上がる。背を向けたキンタローがどこか小さく見えて、不安になった。
「・・・キンタロー?」
少しずつ近づき、おそるおそるシンタローはキンタローの顔を覗き込む。けれど目元を拭うような仕草に、予想が確信に変わりシンタローは慌てて、見なかったことに、とキンタローから少し距離をとる。キンタローは何も言わず、シンタローはただそれを見ているだけだった。沈黙が流れて行く。
「・・・すまない、シンタロー」
これで最後だ、とばかりにキンタローは何かを振り払うように頭を振り、振り返る。その目元だけは見ないようにと、シンタローは応える。
「いい。・・・気にしねぇよそんなこと」
せめて笑えれば、その空気を消せたのかもしれない。そこで話を終わらせれば、本当に終わりのはずだった。けれど。
気づけばシンタローはその胸に、キンタローを抱きしめていた。きっと、そうすることでしかキンタローを想えなかった。触れ合った体はまだわずかに震えていて、抱きしめた腕に力を込める事でしか、応えられなかった。
PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved