舌打ちひとつ駆け出し、しばらく走ってトンネルの行き止まりでハーレムは立ち止まる。荒くなった呼吸の音がやけに響いて、そうとは知らず自分を追い立てる。
「クソっ・・・!」
錆びれた壁を叩いて、吐き気にも似た感情に襲われる。撃たれた右肩に痛みが走る。
この状況に陥った最大の理由は、「油断」に違いなかった。
反抗勢力の掃討。ただそれだけのことだと思っていた。ガンマ団と言う圧倒的な勢力に反抗する身の程知らずな者たちを殺せば、それで済むと思っていた。
その中に、まさか。
「・・・まだ逃げるのか?」
”彼”の名を聞いたことはあった。士官学校時代、シンタローと、アラシヤマと張り合うほどの力を持っていた男。その男の噂は、戦場に居たハーレムの元にも届いて来ていた。そしてその男がある日、ガンマ団を脱走したということも。別に誰が死んだって、途中で誰かが居なくなろうが我関せずの団としては、すぐにでも記憶から消えていた男の一人であろう。
近づく足音は、死へのカウントダウンかもしれない。柄にも無くそう思って、ハーレムは鼻で笑う。わずかな眼魔砲を撃つ体力しか残っておらず、あるのは右手のデザートイーグルだけ。
「おう、こっちだ」
まるで友達に話しかけるみたいにハーレムはそう言って、山積みのジャンクの影から顔を出した。瞬間、ハーレムは体を捻り銃口を男に向ける。放たれた弾はハーレムの方に向かって来ていた男の右頬をかすめ、遥かへ飛んで行く。
危ない危ない、などと言いながら男は笑いながらハーレムとの距離をつめる。ざり、と落ちている細かなジャンクを踏む音が辺りに響いて、距離の近さを思い知らされる。
「・・・あー、もう、分かった分かった」
言って、ハーレムは降参だとばかりに両手を上げて全身を男の前にさらけ出す。ボロボロの服と体が、それまでの戦闘の激しさを表していた。ガチャ、とデザートイーグルを落として、男の方に蹴って寄越す。
「もう撃たないのか?」
「あ、もう空っぽ」
男はハーレムを警戒しながら銃を拾い上げる。確かに弾は使い切っており、空だった。
「へぇ、ほんとみたいだな」
けれど一応念のため、と、男は拳銃を踵で蹴り後方へ吹き飛ばす。
「というかお前、そんな物騒なもんもってたのか」
「これくらいじゃないと、アンタは死なないと思って」
そう言って笑う男の顔は、これから人を殺そうとしているとは思えない顔だった。
対戦車用ロケットランチャー。黒光りする先端が目に入って、ハーレムは思わず、おお怖いと声を上げる。
「じゃ、そろそろ」
言って男は、ランチャーの先端をハーレムの腹に押し当てた。ずしりと重みが伝わって、想像以上の威力を思い知らされる。ああ、こりゃ死ぬな。ハーレムは呟く。
「何か言っておくことある?」
「お、優しいねえ」
そうだなぁ、としばらく考えて、ハーレムはひとつ、思い出したように言った。
「愛してるって伝えてくれよ、俺の恋人に」
「恋人ねぇ」
ベタだな、と男は笑う。ベタなことしとかないと後悔するぜ。ハーレムは言う。
不意に、ここだろ?とハーレムはランチャーの先端を握り、心臓のあたりへと移動させる。
「ここの方が確実だ」
「悪いな」
支えといてやる、と、ハーレムは腕をそのままにしておいた。
そうした次の瞬間、辺りに閃光が走った。眩しいほどの、それは爆発だった。
「ぐあっ!」
男の悲鳴が聞こえて、ハーレムは爆発を引き起こした眼魔砲を放った右手をランチャーから離す。相打ち寸前で、ハーレムは巧みに体を捻りそれを回避した。男の体が崩れ落ちるのを目の端で確認して、あとは全力疾走。とにかくこの状況を脱しなければいけなかった。
次に目を覚ましたのは、ガンマ団の医務室でだった。興味が無かったから聞かなかったが、ご丁寧にも側近が説明してくれた。団の敷地内でハーレムが倒れていたこと、大けがを負って瀕死の状態だったこと。社交辞令で礼を言えば、しっかり受け止めたのか諦めたのか側近は素直に部屋を出て行った。
「おっさん!」
慌ただしく医務室に入って来たのは、シンタローだった。いつもはちゃんと整えられている髪も服も乱れて、相当急いで来たらしいことが分かる。
「おっさん、無事か?」
息を整えながらシンタローはハーレムの寝る簡易ベッドへと近づく。乱れた息が別のことを想像させて、ハーレムは思わず笑う。
「エロいな」
「・・・無事みたいだな」
”いつも通り”のハーレムの発言に安心し、シンタローは呆れながらもほっと胸を撫で下ろす。
「心配しただろ?」
唐突にハーレムは喋り出し、顔を上げたシンタローと目が合ってにやりと笑う。
「何が」
もうなんとなく想像はついていたけどそれでもシンタローは尋ねた。顔が熱くなってくるのが分かる。
「俺が死ぬんじゃないかと思って、心配しただろ?」
くつくつと笑いながらハーレムは言って、シンタローの反応をうかがう。赤くなった顔に気づいているのか居ないのか、シンタローは弁解を始めた。
「・・・別に。なんにも心配なんてしてねーよ」
「・・・へぇ」
あ、そう、とハーレムは言い、側にあった灰皿の中からシケモクを一本取り出し、火を付ける。と、急にハーレムは怪我の痛みを訴える。
「・・・あー、痛ぇ・・・」
「! ハーレム!」
思わず立ち上がったシンタローに、ハーレムはすぐさまけろりとした表情をしてみせる。
「なんつって」
「!」
謀られた、とシンタローは慌てて椅子に座り直す。けれどそれでそれまでのことがチャラになる訳も無く。
「心配だったんだろ?愛しのハーレム様が、もしかしたら死ぬんじゃないかって」
「・・・馬鹿か」
煙草をゆらゆらと揺らしながらハーレムは自慢げに言う。
「ま、とりあえず快気祝いに一発な」
「ふざけんな」
まだ治ってねーだろ、なんて言葉はシンタローの断末魔に似た悲鳴に埋もれてしまった。
コアラとハレシンだとここまで違う、という(笑)
「クソっ・・・!」
錆びれた壁を叩いて、吐き気にも似た感情に襲われる。撃たれた右肩に痛みが走る。
この状況に陥った最大の理由は、「油断」に違いなかった。
反抗勢力の掃討。ただそれだけのことだと思っていた。ガンマ団と言う圧倒的な勢力に反抗する身の程知らずな者たちを殺せば、それで済むと思っていた。
その中に、まさか。
「・・・まだ逃げるのか?」
”彼”の名を聞いたことはあった。士官学校時代、シンタローと、アラシヤマと張り合うほどの力を持っていた男。その男の噂は、戦場に居たハーレムの元にも届いて来ていた。そしてその男がある日、ガンマ団を脱走したということも。別に誰が死んだって、途中で誰かが居なくなろうが我関せずの団としては、すぐにでも記憶から消えていた男の一人であろう。
近づく足音は、死へのカウントダウンかもしれない。柄にも無くそう思って、ハーレムは鼻で笑う。わずかな眼魔砲を撃つ体力しか残っておらず、あるのは右手のデザートイーグルだけ。
「おう、こっちだ」
まるで友達に話しかけるみたいにハーレムはそう言って、山積みのジャンクの影から顔を出した。瞬間、ハーレムは体を捻り銃口を男に向ける。放たれた弾はハーレムの方に向かって来ていた男の右頬をかすめ、遥かへ飛んで行く。
危ない危ない、などと言いながら男は笑いながらハーレムとの距離をつめる。ざり、と落ちている細かなジャンクを踏む音が辺りに響いて、距離の近さを思い知らされる。
「・・・あー、もう、分かった分かった」
言って、ハーレムは降参だとばかりに両手を上げて全身を男の前にさらけ出す。ボロボロの服と体が、それまでの戦闘の激しさを表していた。ガチャ、とデザートイーグルを落として、男の方に蹴って寄越す。
「もう撃たないのか?」
「あ、もう空っぽ」
男はハーレムを警戒しながら銃を拾い上げる。確かに弾は使い切っており、空だった。
「へぇ、ほんとみたいだな」
けれど一応念のため、と、男は拳銃を踵で蹴り後方へ吹き飛ばす。
「というかお前、そんな物騒なもんもってたのか」
「これくらいじゃないと、アンタは死なないと思って」
そう言って笑う男の顔は、これから人を殺そうとしているとは思えない顔だった。
対戦車用ロケットランチャー。黒光りする先端が目に入って、ハーレムは思わず、おお怖いと声を上げる。
「じゃ、そろそろ」
言って男は、ランチャーの先端をハーレムの腹に押し当てた。ずしりと重みが伝わって、想像以上の威力を思い知らされる。ああ、こりゃ死ぬな。ハーレムは呟く。
「何か言っておくことある?」
「お、優しいねえ」
そうだなぁ、としばらく考えて、ハーレムはひとつ、思い出したように言った。
「愛してるって伝えてくれよ、俺の恋人に」
「恋人ねぇ」
ベタだな、と男は笑う。ベタなことしとかないと後悔するぜ。ハーレムは言う。
不意に、ここだろ?とハーレムはランチャーの先端を握り、心臓のあたりへと移動させる。
「ここの方が確実だ」
「悪いな」
支えといてやる、と、ハーレムは腕をそのままにしておいた。
そうした次の瞬間、辺りに閃光が走った。眩しいほどの、それは爆発だった。
「ぐあっ!」
男の悲鳴が聞こえて、ハーレムは爆発を引き起こした眼魔砲を放った右手をランチャーから離す。相打ち寸前で、ハーレムは巧みに体を捻りそれを回避した。男の体が崩れ落ちるのを目の端で確認して、あとは全力疾走。とにかくこの状況を脱しなければいけなかった。
次に目を覚ましたのは、ガンマ団の医務室でだった。興味が無かったから聞かなかったが、ご丁寧にも側近が説明してくれた。団の敷地内でハーレムが倒れていたこと、大けがを負って瀕死の状態だったこと。社交辞令で礼を言えば、しっかり受け止めたのか諦めたのか側近は素直に部屋を出て行った。
「おっさん!」
慌ただしく医務室に入って来たのは、シンタローだった。いつもはちゃんと整えられている髪も服も乱れて、相当急いで来たらしいことが分かる。
「おっさん、無事か?」
息を整えながらシンタローはハーレムの寝る簡易ベッドへと近づく。乱れた息が別のことを想像させて、ハーレムは思わず笑う。
「エロいな」
「・・・無事みたいだな」
”いつも通り”のハーレムの発言に安心し、シンタローは呆れながらもほっと胸を撫で下ろす。
「心配しただろ?」
唐突にハーレムは喋り出し、顔を上げたシンタローと目が合ってにやりと笑う。
「何が」
もうなんとなく想像はついていたけどそれでもシンタローは尋ねた。顔が熱くなってくるのが分かる。
「俺が死ぬんじゃないかと思って、心配しただろ?」
くつくつと笑いながらハーレムは言って、シンタローの反応をうかがう。赤くなった顔に気づいているのか居ないのか、シンタローは弁解を始めた。
「・・・別に。なんにも心配なんてしてねーよ」
「・・・へぇ」
あ、そう、とハーレムは言い、側にあった灰皿の中からシケモクを一本取り出し、火を付ける。と、急にハーレムは怪我の痛みを訴える。
「・・・あー、痛ぇ・・・」
「! ハーレム!」
思わず立ち上がったシンタローに、ハーレムはすぐさまけろりとした表情をしてみせる。
「なんつって」
「!」
謀られた、とシンタローは慌てて椅子に座り直す。けれどそれでそれまでのことがチャラになる訳も無く。
「心配だったんだろ?愛しのハーレム様が、もしかしたら死ぬんじゃないかって」
「・・・馬鹿か」
煙草をゆらゆらと揺らしながらハーレムは自慢げに言う。
「ま、とりあえず快気祝いに一発な」
「ふざけんな」
まだ治ってねーだろ、なんて言葉はシンタローの断末魔に似た悲鳴に埋もれてしまった。
コアラとハレシンだとここまで違う、という(笑)
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