南国の楽園・パプワ島ー――。
常夏のこの島では、時おり降るスコールと雨期、それと一部の例外を除けば常に快晴。天気が崩れることはめったにない。
シンタローは夕飯の食材を求めて籠を片手にパプワハウスを出た。だが、目的の森にたどり着くまでに突然のスコール。傘を用意していなかったシンタローは慌てて近くの木の下に逃げこんだ。
「くっそー、今日は降らねーと思ってたのによ。油断したぜ」
濡れて額に貼り付く前髪をかき上げながらシンタローは空を見上げた。雨はなかなかやむ気配を見せない。こんな突然の雨の日は絶対に『一部の例外』が雨を降らしているに違いない、と苦々しく呟く。
「ったく。またトットリのヤツがゲタ占いの術を使ってやがるな」
「それは濡れ衣だっちゃ」
誰もいないと思い込んでいたのに背後から声をかけられ、シンタローは文字通り飛び上がった。
「なにしてんだよ、こんなトコで!」
「なにって、雨宿りだっちゃ」
見ればトットリもずぶ濡れだ。そんなことにも気付けないほど取り乱していたのかと思うと格好悪くて泣けてくる。
「よく降るっちゃね~」
「…オメーが降らしてんだろーが」
「だから、濡れ衣だっちゃ。ぼくはそんなに簡単に術を使ったりしないっちゃ」
丸顔の頬を膨らませて抗議する。
「カエルさん達だってどうしても必要な時以外は頼んでこないっちゃよ」
そう言われてみればトットリがアルバイトをする時は長い間雨が降らない時に限られている。シンタローが思っているほどこの忍者は考えなしではないらしい。
「……悪かったな」
いろいろな意味をこめてシンタローが謝ると、どこまでわかっているのかトットリが無邪気に笑う。
「別に気にしてないっちゃよ」
屈託のない笑顔につられてシンタローも笑った。
「シンタローはどこに行く予定だっちゃ?」
「あ? 南の森に食材の調達だ」
「子供を養うのも大変っちゃね~」
「そうでもねーよ。なんだかんだで俺も楽しんでるからな。オメーは?」
「ぼくは海に魚釣りだっちゃ」
「そっちも苦労するな」
「共同生活は士官学校の寮で慣れてるっちゃ」
「士官学校、ね…」
「どうしたっちゃ?」
トットリが首を傾げる。
「士官学校を出てればガンマ団じゃエリート扱いだ。一般の兵隊に比べれば出世も早い。それがこんな島でキャンプ生活か…」
「それはシンタローのせいだっちゃ。シンタローが秘石を持ってガンマ団を脱走したりしなければぼくもミヤギくんもこんな苦労はなかったっちゃ」
シンタローとしてはそれをいわれると言葉もない。悪かったな、と吐き捨てるとムッと押し黙って目をそむけた。
「けど――」
トットリが笑う。
「ぼくはこの島に来てよかったと思ってるっちゃよ」
「なんでだよ。カエルがいるからか?」
「違うっちゃ。だってこの島ではシンタローが笑うから」
歳に似合わない童顔にいっぱいの笑顔。面食らうシンタローにトットリがさらに笑う。
トットリはシンタローの笑顔が好きだった。コタローが幽閉されてからは、決して見ることができなくなった笑顔。アラシヤマは、そんな甘いことでどうする、とイヤな顔をしていたが、それでもトットリは彼の笑顔が好きだった。それがこの島では見ることができる。
「ぼくはシンタローの笑ってる顔が好きだっちゃ」
「………アホか……」
「余裕ないっちゃねー」
照れてそれだけしかいえないシンタローをトットリがからかうとシンタローはさらにそっぽを向いてしまった。その表情はわからないが耳まで赤くなっているのを見て、トットリは嬉しさを隠し切れず愉快そうに笑った。
突然の雨はやはり突然にやんだ。もう少しこうしていたかったのでやんでしまったのは本当は残念だが、雲の切れ間から覗く太陽を見てトットリは釣竿と魚篭を拾い上げた。
「じゃあ行くっちゃ。次に会った時は敵同士だっちゃよ」
「ぬかせ。返り討ちにしてやるぜ」
シンタローは彼らしさを取り戻し、挑戦的に笑いながら拳を突き出した。トットリもそれを受けて同じように拳を突き出し、魚篭を担いで歩き出し、肩越しに笑いかけた。
「大漁だったらおスソワケしたげるっちゃよ」
「期待しねーで待っててやるよ」
憎まれ口を叩きながら籠を抱えて、シンタローは南の森へ駆けていった。
さぁ、余計なことを言ってしまった。シンタローはきっと釣果を楽しみにしているに違いない。
トットリは魚篭を担ぎなおす。
せいぜいがんばってシンタローを喜ばせてやろう。それでもし、シンタローが笑ってくれるなら、きっと自分も嬉しいから。
「いっちょガンバるかねー」
一人ごちてトットリは太陽の輝く海に駆け出した。
END。。。。。
『雨宿り』
--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------
憧れの(笑)トットリ×シンタローです。時間軸は南国で。
トットリはガンマ団仕官学校時代にシンタローさんにホレちゃってるということで…。
童顔で男前な忍者トットリ。伊達衆では彼が一番男前だと思います(…え?(・・;)
PR