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tta


 いつも勝気でまっすぐな瞳をした彼が、そのときはまるで何かを堪えるような顔で俯いていた。
 ちょっといいかな、と幼い顔に不似合いな暗い声で断って入室してから、勧めた椅子にも座らず入り口でただ立ち尽くしている。せっかく入れた紅茶も大分温んでいた。
 私はなにも言わず、なにも探らず、また促すこともしなかった。わかっているのだ。彼がなにをしに来たのか。なにを聞きに来たのか。この瞬間をもうずっと以前から覚悟していたから。
 どれくらいたった頃だろう。彼が引き結んだ唇から震える声を絞り出す。
「ねぇ、ドクター…」
「はい?」
 カルテを書き付けながら私は顔も上げずに返事を返す。このままなにも言わずに、なにも聞かずに帰ってくれればいいのに、なんて虫のいいことを考えながら。
 けれども無情にも彼はその重い口を開く。
「僕は…本当に父さんの子なの?」
「どうしてそんなことを聞くんです?」
「みんなが、いうんだ。一族に黒髪の子が生まれるわけがない。父さんの子じゃないって…」
 私は手を止めペンを置いてゆっくりと彼の方を向いた。静かな部屋に椅子の軋む音がずいぶん重く響いた。
「ソレ、母君にも聞かれましたか?」
「そんなこと……!」
 彼は俯いていた顔を勢いよく上げて、そう怒鳴った。だがその声とは裏腹に瞳は今にも泣き出しそうだ。
 そう、聞けるわけがない。わかっている。真実を知るのはたった一人だと理解していても、聞けるわけがないのだ。だから私の許にきた。全ては彼の予想通り。
「ひとつだけ聞きたいんですがね」
「…なに?」
「どうして私のところにきたんです」
 訊ねると彼は初めて戸惑いの色を見せた。言われてみれば確かにどうして、なのだ。ほかに聞く相手がいないわけではない。二人の叔父たちに聞いてたってよかったはずだ。だが彼は私のところにきた。一族に近しくあっても、赤の他人の私のところに。
「わからない…」
 彼はまるで迷子のように不安げな顔で、けれどまっすぐに私を見た。
「けど、ドクターはつまらない嘘をつかないと思うから」




――ああ。




 私は心の中でため息をつく。




 この子は一族としてはたしかに奇異な存在だ。
 その色ではなく、その心が。
 一族はみな、冷酷で冷淡で。誰かを信頼する事を知らない。私が養育する子ですらそんなきらいがある。だがこの子はまっすぐが瞳で私を見ながら私を心から信頼している。それが彼の強さになるのか、弱さになるのかはまだわからない。だが純粋なこの心が、いつの日か壊れてしまう、壊されてしまうと思うと、ひどく胸が痛んだ。
「ドクター?」
 不安そうに首を傾げる彼。私はいつものように口元を笑いの形にした。
「あなたがあまりに嬉しいことを言ってくださるから、浸ってしまいましたよ」
「からかわないでよ」
「あなたは間違いなくマジックさまのお子様です」
 唐突に答える。
 彼は一瞬、理解できずにただ目を丸くしていた。
「それ、本当?」
「嘘をついても私になんの得もありませんよ」
「絶対に?」
「あなたを取り上げたのは私です。間違いありません」
 そう言いきってもまだ絶対とは思えないのか、彼は探るように私を見る。私はわざとらしくため息をついて、消毒用アルコールを浸した脱脂綿と注射器を取り出した。
「そんなに疑わしければDNA鑑定をしましょう。さ、腕を出して」
 そう言って注射器を構えると彼は思わず後退る。そして大きく息を吐いてようやく笑った。
「ごめん、ドクター。疑って」
「おや、鑑定しないんですか?」
「うん。ドクターがそこまで言うんなら、きっと嘘じゃないと思う」
「それは残念。今、血液サンプルを採っている最中だったのに」
「もう!」
 愛らしい頬を膨らまし、それから彼は明るく笑った。私も笑いながらすっかり冷めてしまった紅茶に口をつけた。
「でもね」
 彼がイタズラっぽく笑う。
「ドクターが僕の父さんなら、僕、それでもいいって思ったんだ」
 思いがけないセリフを聞いて口に含んだ紅茶を思い切り吹き出した。
「な、なにを言い出すんです! あなたって人は!」
「知らないの? そういう噂、あるんだよ」
「事実無根です!」
「うん。僕もそう思う」
 そう言って笑うと彼は身を翻し部屋を出ると、ひょい、と顔だけ覗かせて笑った。
「ごめんね、ドクター。ありがとう」
 そして残されたのは紅茶で噎せ返る私と子供の軽い足音。
 とりあえず明日にはとんでもない噂の出所を調査して捻り潰しておかないと。
 そう。彼はこの滑稽な噂の真相を探りにきたのだ。真実はもっと残酷だというのに。




 全ては彼の思惑通り。
 彼はとても純粋に育っている。
 彼は絶望に突き落とすための駒。あの純粋な駒を作るために私は罪を侵し、そしてまた罪を重ねる。
 私もまた、駒なのだ。意思なく罪を侵す『駒』
 だからといってこの罪が許されるわけもないけれど。




「私はあとどれほど罪を侵すのでしょうね」




 そのつぶやきに、答える声はない。







END。。。。。






『神よ、この罪の深さを』












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 高松とシンタロー。シンタローは10歳くらいでしょうか。
 始めは12歳くらいの気持ちで書いていたのですが、あまりにも口調が幼くなったため、一人称を全部「僕」にしてしまいました。
 またしてもマジック←高松前提SSです。
 高松はサービスの全てを理解してルーザーの復讐に手を貸していたのでしょうか。
 そうでなければいいのに。

 この話はいずれ丸々流用予定……。

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