彼がドアを開けた時、部屋の主である子供は子供ながらに真剣な顔で腕組みをしてじっとテーブルにあるものを見つめていた。あまりに真剣になりすぎていたために彼が部屋にドアを開けたことすら気がつかないらしい。わずかに苦笑して開いたドアを改めてノックした。
「シンタロー、入ってもいいかな?」
「叔父さん!」
シンタローは目を輝かして椅子から飛び降りると転がるようにしてサービスの足元へ駆け寄って彼を見上げた。
「いつ帰ってきたの?」
「ついさっきさ。シンタローはノックも聞こえないほど、なにに夢中になっていたんだい?」
シンタローはちょっとはにかんで笑うと叔父の手を引いてテーブルへと誘った。
「これ見てよ、叔父さん」
テーブルの上には完成した飛行機の模型が置かれていた。ずいぶん苦労して組み立てたらしく、説明書にシワが目立つ。
「上手に出来ているじゃないか」
褒めてほしいのだと思ってサービスはそう言ったのだが、シンタローは腕組みをして子供ながらに難しい顔をしながら言う。
「だけど見てよ、これ」
シンタローが指差した先には小さなネジが一つ転がっていた。
「ちゃんと出来上がったのにさ、ネジが一個余っちゃったんだ。作り直してもどうしても余るんだよ。なんでだろ?」
「予備の部品じゃないのか?」
「ちがうよ! だって僕、組み立てる前に部品の数を数えたんだもん。余りなんてなかったよ」
「へえ」
サービスは少し意外そうな顔をしてシンタローを見た。
「ちゃんと数を確認するなんて、シンタローはえらいね」
「前に部品が足りなかったことがあったんだ。それからちゃんと数えるようにしてるんだよ。今度はネジが余ったから一度組み立てなおしてみたんだけど、やっぱり余っちゃうんだ」
シンタローは小さな指先でネジを転がしながら不思議そうに首をかしげる。その姿を微笑ましく見ながらサービスはシンタローの頭を撫でた。
「でも、とても上手に出来ているよ。組み立て直しても余ったのなら、きっと予備の部品なんだろう」
「そうかな?」
「きっとそうさ」
サービスが確信をもって肯くのでシンタローもやっと納得したのか、幼い顔いっぱいに笑顔を浮かべる。
「叔父さんがそういうんなら、きっとそうなんだね! 出来上がったらグンマに見せてあげるって約束してたんだ」
「じゃあ、行ってたくさん自慢しておいで」
「叔父さんも一緒に来てくれる?」
愛らしいおねだりにサービスは優しく微笑む。
「兄さんにまだ挨拶していないからね。先に行っておいで。あとから必ず行くから」
「うん。きっとだよ!」
シンタローは完成したての模型を大事そうに抱えて部屋を飛び出していった。
あとに残されたのは模型の残骸と一つ余ったというネジ。サービスは小さなネジを手のひらで転がしてクスリと笑う。
手のひらのネジはおそらく予備などではないのだろう。子供のおもちゃ程度の模型に予備の部品などあろうはずがない。そうするとシンタロー自身がどこかのネジを締め忘れたのだ。これがもし、本物の飛行機であったらどうなるであろう。最悪、飛行中にトラブルを起こし、墜落してしまうかもしれない。たった一つのネジのために運命が変わる――。
サービスは喉で低く笑う。
数年前、自分が抜いた一本のネジがどのような結果をもたらすのか。あとはただ座して待てばいい。どんな終末であったとしても、きっと冷たく笑っていられる。
たとえそれが、全ての崩壊であったとしても――。
END。。。。。
『ネジ』
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『螺旋』に『ネジ』。そのまんまですね。
初め高松と子グンマでいこうと思っていましたが、ちょっと方向変えてみました。
まさかサービスもあんな結末が待っているとは思わなかったに違いない。
外れてしまったのはサービス自身のネジだったのかも……。
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