忍者ブログ
* admin *
[1538]  [1537]  [1536]  [1535]  [1534]  [1533]  [1532]  [1531]  [1530]  [1529]  [1528
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

smi



 ああ、なんたる不覚―――。

 蒲団で丸まりながらミヤギはわが身を罵った。情けなさでいっぱいになっているところに他の伊達衆が見舞いにやってきたが、連中ときたら見舞いにきたのか見物にきたのかわかりはしない。
 コージは一升瓶を持参して玉子酒を作ろうとしてくれたが玉子がなくて結局燗にした酒を自分で飲んでいるのだから世話はない。アラシヤマも一緒になってコップ酒を飲みながらミヤギの枕元に立ち、熱でうんうん唸っているミヤギを見下ろしている。
「それにしても意外ですなぁ、ミヤギはん」
「………何が……?」
「あんさんがひく風邪は夏風邪だけやとばっかり思ってたんですえ」
「………?」
 頭がボーっとするせいか、何を言われているのかさっぱりわからず不思議そうにアラシヤマのイジワルそうな顔を見上げていると、入り口から下駄が飛んできてアラシヤマの側頭部に直撃した。
「ミヤギくんをバカにするな――!」
 下駄の直撃を受けシューシューと煙を上げるアラシヤマを見て、すっかり出来上がっているコージがゲラゲラ笑う。
「おう、トットリ。遅かったのぉ。まぁ一杯やれや」
「コージ、見舞いに来て酒盛りするんじゃないっちゃ! ミヤギくんの具合が悪くなる!」
 差し出されたコップ酒をくいーっと一気に呷ってからつき返すと側頭部から煙をあげ、幽鬼のようにアラシヤマが起き上がってさっそく嫌味をいう。
「忍者はん、えろ遅おしたなぁ。あんさんはてっきり枕元で愁嘆場やとばっかり思てましたわ」
「シンタローに呼ばれてたんだっちゃ」
 横目でアラシヤマを睨みながらいうトットリをミヤギは朦朧とした意識で見上げた。
「…シンタローに……?」
「うん。ミヤギくんの任務を引き継ぐようにって」
「オラの任務……」
「もともとぼく向きの仕事だっちゃし。ミヤギくんは安心して養生するっちゃ」
「…うん。悪いべな」
 力なく笑うミヤギを安心させるかのようにトットリは満面に笑みを浮かべた。そうしてさっさと立ち上がるとコージとアラシヤマを追い出しにかかった。
「さーさー、二人とももう行くっちゃよ。ぼちぼち次の作戦の準備をせんと!」
「う~ん、そうじゃがめんどくさいのぉ」
「またすぐコージはんはそんな事を…。ちょっとは下のもんの苦労も考えたげなはれ」
 アラシヤマに小姑臭い説教をされながらコージは立ち上がると来た時と同じような賑やかさでミヤギの部屋を出て行った。そのあとをアラシヤマが続く。
「じゃあミヤギくん。お大事に」
「…おう。トットリ、あと頼むべ……」
「任せるっちゃよ!」
 トットリは胸を叩いて見せて部屋を後にした。
 さっきまで賑やかだった部屋が急に静まりかえる。静かな部屋に空調の音と自分の咳だけが虚しく響く。

――シンタローに呼ばれてたんだっちゃ。ミヤギくんの任務を引き継ぐようにって

 トットリの言葉がいつまでも耳の中で響く。
 ミヤギが遂行するはずだった任務は敵地での潜入捜査。本来なら一番の適任者であるトットリにまわされるはずの仕事だったのだが、ミヤギがどうしても自分がいくといってきかなかったのだ。初めは渋い顔をしていたシンタローだったが結局ミヤギの熱意に負け、任すことにした。


――それなのにこの体たらく……


 ミヤギは自分が情けなくて仕方がなかった。
 シンタローに認めてほしくてどんな任務も厭わなかった。誰よりもシンタローに追いつきたくてがむしゃらに走り続けた。確かに無理をしたかもしれないが、その結果がコレ―――。
 きっとシンタローは今ごろあきれているだろう。きっと役に立たないヤツ、と思っているに違いない。体調管理も出来ない無能な男だと。
 情けなさと熱からくるだるさで体も気持ちも動かない。ミヤギはベッドにうずくまっているうちに、いつのまにか眠ってしまっていた。




 目をあけると窓の外はもうすっかり暗くなっていたが灯りをつけたまま眠ってしまったらしく、部屋は煌々と明るかった。
 ぼんやりと天井を見上げる。
 なにか夢を見ていたような気がするが、どんな夢だったか思い出すことは出来ない。何かひどく遠いものを追いかけていたような気がするのだが――。
 取りとめもなくそんなことを考えていると突然ノックもなしに部屋のドアが開いた。
「なんだ、起きていたのか」
 そう言いながら部屋に入ってきたのはシンタローだった。シンタローはナプキンをかけたお盆を手にずかずかと遠慮なく入っていくと手近なテーブルにそれを置いてベッドのそばにある椅子にドカッと腰をかけた。
「調子はどうだ?」
「え? ああ、大分いいべ」
「ホントか?」
 シンタローは疑わしそうにミヤギを見るとナイトテーブルに置かれていた体温計を突き出した。
「オラ、熱測れ。それと台所借りるぞ」
 そういうとシンタローはミヤギの返事を待たずに持ってきたお盆を持ってさっさと台所に行ってしまった。台所に消えていくシンタローを唖然として見送りながらミヤギは渡された体温計をのそのそと腋の下にはさんだ。




――シンタローはいったい何しに来たんだべか……?




 不思議に思っていると程なくして台所からいい匂いがしてきた。そう言えば朝からろくなものを食べていなかったことに気付き、急に腹が減ってくる。少しするとシンタローがお盆を手に戻ってきた。
「熱測ったか? 見せてみろ」
 ミヤギから体温計を受け取ると目を凝らしてそれを見る。
「37.5℃か。まだ高いな。とりあえずメシ食え。どうせ何にも食ってねーんだろ。風邪の時は食って寝る! それが一番早く治るからな」
 そう言うとシンタローは土鍋から雑炊を盛った椀をミヤギに差し出した。卵と鶏肉と浅葱ネギだけのシンプルな雑炊をまじまじと見つめて呟く。
「…コレ…今作ってたのか…」
「仕上げだけな。卵は食べる直前に入れないと固まっちまうからな。ホレ」
 笑いながら差し出されたレンゲを受け取って雑炊を少し掬いそのまま口に運んだ。
「アチッ」
「あたりまえだ阿呆。冷ましてから食え」
「…………」
「どうだ? うまいか?」
 口の中に入れると薄いがしっかりとした出汁のうまみと浅葱ネギの匂いが口いっぱいに広がる。
「………うめぇ」
「あたりまえだバーカ。不味いなんて行ったら承知しねーぞ」
 そんな口を叩きながら、勢いよく食べるミヤギを見てシンタローはとても嬉しそうだった。
 一人用の土鍋一杯に作ってきた雑炊はまたたく間になくなってミヤギの腹の中におさまった。程よく食欲が満たされたミヤギがお茶を飲んでいるうちに洗い物をしに台所に行っていたシンタローが、デザートのリンゴを手に戻ってきた。椅子に座ると彼は自分の分をひとつつまんで口に咥えながらミヤギに皿を渡した。
 ミヤギは受け取った皿を膝に置いたまま手をつけようとはしなかった。うさぎの形に切られたリンゴをじっと見つめたまま、肩を落としている。
「……んだよ。食わねーのか? それともメシ食って気分悪くなったか?」
 心配そうにシンタローが言うがミヤギはただ力なく首を振った。
「具合悪いんだったら横になったほうがいいぞ」
「………シンタローは……」
 蒲団の端をぎゅっと握りミヤギには不似合いな低い声を絞り出す。
「シンタローはオラのこと情けねーヤツだとか思わないべか?」
「…は?」
「頼りにならねーヤツだと、思わないべか?」
 こぼれ出る言葉が止められなかった。またシンタローも止めようとはしなかった。
「がむしゃらに任務こなして後先考えずに突っ走って、オメが止めるのもきかねーで無理やり請け負った仕事を前にこのザマだべ…。オメにどんな風に思われても仕方ねーけど……」
「…ま、確かに馬鹿だとは思うわな」
 シンタローに言われてミヤギは弾かれたように顔をあげた。どうか自分を見放さないでほしい、そう懇願するつもりでシンタローを見た。シンタローは呆れきっているか怒っているか、どちらかだろうと思っていたのだが、予想に反してシンタローは笑っていた。
「けどよ、これでお前、自分のペースがわかっただろ?」
「…ペース…?」
「お前、最近しゃかりきになっていたじゃねーか。無理して、根つめて、自分を追い詰めてる感じでよ。見ててあぶなっかしーなとは思ってたけど、お前、言っても聞かなねーし。今回のこともある程度予想はついてたよ」
「…シンタロー…」
「どこまでが限界かわかったらこれからは馬鹿はやらねーだろ?」
 にやりと笑うシンタローを見てミヤギは腹の底に重いものを感じた。そんなミヤギの様子に気付きもせずにシンタローはミヤギの皿からリンゴをつまんでいる。ミヤギはリンゴには手をつけず、ただ俯く。気がつけば皿を持った手が震えていた。
「オラは……」
 腹にどんどんイヤなものがたまっていく。それはまるでミヤギの奥深い所で渦巻いて、そして爆発するように噴出した。
「オラはシンタローに近付きてぇ!」
 士官学校でも、旧ガンマ団でも、そして今も。敵うことのない背中を追い続けた。だがもうそんな事はいやだ。気付かれもしないなんて冗談じゃない。
「必ず追いついて、絶対に追い越してやるべ!!」
 目に涙をためながら、それでもまっすぐに自分を見据えてくるミヤギにシンタローはびっくりして目を丸くしたが、すぐに余裕の笑みで立ち上がった。そして睨むように見上げてくるミヤギにゆっくりと拳を突き出す。
「だったらこんな所で休んでんじゃねーよ。俺は容赦なく置いていくぞ」
 にやりと笑うシンタローの拳を見て、ミヤギは自分も同じように拳を握ってシンタローに突きつけた。
「こんなモン、すぐに治してやるべ。首洗って待ってれ」
「待っててもらえるなんて甘いこと考えてんじゃねーぞ」
 お互いに拳をぶつけるとシンタローは颯爽と踵を返してミヤギの部屋を出て行った。
 ミヤギはそのドアが閉まってもしばらくじっとそのドアを見ていた。
 腹の底にたまっていたものは気がつけば今はない。ぼんやりした頭にかかっていた靄のような気持ちも吹っ飛んでしまっている。
 まっすぐに前を向く背中はきっと振り向くことはない。だが必ず追いついてみせる。




 いつの日か肩を並べる日が必ず来るから。




 そう確信している。
 ミヤギは今初めて気付いたように手に持った皿に二つだけ残ったリンゴを見た。
「フツーいい年した男が、それもガンマ団の総帥がリンゴをウサギに切るべか?」
 噴出しながら口に放りこんだリンゴは甘酸っぱかった―――。






END。。。。。






『熱』












--------------------------------------------------------------------------------

--------------------------------------------------------------------------------


いや……あのはい……。すみません……。なんだかえらい中途半端で……。
ミヤギくんはずーっとシンタローさんの背中を追っかけ続けるんだと思います。
アラシヤマがストーカーならミヤギくんは熱烈な追っかけ?
コージは「よきに計らえ」ってな感じのお大尽でトットリは神出鬼没。(そのまんまやがな…)
でも顔だけのお人は本当に風邪はひかなさそうですねぇ(笑)




--------------------------------------------------------------------------------

--------------------------------------------------------------------------------


PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved