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世間が新年と云う特別な状態から日常に戻り始める1月中旬。
正月も明けて新年の挨拶回り等も終わり、慌しさがようやく薄れてきたその日
一時とは言えガンマ団新総帥と言う肩ッ苦しい肩書きを忘れ
俺は久しぶりの休日を炬燵の中でだらだらと過ごしていた。
なんで久しぶりなのか、単刀直入に言ってしまえばガンマ団総帥に正月休みなぞ無いからだ。
戦争は時候と関係なく起こっているし、緊急を要するその対応には昼も夜も盆暮れ正月もない。
しかしそうでありながら一方で、いつもは取引で必要な時だけ会う連中と新年と云う区切りに
一通り顔を合わせる必要もある。
ガンマ団が組織形態をとっている以上、取引先等との繋がりを確認するのは重要な仕事だ。
そんな訳で新年の総帥と云うのはいつにも増して多忙だ。
スケジュールはギリギリ。移動中のヘリの中ですら書類に目を通し、指示を出した。
去年も一昨年も普段に増して忙しい毎日に睡眠時間は減るは通常業務は溜まるはで
一月の間中、怒涛のような日々を過ごしていたものだった。
まぁどこも責任者ってのはこんなもんなんだろーが。
…親父が総帥だった頃はなーんか正月暇そうにしてたような気がすんだよなぁ。
炬燵の天板の上に顎を載せて俺は英国人の癖に日本かぶれな父親とその好みで
純和風の正月を過ごして来ていた過去のあれこれを思い出す。
玄関にお飾りと門松。朝はお雑煮におせちを食べて、家族そろって神社に初詣。
親父が言い出して羽根つきもやらされた。
そんで挨拶に来た伯父たちも巻き込んでひと悶着起こしたりもしていたな。
顔を墨で真っ黒にされたハーレム伯父貴を思い出してついつい口元が緩んだ。
あの時間は一体どうやって確保していたのか。
悔しいから父親に尋ねてみた事は無いが、どんな手を使っていたにしろ感心するしかない。
父親の跡を継ぎ総帥となってから、色々見えてきたことは多く。
そうして自分はまだまだ父親には及ばないことを端々で実感せずに居られない。
だが、餓鬼の頃と違い、誰もが一足飛びで成長できるわけじゃないことも
今の俺は知っているから焦らないし、焦るなと自分を戒めることが出来る。
自分を見失わずその時自分に出来る最善を尽くすこと。
己の限界を知るのは諦めではなくいつかそれを乗り越えるために必要なプロセスなのだと。

今の自分には寧ろ1月の間に休日が取れたのは上出来なくらいだ。
尤も今年それが適ったのは親父から受け継いだガンマ団の総帥と云う仕事に
俺自身がようやく馴染んできたと云うこともまぁ多少はあるだろうが
やはりサポートしてくれる存在ができたと云うことが大きかったからだとも思う。
キンタローには感謝しねーとなぁ。
天才としか言いようの無い優れた頭脳を持っていたらしい従兄弟は
後見人を買って出た高松やグンマの手助けがあったとは言え、
世界と直に触れ合うようになって1年目に生活の上で必要な基本的な知識を、
2年目には特殊な科学者としての知識を獲得し、
3年目には研究と平行して俺をサポートできるまでに成長し、
そして、当たり前のように俺の隣に居るようになった。
「お前一応研究者だろーが、研究はいいのかよ?」
遠征先にまで付いてきた時、流石に気になって問えば
「研究はチームの他のメンバーに任せていても問題はない。
 だが、お前をサポートするのはあらゆる面から考慮しても俺が適任だ」
しれっと答えた従兄弟の仏頂面を思い浮かべ、思わず苦笑が浮かんだ。
あいつはその言葉どおり完璧に俺をサポートしてくれた。
一番俺を嫌っていた(と云うか憎んでた)筈の奴が今一番俺を支えてくれてるんだもんなぁ。
人生と云うのは本当にどう転ぶか分からない。
俺のサポート役をしていたキンタローは当然ながら俺と同じで休みの無い日々を送っていたが
あいつは今日は朝から高松やグンマと共に墓参りに行っている。
グンマが帰りに何処ぞに寄ろうとしきりに強請っていたようだから
少し帰りは遅くなるかもしれない。昼飯は何処かで食ってくるかもな。
窓の外の空は高く澄んでいる。小春日和ってやつだ。今日が穏やかに晴れた日で良かったな。
いつもよりもほんの少し表情を緩ませて出掛けて行った従兄弟に対して純粋にそう思いつつ
両手を上げて伸びをしつつ俺はそのままごろりと炬燵に入ったまま寝転んだ。
正月とかの時期的なもんを抜きにしても緊急の呼び出しがかからない限りとは言え
丸一日の休暇と云うのは自分にとっては本当に久しぶりのこと。
折角だから今日はのんびりしよう。
明日からはまた激務の毎日が待っているんだし、道は長い。休めるうちに休んどかないとな。
俺は何もしないと云う非常に贅沢な時間の費やし方で休日を過ごそうと決めた。
ちっとばかし遅れたが、正月休みのつもりで。
幸いと云うか日本かぶれの親父の趣味で居住スペースの一角に設えられた畳敷きの部屋には
まだ正月の雰囲気が残っている。
掛け軸は日の出に鶴。水盤に活けられた花は松に紅梅。
普段はかみ殺さねばならない欠伸を誰にもはばかることなくこぼして、俺は仰向けで目を閉じた。
コレで炬燵の上に蜜柑があったら正月休みとしては完璧だ。
と、俺の額の上にぽんと何かが載せられた。
「シンちゃん、炬燵で寝たら風邪引くよ?」
「親父」
目を開ければ、にっこり笑った父親が此方を覗きこんでいた。
手には丸い竹籠。自分の額の上に載せられた物を手に取れば鮮やかな橙色の果実。
親父は持っていた籠を炬燵の上に置いた。勿論蜜柑の入った籠を。
さっきまでの自分の思考を読んでいたかのようなタイミングの良さに俺は思わず瞬く。
その視線をなんと思ったか親父は得意そうに笑った。
「風邪の予防や疲れにはビタミンたっぷりのお蜜柑がいいんだよー」
「知ってるっつーの」
邪険に言い返すのは最早条件反射に近い。
ついでにいそいそと当たり前のように俺の隣に入ってこようとするのに蹴りを入れておく。
ゴスっと鈍い音がして2畳分ほど向こうに飛んだ親父はガバリと起き上がると
「パパにいきなり何するんだい!!??」
畳の上でわざとらしく泣き喚いた。
恥ずかしげも無く滂沱して見せる上にハンカチをかみ締めて居やがる。
おまけにどっから出してきやがったのか腕にはしっかり抱えた俺に似せた手作り人形。
こいつ・・・この間全部廃棄処分にしてやったのにまた作りやがったな…。
ウザい…ウザさ倍増だ。
思わずしっしと手で追い払う真似をすると親父は見当違いの抗議をよこした。
「ヒドイよ!!シンちゃん!!コレはパパの用意したおコタだよ?」
「うるせぇ!!狭いんだよ!!入るんなら向かいに入れよ!!向かいに!!」
思わず立ち上がって怒鳴りつけた。
いくら俺たちの体格に合わせて作った特注の炬燵でもだ!
身長190センチ台の筋骨逞しい男が並んで一辺に入れば狭い。
それ以前に残り三辺は空いているのだから並んで入る必要は皆無だ。
だいたい何が悲しくてこの歳になってまで父親と仲良く並んで炬燵に入らなきゃならないんだ。
俺の主張はどっからどう見ても正しいはずだ。
なのに
「ひどい、シンちゃん!!パパはただ親子のスキンシップをはかろうとしてるだけなのに!!」
この親父ときたら
「何をまっとうに息子を思う父親のような台詞を吐いていやがる。」
「パパはいつだって『ような』じゃなくてシンちゃんのことを心の底から思ってるよ」
まっとうな子供思いの父親はスキンシップと称して息子のケツを触るのか?
世間一般に広く意見を求めて来い。
冷たく言い放てば
「パパのシンちゃんへの愛は世間一般の狭い定義などには縛られないんだよ」
爽やかに言い放ちやがるか、この腐れ親父は
「パパの定義では愛する息子に触れるのはスキンシップさ!」
「…そうか、因みに俺の定義では人のケツに無許可で触る変態は
 社会の屑で有無を言わさず半殺しだ」
此方も爽やかに笑って拳を固めてやれば、親父は引き攣った笑顔になった。
「ちょっと待ったシンちゃん!!家庭内暴力はいけないよ」
「家庭内セクハラはいいのかよ?自分の定義を通すなら他人の定義に異議を唱えんな」
「シンちゃん…キンちゃんと仲良いのはいいけど何だか理屈っぽくなったねぇ」
あらぬ方に目を逸らしつつ親父はハフーとわざとらしい溜息をこぼした。
何気に話し逸らしてんじゃねぇよ。言い返しかけて、しかし俺は口を噤む。
駄目だ。この親父と話してても埒があかねぇ。
思わず寄った眉間の皺を指で解しつつ、
俺は一向に意思の疎通の適わないやり取りに会話を諦めた。
「あれ?シンちゃんどこ行くんだい?」
「茶でも淹れてくる…アンタも飲むか?」
立ち上がりざまついでに尋ねれば嬉々とした声が返ってきた。
「シンちゃんが淹れてくれるなら何だってvv」
「……ほー」
一瞬自分の中にこの親父はどこまで不味いものに耐えられるか
試してみたいと言う誘惑がよぎる。
それに気付いたのか
「…お正月用の玉露があるよ」
親父は慌てたようにそう言った。ちっ…相変らずカンのいい奴。
視界の片隅に炬燵の…先ほどまで俺が居た場所に嬉しそうに潜り込む親父を認めて、
溜息をつきつつ俺はキッチンに向かった。

薬缶をかけておいてから、戸棚を開ける。
確かに新しい茶缶があった。
銘柄を確かめてちょっと感心する。
「相変らずイイもん用意してんな」
親父はまぁ多少趣味悪いトコは有るが物を見る目はある。
しかし最高級品だろう其れはまだ封が切られていない。
首を傾げつつも、他には紅茶の茶葉しかないので、仕方なく俺はその茶を使う。
折角和室に炬燵に蜜柑と来てるのに紅茶を淹れる気にはなれない。
二人分の緑茶をお盆に載せて和室に戻ると親父は嬉しそうな顔で手をひらひらさせて
自分の隣を開けてぽんぽんと座布団を叩いて示した。
勿論綺麗さっぱり無視して俺は親父の向かいに座る。
「はう!シンちゃ…」
「正月用とか言ってたが封の切ってないやつしか無かったぞ」
何か言わんとする親父の機先を制して口を開く。
俺の言葉にちょっと戸惑ったような表情を見せたのも一瞬で親父は笑顔で言う。
「あぁ。だってシンちゃんの為に買ってきたものだからねV」
親父の前に湯飲みを置き、自分の分を一口飲んで俺は胡乱な視線を送る。
「…正月用だろ?」
「だから、シンちゃんと過ごすお正月用V」
湯飲みを手に満面に笑みを浮かべて当たり前のように言う親父に呆れる。
「去年も一昨年も休みなんか取れてなかったし、
 今年だって取れるかどうか分かんなかったのにか?」
「パパは今年こそシンちゃんとお正月したかったから。だから願掛けも兼ねてね。」
思わずまじまじと父親の顔を凝視する。
何だそれ。願掛けって。
女子高生かグンマじゃあるまいし、恥ずかしい。
いい歳こいた親父の行動じゃねぇよ、それ。
大体、もう松の内過ぎてんだし、正月じゃねぇだろ。
言ってやろうかとも思ったけど。
自分自身正月休みの気分でいた先程までを思い出して止めた。
よくよく考えれば掛け軸はともかく梅の花なんて正月から放っときゃとっくに散ってるはずで。
「俺が休み取れるまで、ここ正月のままにしとく気だったのかよ?」
要は……そう云うことだ。
「1月はお正月だよ、シンちゃん」
「…アンタの定義では?」
「うん、パパの定義ではv…シンちゃんの定義は?」
にっこり笑った父親に悔しいけど…なんとなく負けた気分になった。
「…午後から出かけるからアンタも付き合えよ」
「喜んで。けど今日は家でのんびり過ごすつもりなんじゃなかったのかい?」
尋ねてくる親父の訳知り顔が物凄く己の反発心を招くがグッと堪える。
「正月なんだから初詣行かねーとな」
仏頂面で告げた俺に親父は本当に憎ったらしい位に晴れやかに笑った。
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