壊れたエンジン
ふと、彼の顔が見たくなり、総帥室へと向かった。
何事もなければ、今の時間、彼はそこにいるはずだからだ。エレベーターに乗り、そのまま最上階を目指す。
エレベーターを降りるとそこは深紅の絨毯が敷き詰められている。この階に来るためには専用のエレベータに乗らなければならず、そのエレベーターにもパスワードやら何やらと一部のものしか入れない仕組みとなっている。
そのため、ここを訪れる者は少なく、この廊下も、いつも静かなものである。
総帥室までエレベーターからわずか歩くだけで到着する。そこでも身分証明のカードやまたパスワード。しかし一族のものであれば誰でも知っているため、キンタローは手馴れた手つきで操作を行った。
ドアを開け、中に入ると、相変わらず忙しそうに書類と格闘していた。
「忙しそうだな」
「先週のお前程じゃねぇよ」
キンタローは先週、学会の関係上、研究室に篭っていた。その間、総帥室にも、シンタローの部屋、そして自分の部屋にすら帰っていなかった。
だから、こうして話すことはもとより、顔をあわせるのも久しぶりであった。
「ようやく終わったからな。そっちは何かあったのか?」
「それ程大変なことは起こってはいない。どっちかって言うとグンマの研究がな…」
その言葉に、従兄弟の行っている研究を思い出す。
「確か…ガンボットについてか?」
「おとなしく、二足歩行についてやっていればいいものをよけいなことしやがって」
「何をやったんだ?」
「あ?ロケットパンチの精度を上げるんだと」
「それは…」
いまのガンマ団の生計ははっきり言って以前に比べあまり宜しくない。
「もうちょっと金になることをやって欲しいんだがな」
ため息をつくシンタローにキンタローも呆れ顔で答える。
「無理だろうな、グンマなら」
「それでもあいつの研究は結構すごいんだけどなぁ」
「本人のやる気が伴わないからな」
「そういった意味じゃ、ジャンの宇宙船なんかはもっとキツイもんがあるがな」
「…本気だったのか」
「らしいぜ。企画書読んで泣けてきた」
ほれ、とファイルを渡されキンタローはそれを受け取り、中を見る。
「で、感想は?」
「何年かかるんだ、これは?」
「でも、まあそれに付随する形で、何らかの成果を挙げられるなら良しとすることにした」
「…いい加減だな」
「グンマけっこーそういうのが多いからな」
ガンボットというロボット自体がまさにそれである。二足歩行に飛行機能、今はそれに世に言う人工知能をつけると張り切っている。
「これで、ロケットパンチから離れてくれればもっと良いんだけれどな…」
「俺はどうなんだ?」
ジャンの企画書―内容はほとんど無かったが―を返しながらキンタローは聞く。
「お前が一番まともだよ。高松もだが、一般的なものを作ってくれるからな」
実は、高松も学会で発表するものはまっとうなものが多い。しかも他のところとは違い、早期の段階で人体実験を行うため時間的なロスが少ない(そのため、毎年何人かが集中治療室行きになるのだが…)
そしてキンタローの研究というのも堅実なものが多く、またその研究結果を政府やらに売ることにより団の利益を上げているのだ。
なにより、社会への貢献度があるため、団のイメージも変わっていく。
「お前の役に立っているなら良いさ」
「ああ、ありがとな」
にっこりと笑うシンタローを見て、衝動的にキンタローは肩に手を置いてこちらを向かせると抱きついた。久しぶりの体温にほっと息を吐く。
「キンタロー?」
シンタローのその呼びかけに答えずそのまま頭を肩に埋める。
仕方なく、シンタローも抱き返してやるがそのまま動かないキンタローに訝しく思う。
「どうかしたのか?」
「…久しぶりに会ったからな、充電だ」
「なんだそりゃ」
「気にするな」
そう言ってくつくつと笑うキンタローに、シンタローは聞き出すことを諦めそのまま書類を読む。
「とっとと終わらせろよ」
「ああ、わかっている」
笑いながら顔を上げると、シンタローの唇を掠め取る。
「充電完了だ」
「…て、おい」
そのままさっさと出ていこうとするキンタローに向かって先程のジャンの企画書を投げつける。
それをいともあっさりと受け取ると、キンタローは笑う。
「安心しろ、俺の動力源はお前だけだからな」
「…それ、ジャンに届けといてくれ。一応サインはしておいた」
もはや言い返す気力もなく、一気に疲れたシンタローはそれだけ言うと仕事を進めることにした。
それを見て、キンタローも部屋から出て行った。
この心は壊れていて
お前がいないと動かない
お前だけしか受け入れない、壊れたエンジン
ふと、彼の顔が見たくなり、総帥室へと向かった。
何事もなければ、今の時間、彼はそこにいるはずだからだ。エレベーターに乗り、そのまま最上階を目指す。
エレベーターを降りるとそこは深紅の絨毯が敷き詰められている。この階に来るためには専用のエレベータに乗らなければならず、そのエレベーターにもパスワードやら何やらと一部のものしか入れない仕組みとなっている。
そのため、ここを訪れる者は少なく、この廊下も、いつも静かなものである。
総帥室までエレベーターからわずか歩くだけで到着する。そこでも身分証明のカードやまたパスワード。しかし一族のものであれば誰でも知っているため、キンタローは手馴れた手つきで操作を行った。
ドアを開け、中に入ると、相変わらず忙しそうに書類と格闘していた。
「忙しそうだな」
「先週のお前程じゃねぇよ」
キンタローは先週、学会の関係上、研究室に篭っていた。その間、総帥室にも、シンタローの部屋、そして自分の部屋にすら帰っていなかった。
だから、こうして話すことはもとより、顔をあわせるのも久しぶりであった。
「ようやく終わったからな。そっちは何かあったのか?」
「それ程大変なことは起こってはいない。どっちかって言うとグンマの研究がな…」
その言葉に、従兄弟の行っている研究を思い出す。
「確か…ガンボットについてか?」
「おとなしく、二足歩行についてやっていればいいものをよけいなことしやがって」
「何をやったんだ?」
「あ?ロケットパンチの精度を上げるんだと」
「それは…」
いまのガンマ団の生計ははっきり言って以前に比べあまり宜しくない。
「もうちょっと金になることをやって欲しいんだがな」
ため息をつくシンタローにキンタローも呆れ顔で答える。
「無理だろうな、グンマなら」
「それでもあいつの研究は結構すごいんだけどなぁ」
「本人のやる気が伴わないからな」
「そういった意味じゃ、ジャンの宇宙船なんかはもっとキツイもんがあるがな」
「…本気だったのか」
「らしいぜ。企画書読んで泣けてきた」
ほれ、とファイルを渡されキンタローはそれを受け取り、中を見る。
「で、感想は?」
「何年かかるんだ、これは?」
「でも、まあそれに付随する形で、何らかの成果を挙げられるなら良しとすることにした」
「…いい加減だな」
「グンマけっこーそういうのが多いからな」
ガンボットというロボット自体がまさにそれである。二足歩行に飛行機能、今はそれに世に言う人工知能をつけると張り切っている。
「これで、ロケットパンチから離れてくれればもっと良いんだけれどな…」
「俺はどうなんだ?」
ジャンの企画書―内容はほとんど無かったが―を返しながらキンタローは聞く。
「お前が一番まともだよ。高松もだが、一般的なものを作ってくれるからな」
実は、高松も学会で発表するものはまっとうなものが多い。しかも他のところとは違い、早期の段階で人体実験を行うため時間的なロスが少ない(そのため、毎年何人かが集中治療室行きになるのだが…)
そしてキンタローの研究というのも堅実なものが多く、またその研究結果を政府やらに売ることにより団の利益を上げているのだ。
なにより、社会への貢献度があるため、団のイメージも変わっていく。
「お前の役に立っているなら良いさ」
「ああ、ありがとな」
にっこりと笑うシンタローを見て、衝動的にキンタローは肩に手を置いてこちらを向かせると抱きついた。久しぶりの体温にほっと息を吐く。
「キンタロー?」
シンタローのその呼びかけに答えずそのまま頭を肩に埋める。
仕方なく、シンタローも抱き返してやるがそのまま動かないキンタローに訝しく思う。
「どうかしたのか?」
「…久しぶりに会ったからな、充電だ」
「なんだそりゃ」
「気にするな」
そう言ってくつくつと笑うキンタローに、シンタローは聞き出すことを諦めそのまま書類を読む。
「とっとと終わらせろよ」
「ああ、わかっている」
笑いながら顔を上げると、シンタローの唇を掠め取る。
「充電完了だ」
「…て、おい」
そのままさっさと出ていこうとするキンタローに向かって先程のジャンの企画書を投げつける。
それをいともあっさりと受け取ると、キンタローは笑う。
「安心しろ、俺の動力源はお前だけだからな」
「…それ、ジャンに届けといてくれ。一応サインはしておいた」
もはや言い返す気力もなく、一気に疲れたシンタローはそれだけ言うと仕事を進めることにした。
それを見て、キンタローも部屋から出て行った。
この心は壊れていて
お前がいないと動かない
お前だけしか受け入れない、壊れたエンジン
PR