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「おとー様、どうしたの?ソレ」
不思議そうなグンマの声にテーブルを囲んでいた皆の視線がマジックに集まる。

ガンマ団本部の一角、プライベートスペースにある豪奢なリビングでは
3時になると恒例のお茶の席が設けられる。
引退してすべてを黒髪の息子に委ねたマジックが暇を持て余して、
お菓子作りに凝り始めたのがきっかけだが、
今ではそれは研究や仕事に追われ、ともすれば擦れ違いがちな家族が
会話を交わす為に重要な一時となっていた。
グンマもキンタローも時間が空く限りはこの場所に集まるようにしている。
加えて今日は珍しく本部に来ていたサービスが席に加わっていた。
ガンマ団総帥となったシンタローは本部に居てもいつもは大概、
慣れない書類の処理に追われていて不参加だが、
サービスが来てるとなれば今日は多少無理をしてでも顔を出すかもしれない。
そんなわけで青の一族の3時の団欒…通称おやつの時間は
他愛の無い世間話や研究の経過などを交えつつ和やかに流れていたのだが。
ふと紅茶を口に運んでいたグンマがマジックの首筋に気付いて問うたのがはじまりだった。

「え?何?グンちゃん」
マジックは左隣に座っていたグンマにしげしげと襟元を覗き込まれ首を傾げる。
「おとー様、首のトコ赤くなっちゃってるよ?」
どうしたの?イタソー。
グンマがちょっと眉を顰めて漏らしたその言葉の内容に、サービスとキンタローが顔を見合わせる。
あごと首筋の丁度境目なので直ぐには分かり辛いが、
マジックの肌にはくっきりと赤い筋が残っていた。
よくよく注意してみれば、それは引っ掻いたような傷痕で。
「あーコレねv」
自身の白い首筋の上に走った赤い痕を指でなぞりながら、
マジックが何かを思い出したかのように呟く。
普段から笑みを浮かべている事の多いマジックだが
それがいつも以上に嬉々とした表情になっているのは気のせいではないだろう。
なんとなく、分かってしまった。分かりたくなかったけど。
そんな思いで親子を見詰めるサービスとキンタロー。
二人の目はそれぞれ何処か遠い。
そんな二人を余所に
「えー?なになにー?」
グンマだけが興味津々と言った感で父親の顔を見上げた。
キンタローが困った様にグンマの白衣の袖を引っ張るが、
聞くなと言うそのサインにしかし、天然ボケ気質のグンマが気付くはずも無い。
27にもなってどうしてこうも鈍いのか。
ドクター高松の純粋培養教育おそるべし。
キラキラ好奇心一杯の瞳は純真その物で父親の答えを待っている。
どうしたものかと思いながらも経験の不足故にキンタローは口を挟めず助けを求めてもう一人の同席者を見る。
全く表情には出ていないが,うろたえているキンタローのその視線を受けて、
仕方が無いとばかりに溜息を一つつくとサービスはおもむろに口を開いた。
「猫に引っ掻かれたんだろ」
「…ねこ?」
思わぬ方向からの答えにくりんとサービスを振り返ってグンマが瞬く。
「そう、猫。兄さんは可愛がり方がしつこいからね」
にっこりと文句無く美麗な笑顔でありながら、さり気なく棘を含んで
サービスはその蒼い瞳をマジックに向ける。
フォロー(?)しつつも毒と牽制は忘れないサービスに流石は実の兄弟と
キンタローは内心で妙な感心をしつつ、しかし猫とは…と苦笑する。
猫に例えるられるほど件の人物は可愛らしくも無い。
アレは同じ猫科でも黒豹とかの猛獣の類ではなかろうか?
少なくとも猫はもっと柔らかで可愛らしいものだと
キンタローは何回か触れる機会のあった小動物を思い浮かべて思う。
しかし、サービスの言葉を素直といえば聞こえが良いが
つまるところ馬鹿正直に受け取ったグンマはキョトンとした目で父親に問い掛ける。
「おとー様、猫なんて飼ってたっけ?」
「うん。」
「えぇ?いつの間に?ずるいなぁ~今度僕にも見せてよ~」
ねだるグンマをマジックがはぐらかす。
「うーん、でもフラーっと出掛けて何日も戻って来ないような子だからねー」
グンちゃんが来た時居るとは限らないよ?
ニッコリ笑ってそう言ったマジックにグンマがエーっと不満げな声をあげる。
キンタローはほっと息をついた。
「マジック叔父貴ですらグンマにはやっぱり出来れば知られたくないのか。」
「あぁ…兄さんも一応人の心が残ってるんだな。」
さり気なく酷い評価をこっそりとしつつ、しかし上手く話をはぐらかせたかと安心しかけた矢先に

「でもその猫、そんなに可愛いの?」

グンマが尋ねた言葉は拙かった。
「そりゃぁ、もう!ものスゴーく可愛いんだよv」
途端にウキウキとマジックが話し始める。
嫌な雲行きにキンタローは眉間に皺を寄せた。
マジックはこれでもかと云うくらいに甘い笑顔を浮かべている。
蕩けそうな笑みとはこういう表情の事だろう。
「黒い毛がツヤツヤで滑らかで~ちょっとキツメの瞳も真っ直ぐでね~」
確かにシンタローの髪は黒いし、目つきはキツイ…
「ちょっと、気が強すぎて撫でると噛み付いて来たりするけど」
27歳にもなって父親に撫でられ抱きつかれて喜ぶわけが無い。
「ちょっとした仕草が可愛いくて、しなやかな身体が綺麗で
 見てるだけでも幸せになれるんだよね」
だったら見てるだけで済ましておけ。
「でも、触れる方が幸せだから、やっぱり手を出しちゃって」
やっぱりか。
「触れると怒るんだけど、嫌がる仕草も本気じゃないのが分かるから可愛くてね」
本気で嫌がってる時もあると思うのだが。
「本当に可愛すぎるからついつい舐める様に可愛がっちゃうんだよ
 …この間なんか本当に舐めちゃったV」
ちょっと待て。
内心でツッコミを入れつつも、下手につつけば藪から蛇どころか
アナコンダが出てきかねない状況である為キンタローもサービスも沈黙を護るしかない。
当然、反応を返すのはグンマ一人で。
「えー?おとー様そんな事したら幾等なんでも毛がザラザラして気持ち悪くない?」
犬とか猫とかに、キスするくらいなら僕もやるけどー。
この期に及んでまだ猫の話だと思っているグンマがさすがに難色を示したのに
マジックがみっともないくらい、へろりと相好を崩す。
うっかりなのか確信的になのか
「いやいや、グンちゃん…シンちゃんのお肌は案外すべすべ…」
答えかけた言葉の続きは、しかし
「記憶を失えぇぇぇっっっ-!!」
怒号と共に飛んできた黒皮ブーツの踵にその後頭部ごと蹴り飛ばされた。

ドガァッ。バキッ。ガシャン。ガラン。ドガン。

蹴られたマジックの身体がその勢いのままにテーブルごと壁際まで飛ばされて、
巻き添えに物の壊れる音が多重奏で響く。
「………シンタロー」
思わずキンタローは溜息と共に乱入して来た人物の名を呼んだ。
確かに怒る気持ちは分かるがもう少し穏便な止め方が出来ないものだろうか。
咄嗟にグンマは椅子ごと後へ下がらせたが、フォローの効かなかったテーブルの上の茶器は
見事なまでに粉砕され、ウェッジウッドのブルーの陶器は破片となってマジックの額に突き刺さっている。
テーブルは足が折れ、美しい木目の天板には亀裂が走り、壁際にあった瀟洒な飾り棚は
テーブルとマジックに押しつぶされ見るも無残な有様だ。
眼魔砲を撃たれるよりはマシかもしれないが、しかし此れは感心できない。
シンタローを窘めようとしたキンタローは、
だが、次の瞬間そう思ったのは自分だけだった事を思い知る。

「わーい♪シンちゃん、久しぶりー」
「久しぶりだな、シンタロー」
「叔父さん!久しぶり…っとグンマもか」
「もーシンちゃんソレ差別だよ~」
「お前には1週間前会ったじゃねェか」

部屋の片隅の惨状など全く目に入っていないかのように久々の再会を喜び合う身内の姿に
キンタローは思わず言葉を失う。良いのか其れで。
生活の基礎知識を教えられた1年目、散々注意された事が
『やたらと物を壊すな』だったキンタローは悩む。
実際、急用があったので鍵が掛かっていた総帥室の扉を無理矢理蹴り開けた時
小一時間ほどシンタローにはくどくどと叱られたものだったが。
「どうしたの?キンちゃん」
思い悩んでいたキンタローの袖をグンマが引っ張る。
「……あぁ…いや…」
言い淀んだものの気になる事はちゃんと聞いておけとも言われていたので
キンタローは思いきって尋ねた。
「アレは気にしなくて良いのか?」
「アレ?」
対してキンタローが指差した先を見た3人の反応は実にあっさりとしていた。
「だって蹴られたのはお父様だし。」
「壊れたのもマジック兄貴の物だしな。」
「大体アイツが蹴られるような事すっからだろ?」
にっこりと清清しいまでの笑みを見せてシンタローがキンタローの肩をポンっと軽く叩く。
「気にすんなよ、キンタロー。」
「…そうか、マジック伯父貴は良いのか。」
「うん。そ…」
「ちょっと待った!!キンちゃん!!!シンちゃんっ!グンちゃん!!サービス!!」
納得しかけたキンタローと他3名を制止するマジックのいっそ悲痛な声が響く。
細かな傷から血をだらだらと流しながら立ち上がったマジックが涙を滝のように流している。
いつもの事だが倒れていても誰も助け起こしてくれない状況に自分で復活したらしい。
「パパを蹴り飛ばして、ほったらかしにした挙句キンちゃんに間違った事を教えるなんて
 酷すぎるぞ!!シンちゃん!!」
取り敢えず、言っても無駄な相手…サービスとグンマへの文句は飲み込んだらしい。
マジックはシンタローへと詰め寄る。
物凄い蹴られ方をしていたがそのダメージを感じさせないほど素早い。
切り傷も出血の割に浅そうだし、骨にも異常は無いだろう。
マジックの行動を冷静に分析し、キンタローはなるほどと内心で思う。
確かに『マジックは』問題なさそうだ。
そんな風に、キンタローの中で己が既に定義付けられてしまったとは露知らず
マジックがシンタローに言い募る。
「キンちゃんはまだまだ世間に慣れていないんだから、
 間違った事教えちゃダメだろう?シンちゃん」
「だーかーらー正しい状況認識を教えてんだろーが」
至近距離まで迫ってくる涙と流血に塗れた父親の顔を押しのけシンタローが言い返す。
「この場合アンタは蹴られるのが正しい」
「パパを蹴るのは絶対正しくありません!」
キンちゃんが真似するようになったらどーするんだい??!!
訴えかけるマジックにシンタローが半眼で返す。
「いつもいつも余計な事ばっか言いふらす奴は蹴られて当然なんだよ!!」
「余計な事って…パパはいつだってホントの事しか言ってないもん!!」
「なにが、『もん』だ!!ちったぁ己の年齢と時と場所と相手を考えて発言しやがれ!!」
「そんな!パパはただシンちゃんがどれだけ可愛いか伝えようとしただけ…」
「ほーぉぉぅ、まーだ懲りずにそーゆー事を抜かしやがるのはこの口か?」
「いひゃいよ、シンちゃん」
「アンタなんか蹴られて踏まれて穴掘って埋められて死んじまえ!!」

「わースゴいやー★シンちゃん今のワンブレスで言ったよ」
「罵倒も随分熟練してきたな、シンタロー」
白熱する親子喧嘩…と云うかシンタローがマジックを一方的に怒鳴りつけている状況に
しっかりと椅子に座って当たり前のように傍観を決め込んでいるグンマとサービス。
キンタローはまたひとつ学ぶ。
「触らぬ神にたたりなしと云うやつか?」
自身も座りながらキンタローが呟いた言葉に
「いや、アレは犬も食わない方だよ」
何処から出したのか、新しいティーカップを手にサービスが訂正を入れる。
ちゃっかりとその隣でお菓子を頬張っていたグンマがキンタローの分の紅茶を淹れて差し出す。
取り敢えず勧められるままに紅茶を一口飲んでからキンタローは改めて、
マジックとシンタローの言い合いを眺めた。
まぁ、確かに離れて見る分にはじゃれ合ってるようにも辛うじて見えなくもない。
あの二人は放って置くのが一番と云うことなんだろうが、
「でも、やっぱり猫には見えない」
ボソリとキンタローが呟いた言葉を聞きとがめてサービスが面白そうに笑う。
「あれは会話の中のものの例えだよ」
グンマとは違った意味で何事も真っ直ぐに受け止めてしまう甥にサービスは目を細める。
「でも、あぁやって怒鳴っている様子は毛を逆立てた猫みたいだと思わないかい?」
何処か楽しげな風情で言われ、キンタローはその言葉を反芻しつつ、二人を眺める。
確かにムキになって怒っているシンタローの姿は子供っぽく見えて。
そう言われてみれば猫の例えはそう外れていないもののようにも思えてくる。
普段は総帥然としていて、到底猫などに例えられるような人物ではないが
マジックの前でだけは何かが違うのだ。
いくら怒鳴っていても総帥として普段、部下を叱責する姿とは決定的に何かが。
考えかけて、
あぁ…そうか。
キンタローは唐突に思い至る。
マジックは父親なのだから、シンタローがその前で子供に見えるのは当たり前か。
どれだけ年をとっても、大人になっても…シンタローが総帥になろうとも
親子と云う立場は変わらない。
マジックにとってシンタローは一生子供で
シンタローにとってはマジックは絶対的に父親なのだ。
悩むまでも無く簡単明瞭な回答だ。
だから、父親の前でシンタローはあんなにも子供のような表情をする。
感情のままに、反発心も剥き出しに。
他の誰に対してでもなく、マジックの前でだけ。
そしてマジックはそんなシンタロー自身を全部受け止めている。
でも可愛いんだよーと言っていたマジックの言葉を思い出す。
自分もそう言えば最初に触れたとき猫に引っ掻かれたが
あの小さな動物を嫌いにはなれなかったな。
マジックにとってのシンタローはそんなものなのかも知れない。

納得がいった表情のキンタローにサービスが微笑む。
「猫みたい…だろ?」
「あぁ…なつかない猫だな」
そして、マジックは懐かれていないにも拘らず手を出して、手酷く引っ掻かれる飼い主だ。
言外に込めた意味合いに気付いてサービスが笑う。

「まぁ…本当になつかない猫はわざわざ嫌いな奴を相手したりはしないんだけどね。」

我侭を押し通そうとする父親を冷たく扱い、怒鳴りつけ、殴り飛ばそうと
いつだって最後に根負けして願いを聞いてやってるシンタロー。
なついていない訳じゃない。
ただ、いつだってマジックの方がシンタローの傍へ居ようとしてるから
猫の方から擦り寄っていく必要がないだけか。

埒も無く思いながらキンタローは紅茶を口にした。

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