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k*
 
 ここ三日間ほど空は分厚い雲に覆われ、時々泣き出すような天気にあった。
 今年の七夕も夜空に星を見ることは出来ないかと人々は思っていたのだが、姿が見えない陽が沈み、暗闇が訪れて数時間後、まるで誰かが取り払ったかのように空一面の雲が消えていた。星の川の美しい輝きが真っ黒な闇のヴェールを被った空を飾り立てている。
 天気に関係なくここ数日、総帥室に籠もりきりだったシンタローは、読み終えた書類を置いて次の書類に手を伸ばす前に、何気なく窓から見た夜空に歓喜の吐息を洩らした。同じように室内に籠もってシンタローの傍で仕事をしていたキンタローは、突然明るくなった半身を包む空気に顔を上げる。シンタローが心で感じた素直な感想は、彼が纏う空気に直ぐ顕れるため非常に判りやすい。
「どうかしたのか?シンタロー」
 キンタローの問いかけに、窓から外を見たままのシンタローが嬉しそうに答えた。
「見てみろ、キンタロー。スゲー綺麗だぞ、天の川」
 キンタローは半身にそう言われて席を立ち上がった。窓へ近寄ろうとすると、椅子に座ったまま外を見ていたシンタローが勢い良く立ち上がる。突然の行動にキンタローが少し驚いた表情を向ければ、シンタローは満面の笑みを浮かべてキンタローを見た。
「ちょっと休憩にしよーゼ!こんな狭い窓から見ないで屋上に行こう、キンタロー」
 キンタローが返事をする前にシンタローはその手を取って歩き出す。この黒髪の従兄弟が、唐突に何か提案をして相手の都合などお構いなしに行動するのはいつものことなので、キンタローは諦めて屋上へ連れて行かれることにした。後数歩で届いた窓から見ることが出来たはずの星をおあずけにされたのは、少しだけ残念なような気がしたキンタローだったが、同じものをこれから見に行くのだからと諦めた。
 ガンマ団本部は、ここいら周辺にある他の建物に比べて著しく高い。従って、屋上に出ると、全ての建物が眼下に見えるのだ。
 二人は屋上に出ると、他の何にも邪魔されることなく、空一面に広がる星の川を見ることが出来た。
 ほとんど感情を露わにすることがないキンタローも、輝く星の数々に感嘆する。
「な?綺麗だろ」
「あぁ」
「全然余裕がない俺等だからな。偶にはこういう時間もいーよな」
「そうだな」
 楽しそうなシンタローの声に、キンタローは短く頷くと、暫く無言で星を見続けた。
 本部にいる間は常に時間と戦いながら書類に埋もれ、ここから出て遠征に行けば埃と硝煙と血と泥にまみれて戦う時を過ごし、自分達が住む場所にある自然の美しさというものを鑑賞する余裕などどこにもなかった。
 シンタローが言うとおり、この様な時間は必要なものだな、とキンタローは思う。でないと、自分達は何を得るために戦い動くのか判らなくなってくる。新たに総帥となったシンタローが、この地に何を求めているのか、別れた友に彼が心の中で誓った約束を、キンタローはあらためて強く感じた。
 自分の目でこの様な星を見たことなど、キンタローは殆ど無い。だが、この感覚をどこか懐かしく感じるのは、この体に染みついた記憶、シンタローがあの島で見た時に感じた感情が残っているからであろう。不愉快な感覚ではなく、ここで感じる感動を増長させるような記憶に、キンタローは心の中で嬉しくなった。それは恐らくシンタローも同じものを感じているはずだからだ。
 それを期待するかの様に、キンタローは少し離れた位置で同じように無言で星を見つめていたシンタローに視線を動かした。
 夜闇で辺りはよく見えないというのに、シンタローを纏う空気と表情にギクリとした。
 今まであった心躍るような感覚が一気に消え失せる。その衝撃で自分が凍り付いたのがよく判った。
 いつも存在感溢れる強い独特な雰囲気を持つはずのシンタローが、この時は儚く目に映った。
 叶わぬ何かを想い、ただ立ち尽くしているように見える半身が星を見る目は優しいというのに、その目は星ではない何処か遠くを見ているような感じであった。
 夜の闇にその身を包まれ、星の導きと共に彼の友人の幻影が見えたような気がする。
 シンタローが心の中で願った声も、キンタローには聞こえた気がした。
 何処か彼方へ、奪われていく。
『嫌だ…』
 キンタローは不安に駆られて、シンタローの傍に近寄った。半身と星の間に立ちはだかる。
「何だよ、キンタロー」
 そう言うシンタローの体を、キンタローは強く抱き締めた。
 だが、いつもなら笑って腕を回してくるシンタローは、何故かこの時無反応だった。キンタローの肩越しにずっと星を見続けている。キンタローが不安を感じた『何か』に心が奪われたままであった。
「シンタロー」
「何?」
 名前を呼べば声だけは直ぐに返ってくる。だが、それだけだ。
 このまま『何か』に奪い取られてしまいそうに思えたキンタローは抱き締めていた体を離して、その手をシンタローの顔に添え自分の方に向かせると、視線を無理矢理合わせた。そこでようやくシンタローの真っ黒な瞳が、ゆっくりとキンタローを認識する。
「お前、何て顔してんだよ」
 そう言って苦笑を浮かべるシンタローがゆっくりと背に手を回してくれると、キンタローは衝動に任せて口付けた。性急に求められて一瞬驚いた様子のシンタローだったが、特に拒むことはしないで、キンタローを受け入れた。
 絡められた舌が濡れた音を響かせる。息をする間もなく深い口づけを与え続けるキンタローに、シンタローはだんだん苦しくなってきて解放を訴えたが、離してはもらえなかった。
 酸欠でだんだん頭がクラクラしてくる頃にはキンタローにしがみつくしかなくなっていて、次の瞬間体がグラリと揺れた。自分の体を支えるよう腰へ回されたキンタローの手に、これは自分が倒れたのだと思ったシンタローが閉じていた目を開くと、青い双眸が真っ直ぐ見つめていた。背中に無機質な硬い感触を感じると、キンタローが自分を押し倒したことに気付く。
 縋るように見つめてくる青い眼に微笑を返したシンタローだが、キンタローの後ろに見えるはずの星の川が気になって視線を動かした。
 するとキンタローが直ぐに覆い被さってくる。
「ん…キン…タ……ぅ…ん…星が…見えな…」
 口付けから逃れようとキンタローを腕で押し返したシンタローだったが、キンタローが抱き締める腕に余計力を込める結果になっただけであった。キンタローは拘束する力を強めてシンタローを離さない。だんだんシンタローの息が上がってきて、体に籠もった力が抜けてくるまで、その拘束は続いた。
 シンタローの目にうっすら涙が浮かび、その雫が一つ頬を伝うと、キンタローは唇を離す。
 涙で濡れた真っ黒な瞳がキンタローを見つめてきた。
「シンタロー、戻ろう」
 キンタローは、夜空に浮かぶ星からシンタローを遠ざけたかった。否、星はどうでも良いのだ。星を見て半身が思い浮かべるものから引き離したい。それが完全な己の我が儘だと判っていても、キンタローはどうすることも出来ないほど嫌であった。
「お前、どうしたんだよ」
 キンタローの呼びかけにシンタローは苦笑を浮かべた。金糸の髪に手を伸ばして頭を撫でる。
「星空の下で欲情しちゃったわけ?」
「…違う」
 苦笑を笑みに変えて茶化すシンタローの台詞に、キンタローは短い返事をした。
 シンタローがその『願い』を口に出してくれれば、もっと感じるものが違うのかも知れないとキンタローは思う。だが、口に出すことが出来ないことも判っている。深く、重く、大切な想いは、本人が大事にしながら心の中に沈めているのだ。
 ならば、その心に繋がりを持つ自分はどうしたらいいのかと思う。
「じゃぁ…───何か見えたとか、聞こえた…とか?」
「…………ッ」
 シンタローの台詞にキンタローは苦しそうに顔を歪めた。
 シンタローはキンタローとの繋がりの強さから、相手に自分がこの夜空に浮かぶ星を見ながら何を思っていたかが伝わってしまったことは判った。それでもそれを言葉としては口にしない。
 相手がキンタローならば、この気持ちを読みとって『それ』を知ってしまうことは構わなかったが、シンタローは自分の口から言おうとは思わなかった。
 まだ、口に出しては言えない。
 いつなら言えるのかと問われても判らない。だから、ただ言わないのだ。
「お前が、連れて行かれる」
「………俺はちゃんとココに居んぞ」
「ここでは嫌だ」
「………お前の傍に居んだろ?」
「シンタロー、戻ろう」
「んー、まだ、もうちょっと星を見てェんだけど…」
「嫌だ」
「…キンタロー?」
「お前を、奪われる…」
「あのなぁ、だから俺は…」
 キンタローはシンタローの話を聞かず、自分が起き上がると同時に押し倒した半身を引っ張り上げて起こす。そのまま腕を引いて、下階へ戻るために強引に歩き出した。
 シンタローがキンタローの腕を引いて連れて来たこの屋上だったが、今度はキンタローがシンタローの腕を引いて連れ戻していく。
 大人しく腕を引かれているシンタローであったが、その顔は後ろを振り返って星を見ている。
 キンタローの顔が、また胸の苦しさで歪んだ。
 そのまま総帥室には戻らず、キンタローはシンタローを自分の部屋へ連れ込み、それでもまだ窓から星を見ていた半身を感情に突き動かされるまま強引に押し倒した。
「キンタロー…お前、本当にどうした?」
 ベッドへ移動する余裕もなく、床の上に強い力で押し倒されたシンタローは、キンタローの様子に心配そうな声を上げた。傍にある大きな窓から月と星の明かりが射し込み二人を照らし出す。その光は、キンタローの端正な顔に深い影を作り出した。
「さぁ…どうしたんだろうな」
 何が返事となる台詞か思い浮かばなかったキンタローは、それ以上何も言わずシンタローが身に付けているものを荒々しく剥ぎ取る。総帥服の赤いジャケットは、シンタローがボタンを外していたから支障がなかったのだが、その下に着ていたシャツはボタンを引きちぎられた。ボタンが床に転っていく音が冷たく響く。
「…キンタロー…?」
 不安げな声を上げる唇を強引な口付けで塞ぎ、キンタローはシンタローの上に乗り上げた。舌を絡めながら露わにした上半身をその手でまさぐり、下肢を包むズボンに手を伸ばす。
 だが、それを脱がそうとした瞬間、キンタローの鳩尾にシンタローの膝が思い切り入った。キンタローはその強さに咳き込んでシンタローの横に転がる。
「コラッ!!テメ、これはゴーカンって言…」
 怒ったシンタローは自分が膝で蹴り上げ横に転がったキンタローの上に乗り上げた。だが、咳き込むキンタローがその顔を手で覆い、泣いていることに気付くと、怒り声が途中で消えた。
「キンタロー…」
 泣き顔を隠すキンタローの手をそっとはずすと、涙を浮かべた青い眼と視線が合う。次々と溢れ出す涙が流れ落ちていく。
『さっきのが…原因か?』
 屋上で星を見ていたときのことがシンタローの頭に過ぎった。自分が星を見ながら思ったことに対して、キンタローは敏感に反応を示してきた。
 シンタローの感情や感覚、心などにキンタローは鋭い反応を示す。それは二人の間にある二十四年間の関係によるものなのだろうけれども、シンタローはキンタローにならそれらを気付かれても良いかと思って特に何も考えていなかった。だが今になって、それはキンタローが見たくないものまで見せてしまうことになるのだと気付いた。
 先程ここの屋上で星を見ながら願ってしまったこと。それ自体は悪いことではないのだろうけれども、一緒にいた相手が悪かった。
「ゴメン…キンタロー」
 そう言って、シンタローは恋人の涙に口付けを落とす。青い眼から流れ落ちていく雫を舌で拭っていく。
「キンタロー…」
 シンタローは名前を呼びながら半身をそっと抱き締めた。キンタローは間近にあるシンタローの顔を引き寄せて口付けをねだる。シンタローは唇を重ねると自ら口を開き、キンタローは半身を求めて舌を絡めた。
 二人の体勢が入れ替わる。キンタローは己の感情を伝えるように、シンタローを離さなかった。シンタローも又キンタローを抱き締める腕に力を込めた。
「シンタロー…嫌だ…」
 唇を離したキンタローが涙を流しながら、再び訴える。その声は普段と打って変わって縋るように弱々しい響きに、シンタローの胸が痛んだ。
「ゴメンな、キンタロー」
 金糸の髪に指を絡めて優しく梳きながら、シンタローは又キンタローを引き寄せた。軽い口付けを交わす。
「キンタロー、俺はお前が好きだから…」
 心の奥に沈めた願いは口に出すことが出来ないけれど、はっきりと言い切れる想いは相手に伝える。
「俺が傍にいたいって思うのも、傍にいて欲しいのも、お前だけだから…」
 シンタローの台詞にキンタローはゆっくりと頷きを返した。
「愛してる…お前が好きだ、キンタロー」
 シンタローはそう言って、キンタローの着衣に手を伸ばした。一つ一つボタンを外していく。
 キンタローはそんなシンタローの手を取って制止させた。
「シンタロー……俺は…酷い抱き方をするかも知れない…」
 キンタローの台詞に一瞬目を瞠ったシンタローだったが、それに構わず乗り上げた男の服を再び脱がせていった。
「酷いのはやだけどな、痛いのも。でも、お前だから付き合う」
 シンタローはそう言って笑った。
「シンタロー…」
「ほら、泣かせたし」
 笑みを浮かべながら涙の後を手でなぞると、キンタローが拗ねたように顔を背けた。
 シンタローはそんなキンタローにクスリと笑うと、自分が身に付けていた残りの全てを自ら脱ぎ捨てる。するとシンタローがキンタローに振り返るよりも先に、愛しき半身に背後から強い力で抱き締められた。
「シンタロー、俺はお前を離せない」
 キンタローの表情は判らなかったが、シンタローは一つ息を付くと、
「…来いよ、キンタロー」
そう言って、体の力を抜いて全てを預けたのだった。

 一瞬の間の後、首筋に吸い付かれて、ビクリと体が震える。後ろから抱き締めていた手が胸元へ移動すると、執拗にそこをまさぐった。
「ん…」
 シンタローの口から吐息が洩れると、片方の手がゆっくりと下へ降りていく。その動作がもどかしくて、シンタローの体が震えた。
「キ…ン…タロー」
 唇が触れていた首筋から背中へ移動し、更にキンタローの手が中心に絡む。ゆっくり手を動かされると、シンタローは自分がどうすればいいのか判らなくなってきた。
 背後からゆっくりと攻めてくるキンタローの表情が判らなくて不安になる。
「ふぅ…ん…キン…タロ…」
 甘えを含んだ声で再び名前を呼ぶと、強い力で後ろに引かれた。シンタローが「転ぶ」と思った瞬間、キンタローがしっかりその体を抱き留め、シンタローはキンタローの膝の上に座る形になった。
 背後からしっかり抱き締められ、絡められる長い指に翻弄される。
「あ…は…ぁ…キ…ン……あ…」
 キンタローは無言のままシンタローを追い詰めていった。キンタローが何も言わない変わりに、シンタローが必死になって半身の名前を呼ぶ。キンタローはその口元に空いている方の手を持っていき唇をなぞった。そして甘い鳴き声を上げるシンタローの口に指を差し込む。シンタローは口腔を犯してくるキンタローの指に己の舌を絡ませた。
 シンタローに絡みつく指が水音を立てる。それが耳からも刺激を与えていく。
 抱き締めてくるキンタローの心臓を背中で感じ、顔は見えなくとも少し早い鼓動に感情の動きを感じて、シンタローはどんどん追い上げられていった。
 キンタローの手に追い詰められて白濁した液を放つと、口から指が引き抜かれ、次の瞬間視界がグルリと回った。膝と手を使ってその体を支えたシンタローは、目の前にキンタローの中心を見て驚く。だが、躊躇うことなくそれに口付けた。唇でゆっくり触れ、舌を使って丁寧に舐めていく。
 シンタローはキンタローに自分の想いを伝えるように何かしたかった。
 キンタローを思う気持ちに偽りはなく、それはキンタローもきちんと判っているはずである。
 だが、恋愛と友情は別物だ。
 キンタローを心から愛していると思うし、誰よりも好きだとシンタローは思う。男である自分が抱かれることを良しとすることが出来るのは、キンタロー意外にいない。キンタローでなければ、触れられるだけであんなにも感情が高ぶらない。非常に強い感情を抱き、キンタローが自分に対して言うように、自分も又、彼を手放すことなど出来ないと思うのだ。
 だけれども、それと同じくらい大切な想いが自分の中にある。
 己が感じる気持ちに優劣はつけられない。でも、再会を心から願う小さな友人。
 何処にいるのかも判らなく、会うことは決して叶わない。
 恐らく、再会が叶うとしても、自分はその時に会うことを躊躇ってしまうほど、大切な出会いと別れであった。総帥となることを決意したときの自分の心の支えでもあった。
『…俺は……』
 心の中で呟いた瞬間、体に衝撃が走った。
 いつもキンタローを受け入れている箇所に、指を入れられ、慣らすよりも激しく動かされた。内部で動き回る指に、シンタローの意識が引きずられる。
「あ…ぅ…んぁあ…ッ」
 シンタローはキンタローの中心から唇を離すと、苦痛とも快感とも言えぬ声を上げた。
 頭上にあるであろうキンタローの顔を必死になって見やると、悲哀に染まった青い眼が見つめている。
「キンタ……あッ…んぁああッ」
 シンタローはそんなキンタローに手を伸ばそうとしたのだが、それよりも先にキンタローの指が更に奧へと入り込み激しさを増して動かされたので、悲鳴を上げて崩れ落ちた。
「ああッ…ぅあ……ん…ぁ…あ…はぁあ」
 いつになく激しさを増した指で執拗に攻められて、シンタローはキンタローにしがみつく。腰に腕を回して抱きつくような形になり、荒い息を上げながら攻め立ててくる指に耐えた。
「…キ…ン…タロォ…ッ」
 自分を求めて名前を呼ぶ半身を、差し入れた指で攻めることは止めずに、キンタローはもう片方の手で乱れた髪に手を伸ばすと頭を優しく撫でる。シンタローは顔を上げて涙を流しながら懇願するように首を振った。
「…や…だ…」
 シンタローの真っ黒な瞳とキンタローの青い眼の視線が絡み合う。キンタローに真っ直ぐ見つめられると、シンタローの体が更に震えた。
「ゆ…びッ」
 シンタローの必死な訴えに、キンタローは指を引き抜くと、ゆっくり体勢を変えていく。シンタローを仰向けにすると、再び立ち上がった中心が視界に入った。そこに指を絡めると、シンタローがまた首を横に振って嫌だと訴えた。
「シンタロー…」
 キンタローが名前を呼ぶと、シンタローは半身を引き寄せようと腕を伸ばす。
「キ…ン…タ…ロ……好き…愛して…る」
「あぁ…」
 シンタローの唇に優しい口付けを落とすと、足を持ち上げ、半身が望むようにその体を貫いた。
 月と星が眩しい光を放ちながら窓から覗き込む中、キンタローはシンタローは離さないように激しく突き上げた。シンタローはキンタローが与える快感に理性を飛ばされて、譫言のように名前を呼び、好きだ、愛してると繰り返した。
「シンタロー…」
「…ん…」
「まだ、足りない…」
「う…ん…ぁあ…あッは…ぁッ」
「足りないんだ…」
 ───…お前が足りないんだ…シンタロー…好きで、離せなくて、誰も許せなくて、気が狂う…
 シンタローは一際高い啼き声を上げると、先にキンタローに屈する。勢い良く放たれた精が己の体を白く染め、収縮する内部の熱でキンタローを堕としていく。キンタローは己の想いを吐き出すように内部に熱を放った。
 熱を感じて体を震わせながら荒い息をするシンタローをキンタローは腕に抱く。シンタローはそんな半身を引き寄せるように腕を回し、口付けを求めようとして、ふと窓から射し込む光に意識を奪われた。視線を動かすと、月と星が自分達を窓越しに見つめている。
 キンタローはシンタローを一瞬でも奪われたくなくて、意識を奪うように口付けた。舌を絡ませ、それに反応を示すと、キンタローはシンタローの体を反転させた。
 シンタローは四つ足で己の体を支える形となり、更に真正面に夜空の輝きが覗き込む窓が来る。
「…キンタロー?」
 半身が何を考えているのか判らなくて、シンタローはその名を呼んだ。
「シンタロー…」
 キンタローの静かな声が背後から聞こえる。
「俺はお前が好きで、離したくない…」
「それは…俺だって…」
 キンタロはシンタローの返答に首を横に振った。シンタローからは見えなかったけれども。
「シンタロー…俺は…」
「ん…」
「月と星にすら嫉妬するんだ…」
 シンタローが台詞の意味を理解する前に、キンタローが後ろから一気に貫く。その衝撃でシンタローは大きく目を見開いた。そのまま激しく律動され、意識が飛びそうになる。
「あ…ぅ…んあ…キン…ッ」
 目を開けば輝く月と星と視線が絡み合い、耐えきれずに瞑るとこの体はキンタローだけを感じる。
「キン…タ…ロォ…」
「シンタロー…好きだ…」
 シンタローを快楽へと突き落とすその動きは、キンタローの感情を表すかのように激しいのだが、その声は静かにシンタローの鼓膜を震わした。
「あ…んぁ…キン…」
「…好きなんだ、シンタロー」
「ぅあ……ぁ…あ…キ……タロ…ッ」
「愛してる…」
「ん…なの…知っ……て…る」
「シンタロー…」
「ふぅッ…俺だ…ッて…」
 キンタローは更に激しく強く突き上げた。更にシンタローの中心に指を絡めて理性の一片も飛ばし、自分の感じる心を一糸纏うことなく露わにする。
「ぁああ…ッ…お…前が……好き…だ…ッ……愛してる…ッ」
 シンタローの真っ黒な瞳は涙を溢れさせ、捲し立てるよう一気にそう言った台詞は、開かれたその目に映った夜空の輝きに誓うかのようであった。
 そしてシンタローは耐えきれずそのままキンタローが誘う快感の渦に飲まれ、快楽の彼方へ意識を飛ばされていった。
 果てると同時に意識を失い崩れ落ちるシンタローの体を、キンタローが支える。
 愛しい半身の背中に、ポタリと雫が落ちた。
 キンタローの青い眼から、幾粒もの涙が頬を伝い、流れ落ちていった。


 空は平等にどこまでも広がっているから、そこに浮かぶ星達に、シンタローが何を願ったのかは判った。
 俺は自分の心の狭さが嫌になる。だが、どうにもならない。
 シンタローが心の中に思い浮かべた彼の友人が、どれだけアイツの心の支えになっているのか判るからこそ、どうにも抑えられない感情が生まれる。
 普段は決して口にしない、彼の願い。
 あのままその願いにシンタローが連れて行かれると思ったら、耐えられなかった。
 俺が傍にいても入る隙がなかった。
 あの瞬間、俺が大切に思う半身の全てを奪われた気がした。
 そして夜空に美しく輝く星の川の下で、完全な敗北を味わった。
 それでもお前が望むならと、今は許すことが出来ない自分の心の醜さを知った瞬間でもあった。
 お前のことなど考えられず、結局は自分のためだけだ。
 俺は奪い返すようにシンタローを抱き、何度も名前を呼ばせた。応えるように好きだ、愛してると言ってくれた心に偽りがないのは確かだと思う。俺を想ってくれる心も。
 それでも、あの敗北を味わった瞬間に嫉妬して、何かを考える隙を与えないないように強引な快楽へ引きずり込んだ。俺のことだけを考えて欲しくて、それが無理なら何も考えて欲しくなくて、そのまま快楽の彼方へ追い詰めた。
 俺に敗北を味わわせたあの輝きが憎くて、シンタローを奪い取ろうとする邪魔なものにしか思えなくて、追い詰めながらそれに向かって愛を誓わせた。
 意識を手放したシンタローを腕に抱きながら、未だに納まらない感情が苦しい。
 苦しい───シンタロー…


 自分を落ち着かせるためにシンタローを抱き締めていたキンタローは、溜息をつくとベッドから降りた。
 明るんできた空には、夜に見たような星達は見られない。渇いた喉を潤すためにミネラルウォーターを取りに行き、再びベッドルームに戻ると、シンタローが眠るベッドの端に腰を掛けて喉を潤す。冷たい水が気管を流れていき、自分の中に籠もった熱を取り去ってくれるような気がした。
 キンタローは座ったままシンタローを見つめると、乱れた黒髪に手を伸ばしてゆっくりと梳いていく。
 それはシンタローを心から愛しく想う、誰の目にもとても優しく映るような動きであった。本人は無自覚であったけれども。
 前髪に手を伸ばしたときに、新たな涙の後に気付いた。まだ乾かぬ後は新しいものだ。
 キンタローの心がズキリと痛む。
 その痛みを抱えながら重い溜息を吐き出してベッドの中に戻ると、眠ったままのシンタローがキンタローに擦り寄ってくる。そっと抱き締めると、半身はそのまま腕の中で落ち着いた。
 キンタローはそんなシンタローに愛しさと苦しさが同時に込み上げて、相手の負担にならない程度に抱き締める腕に力を込めた。
 シンタローの目から、また雫が流れ落ちる。キンタローがそれを指で拭うと、半身は腕の中で寝言のように名前を呟いた。
「パプワ…」
 シンタローは、自分がどれだけあの少年に会いたがっているか、自分の心を知らない。
 だが、キンタローは知っていた。
 こうやって、キンタローの腕に抱かれて眠りながら、名前を呼び涙を流すことが以前にもあったからだ。日常気軽にその名前を言ってくれれば、キンタローの胸がこんなにも痛んだりすることはないのであろう。
 だが、シンタローは決してその名を口にしない。それが、小さな友人への想いの大きさと重さなのだ。
 己の意志で心の奥の何処かに沈めた想いは、その意識が眠ったときにだけ浮かび上がるのだ。
「いつか…必ず会える、いや、俺が必ず会えるようにするから…」
 敵わぬ想いに嫉妬する自分を必死に抑えて、キンタローはシンタローにそっと囁いた。
『それまでには、きっと、俺の心ももっと強くなっているだろうから…』
 キンタローはそう願って目を閉じた。
『いや、強くなると誓うから……今はまだ───俺から奪い取らないでくれ…』
 星になど願う気になれないキンタローは、夜闇を思わせるシンタローの髪に顔を埋めて、ただ、心の中で強くそう思ったのだった。


E N D …

 
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