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2
 
 自分の思い通りにいかず怒りの雄叫びを上げたシンタローだったが、行けるところまで行ってみようというか、やれるところまでやってみようというキンタローに再び引き寄せられる。勿論そこで大人しく相手に従うような気質は持ち合わせていないシンタローなので、激しく暴れてそのまま揉み合う形となったのだが、いつの間にかまた「上」を取られていて、楽しそうに自分を覗き込む青い眼と数十分ぶりの再会を果たした。
 見つめてくるその眼の色があまりにも綺麗な青色をしていてシンタローの激情を余計に煽る。
「テメ、コノヤロッ!!退き……ン…ァッ」
 口を開くと怒声しか出てこないシンタローの首筋に唇を寄せて舐め上げ更に中心を膝で刺激すると、台詞が途中で掠れる。自分が上げた声に驚いて、シンタローは思わず口を両手で覆った。
 これに気を良くしたキンタローはシンタローのシャツを捲くし上げて肌を直にまさぐる。慌ててその手を阻もうとシンタローは腕を掴んだのだが、それによって今まで手で覆われていた口元が露わになり、ここぞとばかりにキンタローは唇を重ねた。
「…ン…ヤメ…ッ」
 今度は口付けから逃れようと顔を背けるのだが、それに構わずキンタローは相手が横を向いたのを幸いと耳を軽く噛み、舌で刺激を与え、直に鼓膜を震わすように低い声で名前を囁く。シンタローはそれに反応するかのように体を震わせた。
『…のヤローッ』
 正直だんだん体の事情もやばくなってきたシンタローなのだが、それよりも一歩も引かないどころから随分と自分の良いように触れてくるキンタローに腹が立つことの方が大きく、これまたお約束のようにブチ切れた。
「……ッ退けェーーーッ!!!」
 その結果として今現在、ソファの上で正座をさせられる紳士の図がある。
 その正面では睨みを利かせたシンタローが、同じく正座をしていた。
「シンタロー……正座の意味は?」
「黙れ。基本だろ、基本」
 キンタローには何の基本なのか判らなかったが、さすがに逆らえるような雰囲気もなかったので、大人しく言われるがままに従った。青い眼で怒りのオーラを纏ったシンタローをじっと見つめる。
『落ちると思ったんだが…やはり無理だったか…』
 誰が見てももの凄い低気圧なシンタローを黙って見つめていたキンタローだが、どことなく悩ましげな雰囲気が混ざるのが気になり、視線を真っ直ぐ合わせたまま相手に問いかける。
「体は辛くないのか?」
「誰の所為だ、誰のッ!!判ってんなら止めろよッ!!」
「止める?誰がだ。それよりも俺に任せてそのままイ…」
「ッザケンナ!!」
 台詞を言い終わる前に思い切り頭を殴られたキンタローであった。
 相手は常人よりもかなり力が強いため、これが凄く痛い。星が飛ぶまではいかなかったが、キンタローは拳が当たったところを庇うようにそっと撫でた。そして少し眉根を寄せると抗議を上げる。
「暴力では何も解決しないぞ」
「オメェが言うなッ!!」
 また殴りかかってきそうな恋人に、二発目を食らうのはゴメンだとキンタローは両手を上げて降参を示す。掴みかかってきそうな勢いで半ば腰を上げた状態だったシンタローは、キンタローの降参に再び腰を下ろした。
「お前、好き勝手やりすぎ。俺は納得してねぇーっつーのに人の話聞いてねェーし…」
「俺はきちんと聞いていた」
「あり得ねェー返答寄越してきやがって、何処が聞いてたっつーんだよ」
 シンタローはそう言って目の前に正座をさせた相手を睨み付けた。しかしキンタローは鋭い視線を受けても飄々とした態度を崩さない。
「大体からどっちがどっちなのかまだ決めてねーんだぞ!!」
「…決める?話し合いでもするのか?」
 面白いことを言うものだと思って問い返したキンタローだが、そう言われて今の言葉を頭の中で反芻させたシンタローは一瞬の間の後「何の話し合いだよッ!!」と顔を真っ赤にしながら声を荒立てた。
 何を想像したのかキンタローには判らなかったが、反応見る限り随分と面白いものが頭に浮かんだようである。
「そもそもこういうものはお互いに好きだと思う感情のもと衝動や欲求でするものではないのか?自然の流れに従うものであってわざわざ事前に決めておくものじゃないだろう」
 これほど白々しく聞こえる台詞もそうはないだろうとシンタローは思った。キンタローの感情を否定するつもりはないが、こうも淡々とした口調で言われてしまうと頷けない気持ちになる。
 更に、正座させられている立場としては随分と太々しい言い様だったが、それでも一理あるのは確かだった。
「そりゃ…決めとくもんじゃねェーだろーけど…でもその時ンなってどっちも同じ方選んだらどーすんだよ?」
 少し言葉を濁したシンタローだが、それでも反論を試みる。何故なら今現在も「同じ方」を選んでいると、シンタローは思っているからだ。先程までのは襲われても抵抗を果たしたことになっているようで、本人としてはまだいいようにされているつもりはないらしい。
「同じ方?何故そうなるんだ?」
「……お前…ホントに会話しろよ…」
 またもやキンタローの一方通行な台詞にシンタローは額に手を当てて項垂れた。どうしてこの男はここまで話が通じないのかと頭が痛くなってくる。
「してるぞ」
「…してねェよ」
 シンタローは眉を顰めて力無く睨み付ける。対するキンタローは微塵も変わらない表情で青い双眸に恋人の姿を映していた。
「その、何だ?お前の中で何でか頑なに決まっている「それ」は何とかなんねェのかよ?」
「…それ?」
「俺もされるつもりはねェーの」
「何故だ?」
「な…何故って…」
「俺達の間にも体が絡むと言葉にしたのはお前じゃないか。なのに、何故だ?」
 そんな質問をされても困る。激しく困るのだが相手がそれ察するはずもなく、シンタローは『そこは聞くところじゃねェだろう』とげんなりした。一体ここで何を語れと言うのか突っ込みたくなる。そんな心中知らずに、キンタローはそのまま言葉を続ける。
「お前がされなくては先に進まないじゃないか」
「だからッ!!何でそーなんだよッ!!」
 頑固なのか何なのか、はたまた思考が何処かあらぬ方向へ飛んでいるのか、キンタローがシンタローの意を全く得ない。普段は以心伝心、言わず語らずの内に判ってくれる相手なのだが、偶に意志の疎通が全く図れなくなる。相手が意図してはぐらかしているのならともかく、本気なだけにタチが悪い。
 シンタローは声を荒立てながら、俺の意を体する補佐官は何処へ消えたと儚い気持ちになってしまった。キンタローにきょとんとされて、更に脱力してしまう。
『普段が無愛想なだけにこーいう顔をすると可愛いけど……やっぱ可愛くねェ…』
 先程とは変わって、今度はシンタローが恨めしそうな顔をしながらキンタローを見たのであった。
 キンタローの方はその様な眼で見られる覚えが全くなかったので無言のまま暫く相手を見つめた。律儀に正座の姿勢は保ったままである。
 そうして少々長い時間無言のやりとりが続いたのだが、待ったところで相手の意を得られず、キンタローは先程から変わらない表情で問いかけた。
「大丈夫か?」
「…お前もな」
 問いかけには直ぐに返答があるものの、その意味が解らず今度は首を傾げる。
「すまない、シンタロー…お前の言いたいことが全く判らないのだが…」
「俺も何で解んねぇーのかが判んねェーよ…」
 唸るようにそう言われてキンタローは今までの会話を振り返ってみたのだが、やはり判らなかった。
 だが、だからといってこのまま閉口して引き下がるのも無意味である。シンタローとする会話は仕事の話でもそれ以外でも好きなのだが、どうも今展開している会話は好ましいものではないらしいということは察知して、キンタローはことの解明に務めるべく相手に問いかけた。
「お前が言いたいことは相変わらず判らないが、何か引っかかっている部分があることは判った。質問するが、お前は俺の行動のどの部分に納得がいかないんだ?」
 キンタローとしては大真面目な質問だったのだが、問われたシンタローはまた答えにくい質問を寄越してきやがったと、嫌そうな顔をした。そういう部分を汲み取れよと思いながら黙って相手を見つめる。
「黙りは止めろ。意味がない上、時間の無駄だ。で、どうなんだ?答えろ」
 見事なほど威圧的な台詞なのだが、それに似合わずシンタローに言われたとおり大人しく正座しているあたり、キンタローの性格が態度によく顕れている。それで無用な怒りは削がれたが、答えたら答えたで又被爆すんだろうな俺、とシンタローは口を開くのを躊躇った。
 しかし、更に眼で強く訴えられて、結局折れる羽目になる。キンタローが投げ付けてくるであろう爆弾発言に一応は備えつつ答えた。
「あー…とりあえず、その、俺としては…押し倒されるのがヤダ」
 直球勝負、シンタローとしてはストレートに言ったつもりなのだが、相手はどうくるかと対する言葉に構えてみる。キンタローはシンタローの台詞に驚くこともなく、淡々とした様子で言葉を返した。
「お前から誘いたいということか?別に俺は構わないぞ。大歓迎だ」
「……………」
 心の中で『グッバイ、俺様…良く頑張ったゼ』と理性に別れを告げたシンタローは、勢い任せに相手の胸ぐらを掴んだ。
「オメェは一回病院行って頭調べてもらってこいッ!!何でそこでそーなんだよッ!!違ェだろッ?!」
 いきなり掴みかかってきたシンタローを咎めることなく、キンタローは眼前の迫力溢れる恋人の顔を見つめながら相変わらず淡々とした様子で台詞を口にする。
「どこが違うんだ?」
「その質問自体がおかしいッ!!」
「それは返答になっていない」
「ダーッ!!もうッ!!」
「シンタロー、そうやって怒って叫び声を上げ会話を打ち切ろうとするのはお前の悪い癖だ」
「オメェ、ホントむかつくッ」
「会話を逸らすな。で、どこが違うというんだ?」
 一進一退の会話をしながら相手に逃げられないよう掴みかかってきた両手をキンタローはしっかりと掴む。鬼の形相さながら恐ろしく怖い顔をして、壁にすら穴を開けられるんじゃないかというほど鋭い視線で睨まれても、怯むことなくじっと相手を見つめた。
「自分で考えろッ!!次にその態度だ!!俺が納得いってないのが判ってンだったら、オメェはさっきのをちっとは反省しろッ?!」
「反省?」
「問い返すなッ!!そんぐらい判ンだろッ!!」
「さっきの件に関して言うのならば、するわけがないだろう」
 この言い種にシンタローの怒りのボルテージが急上昇を遂げ、一触即発の雰囲気のまま更に顔を近づけ先程よりも近い距離で睨み付けた。普通の人間ならば恐怖のあまり失神しそうな勢いだ。
 もっともそれはあくまで普通の人間であって、キンタローにそれで効果があるはずもなく、相手の様子は意に介さず口を開いた。
「俺はお前相手に遠慮はしない───お前もそうだろう?シンタロー」
 睨まれても視線を逸らすことなく、キンタローは目の前の顔を静かに見つめる。
 怒り心頭だったシンタローはキンタローの視線を受けながら、瞬間、その台詞に言葉を詰まらせた。何を言われても響かないほど我を忘れていたわけではなく、その言葉が意味するところをきちんと汲んだようである。
 お互いに遠慮はしない。暗黙のルールのように、二人の間にはそれが最初からあった。
 他ならば、単なる我が儘な言動に聞こえるこのルールは、今の二人の関係を築くのに必要なものだった。
 己をさらけ出してもきちんと受け止め、どんなにぶつかり合っても潰れない相手というのは、実際そう簡単に出逢えるものではない。
 幸運にも、二人にとって相手がそうであった。恋仲になる前から、既に相手は特別なのだ。
 先程の流れも、キンタローはいつも通り己の要求をぶつけてきた。目的がスバラシイものなだけに本筋が見えにくくなるのだが、二人の間にあるルールに則って行動しただけなのだ。それが納得いかないものだというのなら、シンタローも同じように主張をぶつければいい。これに関せず何に対してもお互いに納得出来るまでぶつかり合うのが二人の間での流儀なのだ。自分が納得をして譲る気になったら譲ればいいし、意見が平行を保ったままならそれはそれで構わない。二人とも不変を望むような性格ではないから、いずれは必ず決着がつくことを解っている。
 更に付け加えるならば、その均衡が保てないときは既に相手を受け入れる体勢になっているということだったりするのだが、この時のシンタローはそこまでの思考に至らなかった。最初から一方通行だったキンタローと両方を考えたシンタローでは、どちらが譲歩できるかなど決まっているはずなのだ。
 シンタローは掴んでいた襟を離すと無言のままキンタローから離れた。返す言葉も見つからずに逡巡しているとキンタローの青い眼が間近に迫る。
「このまま部屋に戻るなどというつまらないことはするなよ」
「……………」
「また時間に追われる日常に直ぐ戻るんだ。俺はまだお前と一緒にいたい。それでも戻るというのなら、また力に訴えるまでだが…」
「戻んねぇーよ…俺だって伊達や酔狂でココにいるわけじゃねぇーんだから」
 そして「そんなハングリーな眼で俺を見んな」と続けると、シンタローはキンタローを押し返した。キンタローは律儀に正座の姿勢に戻る。一つ溜息を洩らして正面の端正な顔を軽く睨み付けたシンタローだが、先程の迫力は既に消え失せていた。
「紳士だって言われるのオメェはどこ行った?」
「お前相手に紳士的に振る舞ってどうするんだ?」
 問うように切り返したキンタローだったが、目元に笑みを浮かべてシンタローを見る。
 そんな視線を向けられたシンタローは少しだけ青い眼を睨み続けた後、ニヤリと笑った。
「意味ねぇな」
 正座をしたまま暫しの間見つめ合った二人だが、だんだんこの体勢が馬鹿らしくなってきて、ふっと笑みを浮かべると座り直し、互いに肩が触れる位置に落ち着いた。
 衝突は日常茶飯事、周囲が緊急避難令を発動するほど剣呑な雰囲気で睨み合うこともしょっちゅうで、男の話し合いと言ったらこれだろうと拳で語ること多々ありの二人なのだが、それでも決して後に引くことはなく必ず元に戻る。ここは一番落ち着く心地よい場所だと二人は思った。
 シンタローは先程取り上げられたグラスに手を伸ばし、氷で薄まったアルコールを一気に飲み干す。空になったグラスに酒をつぎ足し、それを片手に黙ったままキンタローの横にいた。
 二人の間に最初の雰囲気が戻ると、感じる心地よさに身を任せたシンタローはどんどん大人しくなっていった。
 そんな恋人にキンタローは手を伸ばし、頭を撫でながら髪を梳く。指から流れ落ちていく長い漆黒の髪の感触を黙ったまま楽しんでいた。シンタローも触れてくるキンタローの手が気持ちよくて、無意識に少しだけ相手に体を預ける。
 その様子にキンタローは柔らかな笑みを零し、髪に触れていた手で頬にそっと触れてみれば、シンタローが顔を擦り寄せた。
「何を考えている?」
 キンタローが静かな声で問いかける。その声すら心地よく耳に響いて、シンタローは頬に触れるキンタローの手を感じながら目を閉じた。
「いや…好きだな、と思って…………………この酒がッ」
 二人を包んだしっとりとした空気に飲まれてついつい本音が口からこぼれ落ち、シンタローは慌てて誤魔化しながら手に持っていたグラスに口付ける。慌てて飲むには高いアルコール度数なのだが、何も考えずに飲み込んだ。
「そうか」
 短い返事をするとキンタローはそれ以上何も言わず、また長い髪に指を絡ませた。
 好ましいと思った甘い空気が再び二人を包んだのだから、この時間をもっと楽しみたい。
 そう思ってキンタローも言葉数が少なくなっていたのだが、シンタローはその態度を違うように捉えたようで、少しばかり長い時間逡巡した後、ぼそりと呟きを洩らした。
 会話が続いているとは思っていなかったキンタローは、その言葉を聞き損ねて問い返す。
「何だ?」
 俯いてしまったシンタローの表情はキンタローの位置から確認することが出来ない。反応を待ってみても無言になってしまったシンタローは口を開かずじっとしているので、キンタローは促すように再び頬に触れた。
「シンタロー?」
 更に名前を呼んで根気よく待ってみると、ようやく口を開いてくれる。
「だからッ…その………さ…酒じゃねェ…よ…」
 聞こえた台詞に驚いたキンタローは、思わずシンタローの顔を自分の方へ向けさせる。案の定、相手は顔が赤くなっていた。それがアルコールの所為でないのは一目瞭然である。
「見んなッ」
 赤くなった顔を見られたのが恥ずかしくて、シンタローは乱暴に顔を背けた。これだからコイツはとブツブツ呟く恋人をキンタローはそっと引き寄せる。
「ちゃんと判っているから大丈夫だ」
 そう言うとしっかり抱き締めた。また抵抗して暴れるようならばその時に解放すればいいと考え、今は己の気持ちに素直に従い腕に力を込める。
『以前はこんな態度をとらなかったんだが…』
 わざわざ訂正するということから、今あった沈黙の時間に色々考えたことが窺えて、キンタローはそんなシンタローが愛しくて仕方がなかった。本当に余程のことがない限り極度に照れ屋なこの男がこの様な台詞を恥を忍んで言うはずがない。相手の性格を知っていたからキンタローは特に気にせず頷くに留めておいたのだが、シンタローの方は気にしたようで、更にそれが自分のことだというのが嬉しかった。
「…なら、いーけど…」
 呟くように返事をして、暫くの間腕の中で大人しくしていたシンタローだが、何か訴えるように身じろぐと、キンタローは拘束する腕の力を緩めた。これで自分から離れていくかと思ったのだが、少しだけ体勢を整えるとシンタローはキンタローの背に腕を回す。
『あぁ、本当に………どうしてくれようか』
 これでは相手に他意がないと判っていても期待してしまう。シンタローのことだから、自分だけがというのを嫌がって、同じように抱き締めてきたのだろう。それが判っていても今さっきの態度と併せてその行動が可愛く見えてしまう。キンタローから見ても物騒だと思うことが多々あるガンマ団総帥を捕まえて「可愛い」と思ってしまうのは、もはや末期かもしれないと本人も思った。
『シンタローを今すぐ抱きたい…』
 この男の全てを食らい尽くしたいと体中の血が騒ぎ出すのをキンタローは感じる。
 そんな不穏な空気を敏感に感じ取ったのか、シンタローが怪訝そうな顔をしながらキンタローを見つめてきた。
「…何か変なこと考えてねェ?」
「……………」
 沈黙を肯定ととったシンタローは慌ててキンタローの腕から逃れた。案外あっさり解放されて、それはそれで疑問に思う。
「キンタロー?」
「安心しろ。今日はもう手を出すつもりはない」
 そう言ってシンタローから視線を逸らすと、空になっていた自分のグラスにアルコールを半分くらいつぎ、一気に飲み干した。シンタローは相手の様子に首を傾げる。
 キンタローが一歩引いたのは諦めたわけではなく、単に理性の限界が近かったからである。もう一度仕掛けて相手が流されてくれれば万事問題はないのだが、そうならない場合最初から無理強いはしたくない。そう思って、危ない橋を渡ることは止めたのであった。
 シンタローの方も、もう一回こられたら体の都合上もしかしたら良いようにされていたかもしれないという気持ちが僅かにあったので、キンタローが引いてくれるならそれにこしたことはない。
「お前がその気になるまで何度でも仕掛けてやるから覚悟しておけ」
「スゲェ宣言だな、オイ…」
 キンタローの見事な言いっぷりに呆れたシンタローだが『いや、待てよ』と思い直す。
「その気になるまで、か…」
「……………?」
 自分にも同じ条件は与えられているはずなのだから、自分が先にキンタローを『その気』にさせればいいんだと思いついた。得意げな笑みを浮かべてキンタローを見る。
「お前も覚悟しておけよ、キンタロー」
「…何の話だ?」
 キンタローの質問には答えず、シンタローは楽しそうにしながら頭の中で策略を巡らせ始める。
 また良からぬことを考えているなと思いながら、キンタローはもう一度アルコールに口付けた。



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