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kyt



Sweet pervasion
その報せを聞いたとき、従兄弟は「そうか」とただ一言ぽつりと漏らした。

仕官学校時代、従兄弟と肩を並べていた友人が戦地で生を終えたらしい。
アラシヤマやミヤギといった刺客衆と違って部隊で行動していたそうだ。
新生ガンマ団となってから殺生は禁止している。
各地で請け負った任務も不殺という制約の元では手こずることも多かった。

そして戦死の報。
その場には部下もいた。従兄弟は友人の死を知っても泣くことは許されなかった。
従兄弟はガンマ団という巨大な組織の総帥だ。総帥として隙を見せることも、情を出すことは許されない。
そのほかの報告も併せて部下から聞き終えると、従兄弟はただ一言下がれと口にした。



総帥室に静けさが満ちる。
漠然とした不安を孕んだような空気が従兄弟から感じられる。
下がれと部下に命じたとき、従兄弟の声は硬さも感傷も滲んでいなかった。ただ、いつもどおり返事をしていた。
他人の目の前で従兄弟は総帥らしく振舞おうと努力している。目に見えない努力ではない。
昔から従兄弟を知る者たちは、変わったとか責任感が出てきたんだなと口にした。
総帥位に就いてから、従兄弟はかつてこの部屋で権力を振るった伯父のように振舞うようになった。
不殺を布いてからは組織の足並みを乱す叔父を離脱させ、汚い駆け引きも厭わなかった。
叔父に、従兄弟にとっては父である人間に近づこうと一生懸命だった。
立ち止まることを、何かに囚われることはなかった。


「シンタロー」
声をかけると上ずった声でああとだけ返してくる。
「シンタロー」
もう一度声をかけると従兄弟はようやく顔を上げた。
返事をする代わりに、椅子から立ち上がり窓へと向かった。
従兄弟がブラインドを落とす音が室内に酷く響いた。差し込んでいたオレンジ色の光が階段状にきれぎれに入ってくる。
光が眩しかったからと言い訳する従兄弟の目には涙が溜まっていた。
眼が痛いと言い訳するように軍服の袖で拭う従兄弟に胸が痛くなる。
従兄弟はもう人前で泣いてはいけないのだ。
従兄弟のいる窓際へと近寄るとオレンジ色のぬるい光が肌を照らしていく。
心に不安を呼び込むようなぬるい温度と警報機のような色に眉を顰めながら歩み寄る。
オレンジ色の光を背に受けて、従兄弟は虚空をじっと見つめていた。
前に立っても視線を合わせることなく、彼はぽつりぽつりと話しはじめた。

「とくに仲が良かったわけでもなかった。島から帰ってきてからは、あの4人とつるむことが多かったしな」
俺、友達多かったし。
懐かしむような、それでも辛そうに思いを馳せる従兄弟に俺は何も言えない。

「今まではとくに気にしていなかったんだ。激戦地から戻ってこないやつがいても実力だと思っていた。
だけど、あいつの部隊を送ることを決定したのは俺なんだ。総帥の俺なんだよ」

俺が殺したんだ、と従兄弟は呟いた。
慌ててそんなことはないといくら言っても従兄弟は頭を振るだけで聞き入れない。
俺が殺したんだ、俺があいつを殺したんだ。
ヒステリックに繰り返す従兄弟の眼には涙が溜まっている。
オレンジ色の光が差し込んでくる所為か涙は赤く映って見える。
黒い瞳から、血のような涙が滲みはじめていた。
なだめるように彼の頬骨を撫でても、はりつく長い髪を梳くように流してもおさまらない。
怖いと、従兄弟は口にした。怖いと怖い、と何度も何度も口にした。
慄いた色を黒い瞳に宿し、震える体を自らの腕で抱きしめながら。
「知っているやつが死ぬなんて考えもしなかったんだ」
怖いよ、と従兄弟は慄く。
まるで夜に怯える子どものようだ。手探りの暗い闇に慄く子どものように従兄弟は震え続けている。



「俺しか見ていない。泣いてもいいんだ、シンタロー」

お前は総帥なんだ。部下の前では弱気を見せるな。
涙を見せるのは俺の前だけにしろ。

泣いてもいいんだ、と言うと従兄弟はびくりと肩を震わせた。
泣いてもいいんだ、シンタロー。

肩を震わせて従兄弟は堰を切ったように嗚咽した。







ひとしきり従兄弟が俺の前で涙を流した後、俺は従兄弟に今日はもう休めと言った。
休めない…仕事があるとくぐもった声で従兄弟が言っても相手にはしない。
今日は従兄弟は仕事にならないだろう。
総帥室からの内線電話はすぐにティラミスに通じた。
今日はもう誰も通さないようにと指示し、すぐに通話を切る。

なかばひきずるように彼を執務室の奥にある仮眠室へと連れて行く。
泣きはらして黒目を縁取るように赤くなった目。赤みが差した頬。
こんな姿を他の人間に見せることなどできない。
情を見せる従兄弟を部下に晒すことも弱気になっている従兄弟を身内に託すことも。
前者は従兄弟の立場からは許されない。後者は俺が許すことが出来ない。
従兄弟を慰める人間は、彼のすべてを理解する人間は俺だけでいい。
ほら、と促し眠るように指示をする。
「仕事のことは心配要らないから休め」
お前には休養が必要だ。
あとのことは俺がやっておくから。
言い聞かせるながら従兄弟の睫から涙を拭ってやるとそのまま手を掴まれる。
「…シンタロー?」
どうしたのか、と口を開く前に視線がぶつかる。
従兄弟の黒い瞳。焦燥と惑いと深い哀しみとが詰まった黒い色。いつもの明るい光を宿す黒ではない。
闇のように深く深く沈んでいく色に、視線は深い黒に吸い込まれていく。
まるで従兄弟に囚われるかのような錯覚が起きていく。

「いてくれよ」
従兄弟の言葉は呪文のようだ。
俺を捕らえては離さない。タチの悪い罠の様に絡めとられていく。
ここにいてくれと願う彼に逆らうことができずにただ言うなりになってしまう。
操られるまま従兄弟を強くかき抱く。それでも従兄弟は、
「抱きしめていてくれよ」
もっと、強く。もっと。
身を捩ってしまうくらいに強く抱きしめていても、もっと強くと懇願してくる。
怖いんだ。捕まえていてくれ。
怖い。怖いよ、キンタロー。
おさまっていたはずの震えを再び取り戻し従兄弟は縋りついてくる。
いてやるから。俺はここにいる。
幾度となく口にしても従兄弟はおさまることがない。
もっと強く。もっと。
抱擁が次第に甘さを帯びてきても、なだめる言葉が口付けへと変わってきても。
変わらず従兄弟は縋りついてくる。もっと強くと壊れた機械のように繰り返し口にしている。
もっと強く。もっと。
  
切なく甘い吐息をこぼしながら、従兄弟は一度だけ違う言葉を口にした。


「お前を確かめさせてくれ」

涙でくぐもった声でそれだけを従兄弟は言った。
俺の体に圧し掛かるように、なかば押し倒される形で寝台へともつれ込む。
私室とは違った硬い感触が背に伝わる。
重みを体に感じ、上に圧し掛かる従兄弟に目をやると震えていた。
怖いんだと口にし、震えている。
お前もいなくなるのが怖い。
譫言のように「怖い」「いてくれ」と繰り返す従兄弟の頭を撫でてやる。
俺はここにいる。ちゃんとお前の傍にいるだろう。
囁きだけでは足りないのか、存在を確かめるように俺の体を抱いてくる。

俺の髪を、眉を、瞼を頬骨を。
喉や肩を、すべてのラインをなぞりながら抱きしめてくる。
噛み付くようなキスを交した後、釦を引きちぎるようにシャツをはがされた。
確かに自分がいた証のように俺の胸や腹に従兄弟の刻印が散っていく。
俺はただ飢えた獣のようにがっつく従兄弟のしたいようにさせていく。

従兄弟が俺の体のあちこちを舐めたり、吸い上げたりするのも。
衣類のすべてをくつろがせて普段は俺が従兄弟に対して及ぶ行為を彼がしていても。
汗と涙にまみれた従兄弟の手が這い回る感触も長い黒髪が腹を刷毛のように撫でることも。
自ら慰めるように従兄弟が受け入れる準備をしているところも、インサートの瞬間も何もかも。


されるがままにされる。
従兄弟がなすまま流されていく。

従兄弟が俺の上で揺れる。ぽたりぽたりと汗と涙をこぼしては揺れている。
自ら俺の熱を奪うように、ぎゅっと絞り上げるように締め付けてくる。
蠕動する内部で反応を返すと従兄弟はふるふると睫を震わせる。
俺のすべてを感じ取るかのように、自分の中にいることを確認するかのように揺れ動く。
疼痛にかまうことなく俺の熱を追い求めてくる。
腹筋だけで上体を起こすと、ひときわ大きな声を上げた。
上体を密着させてやるとすぐさま爪を立ててきた。
熱い痛みが背に走る。抉り取るようなそれに眉を顰めながらも止めたりはしない。
熱い舌を絡めてきた従兄弟がそのまま肩口に噛み付いてきても止めたりはしない。
背にも肩にも俺の中心にも従兄弟が与える熱が疼いている。体中に従兄弟の熱が纏わりついている。
俺の上で従兄弟が切なげに揺れる。
深く深く繋がってゆらゆら揺れていく。
俺は従兄弟に手を貸さない。体を預けるだけで何もしない。

されるがままにされる。
従兄弟がなすまま流されていく。

揺れて絡めて、俺の存在を確かめるように好意に没頭する従兄弟を俺は見つめる。
従兄弟が俺を求めてやまない姿を目に焼き付ける。

揺れて、揺れて。
甘い吐息と喘ぎを熱に乗せて。
従兄弟は俺を求めてくる。


揺れて、揺れて。そして。
荒い息を吐き、涙や唾液をこぼしながら従兄弟が果てると同時に中に俺の熱を注ぎ込んだ。






お前が俺を拠り所にするのならば、いつでもこの体を明け渡してやるから。


繋がったままの姿勢で長い髪を梳きながら心の中でひとりごちる。
彼の中での熱はおさまっても、じくじくと従兄弟が与えた痛みが疼いた。
肩口で息つく従兄弟の髪が噛み傷をぴりりと刺激する。


甘い痛みが俺の体を侵食していく。





  
初出:2003/10/02
エン様に捧げます。

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