零れる
この恋は禁じないでよ。
思ったより、 ずっと思い描いていたよりもその肌はひやりとしていた。
ぎこちなく行き違うキスの後に、拗ねたように視線をあわせず、
「…なんか、欲しいもん、あんの? 誕生日」
と、尋ねると、シンタローは様子を窺うようにチラリとこちらを見た。
それにいつものように、笑み返すことすらできなかった。
「…ああ、」
言うと大きく瞠目したこの漆黒の瞳は今、私のどんな感情を見ているのだろう。
「ごめんね、シンタロー」
やわらかい頬を包むようにして、両手を伸ばして、逸らすことさえ出来なくした。
臆した色を浮かべぬ瞳。その中で映え融ける青は己自身か。
ひやりと吸いつくような肌膚の触感に眩暈を覚える。
耳元の髪を梳きあげて。
愛しい。愛しい。
さらさらと髪をくしけずられるのが気持ちいいのか悪いのか、シンタローは目を細めて、ん、と言葉にならない吐息を零した。
愛しい。
自然と重ねたくちびるは化粧気もなく艶やかで、それが心を煽ってやまない。
怖いな。
心の中だけで、自戒を込めて苦く笑った。
なんて酷い恋だろう。
この身打ちふるえるような歓びが、この子の恐れに繋がるものを。
それでも、この恋は禁じないで。
「シンちゃんの、ぜんぶが欲しいんだよ」
愛してる。
2003.12.10.BGM*オブラート
たぎってます。
オチ。↓
12月12日、当日。
「いいよ、やるよ」
「え? ナニ投げやりにそんな。え?」
「 仕っ方ねえだろ。今までモノ指定で言われた事なかったからほかに思いつかねぇんだヨ。ていうかもう考えすぎて頭痛ぇ」
「シンちゃん…!」
「まて。それにリビングでゴロゴロのたうち回る父親なんて持ちたくないんでな」
「だってシンちゃんにずーっと口きいてもらえなかったんだもん。もう禁断の、否禁欲の日々! これからどうなっちゃうんだろうパパとシンちゃんはッてすっごーく悩んでたんだから!」
「とりあえずどうにもならない事だけはたしかだ」
「え、でもくれるって。言ったね今。聴いたよパパは」
「フン。言ったさ、」
「むしろ録音したよ焼き付いたよ私の心のハードディスクにガリガリとッ!」
「…聞いとけヨ人の話を。つーか、で、何?」
「聞いてるともっ! 何って何だい?」
「だから、やったら何だってぇの。あ。…先に言っとくけど俺はやっても俺の貯金はやんねーぞ」
「…………!! 神様ありがとうこんな何も知らないシンちゃんにパパが初雪を踏破できるような歓びを与えてくれてッ。ビバ誕生日!」
「あんたが神様信じてるとは初耳だ。つかそのたとえ話わかんねぇし」
「え、ああ! じゃあわかるように! ええとね?」
「ンだよ」
「ちょっとこっちに来て?」
「で?」
「ちょっとベッドに座っておいて?」
「ふん?」
「いただきます」
「……………ッツ!!!」
ボグッ。
「…はー……はー…、っ…誕生日おめでとう変態オヤジ。おまけのボディブローだ。そして永遠にサヨウナラ」
「ゴフっ…いい入りだったよシンちゃん…」
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