忍者ブログ
* admin *
[186]  [185]  [184]  [183]  [182]  [181]  [180]  [179]  [178]  [177]  [176
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

kt



ホームシアター
白と黒で構成された画面からはキーンと警告音が鳴り響いている。
パニックになる女性と彼女に襲い掛かる人間の荒い息。

サイコ。ヒッチコックの代表作の一つらしい。
俺の部屋へ飲みに来た従兄弟が気まぐれにつけた深夜番組だ。
照明を暗くした部屋にときおり正面の画面が強い光を放ち、窓から射し込む月光や淡い電光よりもずっと鮮明に従兄弟の体が浮きあがる。
暗い部屋に溶け込む闇色の髪と瞳。
少し、日に焼けた小麦色の肌。
汗と生理的な涙を溜めた睫毛。
きれぎれにくっきりとした従兄弟の扇情的な姿が俺の前に映し出される。
ホラー映画の、観る人を次第に興奮させていく音との相乗効果もあいまって、すでに映画の内容を気にしていない俺自身も高ぶってくる。

ブロンドのヒロインは白。
彼女の協力者の男は黒。
滅多に見ることのない昔の映画は、この二色の濃淡でできている。

目の前の従兄弟は、黒だ。
深くて何色をも包み込んでしまう色。

俺の眼前で黒い色が揺れている。
わずかな酒と互いの体温とで温められた赤みを帯びた黒。
長い髪を振り乱し、眉根を寄せて俺を煽る。
近づきすぎるくら密着した体勢で互いに相手を指や舌や歯や声をも使って高めさせていく。
彼の黒い瞳の端へとやさしく口付けをしても攻める手は休めさせてはやらない。
飴と鞭を使うように攻め立てて、彼から思考を奪っていく。
どちらが、勝つか。どちらに流されるか。
まるで手合わせをするかのように挑みあう。
もっとも、せっかく俺の体に馬乗りになるという絶好のポジションをとったシンタローもすでに降参した。
互いの軽い愛撫からはじまったこの体勢も、彼のポイントを先取した結果だろう。
かえってこの体勢が仇となって、抵抗らしいこともできずに俺の背へと腕を回している。
ときおり彼の背面から白い光が当たったとき、俺は従兄弟を煽る指先や舌の動きを止めてみせる。
やめんなよ、と上から俺に縋りつき、甘く擦れた声を耳元で響かせてくる。
熱い息が耳朶に触れ、そのまま従兄弟に甘噛みされるとくすぐったさと同時に背筋がぞくぞくしてくる。
湧き上がる快感と体の下部に血流が集まってくる感覚。
手合わせなんかとは比べ物にもならない、例えて言うのなら殺るか殺られるかの勢いで戦場で標的を仕留める感じにも似ている。
独特の高揚感と、陥落した従兄弟の極上の体。
もう、この勝負はクライマックスだ。あとは喰らい尽くすだけ。
「シンタロー」
俺の首筋に顔を埋めていた従兄弟の耳に低くささやく。
なに、と擦れた声が出る前の空白を見計らって、彼を一突きにした。









二人してソファにもたれかかりながら、荒く息をつく。
俺は従兄弟の体重を支えていた疲労を、彼は俺に攻め立てられた体の鈍さを濃く引きずっている。
普段は必要なものしか置いていない、殺風景な部屋だというのに今は行為の気だるさと情事の後の特有の空気が漂っている。
テレビの画面からはエンディングロールが流れていた。
結局、彼女がどうなったかは分からない。
もともと従兄弟がチャンネルを合わせたときから、さして興味がなかった。
リモコンを探そうと床の上を手探りしていると従兄弟の方が先に見つけたらしい。
プツッと画面が消え、部屋の中の闇が濃くなった。
「なんだか分からない映画だったな」
音がすごかった。
とくに話すこともなかったがなんとなく口にすると、従兄弟は俺は見たかったんだとブツブツ呟いた。
そんなこと、俺に言われても困る。
発端は俺にあるかも知れないが、こうなった責任の半分以上は従兄弟にある。
そもそも、今こうして二人で疲れきっているのも映画の途中での軽口が原因だ。
映画が始まってすぐにでてきたモーテルという耳慣れない単語を従兄弟に尋ねたとき、従兄弟はラブホテルのようなものだと言った。
元来は自動車で旅行する者の簡易ホテルだったらしいが、転じたらしい。
「おまえが18のとき泊まったヤツだな」
「なっ!!!」
どうしてそれを、と胸倉をつかみ上げるように慌てた従兄弟に、「落ち着け、24までおまえのことで知らないことなどない」と言う。
ぐっと詰まった従兄弟を見るのはおもしろい。もう少し苛めてやろうかと思って、証拠を並べてみる。
「マジック叔父貴が遠征に出かけて護衛が手薄だったときだったな。
士官学校もちょうど休みに入っていたし、護衛をいらないといって街へ出かけたときだったな。
付き合ってたヤツと体育倉庫風の部屋とかいうのを選択したんだったな。そのあと、たしかおまえは…」
そこまで言ったときに口を手で塞がれたのだ。
分かった。それ以上言うな!もういい。従兄弟が顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
そんなに大声を出さなくても、と思ったが俺から手を離してもうわーうわーと頭を抱える様子を見るとつい笑ってしまう。
笑う俺が気に障ったのか、上目遣い気味で仕返ししようと俺に技を仕掛け始める。
訓練場とは違い私室なので本気にはなれず、ジャレあいながら床の上を転げまわる。
ひとしきり転げまわった後、テレビに目をやるとブロンドの女が男と軽いキスを交わしていた。
それは挨拶程度のものだったが、なんとなく画面を見ていた俺に従兄弟は悪戯を思いついたらしい。
「なぁ、おまえこういうキスしたことあるわけ?」
とにやりと笑みを浮かべながら聞いてきた。
「こういうのは、ないな」
いくら、イギリス系白人だからといってこんな軍隊でそんな挨拶をするわけがない。
「だよなぁ。じゃあ、こういうのは?」
俺、ちょっと自信あるんだぜ。
そう言って、従兄弟が俺へと濃厚なキスを仕掛けてきたのがきっかけで。
それから今の俺たちの状態になるわけだ。




「ったく。どこで覚えてきたんだよ」
こんなこと…と俺の口唇を指の腹でなぞりながら口にする。
心地よい倦怠感のなか、なにも身に着けていない従兄弟を引き寄せてやる。
汗が引いた後は少し肌寒い感じがした。
「さあな。お互い様だろう」
不公平だ!俺はおまえの相手はしらねぇぞ!
大体、なんでおまえ、俺の弱いトコばっか知ってんだよ!
よくそんなに元気があるものだ、と思う。少し前までは可愛げがあったのに、まったく。
ぎゃあぎゃあと喚く従兄弟を黙らせるために、俺は笑みを浮かべながら声をかける。
「シンタロー」
「何だよ」
「俺はおまえとずっと一緒にいたからな。おまえの記憶だけじゃなくて感覚も大体分かる。
おまえが誰とシたのかだけでなくて、なにに感じたのかもな」
まあ、不公平といえばそうだな。俺は、おまえの研究をし尽くしているからな。
情事の後が残る従兄弟を見ながら言ってやると、シンタローはうっと目を逸らした。

「おまえとは、もうヤらねぇ」
心底、うんざりした顔で言うシンタローの表情は可笑しかった。


これだから、従兄弟をからかうのはやめられない。



  
初出:2003/08/29

PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved