波音
透明な包装を破り開いて、ピンク色をした球状を湯の満ちたバスタブへと放り込むと、大きな水音と波を立てて、ゆっくり落ちていってはごとんと鈍い音をたてて底に転がった。
続いてふわりと濃厚な香りと、固形が融け、しゅわしゅわ小さな気泡がはじける音が間断なく続き透明な湯水を染めあげ、幾重もの薔薇の花弁が広がっていく。
それを満足そうに眺めながら、これから始まる楽しい時間を思い描いてうきうきとマジックは振り向くと、居間にいるシンタローに声を掛けた。
「はーいシンちゃん準備できたよ~v」
「………ぉぅ」
のろのろと脱衣所までやってきたシンタローに対して、マジックは嬉々とした表情でその着衣に手をかける。
「っやめろよ! 自分で脱げるっつーの!」
「いいじゃない」
「良くねェッ。たくガキじゃねーんだから…」
ぶちぶちといつもと似たような愚痴をこぼしながらシンタローはぞんざいに服を脱ぎ捨て大股で浴室へ進入すると、さっさと身体を洗ってざぷんと湯に身を沈めた。
「色気な~い」
「るせっ! あってたまるか!」
「そんなことないよシンちゃん自身はセクシーの塊だよフェロモンだだ漏れだよ」
「…んな褒め方ちっっっとも嬉しくねェ。むしろ嫌な言葉だぜ」
「あっははは。そうだなァ褒めてるっていうより、惚れてるんだよ」
「オマエは馬鹿か」
後に続いてシンタローの入っているバスタブに喜色満面で、シンタローが足を上げて阻止しようとしているのを躱して無理に侵入してくるマジックを、渋面をつくってなじった。
本当にもう毎度のことだが、呆れる。
呆れてモノも言えないというが、モノが言えるだけ自分はコイツに狎れてしまったということだろうかと思うと、シンタローは情けなくなってくる。
「ああ、でも、」
蹴ってきたシンタローの踵を掴むと、マジックはそれをそのまま自分の肩に乗せてシンタローの身体に割り入る。
「こうしてみると、やらしい体位みたいだねえ」
「…アンタの頭はそればっかりか」
「それしかないよ」
当然、とばかりに言い切ってにやにやするマジックに、シンタローはああもう、と天を仰ぐ。
顎を上向けても、湯煙に霞む自然光に近いライトの光がぼんやり見えるだけだ。
「シンちゃん…」
すぐ近くで深い余韻とともに名前を呼ばれたと思ったら、マジックが首筋にキスをしてくる。大きな手が腰骨をじっくりと撫で上げてきた。
「う・あっ…!」
水中、ということもあるが、オリーブオイルの融けた湯はいつもされている行為を違うものにする。触り心地も違うだろうが、触られ心地が、違う。
反射的に声を抑えようと腕をあげたが、口元に届く前にマジックに捉えられる。
「くッ…そ! ィやめろっ…ての!」
「ダメ。聴かせて」
濡れて滑る腕を無理矢理に掴まれるのと抵抗するのとで、結局、喘ぎ声どころかバシャバシャと派手な水音しか聞こえない。
「ン …」
最後は覆い被さるように上からマジックに強いられた長いキスで、力が抜けた。
「選ばせてあげる。二択だよ」
「…なにを……」
すぐ近くで晴れやかに笑うマジックに、シンタローは胡乱な視線を向ける。
「ここでオリーブオイルの感触を楽しみながらするか、ベッドにいってパパに身体の隅々を拭かれながら楽しむか。どう?」
「………あー…それじゃ、三番目の独りで風呂から出て寝るってのに……」
「それで独りで手慰み? それもいいなァ。見せてねv」
「うっ。…嫌なこと言うな…」
シンタローは言葉に詰まる。
「だってそうじゃない? こんなになっておいて、何もしないで眠れはしないよねぇ」
「くぅッ…」
マジックがこわばりかけたシンタロー自身に手をやると、耐え切れぬ切ない息が漏れた。その耳元にそっと囁く。
「今夜もイイ声聴かせてね、シンちゃんv」
返事の代わりに、つよく首筋に噛みつかれた。
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