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夢で会いましょう
従兄弟が最も敬愛する叔父は、高松にいつもの如く4万円と切り出していた。
そして、それを切り出された高松は、前に言われたときと同様に叔父を褒めて話題を逸らしていた。



*



ベッドに二人腰掛けて、久しぶりに実家へと戻ってきた叔父の土産の酒を嗜む。
シンタローと二人、酒を飲むことはめずらしいことじゃない。
けれども、一番下の叔父が土産にとくれた酒を飲むのは初めてだった。


洒落者の叔父が土産にと寄越しただけあって、サイドテーブルに置かれたボトルは瀟洒なデザインのものだ。
ボトルのネックにはグラスファイバーで編まれたリボンが凝った結び形をされて、美しく飾られている。
口当たりのよい果実の風味といい、申し分のない贈り物だ。

ゆっくり味わいながらボトルに書かれた文字を目で追う。
手に取ったボトルは傾けても零れたりはしない。
栓を空ける前はずっしりと重みを感じたというのに、すでに残り僅かとなっていた。


(シンタローも気に入ってるようだし、貯蔵庫に寝かせておくのも悪くないな。
明日にでも叔父貴に店を尋ねてみよう)


じっくりとボトルの銘を見ながら考えていると、横からじっと視線を感じた。
流麗な文字を追うのをやめ、ちらりと視線の主に目を向けるとシンタローが催促するような顔をしていた。


「もう少し飲むのか?」
「うん。うまいから結構イケるし。キンタロー。おまえ、よく分かったな」

いつものようにシンタローはグラスを俺に向けて差し出した。
おかわりを催促する彼の目元は赤い。
空になったグラスは底の方に残った僅かな水滴で薄紅色に見える。
乞われるままグラスにワインを注ぐと、彼はうれしそうに顔をほころばせる。
ゆるめた頬は少しだけ赤かった。

「暑くはないか?」
酒に酔っているときは体温が上昇する。
風呂から上がった後、パジャマのボタンを閉めることもないシンタローに尋ねるも彼は「別に」と首を振った。
外はきっとうだるような暑さだろう。
だが、この部屋はシンタローが来る前からエアコンによって涼しくされていた。

「ボタン、閉めないと風邪を引くぞ」
「引かねえよ。馬鹿じゃねえからな」
グンマじゃないし、とけらけらと笑うシンタローにため息が出る。

夏風邪は馬鹿が引く?そういう問題じゃない。
まったく。


シンタローのグラスにワインを注ぎ、自分のグラスにも注ぎいれる。
残り僅かだ、と思っていたがぴったりと2人分だったようだ。
空のボトルを置くと、シンタローは「乾~杯」とグラスを重ねてきた。

「うまい!」
一仕事した後、ビールを飲んだときのように言うシンタローに思わず笑みが漏れる。
彼がもう一口味わっているのを見ながら、俺も口をつけると馥郁とした香りが広がった。

たしかにうまい。

「叔父貴に礼を言わないとな」
貰った時に礼は述べたがこれほどとは思わなかった。

「さすがサービスおじさんだよな~」
ふふ、と笑みをはきながらシンタローはワインを楽しむ。

「取り寄せるのも悪くはないな」
「取り寄せ……ってやってんのかな。あー!ちくしょう。ここにおじさんがいれば聞けんのにな~」

シンタローは「おじさんと飲みたかった」とぶつぶつと零す。
サービス叔父は土産をくれただけで、すぐに高松と出かけていってしまった。
シンタローは悔しそうにしていたが……。


「そういえば高松は今回も返さなかったな」
ふと、叔父と出かけた後見人のことを浮かべ、出かける前の騒ぎを口にする。
叔父は高松に会うなり、随分前に貸した金のことを言及していた。
もう何度も見慣れた光景だ。
俺やシンタローが見えていない様子で二人とも少年時代に帰ったかのように言い争いをはじめる。
たいてい、高松がうやむやに終わらせるものだが。

「4万円……というとあの二人には大した額でもないのに飽きないな」
「うん。まあいつものことだよな」
「いい加減、高松も言われるのが嫌なら返せばいいんだが……」

億劫になっているのだろうか。
学生時代からの延長でずるずると惰性のまま続いてるのかもしれない。

「給料から振り込むように手続きをとるよ……」
「やめとけよ。馬に蹴られるぞ」

とるように計らえばいいんだろうか、とシンタローに提案しようとした言葉はかき消された。

「馬……?」

どうして馬なんだ。馬なんか関係あるのか?
高松の専門はバイオだぞ。医者でもあるが、対象は畜体ではない。

「あー、だから、あの二人はあれを楽しんでるんだよ。
本当に返して欲しかったら、それこそお前が考えたとおりにすればいいだろ。
俺に言って高松の給料から天引きしてもらえばいいんだからさ」

「そうか……。そうだな」

「馴れ合いってわけじゃないけどさ。叔父さんも高松も案外楽しんでやってるんじゃねえの?
じゃなきゃ、飽きるだろ?20年以上やってられるかよ。
まあ、俺はサービス叔父さんさえよければいいけどな」


そうだったのか……。
三文芝居のような馬鹿騒ぎをよくも飽きずにと思っていたが。

あれが、二人のスキンシップなら立ち入ることはない。
巻き込まれて、シンタローがサービスにべったりつくのは嫌だしな。
近づかずに、シンタローと二人で過ごせる時間を甘受した方がいい。


「あったまっちまうぞ」
「……?ああ」

促され、ワインを呷ると口腔に甘い果実の香りが広がる。
グラスに残った僅かな液体は手のぬくもりで少しだけぬるくなっていた。

「それより、さ」
「なんだ?」
会話が途切れたのを見計らったようにシンタローがにやっと笑った。
空のグラスを置いて、彼を見つめると黒い瞳が瞬いた。


「俺達、いつまでこうしてんだよ?」
従兄弟は上目遣いで俺に含みを持たせた問いをかける。
暗にベッドへ行こう、と舐めるような視線を投げかけられ、苦笑が浮かぶ。

「そうだな……。もう、ワインは底をついていたな」
「だろ?」



***



片付けは明日!とばかりに手を引っ張られ、寝室へと連れて行かれる。
ベッドへ乗り上げるとどちらともなく互いが引き寄せ合っていく。
ワインに濡れた口唇は果実のように瑞々しく甘かった。
丹念に叔父の土産よりもシンタローの口唇を味わうと彼の黒目が情欲に濡れた。

「明日はおじさんと食事に行くんだからな。加減しろよ」

絡まる腕が、耳元で吐き出される甘い息が熱い。
加減しろ、と言いつつも色づいた声で言う彼がおかしい。
抑えきれぬ笑みを浮かべるとシンタローは口を尖らせた。


「ちゃんと寝かせろよ。じゃないと明日は一日口をきいてやんないからな」
「それは大変だ」
「いつもそう言ってはぐらかすよな」

ふ、とどちらともなく口角がゆるむ。
誘ってきたのはシンタローだというのに毎回毎回そのたびに注文をつける彼がおかしい。可愛い。



「いいか?ちゃんと寝かせろよ」
腕を首に絡ませ、俺を見上げながらシンタローは繰り返す。
痕はつけるな、と怒ったように、いや照れ隠しに肩口へ噛み付きながら言う彼が愛しい。

そんなに言われなくても分かっている。
痕をつけるな、だなんて夜を共にするたびにおまえは言ってるじゃないか
それこそ、叔父貴に言われなくても高松が借金のことを覚えているように。
高松にはぐらかされるのを分かっていても言ってしまうサービスのように。

結果が分かっていても、彼らは、シンタローは何度も言う。


鎖骨にきつく吸いつくとシンタローがきっと睨んだ。
眉根を寄せ、怒っている。
けれども、瞳は濡れている。

体は正直なシンタローに笑いを噛み締めながら、くちづけるとワインの味がかすかに残っていた。



(とりあえず、今日のところはぐっすりと眠らせてやろう。
明日、叔父貴と高松になんともいえない目で見られるのは避けたい。)

あの二人は勘がいい。
シンタローの耳朶に舌を這わすと、彼は身じろいだ。
くすぐったさと僅かな刺激に身をよじり、なにかを懇願するように俺に手を伸ばす。

伸ばされた指にそっと口唇を寄せると安心したように彼はまた首へと腕を回す。
キンタロー、と呼ぶシンタローの額にキスを落とすと彼の黒い目には俺が映っていた。
俺だけが映し出されている。


「キンタロー……?」
じっと濡れた瞳でシンタローは見上げながら俺を呼ぶ。
首に回された腕がぴくりと反応している。

「なんでもない。おまえのことを考えていただけだ」

止めていた愛撫を再開させ、愛しげにキスを落とすと彼の目が細まる。
味わう口唇はワインの味が薄れても甘い。



情欲と愛しさに濡れた瞳は俺だけを映し出している。
甘い視線が俺に注がれている。


夢ではどうだろう。
シンタローの夢でも彼の目には俺が映っているだろうか。
傍らにいるのは俺だろうか。
それとも……。


「キンタロー」

呼ぶ声は甘い。
その声が、視線が向けられるのは夢の中でも俺だろうか。
夢でも俺はシンタローの隣にいたい。


愛している、と囁くとシンタローから掠れた吐息が漏れた。





  
初出:2004/07/10


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