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熱砂の毒
昼はじりじりと肌を焦がすかのような灼熱の日差しが大地へと注いでいたというのに、夜は真逆の世界だった。
ここを訪れた人が日中との差が激しい気温から体調を崩すことも珍しくはない。
ここでは熱いからといっても裸体に近いような格好は出来ない。
布を覆っていないといつのまにか火膨れが出来上がる。
シンタローはいつもの赤い総帥服をきっちりと着たうえにさらにどことなく民族衣装を思わせるようなケープを羽織っていた。

「昼にこの風が吹けばいいのにな」
ぶるり、と身を震わせてシンタローはキンタローを見た。
勧められるままに杯を重ねたというのに、天幕を出ると上昇していたはずの体温から熱が徐々に失われていく。
冷たい風がケープを捲り上げ、砂塵を散らす。細かな砂が髪や顔に当たって痛い。
振り払うようにシンタローが手で砂を払う。
けれども払っても払っても砂は巻き上がるのを止めなかった。

「キリねえな」
ちっと舌打ちをするとキンタローも同意する。
「早いところ戻るべきだな」
足元に気をつけろ、と砂に足をとられるシンタローにキンタローは手を差し出した。

「つかまれ、おまえは少し飲みすぎただろう?」
俺は口を湿らせる程度だったから、とキンタローに言われてシンタローは「平気だ!」と怒鳴った。

「本当か?呂律が少し怪しいぞ」
キンタローの口調は淀みない。
折衝に当たっている中立国といっても油断は出来ない。
酔い潰されて起きたら人質に捕られてはかなわない。
賓客のシンタローが勧められる酒を断るのは角が立つ。だが、元々補佐として赴いているキンタローは別だ。
やんわりと傾けた酒甕を押し返してシンタローの周りに目を配っていた。

「だから、平気だッ……!う、わっ」

巻き上がって落ちた砂が地面の上で窪みをいつの間にか作っていた。
ブーツの溝にも砂が入り込んでいて滑り止めにはならず、易々と足を捕られる。
傾いだ体を足に力を入れて踏みとどまろうにも、アルコールを含んだ体は言うことを聞いてくれない。
つんのめって砂の上に尻餅を付いたシンタローにキンタローはため息を吐いた。

「ごちゃごちゃ言っていないでとっととつかまれ」
差し出された手にシンタローは眉を顰めた。
だが、反論する余地はすでにない。酒で重い体を立ち上げて、手を重ねる。
自分の体が熱い所為なのか、キンタローの体温がいつもよりも低く感じられた。気持ちがよい。

「飛空艦まであと少しだから、しばらく口を閉じておけ」

繋いだ手をひかれて、砂の道を2人で歩いてゆく。
目を凝らせば砂風の少し先に目印の篝火が見えた。



*



夜勤の団員を労った後、2人は飛空艦の奥へと進んだ。
白い床に砂が二人が通ったことを示すかのようにこぼれ落ちていく。
素面のときならば、じゃあな、と素直に別れて互いの部屋へ引っ込むけれども、キンタローは繋いだ手をそのままにしていた。
夜勤の団員が訝しげに見た後、眼を逸らしていたのも聞こし召しているシンタローの注意は引かなかった。
繋いだ手を寄せて、指紋認証を解除させる。
サッと開いた扉をくぐると照明が自動的に点く。

「風呂は止めておけ」

ばさばさと体についた砂を落とすシンタローにキンタローは忠告した。

「それから、もう遅い。砂を落としたら掃除なんかせずにとっとと寝ろ」
「分かってる」

明日も仕事だからだろ、とうんざりした口調でシンタローは答えた。
体を酷使する戦闘ならばともかく、腹を探りあいながらの交渉は気疲れする。

「なあ、髪についてるの払うの手伝えよ」
なんかジャリジャリする気がする、とシンタローが口にするとキンタローは指を伸ばした。
風が強い中を歩いてきたとはいえ、そんなに砂まみれになっていないはずだ。
それでも、耳の横の辺りを指で軽く払うと砂がこぼれるのが目に入る。

「だ――ッ!髪洗いてぇ!!」
「朝にしろ。酒が入ってるんだ」

下を向いて髪をガシガシと掻き混ぜる、シンタローから指を離してキンタローは素っ気無く告げた。
しばらく、髪を弄くりまわして気が済んだのか、乱れた髪のシンタローは顔を上げた。

「服を脱いだらとっとと寝ろ。気分が悪くなったら俺を呼んでくれ」
動くのも億劫なほどではないようだ、とシンタローの状態を判断してキンタローは自室へと引っ込もうとする。
けれども、ケープも取らずにシンタローが片目をしきりに擦る様子を見て引き返す足を止めた。

「シンタロー?」
どうした、とキンタローが尋ねる。

「目に砂が入った」
ちくしょう、と擦り落とそうとするシンタローにキンタローは手を伸ばしてその動作を止めさせた。

「擦ると傷がつく。洗った方がいい」
掴んだ手にシンタローは目を何度か瞬かせてキンタローを見た。

「ンなこと言ったってジャリジャリするんだよ!」

下瞼を軽く押さえてシンタローが訴える。けれども、キンタローは宥めたり、洗面所へと誘導する手段はとらなかった。

「見せてみろ」
「え、おい!ちょ……待てよッ、キンタロッ」

掴んだままの手はそのままにキンタローはシンタローを抱き寄せた。
抱きしめると従兄弟が口にした酒の香りが鼻を擽って、酔ったときの酩酊感を思い出させる。
甘い香りの南国の酒を思い出しながら、キンタローは目を細めてシンタローの顎に手をかけた。

「動くな」
砂があるのか見えない、と囁いて、顎を掴んだ手の人差し指をを少しだけ上に向ける。
視線を少し下に向けるとキンタローの爪が見えて、シンタローは体を強張らせた。

「指で取るなよ!」
「取らない」
指では、擦っていたおまえと同じだろう。
傷つくじゃないか、と何を言っているんだとでも言いたげなキンタローに返されてシンタローは戸惑った。

「大人しくしていろ」
すぐ済むから、と目元にキスをされてシンタローは困惑を浮かべる。
変わらず、目の中に不快感を感じていたがキスをする口唇から舌が指し伸ばされてようやくシンタローは目の前の従兄弟の意図を悟った。







指や体を這うように舐められるのよりもずっとセクシャルな行為だとぼんやりとした頭でシンタローは考えた。
瞼を舐められたかと思うと、いつの間にかベッドへと押し倒されて眼球を舐められている。
ぬるりとした舌が眼に潤いを与え、少しの傷もつかぬように繊細に這うのが不思議と心地よい。
プールで長時間泳いだときのような感覚が眼に生じているのに、体がじんわりと熱を帯びていくのを感じていた。

「……取れた、な」

熱い息が瞼にかかる。
泣いてもいないのに睫の端に水滴が見えて、それがなんなのか思い当たったシンタローはびくっと体を動かした。
圧し掛かるキンタローから逃れたくて、そっと体をずらすとキンタローはにやりと笑った。

「感じたのか、シンタロー」

しきりに言われる亡き叔父譲りだという口元に揶揄されてシンタローは顔を背けた。
それでも事態が変わるわけではない。
体をベッドに繋ぎとめられている状態でどう逃げようか思案していると掴んでいたままの手をキンタローが引き寄せた。

「他に砂がついていないか確認してやるよ」

手の甲に軽いキスが落とされる。
軽く止めてあるだけのケープが剥ぎ取られて床に払い落ち切れなかった砂がこぼれた。
押し退けようにも、再び、キンタローに目元を舐め上げられてシンタローは抵抗する気力を失った。








体を揺する動きで苦痛が起きているわけがないというのに、シンタローが涙を流す。
辛いわけでも、キンタローに抱かれることを拒否しているわけでもないのに絶え間なく泣く彼にキンタローはそっと口唇を寄せた。
これだけ涙を流せば砂などとうに流れている。
舐めた涙は少しだけしょっぱくて、それなのにきれぎれに上げられる声を聞くと甘く感じた。
掬い取った髪の房にくちづけするとシンタローが身じろぐ。
自分の髪が肌を掠る感触にいやいやをするかのように首を振った彼にキンタローは愛しさを感じていた。

深くくちづければ微かに酒の香りが蘇る。
とうにアルコールなど彼の体に吸収されつくしてしまっているというのにキンタローはそれだけで酔い痴れる感じがした。

シンタローからは喉を焼くような酒を思い出す。
シンタローの涙はしょっぱくて、でも声は酷く甘い。
甘さも苦さも何もない爪も髪もじんわりとキンタローの心を侵食していく。


まるで毒のようだ。
知らぬ間に囚われ、いつのまにか中毒になっていく彼の毒をもっと味わいたくてキンタローはシンタローの肩に齧りつく。
甘さを含んだ呻き声を上げるシンタローのすべてを喰らい尽くそうとキンタローは熱い舌をシンタローの口腔に捻じ込んだ。


床には2人分のケープと服が散らばっている。
2人の熱が宿った砂粒がシーツからそこへとこぼれ落ちたけれども熱に浮かされた彼らは気づかなかった。





  
初出:2005/10/08


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