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kt



オトナコドモ
それをシンタローに見せてみると彼はなんともいえない表情を浮かべた。

「コレ、俺も持つのかよ」
「使い方は市販のものと同じだ。ただこれならば、電波を他の組織に傍受されにくいから今後支給していくつもりだ」
「ふうん」

とりあえず一族の者には渡してある、と言うとシンタローは素直に受け取った。

「まだ一般団員に支給してないんじゃ説明書ないだろ?使い方教えてくれよな」
「ああ」

俺はごく普通を装ってに返事をした。
本来なら製作段階でもマニュアルくらい作れる。だが、説明書を作らないのはわざとだった。
そんなもの作って渡せば従兄弟は俺を頼らないで勝手に使い始めるだろう。
せっかく俺が作ったのにそれでは寂しい。
グンマの作るファンシーな発明品でなくごく普通の市販製品と似ている俺の発明品が認可されたのだ。
他の一族の人間、伯父はグンマに聞くだろうし、遠く離れた戦地にいる叔父たちにはきちんと取り扱い説明書を郵送してある。

ただ、シンタローだけは俺に聞いてほしかった。

「なんかあったらこっちに連絡来るんだな。まあ、今日はなんもねえよな」
番号変えたの教えねえと、とシンタローは呟いた。
もちろん、あとで団員同士のメールの使い方もちゃんと教える、と言うとシンタローは軍服のポケットへと携帯電話を仕舞った。


「じゃあ、仕事終わったらおまえの部屋行くから」
俺が作ったんだからおまえが片付けとけよ、と笑いながら従兄弟が立ち上がった。
ああ、と了承してシャツを腕まくりするとシンタローが手招きした。

「いってらっしゃいのキスくらいしろよ」

からかい混じりの口調でねだった従兄弟に軽いキスを落とすとシンタローは満足そうに出て行った。



従兄弟を見送ってから、片付けに取り掛かろうとテーブルへと俺は戻った。
テーブルの上には朝だというのに食器が幾枚も出ている。
俺が一人で適当にすます朝食ならばせいぜいがトーストとコーヒーだけで皿とカップ各1つで済んでいた。
けれども、今日はシンタローが作ってくれた朝からバランスの取れた食事だったおかげで洗う量が多い。


(片付けて俺も早く出勤しないとな……)


シンクへと運び、スポンジを手に取る。
手早く済まそうと皿を擦り始めると見慣れぬ皿に気づいた。





***





ドアを開けると室内から香ばしい香りがした。
ジャケットを脱いで、キッチンへと足を向けると案の定シンタローが鍋を振るっている。

「お~。おかえり。メシはもうすぐできるからな」

今夜は中華だぞ、とシンタローは言った。
従兄弟の作る料理はうまい。今日は朝だけでなく2食も楽しめるのか、と思うと気分がよかった。



さっき脱いだジャケットをハンガーにかけて、ネクタイも解く。
カレンダーに予定を追加していると「できたぞ~」という声が届いた。
ペンを置き、キッチンへと向かう。
テーブルにはほこほこの湯気を立てた料理が並んでいた。
エプロンをたたみながらシンタローは「朝と同じで片付けはおまえだからな」と言うのを忘れなかった。




ひとしきり料理に舌鼓を打ち、食後のお茶で喉をさっぱりさせるとシンタローが立ち上がった。
片付けは俺なんだろう、と湯飲みを置いて声をかけると「朝と違って時間があるからな。洗うのはおまえがやれよ。俺が拭いていくから」と提案する。
ご馳走様、うまかった、と言って皿を運ぶとシンタローは喜んだ。



「その皿で終わりかよ?」
「ああ」

泡まみれのシンクと一緒に一番大きい皿を湯で流す。軽く水を切ってシンタローに渡すと従兄弟が不審そうな視線を上に向けた。

「どうした、シンタロー」
手を洗いながら、振り返るとシンタローは水切り台を指をさした。

「あの皿も仕舞うだろ」
よく使うんなら出しっぱなしでもいいけど、と言ったシンタローにそれがなんなのか思い当たる。

「いや。別に使わない」

もともと俺の部屋には、伯父とシンタローが使うキッチンと違ってたいして食器もない。
彼らに返しそびれた皿やなにかで貰った皿が処分されずに適当に置いてあるだけだ。
私室に備え付けた簡易キッチンという意識でしかない。
朝を除けば、ここで料理することなど限られている。

「はあ?それじゃ仕舞っとけよ」

そうは言われても、と俺は思った。
食器棚のスペースはもちろん開いている。
しかし、この皿は従兄弟が今朝出してくるまでどこに仕舞ってあったのかさっぱり見当がつかなかった。


「……仕舞う場所が分からないんだ」

皿をシンタローに渡すと彼は呆れたような目で俺を見た。





「おまえってさあ」
シンタローはテレビのリモコンを弄りながら俺に目を向ける。

「ホント、普段無頓着な生活してるよな」
「そんなことはないと思うが」

「いいや。絶対、そうだな!だって、あの皿だけじゃなくていつもちゃんと料理していたら置く場所覚えてるはずだぞ。
さっきカップ仕舞ってたらワイングラスのところにスープカップが置いてあったし、今朝、適当に入れただろ」

「……」

あれであっていると思ったのだが、違っていたのか。

「まあ、べつに皿の置き方くらいどうでもいいんだけどよ」

まあ、そうだな、と俺は思った。


「おまえが帰ってくる前に叔父さんから電話があったんだけど」

だけど、と打ち切るとシンタローはリモコンを置いた。
ぷちっとテレビが消える音が響く。

叔父さん、と従兄弟が呼ぶのはサービス叔父のことだ。

「おまえ、叔父さんには携帯の説明書送ったんだってな!」
ちゃんと作ったんじゃねえかよ、とシンタローは怒りながら言った。

「作ってないとは言っていない」

はあ?とシンタローが大きい声を上げた。

「おまえ、俺がないだろって聞いたらああって言ったじゃねえかよ」
「その”ああ”は使い方を教えろに対してだ」

「……キンタロー」

従兄弟が俺を見ながらため息をついた。

「あのなあ……ああ、もういい。なんで、俺には説明書くれなかったんだよ」
はあ、と額に手を当ててシンタローは言った。

「そんなのは簡単なことだ。説明書を渡したら俺と一緒にいてくれないだろう」
おまえのことだから夢中になって携帯を弄っていたはずだ、と言う。
せっかく俺の作ったものだから、俺に聞いてくれてもいいだろうとも言うとシンタローがため息を大きく吐いた。


「おまえ、なんつーか」
シンタローは呆れた顔で俺を見る。


「子どもだよな」
「そんなことはない。俺は大人だ」

言い返すと、シンタローはどこがだよと呟いた。


「やっぱ高松が甘やかしてたからかな」
「……」
グンマといいあいつの育て方間違ってるぜ、とシンタローは呟いた。
だが、それは違うと高松を庇うことはできなかった。

従兄弟とこうなる前、まだ日常生活に慣れていない頃、高松は俺の世話を焼いてくれていた。
箸より重いものは持ったことがない、というには語弊があるがたしかに高松の行動は至れり尽くせりだった。
それはシンタローに対して過保護な伯父を凌ぐほどのものである。

俺は確かに高松に甘やかされていたというべきだろう。だが。

それとこれとは別の話だ、と思うとシンタローが諭すように口を開いた。

「ったく。なんでもおまえの思うとおりにしてたら駄目なんだからな」
「そんなことはあたりまえだ」

あ~、と言いながらシンタローは髪をがしがしと掻き回した。

「そうじゃなくてな~!あ~も~!だから公私混同するなってことだよ!説明書渡さないんなら他のヤツにもそうしろ!」
「おまえ以外にやってどうするんだ」
「だから……ああ。ちくしょう」

シンタローが舌打ちをして俺を見た。

「今度からはちゃんと俺にも説明書よこせ。分かんなかったらどうせおまえに聞くけど、叔父さんに『キンタローに意地悪されたのか?』
とか言われて恥かいたんだぞ!」

「叔父貴に?そうか。分かった」
しまった、口どめしておけばよかった、と顔に出すとシンタローにすぐさま小突かれる。

「いいか。よく聞けよ。俺は結局おまえと一緒にいるんだからな。こういう子どもっぽいことはやめろよな!」

分かった分かった、と打ち切る。子どもっぽいと揶揄されたことには文句があったが黙っておいた。
すると、「そういう態度が子どもっぽいんだよ」と言われた。

がしゃがしゃと俺の髪を撫でてシンタローが額にキスを落とす。

「キンタロー」
「……悪かった。これからは気をつける」
「……ならもういい」

ったく。朝もちゃんと食うんだぞ、と食事のことを蒸し返してシンタローが口を尖らせた。

「本当、おまえも親父もグンマも子どもで困るよ」
俺の周りは何でみんなこうなんだか、とシンタローは言った。
あの2人と一緒にするな、とムッとしてシンタローにかじりつくと従兄弟が嫌がって身を捩った。

「うわ!やめろよっ。そういうのが子どもっぽいところなんだぞ」
「うるさい」

他のヤツのことは考えるな、と囁くと「家族だろ」と言われる。
家族でも、納得できないのだ。せっかくの二人きりの時間なのだから。
ソファから逃げ出そうとするシンタローにじゃれながら、抱きしめようとすると腕からするりと逃げられた。
それでも、なんとか隙を突いて彼の膝に頭を乗せて寝そべるとソファが軋んだ音を立てた。


「膝枕……っておまえなあ」
さっきまで俺は怒ってたんだぞ、とシンタローが呆れた声で言う。
そんなことは分かっている、と見上げるとシンタローが眉を顰めた。


「子どもなんだろう、俺は。膝枕させろ」
「なんでそういう逆手に取った行動するんだよ」

言わなきゃよかったとシンタローがため息をついた。
逃げようとしている腰を抱きかかえるように押さえ込むとシンタローが俺の額をつついた。

「やめろよ。重いぞ」
「いやだ」

膝枕くらいしてくれ、と我侭を言う。しばらくシンタローはぶつぶつと文句をいっていたが諦めてくれた。


「俺は子どもなんだからおまえに甘えたっていいだろう」

従兄弟の膝の上から見上げると彼はソファに肘をついて一言、
「馬ー鹿、こんなデカイ子どもなんていらねえよ」。第一、俺だっておまえに甘えたいんだからな
と笑った。


それから俺の髪をかき上げてシンタローは悪戯めいた笑みを浮かべる。



「それに子どもと違っておまえは添い寝じゃすまねえからな」
それとも今日は添い寝だけでいいのか?と笑いながら尋ねてきたシンタローに俺は仕方なく膝枕の続行を諦めた。

ソファに座りなおすと、シンタローがおかしそうに笑う。

「キンタロー、おまえやっぱ子どもだな」
「うるさい」

キスで従兄弟の口を封じるとシンタローが片目を瞑った。
ソファの上にゆっくりと押し倒すと彼が笑いながら俺の背に腕を回す。

「子どもの時間は終わり、だな」
ひそやかに笑うシンタローが小憎らしくて黙らせようと耳朶を噛む。すると俺の背に爪がぎゅっと立てられた。
それでも「子どもっぽいおまえも好きだぜ」と従兄弟は吐息混じりに笑う。

「シンタロー」
顎を捉えると、シンタローの黒い目が揺れた。目じりにくちづけを落とし、口腔への進入を試みる。
こうすれば、もう彼の口から余計な言葉は吐かれない。


震える睫から揺らめく瞳や背に立てられる爪の痛みが俺を刺激する。
それでも合わさる視線は艶めいているというよりもの言いたげな悪戯めいたひかりを宿らせていた。



「シンタロー」

離した口唇をかき上げた従兄弟の髪に落とす。それから肌蹴させたシャツから露になった鎖骨に噛み付くと彼はあえかな喘ぎを漏らした。
長いキスで封じこめて今度こそようやくくぐもったため息だけが吐かれるようになったシンタローにこっそりと笑みをこぼす。

子どもと揶揄されても、それでも俺はシンタローと一緒にいたい。

頬にめぐらせた指をシンタローに噛まれて俺は微かな痛みを感じた。
艶めいた笑みを口元に浮かべ、ぺろりと指を舐めるシンタローに「好きだ」と囁くと彼は片目を瞑った。
それは俺の行動を笑うような仕草だった先程のものとは違う。


艶めいた色を帯びた眼差しに煽られ、圧し掛かるとシンタローが呻いた。
従兄弟の言うとおり、子どもの時間はもう終わりだ。
脱がしたズボンからするりと露になった膝にキスを落とす。


膝枕はまた今度でいい。
子どもだと言いながらもシンタローはいつだって俺を甘やかせてくれるのだから。





  
初出:2004/12/15

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