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向日葵












 彼は太陽だ。
 組織という世界の中心にあり、その力強い輝きでそこに生きるすべての者を率いている。
 いつでも、どこでも、誰もが彼を見つめてる。
 誰のものでもない彼。
 彼は、彼を想う皆のものだから、独占は許されない。
 だから自分たちは、彼が遙か高く天を駆けぬける姿を首を伸ばして見つめることしかできないのだ。

 だって、太陽を独り占めになんてできるわけはないだろう?
















「Cポイントの調査報告を見ろ、兵の数から考えればその案は無駄としか言いようがない。」
 グンマは顔の前に翳した報告書の隙間から、従兄弟の秀麗な面に苛立ちが滲んでいるのを見る。
「へえ、無駄かどうかなんて、あんさんにわかるんどすか?」
 こちらもやはり相当の美形である青年が、彼を軽んじている様子を隠そうともせずに鼻で笑う。
 もちろん、それにキンタローが気づかないはずもなく、びしりとこめかみがひきつったのを確認したグンマは亀の子よろしく再び報告書の後ろに顔を隠した。
 どうやら、テーブルについている他のメンバーも顔には出さないものの心中はグンマと似たり寄ったりらしい。
 誰一人として意見はおろか質問すら口にしないのだから。
 
(シンちゃ~ん、早く来てよぉぉ。けっこうキツイんですけど……。)

 今回自分の発明した装置を使うということで、オブザーバーという名目までつけて、普段出席しない作戦会議にグンマがのこのこ出てきたのには理由がある。
 この新しい従兄弟の補佐官として初めての単独の会議だったからだ。
 今までも、こういう場に出席して意見を述べることはあったが、基本的にシンタローと共に出席し、彼のアシストという形だった。
 だが、今回はスケジュールの都合でシンタローは遅れて出席することになっている。もしかしたら、終わるくらいの頃になるかもしれない。
 だから、キンタローが彼独自の考えを提示するというのは、初めてなのだ。
 そういうことで、グンマはシンタローに言わせれば野次馬根性、本人にしてみれば兄的な気持ちで彼の人生の第一歩を見守りに来たわけだった。
 ―――――そのつもりだったのだ。
 それが狂いだしたのは集められた団員が顔を合わせた瞬間からだ。
「何故、おまえがこの席にいるんだ?」
 開口一番、そんな言葉を投げつけられた男は余裕の態度で答えた。
「仕事どす。」
 そりゃそうだろう、会議を見物に来たりするような人はいないもんね、とグンマは己のことを棚にあげて暢気にそんなことを考えていたが、キンタローの方はというとアラシヤマの答えは充分カンに触ったようだ。
「仕事? おまえもこの作戦に参加するのか。シンタローがよく承知したものだ。」
「わての実力はあの方が一番ご存じですさかい。」
 ふっと彼が笑ったその時、グンマは確かに従兄弟の血管がぶちっと切れる音を聞いた気がする。
 傍目には、眉一つ動かさなかったけれど。

 そもそも、友達だ戦友だと何かと従兄弟にまとわりつくこの男を、キンタローが嫌っているのはグンマも知っている。
 自分はあまり彼と接触が無かったから彼とシンタローの間に何があったのか、よくは知らない。
 けれど、記憶を共有しているキンタローなら、いろいろと許せない出来事があったのだろう。
 帰ろうかなー、とグンマが逃げ道を探してきょろきょろした時には全員着席してしまっていて、「ちょっとトイレに」など言い出せる雰囲気ではなかったのだ。

 


 ――――――そういうわけで、今に至る。

「それは机上の空論というものどす。これだから実戦に出たことの無いお人は困りますわ。」
「ほう、なんなら今から手合わせしてやろうか?」
「わてが言っているのは、あんさんの戦闘力ではなく、もっと根本的なことどすわ。」 
 会議はいっそう白熱し……おもに、二人の間だけでだったが……、一人、また一人と胃のあたりをさする人間が増えていった。
 ちらり、ちらりと視線が自分に集まってくるのを感じたグンマは、やれやれと重い腰をあげた。
 確かに、シンタローがいない今、この二人の間に入ることのできる人間は自分だけだろう。
 いやいやながら、挙手をすると、二人が一斉にこちらを見た。
「まぁまぁ、二人ともの意見はみんなすっっっごくよくわかったみたいだしー。そろそろどうするか結論を出した方がいいんじゃないかナー……って。」
 どんどん言葉が尻つぼみになっていくグンマに、横に座っていたキンタローは頷いた。
「確かに、どこかのバカが己の無能さを恥じて作戦をひっこめればすぐに決着がつくのだがな。」
 アラシヤマも同意見だった。ただし、主語が違うが。
「そうどすえ、どこやらの副官の方が自分の未熟さを自覚してくれればすむ話どすわ。」
 瞬時にぶつかりあった視線で火花が散ったように見えたのは、自分だけじゃない。
 グンマはだらだらと脂汗を流した。
 怖かったのは、絶対自分だけじゃない。
 咄嗟にこう口走ってしまったのも仕方のないことだ。そうなんだ。

「しっシンちゃんに、総帥に決めてもらえばいいんじゃない?」

「シンタローに?」
「シンタローはんに?」
 二人は同時に繰り返したが、お互いが彼の名前を口にしたことに腹がたつらしく、やはりにらみ合う。

 やっぱりシンちゃんは迷惑タラシ以外の何者でもない、と再確認したグンマは携帯を手にあわてて部屋を飛び出した。
 総帥室でたまっていた仕事を片づけていると聞いているが、責任くらいはとってもらわなければ割にあわない。
 登録してある総帥室の直通番号にかけると意外にもあっさりと本人が出たので、グンマは噛みつくように「責任とってよ!」と怒鳴った。
「ああ?」
 機嫌の悪そうな声に、ひるんだものの、現在扉の向こうで繰り広げられているバトルを収束できるのは彼しかいない。
 ここはなんとしてでも呼び出さなくては。
「アラシヤマもキンちゃんもどっちもひかなくて、すごいことになってるんだよお~。もともと、あの二人を一緒にしたのはシンちゃんなんだし、お願いだから来てよ。ねっ。」 グンマがまくしたてる間、シンタローはしばらく黙っていたが、やがてため息をつきつつ了承した。
「わかった……じゃあ、20分くらいしたらそっちに行く。それまでは休憩でもして二人の頭をクールダウンさせておけ。」
「ほんと? ほんとに来てくれるんだよね? 絶対だよ? ありがとうっ! じゃあねっ!」
 やっぱりやめたと言い出されるうちに『切』ボタンを押すグンマだった。






 意気揚々と部屋に戻り、皆に先程のシンタローの言葉を伝える。
「シンちゃん20分くらいしたら来るから、それまで休んどけってー。」
 すると、団員達は一様に立ち上がり部屋を駆け出ていった。どうやら胃薬をとりにいくらしい。
 そして驚いたことにキンタローまでその後に続いてどこかへ行こうとしたので、グンマは慌てて呼び止めた。
「どうしたの? キンちゃん。」
「何かほかに資料がないか見てくる。シンタローが来るまでには戻るから。」
「20分しかないんだよ?」
 キンタローはグンマを見下ろし、肩をいくぶんそびやかしてみせた。
「20分もあるんだ。」
「…………そうですか。」
 キンタローが勢いよく靴の音を響かせて出ていった後は、グンマとアラシヤマの二人っきりになってしまった。
 グンマはぱらぱらと手持ちの書類をめくっているアラシヤマを横目で見る。
「あのさぁ……あんまりボクの従兄弟苛めないでくれる?」
 アラシヤマは興味なさそうにグンマの抗議を受け流している、目を上げることすらしない。
「苛めるなんて心外どす。シンタローはんの副官と名乗ってはる以上、ちゃんとやってもらわなあかんからゆうとるだけどすわ。」
「なら言い方ってもんがあるんじゃない? どう見たってキンちゃんに嫌がらせしてるようにしか見えないけど。」
 いちいち揚げ足をとり、キンタローがむっとした顔をするたび、冷笑を浮かべる。これが意地悪じゃなくてなんなんだ、とグンマは思った。
「ああ、そうどすな。わてはキンタローが好きやあらしまへん。あんさんのこともな。」
 しれっとアラシヤマは言い切った。
「半人前があたりまえの顔をしてシンタローはんの側におるのを見るとなんやむかむかしますわ。」
 半人前のくくりに自分も入れられていたことは少々ショックだが、アラシヤマの気持ちもわからないではない。
 なんだかんだ言っても、シンタローは身内には甘い。彼を慕う者にしてみれば無条件で彼に受け入れられている存在の自分たちはおもしろくないだろう。
「しょうがないじゃない。従兄弟なんだし……。」
 反論しかけたグンマにアラシヤマは視線だけをそっちに向けた。
 唇がくっとつり上がり、笑みの形をとる。

「血もつながってないくせに。」

 すっと自分の顔から血がひくのを感じた。
 思ってもみないほど低い声が自分の喉の奥からもれる。
 
「……もう一度言ったら殺すよ。」

 アラシヤマは鼻先で笑い飛ばしたが、それなりのダメージを自分に与えたことに満足したのかそれ以上は何も言わなかった。
















 予告通り、会議は10分過ぎに再開された。
 シンタローを挟んで、二人の議論は再び白熱の様相を呈しだす。
「このパネルを見てくれ。ここ数年のA国の銃器の購入記録だ。この種類から見て、彼らが地形を利用とした遠隔攻撃に頼っていることがわかる。」
 キンタローは『10分』を有効に使ったらしく、先程より詳細なデーターと資料を皆の前で提示し、彼の組み立てた作戦を論理的に説明した。
「それを利用すればガンマ団の損害を15%程度に押さえることができる。つまりこのB地点にグンマの作った装置をしかければ、彼らのエネルギーのラインはとぎれ、さらにそこを叩けば一気に戦局がこちらに有利に傾くはずだ。」
 これが初めてとは思えないキンタローの緻密な作戦に、団員達の口から次々感嘆の声がもれる。
 ガンマ団の象徴の青の一族の直系であることを差し引いても、キンタローという男の傑出ぶりは際だっていた。
 団員達の賞賛の眼差しを我がことのように誇らしく思いながら、グンマはふとシンタローを見て何かひっかかるものを感じた。
 別に表情は変わっていない。
 けれど、生まれたときからのつきあいだ。なんとはなしにぴんとくるものがある。
 グンマはほったらかしていた資料を手元に寄せばらばらとめくってみた。普段研究室に閉じこもっている自分には縁のないグラフやデーターばかりだが、なんどか解読はできる。
「わては賛成できまへんな。CとDの間を狙うべきやないどすか?」
 キンタローはむっとしたように、軽くパネルを叩いた。
「おまえは俺の話を聞いてなかったのか? CとD地点では供給の見地から考えるとロスが多すぎる。これを見ろ。」
 アラシヤマは動揺することなく、キンタローが示す資料をちらりと見て、そうどすな、と答えた。
「ロスは多いですけど、わてはこの案を推します。キンタローはんはその案でよろしおすな? よう考えましたか?」
「もちろんだ。時間、人員、機能性すべてを配慮してこれを立案した。」
 グンマの手が止まる。
 キンタローが攻撃ポイントと主張している場所の地図だ。
 ついでのように土質などがメモされているのだが、その標本を高松の研究室で見たことがある。確か粒子が細かくて密着しているが、振動が長く続くと一気に崩れる。
 それも攻撃にはプラスだよねぇ……と、考え込んだグンマだったが、もう一度地図を見てやっとアラシヤマの余裕の理由に気が付く。
(うっわーーー。そーゆーことかよ。)
 しかも、わざわざ念押しまでして、とグンマはアラシヤマを睨みつける。
(ほんっっと……………性格悪い。)
 しかし、時はすでに遅く、グンマはキンタローにそれを告げる機会を逸してしまった。
 アラシヤマが中央に座しているシンタローに、話を向けてしまったのだ。
「このままやったら埒があきまへんわ。総帥のご判断にお任せしまへんか?」
 キンタローは望むところだといわんばかりに、シンタローを見る。
「俺は構わない。シンタロー、どちらの作戦をとる?」
 シンタローは全員の注目を浴びて、ゆっくりと椅子に身を起こした。
 その何気ない所作にその場にいた者達は一人残らず釘付けになっている。マジックもそうだが、シンタローにはいわゆる王者の風格というものがある。
 まだ、年若い分、完成しきってない威厳だが、それがよけいに人を惹きつけるのだ。
 確かにこれは争いの種になるかも、とグンマは改めてそう認識してしまった。
 この輝かしい人の視線を一瞬でも自分に向けてもらいたい、と願う人間はこれからも増えていくだろう。
 ついでに今目の前でおこっているような場面も役者を変えて何度も演じられる。    彼が彼である限り。



「俺は―――。」

 彼が口を開き、皆固唾をのんで総帥の選択を待った。

「俺は――アラシヤマの案をとる――。」

 キンタローは一瞬凍り付いたようになったが、すぐに猛然と抗議する。
「何故だ? 計算値も、配分も完璧だ。おまえが望む以上の戦果が得られるはずだ。」
 何故、自分じゃなくアラシヤマを選ぶんだ、と言う怒りを滲ませるキンタローを宥めようとグンマが口を挟みかけた時、アラシヤマの鋭い声がとんだ。
「ええかげんにしなはれや。わては何度も聞きましたやろ。ほんまにええんどすかって。」
 アラシヤマは先程グンマが見つけた地図を取り出し、キンタローの前にずっと差し出した。
「確かにあんさんの出した案は合理的で、ようでけたもんでしたわ。けどなぁ――その案をつこうたら最後、ぎょうさん人が死にまっせ。」
 キンタローは今更ながらにその地図を見る。
 地形的にも地質的にもこちらに有利な場所だった。しかし、その延長線上に決して小さくはない町があることにキンタローは今の今まで気づかなかったのである。 
 いや、存在を知ってはいた。
 彼が失念していたのは、現在のガンマ団が掲げる「民間人を殺さない」というその主義だったのである。
 もし、キンタローが立案した攻撃方法を使えば、直接攻撃を受けるわけではないその町は地形的に土砂崩れに巻き込まれる。
 そこに至る配慮が決定的に欠けていたのだ。
「わかりはったようですな」
 ガンマ団ナンバー2の男は、キンタローの顔色から彼が理解したことを確認し、すぐに平坦な口調に戻った。
「それでは、この案でよろしおすな。みなさんも。」

 反対する者はもう誰もいなかった。

















 全員が去った後の会議室に残ったグンマは黙々と後かたづけをしているキンタローにおずおずと声をかけた。
「キンちゃん、あんまり気にすること無いからね。」
 キンタローはやはり無言だ。
 父親譲りらしい明晰な頭脳の持ち主のキンタローは、帰還して以来間違いらしい間違いを殆どしたことがない。
 キンちゃんってすごいなー、とグンマは単純にそう思っていたのだが、反対にそれがまずかったのかもしれないと今更ながらに思った。
 挫折を味わったことが無いキンタローがよりにもよってこの場で初めての失態を演じることになるとは。
 しかも、相手はアラシヤマ、そしてシンタローの目の前で。
 いつかは通らなければならない道と高松あたりは言うだろうが、それにしてもついていない。
「失敗なんて最初は誰でもするんだよ。ボクだって、ロボット作り出した時は失敗作ばかりで……。」
「グンマ。」
 キンタローは従兄弟の話を遮った。
「この前壊れたガンボットは通算何体目だった?」
「260……273体目だったっけ。忘れちゃった。」
 えへへ、と明るく笑った後でグンマは「で、それが?」と不思議そうに問い返した。
「…………………いや、別に。」
 キンタローは特にコメントは差し控えた。
「じゃあ、ボク、用があるから行くね? ほんとに大丈夫?」
 グンマに心配そうに確かめられ、キンタローは頷いた。
「ああ、気にしていない。」
 従兄弟はほっとしたように笑顔を浮かべ、それじゃあ、と手を振って急いで会議室を出ていった。
 本当にぎりぎりだったらしい。
 グンマにもよけいな気をつかわせていたということか。
 キンタローは自嘲して椅子にどっかり座り込んだ。
 何が悔しいって、アラシヤマに負けたとかそういうレベルの問題じゃなく、シンタローの決めた方針をあっさり忘れ去った自分の至らなさに腹が立つ。
 生まれて一年も経っていない自分には、決定的に経験が足りないのは自覚している。だからそれを補うべく、あれこれ資料を読んだり、シンタローの中にいるとき見聞きした事柄を反芻したり、と努力は怠らなかったつもりだ。
 どうしても埋められない差、なんて言葉に甘えたくない。
 彼の側にいたい。彼をたすけたい。
 そう、決めたのだから。
 悔しい。
 胸の中が暗く焦げ付きそうなもどかしさにキンタローは宙を睨み付けていた。
 どれくらいそうしていたのだろうか、キンタローが我に返ったのは扉を開く音だった。
 てっきりグンマが戻ってきたのかと振り向いたキンタローは、そこに片割れの姿を見つけ驚いた。
「シンタロー。」
「よう。」
 大股で歩み寄ってきて隣の椅子に腰をかけるシンタローは普段通りの表情だった。
「………おまえにも心配をかけたということか。」
 今度こそ決定的なまでに落ち込んでキンタローは、ため息をついた。
 よりにもよって本人に気を遣わせるなど、副官としてあるまじき失態だ。
 シンタローは前を向いたまま素っ気なくキンタローに告げる。
「さっきは悪かった、とは言わねぇぞ。俺は指揮官としてあっちを選んだんだから。」
「そんなことは分かってる。だいたい、おまえが慰めに来るというのもおかしい。」
 キンタローの答えに、シンタローは、はっ、と笑った。
「誰が慰めに来たっつった? てめぇに仕事させるために来たんだよ。」
「仕事? なんだ? 昨日の書類なら執務室に届けてあるぞ。」
 ちげーよ、とシンタローはぶっきらぼうに否定した。
「おい、キンタロー、そのままで動くなよ?」
 そう命令されたかと思うと、キンタローの肩に柔らかい重みがのしかかった。
「今日は疲れた。肩を貸せ。」
「…………仕事なのか? これは。」
「総帥を助けるのは、補佐官の仕事だろ?」
 頭をキンタローの肩に乗せ、シンタローはそう断じた。
「あのな、キンタロー。急ぎすぎるな、とは俺にも言えない。自分の速度なんてもんは自分ではわかんねーもんだし。」
 シンタロー自身にも身に覚えのあることだろう。いや、現在がまさしくそうだ。
 だから、キンタローは少しでも彼を助けたかった。一人で重荷を背負わせ、孤独に戦わせるのはもういやだったのだ。
 それでも、全然うまくいかない。
 同じだけの速度で走っているつもりでも、相手はずっと前から走っているのだから全然追いつけない。
 「アキレスと亀」という論理を数学の教本で読んだことがある。
 平たく言えば、亀に遅れて出発した勇者アキレスは永遠に亀に追いつけないという話だ。
 この有名なパラドックスを数学的に解く方法は現在でも、『より近い回答』しかないそうだ。
 現実にはそうでないことをキンタローも知ってはいるが、それでも今はこの設問が真実であるかのような気になってしまう。
 自分が一歩進んでもシンタローもその間に確実に進んでいる
 いつまで経っても自分は彼と並ぶことのできる人間になれないのかと不安になるのだ。
「……俺はおまえの側にいる価値のある人間に早くなりたいんだ。」
 シンタローはキンタローの肩に頭をもたせかけたまま苦笑した。

「なってるよ、とっくに。」

 キンタローが不審そうにしていることにシンタローは気づいて、なおも言葉を重ねた。
「あのなあ、こんなことを俺が他のヤツにできると思うか?」
「……思わない。」
 いや、いないでもないような気がするが、そういうことにしておく。
「なら、黙って俺を休ませてろ。補佐官。」


 ――――そして、補佐官は総帥の命令に従ったのだった。

















end

2004/03/13
+++++++++++++++++++++
2006/11/20改稿
性格悪くてかっこよくて、シンタローさんを想ってるアラシヤマと、シンちゃんに甘やかされてる1歳児を書きたかったらしい。
アラシヤマにときどき夢見すぎかもしれません。



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