+ When He Wake Up ... +
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素晴らしいと言うか何と言うか。
シンタローが眠りに落ちると直ぐにキンタローが目を覚ました。
それはそれは、スイッチのオンオフのように見事な切り替わりっぷりであった。
もっとも、この場合に限っては二人がかみ合っているのかいないのか、捉えようによって変わるのだが…。
ふわりとした暖かな空気に誘われて意識が現実へ戻ったキンタローは、目が覚めた瞬間、腕に抱いているものを投げ飛ばしそうになった。
実際にはしなかったが、気持ち良さそうに眠るシンタローを穴が空くほど凝視する。
あまりにも驚きすぎて固まってしまい、動くことが出来なかった。
『何故ここに居るんだ…』
顔を見たら即座に逃げ出すよう恐く脅したつもりだったのだが、全く効果が見られないシンタローを見て、流石のキンタローも存分に固まった後、脱力してしまった。
『お前は、俺を試しているのか?シンタロー…』
こんな間近で無防備な寝顔を見せられて、一体俺にどうしろというのだ、とげんなりしてくる。
そしてそう思いながらも、シンタローを離せず腕に抱いたままでいる己の欲求に対して非常に素直な自分自身にも同様の気持ちになった。
シンタローが自ら腕に収まりに来るはずがないことはキンタローも判る。
ベッドの端に潜り込んだのはシンタローの意志だろうが、その体を引き寄せたのは自分だろうと思った。
恋人同士の甘い時間ではなく、友人関係のようにもっとライトに飲んで喋って酔い潰れて寝てしまう、という自由気ままに気楽な時間を二人で過ごすことがある。こういう時の会話は、仕事の話と違って砕けた内容が主になるのだが、さすがに相手のシモネタをえぐるような会話はしない(自分達のことになってしまうので)ものの、団内の噂話や他人の色んな事情など下世話なものとか、適当な会話を楽しみながら酒を飲むのだ。
そのまま酔い潰れて朝を迎えるというお決まりのパターンなのだが、目が覚めるとキンタローの腕の中には決まってシンタローがいるのだ。昨夜はそう言う時間を過ごした記憶がないのだが、とキンタローは思うが、自分が抱き寄せたのだろうなということは、記憶が飛んでいても予測が付いた。
今回も例にもれずそういう結果なのだろうと言うことは判るのだが、やはり納得がいかないキンタローである。こちらの事情も少しは考えてもらいたいものだ、とキンタローは思った。
「襲うぞ、シンタロー」
率直な感想を声に出してみたが、相手に目覚める気配はない。
キンタローは起こすべきか否かと考えながら、シンタローの頬を痛まない程度に軽くつねってみる。
そして離すと、相手は起きるどころからすり寄ってきた。
己の失敗にキンタローはどんどん逃げ場が無くなっていく。
『猫みたいだな…』
キンタローはいつだか街角で見かけた野良猫を思い出した。
真っ黒な毛並みと気高い雰囲気がシンタローを連想させて思わず手を伸ばしのだが、触ろうとした瞬間逃げられた。次にまたその猫を見かけた時は日向で眠そうにしていた。再び手を伸ばすと、この時はゴロゴロと喉を鳴らしてきた。
ぐっすり眠っているシンタローの顔をよく見れば、疲労が色濃くあらわれている。
支部で起きたトラブルの処理で、ここのところずっと時間に追われていたのだ。体は疲れているだろうに、それでもここに来たのは眠れなかったのだろうとキンタローは察した。
寝床を探して自分の所へやって来るのは、嬉しいと言えば嬉しいのだが、やはりキンタローにも色々と事情がある。疲れているシンタローをぐっすり眠らせてやりたいと思う反面、自分の都合も大分切羽詰まっていたりする。
『こういう時、人間は感情が絡むから不便だな…』
さて、どうしたものかとキンタローは考える。
『全く…今度は俺が寝られないじゃないか…』
そう思いながらも、控え膳はそのままにして、キンタローは目を瞑って眠る努力をしてみる。
だがやはり、シンタローを腕に抱いたままだと理性に自信がなかったので、そっと体を離した。
これで何とか強引にでも眠りにつければ幸いと思ったキンタローだったのだが、体を離した途端、シンタローがすり寄ってきた。半身の香りがキンタローの鼻梁を擽る。
『……シンタローッ!!』
新総帥からの安眠妨害を直撃した補佐官は、またもや間近に愛しの恋人を感じながら、理性と本能の戦いを繰り広げる羽目になった。
おかげで、柔らかなベッドで眠るには不似合いなほど、キンタローを纏う空気がどんどん嶮しいものに変わっていったのである。
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