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ks







+ Run a risk ... +

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『あー…寝らんねぇー…』

 ベッドに入ってから右にゴロゴロ、左にゴロゴロ。
 シンタローは何度転がったか判らないほど、ベッドの上を回転しながら移動していた。彼が使っているキングサイズのベッドは、一人で寝ればそれなりに移動できるスペースができるのだ。

 ベッドに入って一体どれだけの時間が経ったのだろうか。
 体は疲れているはずなのに眠れない。

 その理由は本人も判っていた。
 ここのところずっと仕事以外でキンタローと一緒にいた記憶がない。

 キンタローとは毎日顔を合わせている。
 それだけでなく会話も交わしている。
 しかし、その会話内容は百パーセント仕事に関するもので、ガンマ団総帥であるシンタローは、とにかく仕事づくしの生活を送っていた。原因は大分前に発生した支部でのトラブルで、シンタローがその対応に追われるのと同時に二人の生活時間が完全にずれてしまったのだ。
 おかげで二人揃ってプライベートな時間を作るということも不可能になってしまった。
 仕事最優先のシンタローであるから、それはそれで仕方がないとしっかり諦めがついている。
 だがしかし。
 キンタローと中途半端な状態で一緒にいるため、シンタローに余計な不満が溜まっていってるのも事実だったりする。それは一層のこと顔を見ない方がまだマシなのではないかと思うほどであった。


 そんな日々を送っていたシンタローだが、本日はめでたく普段に比べて早い時間に仕事から解放された。
 人と会う約束があったのだが、先方が突然のトラブルに見舞われて急に都合が悪くなり、恐縮しきった姿で連絡をしてきたのが予定の時間の二時間ほど前であった。どこもトラブルは突然にやってくるものだなと思いながら、勿論了承した。相手方には申し訳ないが、ラッキーと思ってしまったシンタローである。
 突然のキャンセルで予定外に体が空いたシンタローは、他の仕事を済ませてしまおうかとも考えたのだが、それよりも僅かでいいからキンタローと一緒にいたいと思って、早々に引き上げた。
 ここで気分転換しないとさすがに爆発しそうだと思ったからだ。
 そうしてキンタローの様子伺いに部屋を訪れてみれば、シンタローの姿を認めるなり「寝ろ」の一言で一蹴されたのである。あまりの対応に腹が立ったシンタローは反抗しようとしたのだが、キンタローはそんな余地を微塵も与えずに台詞を続ける。
「体が資本だと俺に言ったのはどこの誰だ?ここのところ度を超えて不規則な生活を送っていたのはお前の方なんだぞ。少しでも時間が出来たのなら何が最善か考えろ。こんなところで総帥が倒れたら話にならない」
 お説ごもっともな正論をハッキリした口調で言われてシンタローは言葉に詰まった。
 キンタローの冷たく素っ気ない台詞と態度に『思ってるのは自分だけかよ…』と気持ちがどんどん下降する。
 しょぼくれた顔をして一歩近付こうとしたら、それすら拒否された。
「キンタロー…」
 これには流石に傷ついたシンタローだが、次の台詞で固まった。
「いいか、お前だけが不満だと思うな。確実に俺の方が不満が溜まっているに決まっているだろう。今俺に近寄って見ろ…シンタロー、お前がどんなに泣き叫んでも離さないからな。オフが出来るまで不用意に近寄るな。判ったら部屋へ戻って寝ろ」
 地を這うような脅しがかった低い声でそういうキンタローの眼が鋭く光っている。
「………失礼しましたー…」
 身の安全確保のために、シンタローは思わず縮こまりながら、背を向けることなく部屋から出ていった。
『や…やる…アイツは確実にやる…』
 シンタローのことをきちんと想っていてくれたと考えて良いものか悩むような台詞であったが、それよりもあの状態のキンタローが恐い。絶対に相手は出来ないと思って、シンタローは恐怖におののきながら部屋へ戻った。


 そして、体力回復に努めようと大人しくベッドに入ったのだが、冒頭に戻るわけである。


 寝られないと思いながら転がっていたシンタローだが、突然何か思いついたように起き上がった。
『さすがにもうキンタローも寝てんだろ…』
 シンタローはベッドから降りるとそのまま部屋を出た。
 そして隣接しているキンタローの部屋まで真っ直ぐ向かう。
 普段ならば礼儀を守ってきちんと来訪を告げてから入るのだが、この時はフリーパスで侵入可能なのをいいことにこっそりと部屋の中へ忍び込んだ。
 あんな脅し(キンタローは本気なのだが)を食らったというのに全く懲りていないというか何というか───。
 キンタローの部屋の明かりは全て消えていた。
 ベッドルームをそっと覗くと既に眠りについたキンタローが目に入る。シンタローはそのままベッドの傍に近寄り、じっとキンタローを見つめた。
『んー…多分熟睡してんな』
 しばらくキンタローの様子を窺って、相手がしっかり眠りについているのを確認すると、シンタローはベッドに潜り込んだ。これまたタイミング良くキンタローが少しばかり端に寄って寝ていてくれたので、シンタローが潜り込むスペースが楽に確保できたというわけである。
 普段のシンタローならば、ここまで熱心にキンタローの傍にいようとはしない。
 それは想いの違いからと言うわけではなく、単にキンタローの方から傍にいてくれるからだ。
 だが二人の間にあるいつの間にか築かれていた関係が何かの拍子で崩れると、羞恥心の固まりのような男のシンタローでも自ら相手に近寄っていくようで、この時も、好きな相手を想えば僅かな時間でも一緒にいたくなるという、ごく自然な欲求に従って動いたのである。
 シンタローは己の直ぐ横にキンタローを感じると、やっと満足する。
『ま、寝てんなら大事にはいたらねーだろ』
 何とも安易な考えであるが、シンタローはこれで自分も寝られるだろうと思って体の力を抜いて目を瞑った。
 するとキンタローがシンタローに身を寄せてくる。
『ゲ…ッ』
 半身が目を覚ましたのかと思って、シンタローの体は力を抜いたそばから再度緊張が走った。恐る恐るゆっくり顔を向けると、キンタローの眼は閉じられたままである。
「…………?」
 何事かと思って硬直しながらその行方を見守っていたシンタローだが、キンタローは手を伸ばしてより一層シンタローに近付いてくる。寝ぼけているのか何なのかシンタローはさっぱり判らず内心焦った。ここで目を覚まされたら奈落の底へ超特急便で連れて行かれることが決定しているのだ。
 シンタローが硬直したまま動けずにいると、キンタローはベッドの上に散らばった漆黒の髪に顔を寄せる。
 その仕草はシンタローの長い髪に顔を埋めているようにも見えた。
『……コイツ…何してんだ?』
 シンタローが何事かと思っていると、次の瞬間キンタローにしっかり抱き寄せられた。
『やっぱ、起きて…ッ』
 だが、焦ったシンタローの心とは正反対に、先程よりもずっと近い位置にある半身の顔は穏やかに眠るものであった。青い双眸は閉じられたままである。
「…………?」
 怪訝な顔をしながらキンタローの寝顔を見つめていたシンタローだが、暫くしてからその行動を理解した。

 実はシンタローがキンタローと一緒に寝ると、必ず今と同じ様な状態で目が覚める。
 半身が横にいる時は抱き寄せるというプログラムが組み込まれているかのように、必ずシンタローはキンタローの腕の中で眼が覚めるのだ。
『匂いで認識してたのかよ…』
 これには思わず微笑を浮かべたシンタローだ。
 眠っているキンタローが動物のような仕草で近寄ってきていたのかと思うとその行動が可愛くて仕方がない。
『いつもこんなんだったら可愛いのに…』
 目を覚ますと猛獣なのを知っているだけに、そのギャップがおかしかった。
 もっとも猛獣も大人しく眠っているときは可愛いものなのかもしれないが…。

 なんだかとても得した気分になったシンタローは、キンタローの腕に抱かれながら、気分上々で眠りについたのであった。


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