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 年が明けて翌年の朝を迎えた。俺は今とても清々しい気持ちでいる。
 これから「二人」で初日の出というものを見に行こうというところであった。
 横にいる「愛しき想い人」の姿を目にして、俺は緩みそうになる顔を何とか引き締めた。






 年の終わりに玉砕覚悟で想いを告げた。
 シンタローには何でこんなギリギリにと言われたが、俺の方も色々と切羽詰まっていたんだ。
 とにかく、ただ募った想いを伝えたかった。
 年が変わる前に決着を…というのは俺の我が儘だったが───。






 つい手を伸ばして引き寄せそうになるのを何とか踏みとどまって、俺は静かにシンタローを見つめる。
 俺の視線に気付いたのかシンタローの黒い眼がこちらを向き、気恥ずかしそうな顔をしてまた逸らされた。

 あぁ、だめかもれしない。俺は我慢できるのだろうか。

 まるで中毒者のようにシンタローに引かれていく。俺の頭の中はシンタローでいっぱいだ。
 今からこれでは一年もたないかもしれないと思いながら、俺は青い眼にシンタローの姿を映し続けた。
 一瞬、一瞬、その姿を逃さずに焼き付けていたい。
 そう思って見つめていたのだが、恥ずかしさが頂点に達したのかシンタローの鋭い視線に睨まれた。
「いつまで見てんだよ」
「気が済むまでずっとだ」
 今の感想を正直に答えたら、鋭い視線は変わらないままシンタローの頬にうっすら赤みが差した。

 何故お前はそんなに可愛い反応を示すんだ、シンタロー。

 俺の浮かれ具合も相当なものだなと思うが、そうさせるシンタローもかなりのものだと思う。
 シンタローにはまたそっぽを向かれたが、俺の視線は固定されたまま暫くの間その姿を焼き付けていた。






 真冬の寒さが身に染みる中、日付が変わったことを告げるために俺の腕時計からアラーム音が鳴り響いた。
 俺達の間にあった無言の隔壁が電子音によって壊される。
 嫌ならば拒めと先に言っておいた───リミットは日付が変わるまでだ、とも。
 黙ったまま俺を見つめるシンタローは、俺が想いを告げたときよりも落ち着きを取り戻したように思えたから、混乱のまま時だけが流れたわけではなさそうだった。
 沈黙の時間はそれなりに長さがあったと俺には思える。
 全てに置いて急いで迫った気もしたが、だからと言って俺の要求に流されるような男でもない、シンタローは。
 間近で俺と見つめ合う状態にあったシンタローだが、日付が変わっても動かないことに焦がれて、俺はそっと相手を腕に納めた。こうすることで再び想いを告げるようにしっかりと抱き締める。
 気に入らなければ反撃に出るだろうと思ったから、その点だけは気が楽だった。
 雰囲気にのまれて自分の意志に反することをするようなやつではない。
 嫌ならば、蹴り飛ばすか殴り倒すかしてくるはずだ、絶対に。

 だから、大人しく俺に抱き締められているシンタローが、凄く意外だった。

「…シンタロー?」
 俺から行動を起こしておいて、現状を疑うかのように思わず名前を口にしてしまう。
 大人しく腕に納まっていたシンタローは何かを考える様に眼を閉じて、しばらくジッとしていたのだが、再び眼を開くと間近に迫っている俺の顔をゆっくりと見つめた。
 澄んだ黒い眼にドキリとする。
 彼の真面目な顔に心臓が締め上げられるほど苦しくなり、これから断罪を受けるかのような鋭い緊張が走った。

 結局俺は、覚悟を決めているといっても、口だけのものなんだ。
 嫌なら拒めと平然としながら言っても、それは俺が望んでいる結果じゃない。

 シンタローと一緒にいたい───もっと深い繋がりを持って。
 好きなんだ、お前のことが。
 理屈で割り切れない感情を、俺はお前を想う気持ちでやっと知ったんだ、シンタロー。
 それにはとても時間がかかったけれど。
 今、お前を好きだと想う気持ちに偽りはない。

 シンタローは沈黙を保ったまま俺に抱き締められていた。
 反撃に出る様子は彼から窺えず、だから余計にこの体を解放する気にはなれなかったが、沈黙が意味するところが判らなくて不安だけが渦巻く暗雲となり心の中で膨張していく。
 もう一度彼の名を口にしようとしたが、声が掠れて出なかった。
 緊張で微かに震える自分に気付かされる。
 恐怖に似た何かを感じて、俺はシンタローを抱き締める腕に縋るように力を込めた。

 やはり伝えるべきではなかったのかもしれないと、ここにきて少し後悔の念を覚えた。
 僅かな時間だというのに、相手を待つ時間がこの上なく辛い。
 受け入れてもらえるという自惚れがあったわけではないが、頭の中で考えていたものよりも現実は恐怖心を煽り立てる。シンタローを腕に抱いても拒まれなかった事実より、相手の返答を待つこの時間の方が、俺には遙かに重くのし掛かってきた。
 それでも何とか耐えながら現状に留まっていられるのは、拒絶が窺えず、嫌悪する色合いも見られない彼の真っ黒な眼が俺を見つめているからだ。
 何も言えなくて、だが彼をこの腕から離すことはもっと出来なくて、シンタローと一緒にいられるこの時間がこのまま止まってしまえばいいと心の何処かで願いながら、現状に感じる不安と恐怖が雁字搦めに俺を縛り付けて、動くことが出来なかった。



「ずいぶん強気な態度で迫ってきたのに、どーした?キンタロー」



 きっと俺は酷く顔を歪ませていたのだと思う。
 シンタローがいつもと変わらず強気な笑みを湛えて告げた一言が、絆しになっていた緊張を解き放った。
「沈黙は肯定にとるんじゃなかったのかよ?」
 そう言って笑うシンタローの真意が掴めなくて、途方に暮れながら俺は一言もらした。
「現実はそんなに甘くなかった」
「…だろうな」
 俺が動けなくなっていた理由などお見通しだったようで、その顔に浮かべられていた笑みが柔らかなものに変わった。シンタローの表情につられて俺の強張っていた顔から力が抜ける。
「よく聞けよ、キンタロー」
 シンタローの声色が優しくて、俺はその言葉にゆっくりと頷いた。
「俺はな、お前のことをそういう対象で見たことが一度もねェーんだ」
 シンタローの台詞を大人しく聞こうとして、だがこれを聞いただけで気持ちがいとも簡単に落胆した。
 それが直ぐに伝わったのだろう。シンタローに軽く睨まれる。
「コラッオメェちゃんと聞けって前置きをしただろーが」
「…聞いてるぞ」
 俺が何とか返事をすると、シンタローが俺の背中に腕を回して抱き締める。
「シ…シンタロー…?」
 動揺がありありと顕れた声で名前を呼ぶと、シンタローは俺を抱き締める腕に力を込めた。
「お前が暗ェ雰囲気を醸し出すからだろ」
「それは…」
「凄ェ心拍数だな、ドキドキいってんのが伝わってくる」
「………当たり前だ」
 軽い笑みを含んだ声が聞こえてきたが、俺は小さな声で呟きをもらすとシンタローの肩に顔を埋めた。
 背中に回されていたシンタローの片手が俺の頭に移動をして優しく髪を梳く。
 その手を心地よく感じながら、俺は眼を閉じた。
「お前がギリギリんなって迫ってくるから、さっき一所懸命振り返ってみたんだけどな、今までのお前といた時間を、さ」
 シンタローに抱き締められ、あやす様に俺の髪に触れる手を感じながら、そうしてようやく彼の言葉をきちんと聞ける自分に困惑を禁じ得なかった。
 これで彼に拒まれたら、俺は立ち直れない。
 自分の情けなさに溜息をつきたくなったが、それを何とか飲み込んで、シンタローの声に耳を傾けた。



 結論から言えば、お前を離したくないと思った、俺の傍から。
 エゴかもしれねぇーけど、傍にいてほしいって思う。
 それからな、お前のことをそういった対象で見たことねぇーって言ったけど、こうやってお前に抱き締められて嫌じゃねぇーことには…さっき気付かされたんだ───抱き締め返したいって思ったのも、事実だな。
 だからきっと───。
 俺はお前を受け入れると思う。
 だけど、このままいくのは流されたような気がして癪だから、ちょっとぐらい待てよ?
 せめて。
 俺がちゃんと、自分の口でお前のことを好きって言えるくらいに自覚を持つまでは───。



 最後の台詞が耳に届く前に、俺は埋めた顔を上げて少し泣きそうな顔をしながらシンタローを見つめた。そんな俺にシンタローは微笑を浮かべる。
「ま、そんな遠い先の話じゃねぇーと思うけど……………これでいいか?キンタロー」
 台詞の最後を括る俺の名前は、今まで聞いたこともないくらい優しい響きを持っていて、俺はただシンタローが愛しくて、頷きを返しながらまた抱き締めた。

 そんな俺にシンタローが笑ったような気がしたが、色々な感情が混ざってあまりよく覚えていない。
 シンタローは俺の気が済むまで体を預けていてくれて、俺は深夜真冬の寒さも忘れ、その体を抱き締め続けていたと思う。俺の背中に回されたシンタローの腕を感じながら、安心感に似た暖かな感情に支配されていった。

 受け入れられたのとは少し違うのだろうけど、俺は現状に十分満足していた。
 何故ならば、想いを告げた今でもシンタローが俺の傍にいる。
 俺の気持ちをきちんと正面から捉えてもらえた。
 今の俺の望みは、そんなことで満足できてしまうほどのものだったんだと、今になって気付いた。






「あれ?シンちゃんとキンちゃん、お出かけ?」
 聞き覚えのある高い声が響いて、俺は意識を現実に戻した。
「グンマ、お前この時間まで起きてたのか?」
 シンタローが返した台詞が次いで耳に届く。外へ向かう俺達とは反対方向、つまり部屋へ戻ろうというもう一人の従兄弟の姿が眼に映った。
「うん、何か気付いたらこんな時間になってた。もう限界だから寝るけど…シンちゃん達はどこに行くの?」
「初詣といきたかったんだけど、ここにゃ神社はねぇーからな。初日の出くらいは見れっかなと思って、車飛ばして一番近い海まで行こうかと思ってサ」
「そっかぁ~」
 シンタローの台詞に返事しながらグンマは眠そうに欠伸をした。ふらふらしている従兄弟が倒れそうに見えて、シンタローが体を支えようかと手を伸ばしたのだが「大丈夫だよ~」と返されて、手を引っ込める。
「じゃぁいってらっしゃ~い。初デート楽しんできてね~」
 グンマはもう一度欠伸をすると手をヒラヒラ振りながら部屋へと歩いていく。
 俺は黙ってその後ろ姿を見送っていたのだが、シンタローの視線に気付いて彼の方を向いた。
「何か…アイツ…デート…とか言ってたけど…?」
 耳を疑うように俺に質問してきたシンタローはグンマの台詞に衝撃を受けたのか眼を大きく見開いている。
 俺は何食わぬ顔をしながらシンタローの手を取り、エレベータの前まで引きずるように歩いていった。
 実は、グンマには随分前からシンタローに対する俺の気持ちはばれているんだ。
 俺の中で起きたシンタローに対する感情の変化が何なのかよく判らなくて、身近で比べる対象がグンマしかいなかったから、従兄弟同士感じるものの違いを比較していたら、あっさり気付かれてしまった。
 横で喚くように何か言っているシンタローの台詞は聞こえないふりをして、エレベータが到着すると手を握り締めたまま乗り込んだ。
「なぁ、キンタローッ答えろッ」
 尚も大きな声を上げて迫るシンタローを黙らせようと俺は繋いだ手を引っ張ってその体を引き寄せた。
 体が傾き俺の方に倒れ込むシンタローを抱き留め、はね除けられることを想定しながら口付けようと更に引き寄せたら、あっさり相手の唇に接触を果たしてしまった。
 驚いた俺は、自ら仕掛けておいて、体を引いてしまう。



「お前なら…簡単に避けるか…はね除けてくると思ったんだが…」

「……………お前には……ガ…ガードが甘ェって……………覚えとけ……ッ」



 エレベータが着いた先に誰も居なかったことに感謝しよう。
 俺とシンタローは顔を赤くしながら狭い箱から降りた。
 そして恥ずかしさから不自然なほど離れてぎくしゃくしながら歩いていたのだが、駐車場に着く頃には、また寄り添うように肩を並べて歩いていた。






From ... COUNT DOWN(20071231)


 
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