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+ PM 09:22【LIVING】+

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 夕食の片付けを終えたリビングでシンタローはテーブルに突っ伏していた。
 正面に座ったグンマは曖昧な笑みを浮かべながらデザートのフルーツゼリーを口に運んでいる。
 長い付き合いから把握したシンタローの性格上、今の気持ちが判らなくもなかったのでこのまま放っておくのが一番かとも考えたのだが、さすがにそれも可哀想な気がしてグンマは黙ったまま一緒にリビングに留まっていた。
 さっぱりしたゼリーは食べやすく、それでものんびりと口に運んでいたのだが、グンマは既に二つ目のカップを空にしていた。三つ目も余裕で入るなと思いながら、今食べてしまおうか後に残しておこうかと考える。
 ふと時計に目をやれば、間もなく九時半になるところであった。後片付けに差ほど時間を要した感じもしなかったので、そうするとかなり長い時間沈黙したままシンタローとここにいることになる。
『んー…どーしてあげるのか良いのかなぁ?』
 結局三つ目も食べることにして、グンマはゼリーにスプーンを入れて一口目を口へ運びながら考えた。
『やっぱ、僕がキンちゃんとのこと知ってたってのがシンちゃんにとっては嫌だったんだよね…』
 三人で居たときの会話で、キンタローが何を指しているのか判るとグンマは言った。つまりは、それ・・も込みで知っているということになるのだ。
『別に恥ずかしがることないと思うんだけど…』
 グンマはまたゼリーを口へ運んだ。
 二人が良いのならばそれで良いとグンマは思っていた。キンタローがずっとシンタローを見ていたのは気付いていたし、抱く感情に恋愛が含まれた瞬間も直ぐに判った。それだけグンマは二人を見ていたのだ。
 あのシンタローがよく受け入れたなと驚かなかったといえば嘘になるが、相手がキンタローだからグンマとしては何となく良かったと思えた。二人の関係が変わったからといって自分との関係が変わるわけでもなく、今までと同じように接し方に変化はない。時々キンタローには自ら切り込みを入れて少々えぐった話を聞いたりもするのだが、それだけなのだ。キンタローはシンタローのことに関してのみ自ら口を開くことがあるから、聞いても大丈夫という判断のもと突っ込みを入れているので、グンマとしてはきちんと相手をわきまえているつもりであった。
 キンタローとのことでシンタローには何か余計なことを言ったことは一度もない。
『そんなに内緒にしたかったのかなぁ…』
 そんなことを考えているとゼリーのカップが半分空になった。このまま三つ目も空いてしまうかなと思っていると、目の前で突っ伏していたシンタローが顔を上げた。少し恨めしそうな顔で見られて、グンマは肩を竦めた。
「お前、さ……いつから知ってた?」
「ん?結構前から知ってたよ。多分、二人が出来上がってから数日後ぐらいには…」
「………ッ」
 グンマのあっさりした返答はシンタローにとって有り難かったが、キンタローと関係してから数日後にはばれていたとは思っていなかったようで、またテーブルにめり込みそうになったシンタローである。
 グンマは、言葉に詰まって俯いてしまったシンタローを見ながら、向こうから声をかけてきたということは自分も問いかけていって良いのだろうという判断を下して、食べかけだったゼリーを一気に片付けてから口を開いた。
「シンちゃん、僕が知っていたことが嫌だったの?」
「…それもある」
「それも?他には?」
「お前…知ってンのに…知らねぇって思ってた自分が…」
「あー…そっか!あはは、それは確かに恥ずかしいかも」
 グンマが努めて明るい笑い声を上げるとシンタローが睨み付ける。だが、相当ショックを受けているようで、眼にはいつもの鋭さがなかった。
『うーん…まだ眼が弱いなぁ…』
 普段の様な強い眼力が窺えず、グンマはどうしようか迷ったのだが、今まで座っていた椅子から立ち上がるとシンタローの隣に移った。横の椅子に座るとシンタローの腕をそっと掴む。
「シンちゃん、別にいーじゃん。僕なんだし」
「お前だからイヤなんだよ…」
「何それ?ヒドイなぁ…」
 グンマは傷ついたという顔を大袈裟にしたが直ぐに笑みを浮かべてシンタローの頭を撫でた。立ち上がった状態だと身長差から手が届かないのだが、椅子に座った状態で且つ相手が体勢を崩しているとグンマでも届く範囲に頭が来る。振り払われるかなと思っての行動だったが、シンタローは大人しくしていた。
「…何だかお前がでっかく見えるよ…」
「だって僕お兄ちゃんだもん。シンちゃんはずいぶん可愛いことになってるけどね」
「…うるせぇ」
 からかったら頭を撫でていた手を振り払われたのでグンマは大人しく手を引っ込めた。
「ったく、キンタローもキンタローだよ…アイツは」
 矛先が今はここにいない従兄弟に向くと、グンマは一応フォローのつもりで口を挟んだ。
「まぁ、キンちゃんは仕方ないよ、頭の中シンちゃん一色だからさ」
「何だよ、それ」
「だってキンちゃん、シンちゃんのことしか考えてないよ?」
「………ッだからって、あんな台詞はねーだろッ」
 声を荒立てたシンタローの顔が赤くて、これは怒っているのか照れているのか、はたまた拗ねているのか、グンマには判断が付かなかった。
「まぁ、そーだけど……でも、僕でも判ったのに何でシンちゃん気付かなかったの?」
「だって飯の話してたじゃねーかッ」
「そーだけどさぁ…」
 グンマは相槌を打ちながら考えた。普段のシンタローならばそういった台詞・・・・・・・には敏感に反応を示すはずなのだ。他人の色事には首を突っ込みたがる性格のはずだが、自分のこととなると途端に嫌がる。他に付き合いのある友人の前ではどうだか判らなかったが、少なくともグンマの前ではそうであった。
『僕だけ特別待遇なのかなぁ…』
 そんなことを考えていると、シンタローが浮かべた照れたような笑みを思い出した。意味を取り違えたが、キンタローの台詞に嬉しそうな顔をしていた。
「シンちゃん……もしかしてキンちゃんが好きなお料理、知りたかったの?」
 グンマの言葉にシンタローが派手な音を立てて椅子から立ち上がる。あまりにも勢い良く立ち上がったのでグンマはぽかんとしながら見つめていたが、シンタローが口元を押さえながらも顔を赤くしたので『ビンゴだ』と確信した。
 グンマに図星されたシンタローは、次の言葉の衝撃に耐えようと構えたのだが、グンマの口からは予想外の言葉が飛び出してきた。
「わぁっ!素敵っ!」
「……はぁッ?!ステ…ッぁあ!?」
 あまりにも想像と違う台詞を言われて、思わずシンタローは素っ頓狂な声を上げた。グンマはポンッと胸の前で手を合わせると、目をキラキラ輝かせながらシンタローを見つめてきた。
「何かいいじゃん、そういうの!やっぱそーだよね!知りたいよね!」
 自分事のように楽しそうな声を上げて肯定してくるグンマを見て、シンタローはその勢いに圧倒された。
「いや…その、な…グンマ…」
「キンちゃん、全部美味しいっていうからさ!確かに作り手としてはどういうのが好きなのかってのは細かく知りたいところだよね!」
「あの…だから…」
「そーだよ!だから僕がせっかく話題振ったのに……そっか、それであの回答じゃショックだよね、シンちゃん」
 捲し立てるように言われたグンマの台詞に押されて、シンタローは黙り込んでしまった。
 グンマは立ち上がってそんなシンタローに近寄ると下から顔を覗き込んだ。青い瞳でしっかりとシンタローを見つめる。
「ごめんね、シンちゃん。イヤな思いさせるなら、知ってるよって僕から言ってあげれば良かったね」
「…それは…」
 シンタローは何か言おうとしてまた黙り込んだ。グンマはそのまま考え込んでしまったシンタローが口を開くまで待つことにして、沈黙を保ったままシンタローをじっと見つめた。
 そうして根気よく待ち続けると、シンタローが降参といったように両手を上げて今まで体にこもっていた力を抜いた。ふっと笑みを浮かべてグンマを見る。シンタローの柔らかな笑みを眼にして『眼福っ』と思いながらグンマも笑顔を返してシンタローに勢い良く抱きついた。
「うわっと」
「シンちゃん、何か可愛いーっ」
「あ?馬鹿なこと言ってンじゃねーよ」
 そういって自分にしがみついてくる従兄弟の頭を小突いた。
「えへへ、こうしてたらキンちゃんに怒られるかな?」
「相手がお前じゃ怒ンねーだろ」
「シンちゃんは甘いなぁー、キンちゃんは嫉妬深いよー?」
「…知ってる」
 嫉妬深いと言った台詞をシンタローはしらばっくれるかと思ったグンマだったが、知ってると言ったことから、だんだん開き直れてきたことが窺えた。
「お前さ、どうやって知ったんだよ?」
「ん?キンちゃん問い詰めたの」
 グンマはシンタローにぎゅうっと抱きついたまま、そんな台詞を語尾にハートマークが付きそうなほど可愛らしくさらりと言ってのけた。シンタローの顔が若干引きつる。
「問い詰めたって…」
「うーん、キンちゃんがなかなか教えてくれないからね」
「……………」
「あ、そんな顔しないでよ、シンちゃん。別に僕、酷いコトしてないよ?」
「…本当かよ?」
 シンタローにそう言われてグンマは笑った。
「あのね、僕が気付いたのはキンちゃんの雰囲気が変わったからなんだよね」
「キンタローの雰囲気?」
「うん。柔らかくなったの。多分シンちゃんの影響じゃない?」
「……………?」
 シンタローにはあまり意味が判らないようで先を促すような素振り見せたが、グンマは優しげな笑みを浮かべたままそれ以上は答えなかった。
 グンマは暫く黙ったままシンタローに抱きついていて、シンタローも自分にしがみついているグンマを無碍に扱うような真似はしなかった。
 事ある毎にシンタローやキンタローにスキンシップを図るグンマに抱きつかれること自体は抵抗がなかったが、それでもこんなに長く腕に力を込められたことが今までなかったので、何だか少し変な気がして手持ちぶさたに長い金色の髪を摘んだ。指にクルクル絡めて遊んでみる。そういえばキンタローが自分の髪でよくやっているなと思ったところで、グンマが胸元で笑い出した。
「グンマ?」
「シンちゃん、キンちゃんみたい」
「へ?」
「シンちゃんの髪の毛で同じ様なことやるでしょ、キンちゃん」
 シンタローから離れると、グンマは自分の髪を摘み上げて見せた。
「な…何で知っ…」
「キンちゃんが言ってたよ?シンちゃんを抱きながら髪の毛触るの好きなんだって」
 グンマの台詞にシンタローの顔がカッと赤くなった。
「あはは、冗談だよ、シンちゃん。それとも僕ビンゴしちゃった?」
「グンマッ!!」
 シンタローに怒られてもグンマはいつもと変わらない笑みを浮かべて逃げていく。こいつはどうしてくれようか考えながら若干凄み帯びたシンタローが一歩足を動かすと、それに気付いたグンマは振り返って「もう大丈夫?」と一言問いかけた。
 グンマの問いかけにシンタローの動作が止まる。
「ダメなら僕まだ付き合うよ。シンちゃんだったら一晩でも二晩でも付き合っちゃう」
 大きな青い瞳で真っ直ぐに見つめられて、シンタローは苦笑した。
「大丈夫に決まってンだろ」
「何だ、残念っ」
 そう言って口をとがらせたグンマだが、直ぐに笑みを浮かべた。
「まぁ、これからはキンちゃんとのことを相談する相手が出来たと思ってさ!」
「ゼッテー言わねぇー…」
「えー、キンちゃんからの話だけじゃつまんないよ、僕が」
「………アイツ、そんなにお前に話してンのかよ?」
「んー…五分五分…かなぁ」
 キンタローがグンマに話してくる回数と、グンマがキンタローに突っ込みを入れる回数の比率をざっと考えて、そんなことを呟く。シンタローは何が五分五分なのか意味が判らず問い返したのだが、グンマはまた笑って誤魔化した。さすがのグンマも「自ら適度にえぐって話聞いてます」とは、シンタロー相手に言えなかった。
「じゃ、僕はもう行くよー?」
「あぁ、俺も仕事に戻ンなきゃ……とグンマ」
 グンマはリビングから出ていこうとしてシンタローに呼び止められた。振り返るといつもどおり少し不機嫌そうな顔をしたシンタローに戻っていた。
「なーに?シンちゃん」
「あー……次、何…食いたい?」
 これがシンタローなりの礼なのだ直ぐに察したグンマは喜んで走って戻ってくる。
「またケーキがいい!シンちゃんのオススメで!」
「リョーカイ。また時間出来たら作るよ」
「楽しみにしてるーっじゃぁ、またね、シンちゃん」
 グンマはシンタローとの約束を楽しみに再びリビングから出ていこうとして、ふと思いつき、またシンタローの元へ戻った。
「ねぇねぇ、シンちゃん」
 そばに寄ったグンマが内緒話をするように手招きすると、シンタローは何事かと思って腰を屈める。このリビングには二人しか居ないのだが、それでも尚小声で話すようなことがあるのかとシンタローは眉を顰めた。まだキンタローとのことで爆弾となるような発言を抱えているのかもしれないと心の中で少しばかり構える。
 シンタローが屈んでくれると、グンマは顔を近づけ、唇の横に口付けた。
 シンタローは驚いて顔を上げる。
「えへ。ありがと」
 唖然としたシンタローを尻目に、グンマは今度こそリビングから出ていく。
 間際にシンタローが「これは…される方が特なんじゃねぇーの…?」と呟くと「することに意味があるんだよ」という言葉だけが返ってきた。
 一人リビングに取り残される形となったシンタローは、呆然としながら、唇からは外された、それでもそこに近い位置を、己の指でそっとなぞった。


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