本日、シンタローが半年ぶりに帰って来るというのでガンマ団内はお祭り騒ぎの状態であった。
総帥のマジックが上機嫌なので、その雰囲気は部下にも伝わり、心なしか誰もが嬉しそうな顔をして廊下を行き交っていた。
アラシヤマはお祭り騒ぎには興味がなく、明日からの任務の準備を黙々としていた。 彼は最近では単独の暗殺任務が多かったが、今回は少人数単位での任務であった。
彼は常々、(わては、シンタローが総帥の息子ということはどうでもええし、その部分でシンタローと友達になりたいとは全く思わへんから、他の奴らよりもシンタローに対する評価が客観的どす)と自負していた。
アラシヤマから見ると、シンタローは格闘技が出来るほうだが、まだまだ隙があり、甘い部分が多かった。
アラシヤマが伝え聞いた噂によると、シンタローは、叔父のサービスと修行をしていたようで、彼はシンタローが修行によってどれほど強くなったのか興味があり、そしてただ単純にシンタローに会いたかったが、アラシヤマは、(わ、わては、別に、シンタローなんかに会いとうおまへん!)と自分を無理矢理納得させ、意地を張ってシンタローに会いに行こうとはしなかった。
アラシヤマが食堂で昼食を食べているとき、近くに座っていたガンマ団員の会話が耳に入った。
「おい、お前聞いたか?総帥の息子がガンマ砲を撃てるようになったらしいぞ」
「ふーん。やっぱり、全然似てなくても親子なんだな。良かったじゃねぇか。これで親子だって証明されてよ」
「そうだな。今まで散々いろんな噂がたってたしな。お偉方もホッとしてんじゃねぇか?まぁ、俺らには関係ねぇがな」
「違ぇねぇ」
そう言って、シンタローのことを少し揶揄して笑うガンマ団員の会話に、アラシヤマは(シンタローは、わてのライバルなんどすから、あんさんらが馬鹿にしてもええもんやおまへん!!)とムカつきつつも、(それにしてもシンタローは眼魔砲が撃てるようになったんどすか)と、少し感心した。
翌日の任務で、アラシヤマはシンタローが居ることに非常に驚き、上官に食って掛かった。
「なんで、いきなりシンタローがいるんどすか?ここはそんなに危なくないとはいえ、まだまだ残党がたくさんいますえ?この人数やと誰もシンタローを守る余裕なんてないでっしゃろ?」
上官は、食って掛かるアラシヤマに迷惑そうな顔をしつつも、
「総帥命令だ。まぁ、マジック総帥も使えないようならいくら自分の息子とはいえ、こっちには遣さないだろう。その辺りはきっちりしているお方だからな」
と言い、それ以上の抗議は受けつけなかった。
その向こう側でシンタローは団員と話しており、追い払われたアラシヤマはシンタローを見るともなしに見ていた。
久々に見かけたシンタローは、半年間の間に以前よりも髪が長くなり、顔つきが大人びており、アラシヤマは少々戸惑った。
シンタローは、アラシヤマに気が付くと嫌そうな顔をし、顔を顰めて舌を出した。そんなところは、まだまだ子どもっぽく、アラシヤマは少し安心した。
今回の任務は、麻薬を秘密裏に栽培していた村そのものと、その村に大量に残された麻薬の原料を消滅させることであった。そこの村で精製されていた麻薬は質が悪く、使用するとすぐに死に至ることで有名であったので、ガンマ団に徹底破壊の以来が来た。その村で働いていた従業員達の中で、危険な麻薬を作っていることを知っていた者は極一部であったが、ほとんどの村民は麻薬を精製する過程で何らかの有毒な物質に触れていたので現在病院に収容されていた。建物自体も有毒な物質の成分が染み込んでいたので、全て消滅させなければならなかった。その村の周囲にはゲリラの残党が、その麻薬を狙って潜伏しており、いくら決着は着いていたとはいえ油断は出来ない状況であった。
麻薬を一箇所に集め、アラシヤマが低温の炎で煙を出さずにそれを燃やし尽くし、他の団員達がその後の化学的処理を行っていた。
シンタローは建物を破壊し、アラシヤマがそれを燃やすという役割であり、2人は村の入り口に戻った。
「あんさん、新しい技を覚えたそうどすが、ほんまに使いものになるんどすか?」
「てっめぇ、疑ってやがんのかヨ?そんじゃ、見せてやるぜ!眼魔砲ッツ!!」
シンタローの手に球形のエネルギーの塊が生まれ、爆発音とともに木で出来た建物を破壊した。
「なるほど。これが眼魔砲どすか」
「そーだ!スゲェだろ?」
嬉しさからか、非常に珍しくアラシヤマに向かって無邪気に笑うシンタローに、ここ数年、そんな笑顔を自分に向けられた事のなかったアラシヤマは非常に動揺した。
「す、す、すごいどす・・・」
オドオドしているアラシヤマを見たシンタローは、眼魔砲の威力に恐れをなしたと思い、上機嫌であった。
そして、シンタローが順調に建物を破壊し、アラシヤマがそれを燃やしていくうちに1軒の民家を残すのみとなった。
「そんじゃ、最後の1軒か。眼魔――」
その時、民家の中から小さな人影が飛び出してきた。
「止めろっつ!僕の家を壊すなッツ!!」
4歳程の年齢の男の子が家の前に立ち塞がり、両手を広げて通せんぼし、2人を睨みつけた。
2人は予想もしなかった出来事に、思わず顔を見合わせた。
「確か、村民はみんな避難したって・・・?」
「マァ、こんなこともありますやろ。それにしても、このガキどないしまひょか?面倒でおすな」
「面倒って、オマエ、保護して病院か避難所に連れて行くしかねぇだろ?オイ、そこのお前、こっち来い。父ちゃんと母ちゃんのとこに連れてってやる」
そう声を掛けたシンタローであるが、子どもは頑としてそこを動こうとしなかった。
「その家は、危険なんだ。早くしねぇと家の下敷きになっちまうぞ?すぐにどかねぇと知らないからな?」
シンタローが少し脅すような調子で言うと、子どもはますます意固地な様子になった。
「嫌だ!そんな嘘言って、僕の家を壊すつもりだろ!!お前らみたいな化け物の言うことなんか誰が聞くかよ!!」
化け物という言葉を聞いたシンタローは、ショックを受けたようであり、しばらく呆然としていた。
アラシヤマはシンタローの横を通り過ぎ、ズカズカと子どもの前に進んだ。
怯えた顔でそれでも精一杯睨みつける子どもに対し、アラシヤマは1つ溜め息をつき、
「あんさん、人に言うていいことと悪いことがありますやろ。ライバルの俺以外がシンタローを傷つけるのは許せまへんな。子どもやからというて、俺は容赦しまへんで」
と言った。
アラシヤマが子どもの首筋を何か針のようなもので刺すと、子どもは気を失った。
子どもが倒れるのを見て我に返ったシンタローが慌てて、
「おい、殺したのかヨ?」
と、アラシヤマに詰め寄ると、子どもを荷物のように左腕に抱えたアラシヤマは、
「もし、そうやったらどないします?いくら子どもやからて、油断できまへんえ?」
と、小馬鹿にしたように言った。
「もし、子どもを殺したんなら、俺はお前を許せねぇ」
シンタローがアラシヤマを睨み付けながらそういうと、
「そういう考え方が甘いんどす。―――子どもは気ぃ失うとるだけですわ」
そう答えた後、アラシヤマは最後に1件だけ残っていた民家を燃やした。火の勢いは強く、木で出来ていた粗末な家屋はあっけなく燃え落ちた。
シンタローは何か考えているようであり、なかなかそこを動こうとしなかったので、アラシヤマが焦れてシンタローの肩を掴み撤退を促そうとすると、シンタローはアラシヤマの手を振り払った。
そのまま1人で先に歩いて行ったシンタローの後を、アラシヤマは急ぐでもなしに追いつつ、(シンタローは、眼魔砲ていう特殊な能力を持ってわてと立場は同じになったはずやのに、甘いままどすな。どうして変わらへんのやろか?わてと同じところまで堕ちてきたらええのに。・・・でも、シンタローにはやっぱりそのままでいてほしい気もしますな)と思いながら集合場所へと歩いていった。
士官学校時代で、なんだか地上げ屋な17歳のお2人です。アラが大人気ない&大変ムカつきますかと・・・。
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