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最近あいつの様子がおかしい。グンマやマジックその他の連中には何ら変わりない態度をとっている。
おかしいのは―――俺に対してだけだ。
少し前は気軽に俺の部屋に入ってきて他愛のない世間話をアイツが一方的にしたり、
二人だけではないが共にどこかへ行った事もある。俺達が初めて対面した頃は想像すら出来なかった
平和と言うだろう、この図。その事に今は昔の確執に固執する気も起きない。
とにかく、ここ最近アイツは―――シンタローは俺を確実に避けていた。



「キンちゃん、シンちゃんと喧嘩でもしたの?」

グンマの問いに目を見張る事もなく「いや、特には・・・」と返答する。
あの鈍感極まりないグンマですらそう感じるほど俺に対して態度の変わったアイツ。
他の連中も感づいているのだろう。だが、俺には本当に心当たりが見つからない。
不自由する事もないから、それについてシンタローを問い詰める事もしない。
アイツの態度は日に日に余所余所しくなっていった。
そしてそれとは半比例するかのようにガンマ団内は酷く騒がしくなっていった。
一体何が起こるのだろうと聞いたらジャンが吹き出して笑った。

「もう直ぐお前らWシンタローの誕生日だろう。その祝いの準備だろーが☆★」

俺はこのかた誕生日祝いというものをした事がない。当たり前と言えば酷く当たり前だ。
今まで俺はシンタローの中に生まれた時から閉じ込められていたのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・―――!
・・・そうか、そう言う事か。アイツが妙に俺に対して余所余所しい訳はそれか・・・。

「馬鹿な奴だ・・・」

冷たく言い放つ。アイツがどう受け止めようと構わない―――筈だが、あまりのヤツらしさに呆れる。
そして何故かこの胸が無性に疼いた・・・。



少し前の俺はまさか今のような現状になろうとは思っていなかった。
覇王の高みを目指していた筈の俺は、今ではグンマや高松、ジャンと科学の道へと進んでいる。
そしてそれを決して不快には感じない。この道に進んだのは他でもない、俺自身の意思。
今もこうして倉庫から今日使用する素材を引っ張り出している。
使う素材が多いのと重いのでこういう力仕事はグンマには不向きだ。
こういう気遣いすら、以前の俺なら出来なかった事なのではないのか。
こんなにも俺が変わったのは、おそらくあの島の所為だろう。・・・・・・・・・・そして・・・。
全ての素材を両手に抱えると、重さはさほど気にならないが、視界が不自由になる。
角を曲がろうとした時、相手もぼぉっとしていたのか誰かとぶつかってしまった。
ドンッ
俺は何ともなかったが、相手も素材も派手に転んだ。

「―――――――っつ~~~」

視界に映るのは四方八方に転がった素材、そして鮮やかな黒と赤のコントラス。
無意識に俺はそいつの名を呼んでいた。

「シンタロー・・・」
「あ・・・」

あいつの顔が、俺の存在を確認した途端固まる。時が、止まる。



無機質な俺の部屋に居るのは、主の俺と・・・・・・シンタロー・・・。
何故俺はシンタローを招きいれたのだろう。
これからグンマやジャンと共に研究室へ向かう予定だった筈だ。
その為に必要だった素材は部屋の片隅に纏めて鎮座させている。
それが予定外の客のコイツも不審がり声をかけてきたが答える事はしなかった。
どう言ってよいのか、何故こうした事をしているのか俺自身分からない。
ほおっておけば良かったのだと言う声は、それ以上の何かによって打ち消され、
それが何度も心中で渦巻いた。
俺もヤツも言葉は少なく、とりあえず俺の好きな銘柄の紅茶を出す。
するとヤツは驚いたように、しかしふと笑った。何だと聞くとカップを掲げ、
自分の好きな銘柄の紅茶なのだと言った。そうかと返答し、また暫しの沈黙が流れる。
そう遠くもない場所のあちらこちらから賑やかな声や音が聴覚に入り混む。

「騒がしいな」
「お前の誕生日祝い・・・だからな」

その言い方に疑問を持つ事はない。
【俺達】ではなく【お前】と言う訳も知っている。どこか沈んだ声色で何を想う―――?

「お前もだろう」
「そうかな・・・以前はそうだったかもしんねーけど・・・」

そこで区切り、ふと窓辺に視線を投げる。分かっている。何故【以前は】と言うのか。
先程入れた紅茶は白い湯気を消して冷めていく。

「お前は【シンタロー】を捨てるのか?」
「・・・それは・・・・・・」

いきなり核心をつく問いに対して即座に否定はしないのか。
俯き、黒髪がコイツの顔を隠す。
泣きそうに見えるのは俺の気のせいではないだろう。
こいつはいつだって泣いていた。
ガンマ団という組織では滅多に喜怒哀楽を表わさなかったが、それでも心の底ではいつも殺し屋として、
総帥の息子として、青の一族の異端者としての重圧に耐え切れなくなり泣いていた。
・・・・・・たった一人で・・・・・・共に居た俺に気付かずに・・・誰にも、
コイツ自身すら気付かずにたった一人、心はいつだって泣いていた事を俺は知っている。
今もこの窓の外のようにいつ泣き出してもおかしくはないこの曇り空のようだ。
ずっと続くかと思われた沈黙の間は、カップを握り締めていたコイツの両手が解かれたのと同時に時を進める。
やっと重い口を開き、心の底を晒した。

「俺は・・・俺が時々分からない。
俺はずっとマジックの息子だと思っていた。
けど・・・けどっ!ジャンのコピーだアスの影だの!!本当は親父の―――マジックの息子じゃなかった!
けどっっ、ルーザーの息子でもない。
だってそうだろ?ルーザーの息子はお前だ・・・・・・お前だけだ・・・」
「・・・・・・・・・」
「俺は・・・俺の定位置が分からない・・・。
親父は俺に跡を継がせた。けど、それも・・・っ」

そこで区切り、それ以上の言葉を飲み込む。
全く青の一族の力も証もない自分に青の一族の未来を託させたのは一種の哀れみではないかと思っているのだろう。
誰もが気付かない。
この男の心中はこんなにも脆く、そしてそれを覆う為の強さを求め、得、
しかしやはり闇は消えないのだと。

「マジックはあの時言っただろう。お前も自分の息子だと」
「そう言うお前は俺をどう思っているんだ?憎い相手なんだろう?
ニセモノと・・・言い続けてきただろ」

伏せていた面を上げて問いかけてくる。
あの時はそう思っていた。俺こそがシンタロー本人だと、それは今も変わらず思っている。
だが、では目に前の男は誰だ?
俺はこの男をどう捉えている?
・・・答えは至極簡単に出てくる。
今も憎いかと問われれば肯定は出来ない。
また沈黙が流れそうになるのを止めたのは俺だった。
椅子から腰を上げ、近付く。
何だ?と見上げるコイツの右手を俺の右胸に強く押し付けた。
当然の行動にヤツは動揺したように黒曜石の瞳を大きく見開く。

トクン・・・トクン・・・

「感じるか・・・?・・・これが俺の鼓動―――ここに居る―――生きているという証だ」

そのまま左手もコイツ自身の右胸に押し付ける。

「そしてこれがお前の鼓動だ」

お前も俺も今ここにいて、異なった生を歩んでいる。

「今のお前は偽者ともコピーとも思っていない。俺は新たな名を受けた。自ら己の進む道を見つけた」

初めて俺の為に涙を流してくれたヤツが付けた名。洒落た名では決してないが、
それでも今はその名で呼ばれる事に腹はたたない―――と言うよりむしろ・・・・・・。

「お前はガンマ団の総帥・シンタロー。
・・・それが俺が知っている【お前】だ」
「キンタロー・・・」
「お前が今口にした名前・・・その存在が【俺】だ」

暫く呆けていたようなコイツの顔が、突然堪え切れないといった感じで吹き出して笑った。
・・・・・・何だ?・・・一体・・・。
俺の不快を感じ取ったのか、悪い悪いと手を振って未だ笑いながら紡ぐ言葉。
その中に黒い影が薄れていくのを感じる。

「ははっ、・・・まさかお前が俺に・・・くくっ・・・んな事言うなんて・・・っ、
思わなかったからよっっ」

あとは堰を切ったかのように笑い出した。
似合わない台詞だと言いたいのだろう、少々腹も立ったが、
涙まで浮かべて笑っていると思ったそれは可笑しさからではないと言う事が分かった。
何か吹っ切れたような・・・そんな感じだ。
俺には分かる。コイツと俺は24年間共にいて兄弟以上な関係だった。
そうでなかったにしてもコイツと俺は全く異なりしかしどこか似ているのだ―――そう言ったのは誰だったか。
言われた時は反発心を持った記憶がある。
だが、今は―――――。
コツン
軽くコイツの頭を小突く。
何だよと眉を寄せ見上げてくるその面には、先程とは打って変わったお前がいた。

「さっさと溜まっている書類を片付けろ。
俺もいい加減研究ばかりでは飽きるし、なにより身体がなまってしょうがない。お前もだろう?」
「・・・そうだな・・・さっさと終らせて・・・一戦交えようゼ!」

呆けていたような顔が徐々に子どものような挑戦的な笑みを口の端に浮かべさせる。
結局紅茶一杯だけでヤツは腰を上げ扉へと向かった。

「じゃあな!美味しい紅茶ごちそーさんっ」
「ああ・・・」

シュン
扉が開き、柔らかな笑みを浮かべ、手を軽く振ったヤツの姿が視界から消えた。
最後に見えた豊かな黒髪が踊るように揺れたように見えた。
もう、暫くは大丈夫だろう。お前は強いから一人だって立ち上がれる。
もし一人では立ち上がれない時、俺が手を貸そう。
きっと俺がお前の立場でもお前はそうしようとするだろうから。

「変わったのはあの島の所為か・・・?それとも・・・」

ふと窓の外に視線を向けた。先程までの薄曇りは晴れ、白雲が青空を更に浮き上がらせていた―――。
大分遅れてしまったが、今から隅に追いやった素材らを持って研究室にでも向かうか。
おそらく―――いや、間違いなくその歳に合わない幼い面をしたイトコが、
遅いと文句をつけながらも俺が来るのを待っているだろうから。
そいつとその育ての男、そして先程までこの部屋に滞在していた男と同じ顔を持つ青年が待つアノ場所へ―――



俺の居場所へ―――。





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