ピ ピ ピと、医療器械音がやけにリアルに耳を滑る。
先程までマジック叔父貴やグンマ、コタローも居たこの無菌部屋も、
今は俺と、主に高松の説得で部屋を後にした為ひっそりと静まり返っている。
無菌部屋にいつまでも多人数は居られないからだけでなく、いい加減夕食の時間も過ぎている。
昼食も全員まだとっていなかったのだから、腹は空いている筈だ。
…とは言え、グンマ達の先程の様子では飯は殆ど口をつけていないだろう。
いつもシンタローの前では笑顔を振りまき、シンタローが怒っても嬉しそうに自分に都合の良過ぎる解釈をするマジック叔父貴は
顔が蒼褪め、眼は信じられないのだと語るばかりに見開かれたまま、息をするのも忘れていたのではないかという状態だったし、
グンマも蒼褪め、目尻にはうっすら雫が溜まっていた。
コタローに至っては「嘘、うそ」と首を振り、溢れる涙を止める術もなく両手で顔を覆い、ただただ激しく泣いた。
それが数十分前までの事だ。
三人共、とても食事を取れる心情ではない。
勿論それは俺も同じだ。
だが、誰かが冷静さを保っていなければならない。
グンマとコタローはマジック叔父貴に任せて、俺だけがこの部屋に残った。
シンタローが事故に合って直ぐ負傷と意識不明のシンタローはガンマ団最高クラスの医師達に委ねられ、
その中には当然ながら高松が居合わせてた。
「で、どうなんだ。シンタローは」
「命に別状はありません。いやはや全く運の強いお方ですよ、彼は。
あれだけの鉄筋が雨のように降ってきたというのに」
俺と事件直前周囲に居た団員からの報告を纏めたカルテを軽く口元に当てて、まず先にシンタローの命を保障する。
咄嗟に眼魔砲を打って何本かは破壊出来たが、それだけでは足りず、数本がシンタローに容赦なく降り注いだ。
防ぎきれないと判断して直ぐにガードしたらしいが、背中を強打し、痛々しい外傷を残し反対に意識は消えた。
今のシンタローは意識不明の重体という状態で。
「外傷は背中が最も酷いですが、今まで私がシンタロー様の傷を治療してきた過去と照らし合わせますと
おそらく跡も残らないと思われます」
流石ですねえと軽口で褒めるが、それはこの重い空気を和らげる役目を果たせなかった。
「意識の方はどうなんだ」
「……………」
「高松」
「……………」
「たかま」「意識が回復する確率は」
俺の言葉を遮り、下唇に張り付いていたカルテを放してもう一度検査結果に目を通している。
何度も何度も検査し直したその結果は―――
「確率は7%」
視界が暗く揺らぐ。
黒と白が渦を巻いて訪れるマーブリング状の眩暈に襲われる。
「それがシンタロー様の意識が回復する、一番希望を持ってみてもの確率、です」
7%も意識が回復する確率があるんだ。
そう俺自身に言い聞かせても、“も”は“しか”になる。
シンタローの生命力と運の高さは知っている。
シンタローは必ず意識を取り戻すと信じている。
信じているなら、この胸の重みはなんなのだろう。
今日はもう遅い。
マジック叔父貴に高松から聞いたシンタローの状態を伝え、俺は自室へと戻った。
シュンッと軽い音を立てて開かれた、俺の部屋、の、ベットに見える
「……誰だ」
人影。
誰も居ない筈の薄暗闇に問う。
暗闇の中の人物は完全なシルエットになっていて、誰なのか、はっきりとは識別出来ない。
暗闇に紛れているとはいっても、隠れもせず人のベットに腰掛けている“影”。
気配を感じないのは消しているのだろうが、堂々とシルエットを見せておいて気配断ちする無意味さが不可思議だ。
そういえば息遣いも全く聞こえない。
体系からして間違いなく男だとだけ分かった。
誰にしろ、一族の者以外が俺の部屋に勝手に入っているのだ。
何の理由にしろ不法侵入者には変わりない。
右の手の平に気を僅かに溜めもう一度問う。
「お前は誰だ」
影は驚いてか少し揺らめき、けれどもまた腰をベットに下ろし握り締めた指を顎に当てているようだ。
その様子は戸惑っているように見える。
影が取る次の行動を様子見るが、相手もどうして良いのか判断出来かねているようで、ベットから腰を上げない。
しかし影の正体を知るのに時間は掛からなかった。
動かない俺達を促すように、雲が晴れたのか今まで身を隠していた月の光がブラインドの隙間からうっすらと差し込んでくる。
薄暗い空間でも知れた長く、黒い髪は僅かな月光を静かに受け止めていた。
戸惑いながらも常に強い意志を持つ黒い瞳。
男として整った顔立ちは、その持ち主は―――…。
「シンタロー……?」
まさか、そんな筈はない。
月光をバックに浮かび上がった男に目を疑った。
男は紛れもなくシンタローだ。
少なくとも見た目は。
だが、シンタローは意識不明の重体で特別看護室に横たわっている筈だ。
仮に俺が去ってから直ぐに意識が戻ったとしても、とても直ぐに動ける体ではなかった。
それに数え切れぬ程の傷を負っていたが、目に映る“シンタロー”は怪我一つ見当たらない。
どう反応を返せばよいのか戸惑っている俺に、“シンタロー”は困ったように頭を掻いた。
「あー…、なんつーか」
他人事のようにコイツは言った。
非科学的過ぎて、到底信じられない事を。
だがこれは現実。
「幽霊になっちまったみたいなんだよなー…」
………………
………………………………
………………………………………………ゆうれい…?
幽霊になった、だと?
幽霊というのはアレだな、『①死者のたましい。亡霊。②死者が仏になることができないで、
この世に現れるという姿。』(改訂新版現代実用辞典講談社編より)
死者…シンタローが?
そんな筈は無いだろう。彼はしっかりと呼吸をしていたのだから。
なら、目の前のシンタローはどう説明をするというのだ…?
「一体何がどう…」
足元が揺らぐイメージに、言葉が最後まで続かない。
ひび割れおうとつが出来た脆いガラスの上に立っているような気分だった。
「ん~?…なんか……鉄筋が降ってきて、鋭い痛みが襲ってきたと思ったら、意識がなくなって………、
次に気が付いたらココに居た」
「…………」
どう…反応し、対応すればいいんだ?
シンタローは意識不明の重体で高松が付き添う医務室に意識を沈めている。
今夜はずっとシンタローを診ているだろう。
万が一、シンタローが目を覚まし動ける状態にまで回復したなら直ぐ俺に連絡する。
高松が目を離さない限り、無断でコイツが医務室から出ることは出来ない。
第一、あそこはパスワードを入力しなければ出ることは叶わず、それを知っているのは高松と
以下所属している医師団そしてハーレムを除いた青の一族(ハーレムに教えてしまうと情報が
外部に漏れる危険性が極めて高い為)、そしてシンタロー直属の秘書のティラミスとチョコレートロマンスだけだ。
「すまん」
「は?」
詫びの言葉を口にした俺をなんだ突然とシンタローが見返す。
「なんと反応を返してよいか…分からない」
それで謝ったのかよとシンタローは小さく笑った。
「仕方ねえじゃん?いきなりだし、しかも幽霊だしな」
それにお前の所為じゃないだろと慰めるような瞳で苦笑した。
「悪いなら俺だろ?あそこで注意を怠った総帥である俺のミス」
だからお前は悪くねえの、謝る必要もねえの。彼は言うが、シンタローを護るのが俺の使命だった。
だれかに命を受けたことではない。
シンタローに頼まれたことでもない。これは俺と俺との約束だった。
そんな俺の心中を見透かしたようにシンタローは困ったようにくすりと笑った。
心配する側の筈の俺が、逆に彼に心配されていた。
僅かだが、俺も笑みで答えた。
…苦笑、だったが。
「は~、それにしても…」
大きく息を吐き出し自分の手を宙に翳して見る。
その手は僅かに透けていて、手の平越しに天井が見えるらしかった。
「俺、死んじまったのかよ~…」
ガックリと肩を落として見せるが、先程からシンタローは深刻な状況を軽くスラスラと口にする。
俺より彼の方がよっぽど現実に楽観でいられた。
現実味がシンタロー自身、無いのかもしれない。
“気が付いたら生霊になっていました”などは極めて非日常だ。
まぁ、コイツは以前も生霊になったことがあるが、あの時と原因が大きく異なっている。
解決策もあの時と同じには決してならないだろう。
つまりはこれからどうすればいいのか見当が付かない、のだ。
それでも―――
「いや、お前の本体はまだ生きている筈だ。いや、生きている」
そうだ。
あの時シンタローの体はオレが所有することになり、コイツはジャンの再生した体に移った。
しかし今度は違う。
もう今のシンタローの体は紛れも無くシンタロー自身のモノだ。
他の誰と争うものではない。
そしてその体は生命の温かさを今も休まず必死に維持しているのだ。
「でもよ、ほら」
ふわりと音もなく体を浮かせ、窓に近付く。
「窓にも映らねえしいくら派手に動いても音出ねえし第一空中に浮かんでるし物掴めねえし」
おまけに体も若干透けているしな。
「俺にも何がなんだかさっぱりだぜ」
誰か説明出来るヤツが居たら教えて欲しいっつーの!苛立ちとそれ以上の困惑がシンタローの神経を甚振る。
軽い口調だったからこそ今まで気付かなかったが、シンタローの方が余程困惑していたのだ。本当は。
だからこそ余計に俺が冷静にならなければいけないのだ。
「つまり、今のお前の状態は『生霊』というヤツか」
―――だが…。
シンタローの黒絹髪が、薄く開けたままの窓からそよぐ夜風に誘われて、俺の鼻頭を擽った。
そのくすぐったさに軽く眉を顰めると「悪ぃ」、と苦笑し、さわさわと流れるソレを彼の手の平に掴み取った。
………。
……くすぐったい…?
目の前のシンタローは…今、は。
ぐいっ
「痛―――――ッ!!!~~~ッんだよ一体!?」
「幽霊というのは本来触れる事が出来ないのではないのか?」
手を伸ばせば確かに通り抜けてしまうシンタローの身体。
けれど彼の髪先に触れることが出来た。
「やー…、そうなんだろうけど、さ」
「ほら」と俺の頬に触れる。
温かく心地好い、よく知った感触。
確かなぬくもり。
続(つ)いで手を俺の頬から放し、
(高松が)新調してくれたばかりの鮮やかなスカイブルーのカーテンに触れた。
微かな布が擦れる音。
指の圧力で僅かに押されたカーテン。
再び彼の手を引き寄せる。
触れている。
他は一切触れる事はかなわず、後ろ髪の十数センチ毛先と両の手は触れることが出来る。
不思議に思うより先に、たった一部でも感じる場所があることが素直に嬉しかった。
ぺろりと手の平の生命線を舌でなぞると、返ってくるのはいつもの反応。
変わらない感度。
「~~~~~~…ッ」
ピクンと体が跳ね、彼の顔に朱が走っていた。
俺がシンタローの一部分を感じられるように、シンタローも俺を感じていた。
それは残酷なほど嬉しかった。
当たり前のように触れられるものが不可能になり、たった一部だけ許されたことへの喜び。
「馬…ッ鹿。やめろってッ。くすぐっってぇだろぉーが!」
俺から逃れようと力薄く片手で俺の肩を押す。
触れた部分からじんわりと注がれる手の平の体温。
厚い服越しで伝わる筈はないが、うっすらとシンタローの皮膚が汗ばんでいる気がする。
感じられるのは体温だけではない。
触れられる場所は生身の時と同じように発汗も僅かな手や髪の一房の重さも感じられた。
「触れる事が出来るのはココと髪の先少しだけか」
他の部分で俺に触れてみても全て素通りしてしまった。
無論触れることの出来ない場所の体温も重さも何も感じられない。
「中途半端だよな。カミサマの気紛れってヤツ?」
全く触れないよりはマシだけどさ、舌を出してシンタローが小さく悪態をついた。
「でもあんま中途半端過ぎても逆に欲求不満になりそー」
手の平を俺の額に当てて折角舞台がベットの上なのによと苦笑するシンタローは、
そういえば今日は一度も笑顔を見ていなかったことに気付いた。
先程から見せる笑みは全て苦さの混じったもの。
この状況だ、当たり前かと思いつつ、少々物足りないとも思った。
顔を寄せ、更に互いの距離を縮めて素通りの口付けを交わす。
月明かりの下生まれた影も独りきりで想いを冷めた唇に託す。
触れることは出来ないと知っている。
お互いがいつもの癖となってしまっているからする、してしまうだけだ。
何度かの口付けの後、髪の先を指に絡ませ唇をそっと彼の手の平に滑らせる俺と、
指全てで俺の口元で巧みに動かすシンタロー小さな遊びは暫く続いた。
カチ…
本当に微かな機械音が、複雑に入り組み始めた互いの思考を止めに入る。
時計は徹夜や真夜中まで掛かる研究や業務など何も無ければ、普段なら就寝する時間を大幅に超えていた。
「もうこんな時間か」
自室に戻ってから一時間も経っていないが明日も早い。
毎度の業務に加えて目の前の男の件もある。
何時もならシンタローを相手にして直ぐに翌日に(日付を越えて抱いてしまうこともあるが)備えて就寝をするところなのだ
―――が―……。
戸惑いが胸に溜まっていく。
その“原因”は俺の気を知らずに枕を数回叩いて眠るよう促している。
「別に眠くはない」
壁に寄りかかり此処を立ち位置にすると暗にアピールすることで寝る気は毛頭無いと教えてやったが、
ヤツは早くとベットサイドに手招きする。
普段ならこれはシンタローからの夜の誘いだが、幽体のヤツの意図は100%就寝命令だ。
「だからってこんな夜中に寝ないで他にすること無いだろ?ほらッ、眠くなくてもいいからさっさとベッドに入れ!」
横になって目と瞑るだけでいいからさ、そうすると自然と眠たくなるからなと両肩を押してくる。
「何故そこまで俺を寝かそうとするんだ」
本当に眠くはないのだぞ。
いや、正確に言えば眠くないと言うより寝てしまいたくない。
目を閉じて意識を手放してしまえば、
お前が――――――……がして…―――。
「夜はしっかり寝て翌日に備える!いつもお前が俺に言ってるだろ。夜更かししそうな時によ」
…ああ、そういえばそうだったな。
シンタローが仕事に熱中し過ぎな時やベットの中、何度も誘ってくる時や流行だとかのゲームに没頭している時に
言い聞かせていたのを思い出す。
「ほらほらキンタロー」
「…分かった」
仕方が無い。
ここは大人しくベットに入らなければずっとシンタローから小言を言われるのがオチだ。
やっと体を横にし薄手の掛け布団二枚を胸までかけた。
「ホントは疲れてるだろ?」
声を潜めて問いかけながらシンタローはそっと俺の頭に指を滑らせた。
安眠を促す為の額から頭上に撫でる指が心地好い。
あぁ……、本当に眠ってしまいそうだ…。
「眠りたくない」
眠ってしまったら
お前が―――――……る気ががして…――。
「でもさ」
ふぅ、と小さなため息がシンタローの口から漏れた。
「何だ」
息さえも本当は聞こえない。
シンタローが奏でる音は声だけだ。
それでもため息が聞こえた気がした。
「何か、お前の方が見ていて俺よりずっと辛そうだぜ?」
――――!
当たりだろと口元だけで笑みを浮かべてよしよしと俺の頭を撫でた。
不覚、だった。
意識不明で怪我人更には生霊にまでなってしまったヤツに気を使わせてしまったのか。
「寝ろよ」
横になるだけじゃなくちゃんと睡眠を取れと。
「病人にあんま心配されてんじゃねぇよ」
母親が子に安らかな就寝を促すように、ぽんぽんと薄手のタオルケットを叩く。
飲み込まれる意識の中に感じる一筋の糸。
ソレは音のイメージ。
……糸、
だ。……………。
……あぁ、これはシンタローの声か、この糸、は。
乳白色の視界の中で、純黒糸を引き寄せた。
聞えた糸。
お前が眠っても、俺はちゃんと側にいてやるから。だから安心して眠れ。
そんな彼の声が胸に聞こえてくるそれは決して幻聴ではない。
「なぁ…、キンタロー」
「なんだ」
「俺は消えないから、安心してたっぷり寝ろよな」
……ふ。
参ったな。何から何まで全てはお見通し、か。
………ああ…
もう、
お前の声が聞こえ―――
おやすみ。
「…ん」
チチチとか細くしかし高く鳴くのは、近頃早朝馴染みのつがい鳥のものだった。
着衣もそぞろに、窓から愛おしい視線を彼らに注ぐのが、この部屋に泊まって明けた早朝のシンタローの癖。
カーテンから溢れ出した白い光りが、睡魔に包まれたこの身体をそっと解き解し完全覚醒へと導く。
昨日は…シンタロー目掛けて突然鉄筋が降って……
―――!!!!!
「そうだ!!シンタローは…!?」
「あ~?こ・こ」
声がする方に目を向ければ、気持ち事件以前より白くなった肌のヤツが居た。
つがい鳥を見ていたのか、窓に体を寄せ首だけこちらに向けた。
夢ではないことを知る。
昨日、シンタローが鉄筋に襲われたこと。
意識不明の重体に陥ったこと。
生霊となってしまったこと。
そして
「前に幽霊になった時もそうだったけどよ。朝になっても」
消えてしまわない、こと。
疲れを癒す睡眠をとったばかりだというのに、落胆と安堵が交じり合った疲労がドッと押し寄せ深いため息を漏らした。
安堵はシンタローが目の前に居るからで、落胆は昨日の事故(事件と言った方が正しいか)は夢ではなかったからだ。
夢だったなら、今目の前に居るシンタローは生身であったのに。
「キンタロー」
「…なんだ」
「今のため息は安心からか?それともガッカリしたのか?」
笑みを浮かべながらも、申し訳なさそうに体制を少し低めにして俺の顔色を伺うように見上げている。
触れることが出来ないシンタローの頭代わりに自分の髪をグシャグシャと撫でる。
「両方だ」
「お前の様子でも見てくるか」
お前も行くか?と誘いかける前に、シンタローはちょっと待ったとパジャマの裾を引っ張るように制した。
「その前にさ、行きたいトコあんだけど」
「構わんが。急ぎか?」
「あ~…、絶対今直ぐって訳じゃねえけどよ……。出来れば早い内に用事済ませちまいたいし」
用事?仕事関係か?
今お前は本体は生きているが幽霊なんだ。
例え緊急の仕事でもお前がこなすのは無理だぞ?
考えが顔に出たのか、シンタローは違げーよと片手を軽く振った。
「予約していたCDが昨日入荷してる筈だからさ、一緒に着てくんねぇ?」
ふむ、今のシンタローは幽霊だからな。
車を走らせて、滅多に遭遇する事はないが交通交通渋滞に巻き込まれさえしなければだが、
15分もあれば繁栄謳歌を開設時から維持し続けている某大手デパートに着く。
シンタローが注文した品はビル三階端に構えているCDSHOPらしい。
しかし…わざわざ店に予約などしなくても、ガンマ団の特別ルートからの通信購入や秘書のティラミスや
チョコレートロマンスに言い付ければいい。
俺やグンマは殆どこれらで必要なものは揃えている。
一般的な品物なら談内の購買部も重宝しているな。
「お前、そーゆートコが淡白で味気ない考えなんだよ」
呆れたような苦笑を浮べ、シンタローは俺の一歩手前に進めていた足を止めて視線を僅かの間、合わせてきた。
「自分で買いに行くのがイイんだぜ?」
気分転換になるらしい。
俺にはあまり理解出来ない事だが。
「そりゃお前は買いモンとか興味薄いからなー」
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