「知っての通りだが、裏切り者のシンタローによって秘石が盗まれた。
この中から刺客として秘石とシンタローの奪還をしてもらう。」
なんて茶番な
決算前夜のその前夜
「勿論シンタローは裏切り者だ。よってその生死は問わない。」
緊急に総帥命令で呼び出されたのは自分と親友と数人の同期生たち。
勿論言葉通りに秘石と一緒に彼の溺愛する息子の死体を差し出そうものならその場で消されるのは明らかだ。
名乗り出る者がいない沈黙のなかトットリは密かにため息をついた。
とんだ貧乏クジだ。
仮にもNo.1の実力をもつシンタローにこの中の誰も敵うはずないのだ。
この傲慢で冷酷な支配者ははなからそんなことは期待していない。
周りを見ればわかる。皆仕官学校や部隊でシンタローに関わったことのある者たちばかりだ。
この中の人間はたぶん本気でシンタローを殺せはしない、しかし同時にシンタローもこちらを殺せない。
シンタローはそういう男だ。ここにいる者達にできるのはかつての仲間としてシンタローに刃を向けることだけだ。
それは同時に任務失敗を意味する。敗北者を団は許さない。
自分たちはシンタローを追いつめるメッセージ。
シンタローが団に帰らなければかつてシンタローと背中を合わせに戦った仲間達は哀れな敗北者となって消される。
捨て身のメッセンジャーの一番手など誰もなりたくはないだろう。
一番生きて帰れる確率が低い。いや、そもそも確率は最初から0なのかも知れない。
この膠着は長引く、トットリはそう思って二度目のため息をつこうとした。
「オラがいきます。」
すぐ真横から聞こえた声はトットリの思考を止めるのに十分だった。
ミヤギの部屋はトットリと同じだ。望めばひとり部屋も可能だったがあえてそれはしなかった。
「………いくだらぁか。」
「おぉ。明日の朝には出発だべ。」
ミヤギはこちらを振り返らずにいそいそと己の武器や物資の準備をしながら明るい声で答えた。
手を休めずに独り言にしては大きく、不自然に明るい声が響く。
「…すっかしシンタローも馬鹿だべな~。ガンマ団に逆らうなんて。」
「オラの真の実力をみたらビビってすぐさま団に帰ることになるべ。」
「おめぇ以外には明かしてねぇこの生き字引の筆の威力に驚く顔が目に浮かぶな。」
「…………ミヤギくん。」
絞り出せたのはそれだけ。
「あっという間に秘石とシンタローを連れ戻して大手柄だべ!
トットリ、オラのほうが大出世したらオメェはオラが面倒みてやるから心配すっな。」
「ん~この仙台銘菓萩の月ももっていくべきだか?いや柿の種も捨てがたいべ。」
「…ミヤギくん。」
「ん?なんだべトットリ。」
「…………行かないでくれっちゃ。」
いったら帰ってこれないのだ。
死ぬかもしれないのだ。
「……………わかっとるべ、トットリ。」
「でも誰かが必ず行かなきゃならねぇべ。もしかしたら本気で命を狙ってるヤツもいるかもしんねえ。そんなやつらにシンタローを任せらんねぇ。」
「オラが絶対シンタローを連れ戻す。」
ミヤギの声はしっかりとしていた。
いつもそうだ。
ミヤギくんは前向いてばかり。後ろにいる自分になど構ってはくれない。
こんなに近くにいるのに。
こんなに想っているのに。
「…でも、もし…」
「ん?」
「……もし、ミヤギくんがピンチになったら、今度は僕がいくっちゃ。僕ら二人がそろえば無敵だっちゃよ。」
だったら自分は。
自分は絶対に後ろを離れない。
いつだってミヤギくんを支えられるように。安心して前を向けるように。
「おう!そんときは頼むべ!」
やっと振り返ってくれたミヤギくんの笑顔はまぶしくて、僕は思わずミヤギくんを抱きしめた。
「必ず帰ってくるっちゃよ。」
「………おう。」
「僕たちはベストフレンズだっちゃ。」
2004/
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